昭和61年版 通信白書

本文へジャンプ メニューへジャンプ
目次の階層をすべて開く目次の階層をすべて閉じる

2 ディジタル化の進む通信ネットワーク

 (1)電気通信のディジタル化
 ア.魅力あるディジタル通信
 近年,アナログ信号に代わり,ディジタル信号を取り入れた電気通信ネットワークのディジタル化が行われるようになった。
 ディジタル信号は,すべての情報を「0」と「1」の符号の組合せで表すものであり,時間とともに連続して変化するアナログ信号とは基本的に異なるものである。
 このようなディジタル通信には,アナログ通信と比較していくつかの優れた特徴がある。
 まず第一に,通信品質の向上が挙げられる。ディジタル通信においては,信号の受信時に「0」か「1」かの区別さえできれば,誤りなく元の送信情報に戻すことができるため,信号そのものが意味をもつアナログ通信に比べて,雑音の影響が極めて小さい。
 第二に,通信処理等の容易性が挙げられる。ディジタル信号は,そのままの形でコンピュータに入力することができ,情報の蓄積,変換等の処理を容易に行うことができる。
 第三に,通信ネットワークの経済化が挙げられる。ディジタル通信においては,各機能がLSI化に適した論理回路やメモリで実現できるため,最近のLSI技術の急速な進展により,通信ネットワークを構成する機器の経済化を図ることができる。
 第四に,各種通信サービスの統合化の容易性が挙げられる。アナログ通信では音声や画像等の情報の種類によって信号の性質が異なるため,サービスの統合が困難である。これに対して,ディジタル通信では情報をすべて同一のディジタル信号として取り扱うため,設備の共用が容易に行え,各種サービスの統合が可能となる。
 イ.ディジタル化の現状
 電気通信ネットワークのディジタル化を推進するためには,各構成要素にディジタル技術を取り入れ,それぞれにおいてディジタル化を図っていく必要がある。
 (交換機のディジタル化)
 我が国のディジタル交換機は,41年に試作され,その後,LSI技術の進展により,部品コストの低下が図られ,54年には,DDX網の構築においてディジタル回線交換機が実用化された。
 また電話網においても,音声のアナログ信号をディジタル信号に変換するためのA/D変換機等のLSI化が積極的に進められた結果,57年にディジタル中継線交換機,58年にディジタル加入者線交換機がそれぞれ実用化された。
 (伝送路のディジタル化)
 伝送路は通信ネットワークの構成要素の中で最も早くからディジタル化が行われており,通信ネットワークのディジタル化を進める上での基盤となっている。
 40年に,電話網の中継伝送方式として,電話24回線を多重化してディジタル伝送を行うPCM方式が実用化された。最近では,5,760回線を多重化するディジタル伝送が,同軸ケーブル,光ファイバケーブル及び無線により実現されている。
 また,伝送路のディジタル化を図る上では,加入者線のディジタル化も重要である。現在,光ファイバケーブル加入者線伝送方式及び26GHz帯ディジタル加入者線無線方式が実用化されているほか,既存のメタリックケーブルによるディジタル伝送方式の試験が行われ,その有効性が確認されている。
 (端末のディジタル化)
 音声等のアナログ信号を扱う電話機等の端末をディジタル通信ネットワークで使用するためには,端末でのA/D変換機能が必要である。
 我が国においては,59年にディジタル電話機が開発され,現在INSモデルシステムにおいて実験が行われている。また,ディジタルファクシミリ端末もCCITTでG4として標準化され,我が国では積極的にその開発が進められている。
 ウ.ISDNの構築
 (ISDN構想の出現背景)
 サービス総合ディジタル網(ISDN:Integrated Services Digital Network)は,ディジタル化により各種の通信ネットワークの統合を図り,音声,データ,画像等の異なるサービスを総合的に提供することを可能とするネットワークである。
 電話網は現在,音声のみならず,データ通信等の様々な通信サービスを提供するようになった。しかし,この電話網には,[1]データ通信等を行う場合,端末においてA/D変換機能が必要である,[2]伝送速度,伝送容量,接続時間等の点に関して高速,大容量の通信には適していない,などの問題がある。
 非電話系サービスに対する需要増大の中で,こうした電話網の限界に対して,DDX網,ファクシミリ通信網,ビデオテックス通信網等の,データ通信や画像通信に適した通信ネットワークが個別に構築されるようになった。
 しかし,新しい通信サービスの提供のたびに個別に通信ネットワークを構築するのは国民経済的に非効率であり,また,利用者ニーズがますます高度化・多様化してくると,それに即応することが困難になってくる。
 こうしたことから,即応性に富み,全体として効率的かつ弾力的な通信サービスの提供を目指して,電気通信ネットワークの統合が図られるようになった。
 (ISDNの現状)
 我が国のISDNの構築については,これまでNTTがINS計画として,その研究開発に取り組んできたところである。
 現在,市外電話網のディジタル化については,ディジタル交換機の導入とともに,60年2月に完成した日本縦貫光ファイバケーブルルートな骨格とした伝送路のディジタル化が積極的に進められている。
 また,市内電話網については,現在,東京,大阪等,一部の地域でディジタル加入者線交換機が導入されている。市内電話網のディジタル化はまだ始まったばかりであるが,今後,積極的な推進が図られることになっている。
 60年度末現在の交換機及び伝送路のディジタル化率は,第2-3-14表のとおりであり,また,全国における伝送路のディジタル化の状況は,第2-3-15図のとおりである。
 (ISDNの課題)
 ISDNが真に国民に受け入れられるためには,その構築に当たって,解決すべきいくつかの課題がある。
 まず,ISDNの実現により可能となる総合的ディジタルサービスの内容及びディジタル化に要するコスト負担の両面から,ネットワークのディジタル化が有する社会的・経済的意義について,国民的コンセンサスを得ることが重要である。
 また,通信ネットワークのディジタル化に当たっては,既存サービスとの整合性,情報の地域間格差の是正等に配意する必要がある。
 さらに,通信自由化の中で,新規参入の第一種電気通信事業者によりディジタル伝送路が構築されつつあるが,我が国において,ISDNを適正に発展させるためには,NTTのネットワークとこれら事業者によるネットワークとの相互接続等について十分に検討していく必要がある。また,第二種電気通信事業者等に及ぼす影響,端末機器の技術基準等についても留意していく必要がある。
 ISDNの国際動向については,現在CCITTにおいて標準化等の検討が行われており,1984年にはIシリーズ基本インタフェース(64+64+16kb/s)伝送によりサービスを提供するなどの大枠が取りまとめられた。我が国のISDNが各国のISDNと接続され,ISDNのメリットが国際間においても享受されるためには,こうした国際標準との整合性を考慮してディジタル化を進めていくことが必要である。
 郵政省では,60年度に「ディジタル通信サービス実用化懇談会」を開催し,検討を進めてきたが,61年6月には,その最終報告書が取りまとめられ,電気通信ネットワークのディジタル化の方向付けが行われたところである。
 (2)放送のディジタル化
 社会における情報化が進展する中で,放送の分野においても,テレビジョン放送における画像品質の向上等が要望されている。放送におけるディジタル化は,番組制作や送受信システムをより高度なものにするとともに,データ放送等の多様な放送サービスを可能にするものである。
 (センターのディジタル化)
 センターにおけるディジタル化は,放送機器及び番組制作においてみられる。
 放送機器については,特にVTRのディジタル化の研究が進められている。この研究は,従来のアナログ記録方式ではVTRの画質の改善に限界があるため,ディジタル化により,一層の画質向上を図ろうとするものである。また,アナログ技術では不可能だった創作技法等もディジクル化により可能となる。従来,ディジタルVTRには,テープ使用量がアナログVTRの数倍必要であるという問題があった。この問題を解決すべく,高速かつ高密度の記録方式が開発され,54年には,アナログVTRと同程度のテープ使用量で記録を可能とするディジタルVTRが試作された。
 また,VTRについては,機器の互換性が必要であるため,CCIR(国際無線通信諮問委員会)において,ディジタルVTRの標準化に関する検討が行われ,1985年に,テレビジョン信号のディジタル化に関する基本的条件,テープ材料等を内容とするディジタルVTR標準勧告案が採択された。
 一方,番組制作については,コンピュータの処理速度の向上や記憶容量の増大等に伴って,近年,創造的な映像の制作が活発になっている。今後,コンピュータを駆使した多様な番組の提供が行われていくものと考えられる。
 (伝送路のディジタル化)
 伝送路のディジタル化については,特に映像をディジタル信号で送る場合に,アナログ信号に比べて広い帯域を要するので,帯域圧縮技術が必要となる。そのためアナログ信号を極力少ない情報量のディジタル信号に効率よく変換するための高能率符号化技術が開発されている。
 中継ネットワークについては,53年度にカラーテレビジョン信号を6.3Mb/sに高能率符号化するフレーム間符号化装置の実用化により,帯域圧縮が実現され,ディジタル伝送が行われるようになった。
 また,送信ネットワークについては,59年からBS-2aによる衛星試験放送において,PCM方式により,音声信号のディジタル伝送が行われている。これにより,テレビジョン放送の音声の高品質化が可能となった。最近では,PCM音声放送サービスを提供する会社が設立されており,放送サービスの高度化・多様化が今後促進されるものと予想される。
 (端末のディジタル化)
 端末のディジタル化は,主にテレビジョン受像機の高機能化,高性能化を目指して進められている。
 ディジタルテレビジョン受像機の特徴としては,まず画質向上を容易に行える点が挙げられる。従来のテレビジョン受像機では,伝送路上において劣化した画質を改善するのに高度かつ複雑な技術を必要とするが,ディジタルテレビジョン受像機ではこうした画質改善方法もディジタル信号処理により容易となる。
 また,ディジタルテレビジョン受像機では,単に受信機能だけでなく,処理の容易性を生かして種々の機能を付加させることが可能となる。例えば,画面の静止,画面の一部拡大,他の映像の挿入,異なる番組の同時表示等が実現できる。
 (ディジタル化による新しい放送サービス)
 放送ネットワークの各構成要素にディジタル技術が取り入れられるようになると,新しい放送サービスの提供が可能となってくる。
 60年度にサービスが開始された文字放送は,文字や図形をディジタル信号の形で映像信号に多重化して送出するものである。
 また,テレビジョン受像機のディジタル化及び送信方式の変更を行うことにより,現行のテレビジョン放送方式との両立性を保ちながら画質の向上を図れるEDTV(Extended Definition Television)方式が可能となる。郵政省では,「テレビジョン放送画質改善協議会」を中心に,このEDTV方式を開発すべく積極的に検討を進めている。
 さらに,ディジタル信号を放送波に重畳させることにより、コンピュータのプログラム等を放送するデータ放送が可能となる。データ放送に関しては,現在,電気通信技術審議会で伝送規格等についての審議を行っている。
 (統合ディジタル放送を目指して)
 放送ネットワークにおけるディジタル化が進められていく中で,電波の有効利用及び多様なサービスの提供を容易にするという観点からは,各種の放送サービスの統合化を図ったシステムが望ましい。そこで,ディジタル放送用広帯域伝送路を設定し,この伝送路上にラジオ放送,テレビジョン放送,文字放送,高精細度テレビジョン放送,データ放送等をディジタル信号で多重化し,効率よくサービスを提供する統合ディジタル放送(ISDB:Integrated Services Digital Broadcasting)が現在考えられている。
 ISDBは,59年度の電波技術審議会答申の中で,高度情報社会の実現にふさわしい放送ネットワークの形態として,その概念が打ち出された。また,CCIRにおいても,我が国からの提案を受けて,今後国際的にISDBを研究していくことが,60年度の最終会議で決定された。
 ISDBの実現のためには,高品質かつ高能率なディジタル伝送路や多様な放送サービスを受信するための端末装置の開発等が課題であり,今後,これらの技術開発を積極的に行っていく必要がある。

第2-3-14表 交換機及び伝送路のディジタル化率(60年度末現在)

第2-3-15図 ディジタル伝送路の現況(60年度末現在)

 

第2章第3節1 通信ネットワークの新たな展開 に戻る 3 通信ネットワークの結合 に進む