昭和61年版 通信白書

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第1節 通信を支える人間

 1 通信に携わる人々


 今日,通信は多くの人々により支えられている。通信に携わる人々には,国民に各種の通信サービスを直接提供する人々と通信サービスを側面から支える職業に従事する人々がいる。これらの人々は,二つの視点から考察できる。一つは,現在,通信サービスが産業として提供されているため,通信に携わる人々を事業体別に分類する視点であり,一つは,特殊な技能を有して通信に関連する職種に従事する人々がいるため,産業を横断して職種別に分類する視点である。
 ここでは,通信サービスを直接提供する人々について,郵便,電気通信(NTT,KDD),放送及びその他の通信関連産業別に概観し,次に職種別に通信関連の技術者,研究者等について概観する。
 (1)通信事業体に携わる人々
 ア.郵便事業
 郵便事業において,利用者に直接サービスを提供する現業事務には,外務職員,内務職員が携わっている(第3-1-1図参照)。
 外務職員は,郵便物の取集及び配達の事務に従事している。これらの事務は,屋外作業,個人作業という性格を有することから,外務職員の業務運行の良否は,その郵便の送達速度と信頼性に大きく影響する。
 取集と配達の中間にあって,これらを連絡する作業が郵便物の運送である。運送は,現在,運送会社,航空会社等に対する委託により行われている。
 内務職員は,郵便局の窓口に差し出された郵便物の引受,取りそろえ,消印,区分等郵便局の内部における作業に従事している。
 (職員数の推移)
 現業職員数は,60年度末現在,約14万人であり,そのうち内務者数が約6万3,000人,外務者数が約7万7,000人である。また,50年度からの推移をみると,全体として約5%増加している。内務者数は,55年度の若干の減少を除き一定の伸びであり,10年間で約8%増加している。外務者数も,58年度までは一定した伸びであったが,59年度からは減少傾向にある(第3-1-2図参照)。
 職員の平均年齢は,39.6歳となっている(第3-1-3図参照)。
 (今後の課題)
 郵便事業は,労働集約性が高く,コストに占める人件費比率が高いため,要員配置の適正化・効率化を図る必要がある。また,電子郵便等の新技術の導入に伴い,これに即応できる人材の育成と労働生産性の向上が急務である。
 イ.NTT
 NTTにおける要員には,電話,電報,加入電信,データ通信,専用線等の販売や運用に携わる要員,ネットワーク設備の保守に携わる要員等がいる。電信運用の要員は,電報,加入電信の業務に従事している。この中には,電報の受付・送受信作業に従事する要員,無線通信士又は特殊無線技士の資格を有し,海岸局等で無線による電報の送受信作業に従事する要員及び電報の配達作業に従事する要員がいる。
 電話運用の要員は,電話交換,番号案内等の作業に従事している。
 データ通信,専用線部門の要員は,各種情報処理システムの設計と,そのシステムの建設工事の実施等の業務を行っている。
 保守部門の要員は,機械設備,情報処理システムの端末装置及び各種回線の試験や統制等の作業,通信機器等の設置,保守,修理,調整等の作業に従事している。
 (職員数の推移)
 60年度末の職員数は,55年度と比較し約2万3,000人減少の約30万4,000人である。これを職種別にみると,電信要員は,電報メディアの衰退に伴い,約3,000人減少して約1万2,000人となっており,減少傾向が著しい。電話要員は,全国ダイヤル自動即時化の達成等により,その要員は約6,000人減少し,約5万3,000人となっている。保守要員も56年度を境に減少傾向にある(第3-1-4表参照)。これは,機械設備の度化に伴い,保守等に要する人手の必要性が減少したことによる。
 採用者数は,57年度以降,各年度とも約5,000人で推移している(第3-1-5図参照)。
 職員の平均年齢は,38.3歳となっている(第3-1-3図参照)。
 (今後の課題)
 NTTは,電気通信の自由化,民営化に伴い,その組織の効率化,活性化を今後とも図る必要がある。また,著しく進む機械化に伴い,高度な機器を使いこなすのみならず,エンジニアリングのセンスを有した技術的能力の高い人材の育成強化が急務である。
 ウ.KDD
 KDDにおいて利用者に直接サービスを提供する要員は,電信・電話等の運用部門,施設部門等に携わっている。
 電信要員は,国際電報の受付,配達業務及び国際テレックスの交換作業等に従事している。
 電話要員は,国際電話の交換作業に従事しいる。電話運用においては,一定の時間帯に集中するトラヒックに対して効率的に要員を配置するため,ピーク時に合わせて短時間制の職員を配置しているのが特徴である。
 施設要員は,伝送路の開設・廃止に関する措置,設備の運用・監視及び障害・復旧の措置,トラヒックの監視等のネットワーク全般の建設・維持・保全等の作業に従事している。
 (職員数の推移)
 職員数の10年間の推移をみると,約1,300人増加し,60年度末現在,約7,400人である。職種別にみると,電信要員は,各作業の大幅な機械化,テレックスの自動交換対地の拡張,取扱制度の簡素化等の合理化と,国際電報の需要の低下に伴って急激に減少し,60年度は,約370人となっている。これに対して電話要員(短時間制職員を含む。)は,近年の大幅な国際電話の需要増により,約1,000人増加し約2,300人である。また,施設要員は,20%近く増加し,約1,500人となっている(第3-1-6図参照)。
 採用者数の10年間の推移をみると,全体では30%余り採用人員が増加しており,施設要員及び技術的な諸問題の企画等に携わる技術職の採用者数全体に占める割合が高くなってきている(第3-1-7図参照)。これは,ネットワークの大規模化等に伴い,その建設・運用・保守といった業務分野の拡大が原因である。
 職員の平均年齢は,36.4歳となっている(第3-1-3図参照)。
 (今後の課題)
 KDDにおいては,新規サービスの開始等に伴い,幅広い知識を有した技術者を必要とする分野が急速に拡大しており,特に施設部門要員の知識・資質の向上を図る必要がある。また,電気通信の自由化により,営業要員の育成も急務である。
 エ.NHK
 NHKには,ディレクター,アナウンサー,カメラマン,ミキサー等番組の制作や技術に携わる要員,受信契約の締結・受信料の収納にかかわる要員等がいる。これらの要員は,第3-1-8表のとおり八つの職種に分類されている。
 (要員数の推移)
 要員数の推移をみると,54年度までは約1万7,000人とほぼ横ばいであったが,その後漸減傾向にあり,60年度には,約1万6,000人となっている。職種ごとの推移をみると,管理部門を中心に減少している(第3-1-9表参照)。
 採用は,放送番組の制作に携わる放送職,技術職及び一般事務に携わる事務職に分類して行われている。
 職員の平均年齢は,41.0歳と他の事業体に比べて高齢化が著しくなっている(第3-1-3図参照)。
 (今後の課題)
 NHKにおいては,放送をめぐる環境の変化に的確に対応していくとともに,経営の健全性を確保するため,要員の効率化,組織の活性化に配慮する必要がある。
 オ.民間放送
 民間放送における職種分類は,(社)日本民間放送連盟の分類に基づくと,第3-1-10表のとおりである。NHKとの特徴的な差異は,営業職である。広告収入により事業を営んでいる民間放送における営業職の要員は,販売・販売促進・料金計算やCM素材の編集・管理等の業務に携わっている。
 (従業員数の推移)
 従業員数は,新会社の設立等により,この10年間で約3,000人増え,60年では約2万8,000人となっている。また採用者数は,54年までは増減を繰り返していたが,56年からは漸減傾向にある(第3-1-11図参照)。職種別の要員数の推移をみると,ほとんど動きはないが,営業,技術運行及び報道に従事する従業員の比率が若干増加している(第3-1-12図参照)。
 平均年齢は39.9歳で,この10年間で4.2歳上昇し,NHK同様に高齢化が進行している(第3-1-3図参照)。
 (今後の課題)
 民間放送では,定年延長問題を含めた従業員の高齢化への対処が大きな課題となっている。
 カ.有線放送
 有線放送業の従業員数の総数の推移をみると,近年のCATV事業の進展に伴って大幅に増加している。しかしながら,(社)日本CATV連盟が自主放送を行う事業者を対象に行った調査では,1社平均の要員は13人程度と小規模の運営となっている。特に,取材・番組制作・編成等に従事する要員が不足している。このことは,CATVが地域に密着した自主番組を制作,放送するという大きな特色を有しているにもかかわらず,その特色を十分に生かしきれない一因となっている。
 CATV事業においては,効率的経営を図りつつ,この要員問題を解決することが今後のCATV発展のための一つの課題である。
 また,電話の代替手段としての機能をも有する有線放送電話は,電話の普及に伴い,サービスに携わる要員も減少が著しい(第3-1-13表参照)。
 キ.その他通信関連産業
 ここでは総務庁の「事業所統計」に基づき,その他の通信関連産業について,56年までの従業員の推移を中心に概観する。
 (マスコミ関連産業に従事する人々)
 新聞業,印刷・出版業,映画制作・配給業,ニュース供給業,広告業に携わる人々は,いずれも既存メディアを駆使し,マスコミ分野において重要な役割を果たしてきた。
 これら業種の従業員数の推移をみると,47年から56年における全産業の伸び率が約17%であるのに対して,広告業,出版業の伸び率は,それぞれ43%,33%と大きい。しかし,新聞業はほとんど伸びがなく,また印刷業等は若干の伸びにとどまっている(第3-1-14図参照)。
 (情報サービス業に従事する人々)
 ソフトウェア業務や情報処理業務等を行う情報サービス業は,近年のエレクトロニクス技術の進展の影響を多大に受けている産業である。
 従業員数の推移をみると,10年間で約3倍に達している。これは,情報通信システムの高度な利用が進むに連れ,ソフトウェア開発や情報処理サービス等の業務が急速に拡大していることを表している(第3-1-15図参照)。
 (通信に関連する製造業等に従事する人々)
 通信に関連する製造業等には,通信機器製造業,電子機器製造業,電子応用装置製造業,電線・ケーブル製造業及び電気通信等工事業がある。
 電線・ケーブル製造業は,電話網の充足による電線等の需要の低下に伴い従業員数は減少しているが,通信機器製造業,電子機器製造業の47年から56年における従業員数の伸び率は,それぞれ13%,27%となっている(第3-1-15図参照)。
 通信関連の製造業は,高度情報社会の形成に必要な通信機器の製造にかかわる産業であり,特に通信機器製造業は,ネットワークのディジタル化,端末機器の高度化を背景とした内外のニーズの高まり等を受け,従業員数も急激に伸びている。
 これらの産業は,今後も高度情報化の進展に伴う需要の増大により,多大な労働力を必要とするため,雇用吸収力は大きいものと思われる。
 (2)通信関連職種に携わる人々
 労働省の1賃金構造基本統計調査」における職種分類によると,通信に関連する職種としては,システム・エンジニア,プログラマー,通信機器組立工等がある。その業務の内容は第3-1-16表のとおりである。
 (データ通信関連職種に携わる人々)
 データ通信関連職種の労働者数の推移をみると,キイ・パンチャー,電子計算機オペレーターに比較してプログラマー,システム・エンジニアの伸び率が大きく,特に男子プログラマーは10年間で3倍以上の急速な伸びとなっている(第3-1-17図参照)。
 しかしながら,労働省の「技能労働者需給状況調査」によると,システム・エンジニア,プログラマーの量的不足の深刻さが指摘されている。システム・エンジニア,プログラマーは,マイクロエレクトロニクス化を中心とする技術革新の進展を背景に,60年において不足数は約7万人に,また不足率も26%で第1位となっている。この3年間の推移をみても,不足率では常に第1位であり,不足数も60年には,59年に比べて2倍近くに上昇している。また,電子計算機オペレーターの不足数は,この3年間,1万人以上と高い水準で推移している(第3-1-18図参照)。
 (電気通信関連の製造業及びその他の職種に携わる人々)
 通信機器組立工やラジオ・テレビ組立工等の電子・電気機械器具組立・修理工の要員の不足数の推移をみると,59年から低下しているものの,60年においても約3万2,000人で,依然として不足の傾向が著しい(第3-1-18図参照)。
 このほか,無線技術員は安定した推移,内線電話交換手は減少傾向にある(第3-1-19図参照)。
 (通信関連従業者の賃金状況)
 これらの職種就業者の増大策としては,就業環境の整備を図り,魅力ある職業とし,優秀な人材の就職を促し,定着率を向上していくことが必要である。そこで就業環境の一つの指標として,賃金を取り上げる。
 「賃金構造基本統計調査」における所定内給与額をみると,60年調査では,全産業で21万4,000円(37.6歳平均)となっている。これを同程度の年齢層である35〜39歳層で男女別にみると,男子労働者は26万5,000円,女子労働者は15万6,000円となっている。
 一方,関連職種の同年齢層の男子平均では,システム・エンジニアが28万9,000円,プログラマーが27万3,000円と全産業の男子平均の賃金水準を上回っているのに対して,電子計算機オペレーター,通信機器組立工は,要員不足という状況にありながらも平均以下の賃金にとどまっている。
 女子については,プログラマーの賃金水準はかなり高く,キイ・パンチャー,内線電話交換手も全産業の女子平均を上回っている。しかしながら通信機器組立工は,11万5,000円,ラジオ・テレビ組立工は10万8,000円と平均より4万円以上低くなっている(第3-1-20図参照)。
 (3)通信分野における研究者
 (増加の著しい研究費)
 研究活動の動向を示す主要な指標の一つである研究費についてみると,研究開発投資のインセンティブが向上しており,全産業では10年間で約3倍に伸びている。
 通信4事業体についてみると,NTTは,対前年度比26%増の1,600億円と著しく増加している。KDDは,この5年間で約2.2倍の伸びを示しており,84億円となっている。郵政省(電波研究所)及びNHKの研究費は,財政の抑制傾向等により横ばいあるいは微増となっている(第3-1-21図参照)。
 (一貫して増加傾向にある特許出願)
 研究者の成果の指標として,特許出願件数についてみる。
 我が国における特許出願件数は,活発な技術開発により戦後一貫して増加傾向にある。
 59年における特許出願件数は,約28万2,000件である。このうち電気通信技術についてみると,全体の約6%に当たる1万7,300件であり,前年比23%増と大きな伸びとなっている。特に交換技術においては,デジタル交換及びファクシミリ,データ,電話等をまとめて交換する複合交換網に関する出願,デジタル情報の伝送においては,通信制御装置,プロトコルに関する出願の増加が著しい。
 特許出願1件当たりの研究費を59年度についてみると,全産業に比較して,郵政省(電波研究所)の4億円をはじめ,どの事業体においても全産業の平均以上の研究費が必要とされていることが分かる(第3-1-22図参照)。
 (安定した推移の研究者数)
 4事業体における研究者数についてみると,NTTは,絶対数・伸び率とも最も大きく,60年度末で3,470人となっている。KDDは,約180人でほぼ一定であり,NHKは,減少傾向にある。郵政省(電波研究所)は,250人前後で推移している(第3-1-23図参照)。
 研究者1人当たりの特許出願件数をみると,全産業平均では1.3件となっているのに対して,通信4事業体では,基礎的な技術研究を中心とする郵政省(電波研究所)の0.05件をはじめとして,いずれも低い件数となっている(第3-1-24図参照)。また,研究者1人当たりの研究費(年度予算等を研究者数で除したもの)は,NTTが約4,600万円,KDDが約4,500万円と高い金額となっており,郵政省(電波研究所),NHKは約1,500万円となっている(第3-1-25図参照)。

第3-1-1図 郵便の現業事務の流れ

第3-1-2図 郵便の現業職員数の推移

第3-1-3図 通信事業体別の従業員平均年齢の推移

第3-1-4表 NTTの職種別要員数の推移

第3-1-5図 NTTの採用者数の推移

第3-1-6図 KDDの電信・電話等要員数の推移

第3-1-7図 KDDの採用者数の推移

第3-1-8表 NHKにおける職種区分

第3-1-9表 NHKの職種別要員数の推移

第3-1-10表 民間放送における職種分類

第3-1-11図 民間放送の従業員数・採用者数の推移

第3-1-12図 民間放送の職種別従業員比率の推移

第3-1-13表 有線放送の従業員数の推移

第3-1-14図 マスコミ関連産業に従事する人間の推移

第3-1-15図 通信関連製造業等に従事する人間の推移

第3-1-16表 通信に関連する職種

第3-1-17図 職種別労働者数の推移(1)

第3-1-18図 通信関連技能労働者の不足数の推移

第3-1-19図 職種別労働者数の推移(2)

第3-1-20図 通信に関連する職種の賃金水準(35〜39歳)(60年)

第3-1-21図 通信事業体の研究費の推移

第3-1-22図 特許出願1件当たりの研究費(59年度)

第3-1-23図 通信事業体の研究者数の推移

第3-1-24図 通信事業体の研究者1人当たりの特許出願件数(59年度)

第3-1-25図 通信事業体の研究者1人当たりの研究費(60年度)
 

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