昭和63年版 通信白書

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1-1-2 国内通信の動向

 62年の国内通信は,61年度に引き続き順調に推移している。 ここでは,国内通信サービスの動向と国内通信事業の経営状況について概観する。

 (1)国内通信サービスの動向

 ア 国内電気通信
 (電話サービス)
 NTTの加入電話等契約数は,62年9月末現在4,772万契約であり,前年同期に比べ3.4%増加している。また,電話のダイヤル総通話回数は,近年加入電話等契約数の伸びを上回って急速に伸びており,1加入契約当たりの通話回数が増加していることが分かる(<1>-1-1-7図参照)。 ダイヤル総通話回数の伸びは,56年8月,58年7月の遠距離通話料の引下げをはじめとする段階的な通話料の引下げの実施及びファクシミリの普及や電話利用の多様化等による,通信需要の伸びが,主な要因と考えられる。
 (ファクシミリ通信網サービス)
 NTTのファクシミリ通信網サービスの契約数は,62年9月末現在14万8,077契約であり,前年同期に比べ2.5倍と急激に伸びている(<1>-1-1-8図参照)。 これは,記録通信に対するニーズの高まり,サービス提供地域の拡大によるネットワークの利用価値が高まったこと,電話網を使った場合に比べ長距離通信料金が割安となることが主な要因である。
 (移動通信サービス)
  移動体通信分野は,利用者のニーズの増大に伴い急速に進展している(<1>-1-1-9図参照)。 NTT及び新事業者の無線呼出しサービスの契約数は,62年9月末現在269万契約であり,前年同期に比べ15.5%増加している。 NTTの自動車電話契約数(携帯電話を含む。)は,62年9月末現在12万815契約であり,前年同期に比べ56.3%増と増加が著しい。
 (一般専用サービス)
 NTT及び新事業者の一般専用サービスの回線数は,62年9月末現在60万6千回線に達しており,前年同期に比べ9.8%増加している(<1>-1-1-10図参照)。 一般専用サービスの回線数の伸びは,全体の約3割を占める3.4kHzの回線(帯域品目)の増加が主な要因となっている。これは,同回線が電話網と同じ規格であり,電話やファクシミリ等の機器がそのまま利用できる汎用性の高い回線であるためである。 符号品目では,1,200b/sから4,800b/sの各回線が減少傾向にある中で,9,600b/sの高速の回線が,毎年5割以上の割合で伸びていることが特徴である。
 (データ通信設備サービス) NTTのデータ通信設備サービスについては,公衆データ通信サービスの端末数が,62年9月末現在2万3,505端末で,対前年度比14.4%の増加となっている。また,各種データ通信サービスのシステム数も増加しており,62年9月末現在96システムとなっている。
 (ディジタルデータ伝送サービス)
 NTTのディジタルデータ伝送サービスについては,回線交換サービス,パケット交換サービスともに大きく伸びている。 回線交換サービスの回線数は,62年9月末現在5,943回線で,前年同期に比べ34.9%の増加である。また,パケット交換サービスの回線数は,62年9月末現在4万735回線で,前年同期に比べ約2倍と大幅に伸びている(<1>-1-1-11図参照)。 パケット交換サービスの近年の急速な伸びは,パソコン通信等で用いられている,電話網からパケット網へアクセスできる第2種パケット交換サービスの伸びが大きな要因である。 このほか,特徴としては,回線交換サービス,パケット交換サービスともに,9,600b/s及び48kb/sの高速のサービスの伸びが著しいことが挙げられる。
 (ビデオテックス通信サービス)
 キャプテンサービス(株)によるビデオテックス通信サービスの利用契約数は,62年度末現在6万2,352契約であり,前年度末に比べ2倍以上に増加している(<1>-1-1-12図参照)。 特に,家庭用利用契約数が,サービス開始当初の全体の1割程度から,62年度末には全体の約4割を占め,増加している。これは,メールボックスや株式情報をはじめとする各種サービスが,家庭内に浸透するとともに,日用品受発注システムの開発や競馬情報の提供が,家庭用端末を増やす要因となっているためである。 63年2月10日から,ビデオテックス通信サービスの通信料の夜間・土・日・祝日割引(4割引)等が実施され,契約数及び利用の増加が期待される。
 イ 放 送
 62年10月から12月の1日当たりの総放送時間は,テレビジョン放送が1,978時間,ラジオ放送が1,630時間であり,年々増加している(<1>-1-1-13図参照)。 衛星放送の受信世帯数は,63年2月に50万世帯を超え,62年度末現在約58万世帯であり、前年度末に比べ約4.2倍と急増している(<1>-1-1-14図参照)。特に,62年7月からNHKによる24時間編成の独自の番組が開始されたことにより,個別受信世帯の伸びが著しい。 CATV施設数は順調な伸びを示しており,62年度末現在の許可施設数は709施設であり,対前年度比12.0%増であった。
 ウ 郵 便
 62年度の郵便物数は,194億4千万通(個)であり,前年度に比べ7.1%増加している。郵便物数の伸びは61年度の対前年度増加率を上回っており,順調に推移している。

 (2)国内通信事業経営

 (NTTの経営状況)
 NTTの62年度上半期の収益は,前年同期比4.7%増の2兆7,882億円,費用は同3.9%増の2兆5,885億円で,経常利益は同16.2%増の1,996億円であった(<1>-1-1-15表参照)。この上半期の経常利益は,62年度計画額の60.9%に達している。 62年度上半期のサービス別収入を,前年同期と比較すると,営業収益の約75%を占めている電話料は,3.4%増加している。専用サービスは8.1%,無線呼出しサービスは15.8%,自動車電話は29.5%,ディジタルデータ伝送サービスは41.4%もの増加となっている。 専用サービスの市場が着実に拡大しているほか,無線呼出しや自動車電話の移動通信分野の市場も,急速に拡大していることを示している。 NTTの63年度事業計画によれば,電話サービスの安定的な提供とともに,ディジタル交換機の大量導入を中心とした電気通信網のディジタル化を一層促進することとされている。 なお,63年度のNTTの収支計画は,収益が5兆7,320億円,費用が5兆2,820億円で,経常損益は4,500億円となっている(<1>-1-1-16表参照)。
 (新第一種電気通信事業の経営状況)
 62年度上半期の日本テレコム(株),第二電電(株),日本高速通信(株),東京通信ネットワーク(株)及び大阪メディアポート(株)の5社の事業収入は,29億4千万円であり,そのうち専用サービスが約23億円,電話サービスが約6億4千万円であった。 また,この5社の事業支出は約152億4千万円であり,損失は約143億2千万円であった(<1>-1-1-17表参照)。 事業収入の増加がさほどではない反面,サービスの提供区域の拡大等に伴う初期投資の増加により事業支出も増加し,損失は前年度(実際の営業期間はおおむね5か月)の損失額を上回っている。 なお、62年度上半期の新第一種電気通信事業者5社の専用収入(23億円)は,NTTの専用収入(1,450億円)の1.6%にすぎない。 また,現段階においては,新事業者は採算性の高い区間や地域からサービスを提供しているものの,NTTと新事業者の関係をみると,新事業者のネットワークは,その大部分がNTTの加入者網との接続が必要不可欠であり,NTT自らが新事業者の持つ網と同様の網とともに加入者網を保有しているなど,NTTは,新事業者に対し,構造上大きな支配力を行使し得る立場にある。 これらのことから,第一種電気通信事業分野は,まだ,本格的な競争は行われていない段階にある。
 (NHKの経営状況)
 NHKの経営は,受信料収入の伸び悩み,事業支出の増加等により,極めて厳しい状況にあり,63年度収支予算においては,事業収支で124億円の支出超過を見込んでいる(<1>-1-1-18表参照)。 NHKは,62年度において,衛星放送設備の整備の推進のほか,外国電波混信による難視等に対し,3地区にテレビジョン放送局の建設を行った。また,ラジオ放送網の整備についても中波放送局4局,FM放送局2局の建設を行った。 なお,63年度の建設計画においても衛星放送設備の整備及び放送網の建設や整備を図ることとしている。
 (郵便事業の経営状況)
  郵便事業は,サービスの改善,営業活動の積極的な推進,事業経営の効率化等により,56年度以降6年連続して単年度損益は黒字となった。この結果,55年度末に2,494億円あった累積赤字は,料金値上げをすることなく,61年度末現在15億円にまで縮小している。 なお,62年度及び63年度の郵便事業損益の予算は,<1>-1-1-19表のとおりである。

 (3)国内通信の経済的影響

 ここでは,産業連関の手法を用いて国内通信産業が他の産業に与える影響について分析する。
 ア 国内通信産業の生産活動による我が国経済への波及効果
 国内通信産業がサービスを供給し続けるためには,他の産業から情報通信機器をはじめとする機械器具,電力・ガス等のエネルギー,金融・保険,運輸等の多様な財・サービスの供給を受けなければならない。 国内通信産業が,サービスを供給する一方で他の産業から調達する財・サービスは,それを供給する産業に新たな需要を喚起させる。 ここでは,国内通信産業の生産活動が,我が国経済に及ぼす影響について,サービスの供給による波及と投資による波及に分けて分析する。
 (ア) サービス供給の生産誘発効果
 (生産誘発額)
 60年の国内通信産業の分野ごとの生産誘発効果は,<1>-1-1-20表のとおりである。 国内第一種電気通信事業の生産誘発効果は1.35であり,国内第一種電気通信事業が4兆7,375億円の生産を行う間に,国内第一種電気通信事業以外の産業に及ぼした生産誘発は,1兆6,581億円(生産額×0.35)であった。 国内第二種電気通信事業の生産誘発効果は2.15と高くなっている。これは,同分野がソフト開発をはじめとする中間財・サービスの投入がその性格上高いことによる。 郵便の生産誘発効果は1.39であり,モの生産誘発は,4,803億円であった。 公共放送の生産誘発効果は1.65であり,同じくその生産誘発は,2,192億円であった。 民間放送の生産誘発効果は2.01であり,その生産誘発は1兆1,006億円であった。 民間放送の生産誘発効果が公共放送より高いのは,公共放送よりも民間放送の方が下請等の外部発注比率が高いことによる。 有線放送の生産誘発効果は1.51であり,その生産誘発は192億円であった。
 (付加価値発生分布)
 国内通信産業の生産活動によって各産業が得られる付加価値の分布をみると,国内第一種電気通信事業では,全体の80.8%が自らの産業に,16.5%が国内の他産業に,残りの2.7%が輸入を通じて諸外国に発生している。 国内第一種電気通信事業部門が自部門以外で及ぼす影響の大きい産業は,その他の対事業所サービス(3.1%),不動産(1.8%)等である。 郵便では,全体の76.6%が自らの産業に,20.7%が国内の他産業に,2.7%が輸入を通じて諸外国に発生している。 この産業の自部門以外で影響の大きい産業には,運輸業(5.7%),不動産業(2.7%),金融・保険(2.7%)等がある。 公共放送では,全体の66.0%が自らの産業に,28.5%が国内の他産業に,5.5%が輸入を通じて諸外国に発生している。 この産業の自部門以外で影響の大きい産業には,金融・保険(2.9%),国内第一種電気通信事業(2.9%),運輸業(2.6%)等がある。 民間放送では,全体の46.9%が自らの産業に,44.7%が国内の他産業に,8.4%が輸入を通じて諸外国に発生している。 この産業の自部門以外で影響の大きい産業には,国内第一種電気通信事業(6.1%),個人サービス(5.3%),情報サービス(4.6%)等がある。
 (イ)投資の波及効果
 ここでは,国内通信の投資額の大部分を占めるNTTの投資が,我が国の経済に及ぼす波及効果について分析する。 NTTの投資が我が国経済に及ぼす波及効果は,<1>-1-1-21図のとおりである。 60年にNTTが行った投資は,約1兆6,160億円であるが,その国内生産誘発額は3兆7,970億円である。 産業別にみると,情報通信機器関連産業の生産誘発額(1兆3,124億円)は,当該産業の生産額(27兆2,877億円)の4.8%を占めている。 また,電気通信施設建設への生産誘発額(4,885億円)は,生産額(7,031億円)の69.5%を占めている。 この投資による,雇用者誘発数は全産業で約21万人であった。特に雇用者誘発数が多い産業としては,電気通信施設建設が約4万7千人,次いで情報通信機器関連が約3万9千人等であった。 電気通信施設建設は,生産誘発額,雇用者誘発数ともに高く,極めてNTTの投資に依存する割合が高い。 60年の生産波及と同一と仮定すると,63年度の投資計画額1兆7,700億円では,4兆1,606億円の国内生産誘発額が生じることとなる。
 イ 我が国における国内通信の利用
 通信産業は,電力,水道,ガス,運輸,金融等とともに,我が国経済を支える基盤的サービス産業であり,企業は生産要素として,原材料やエネルギーと同様に情報の媒体機能としての通信サービスの投入を必要とする。
 (国内・第二電気通信事業)
 60年の国内第一種電気通信事業サ-ビスの利用先のうち,69.0%が産業部門であった。 国内第一種電気通信事業利用の主な産業分野は,商業(26.3%),金融・保険(11.7%),公共サービス(7.1%)等のサービス部門であった(<1>-1-1-22図参照)。 産業規模の違いを考慮し,各産業が同じ額の生産を行う場合に利用する国内第一種電気通信事業サービスの全産業平均を1として比較したのが,国内第一種電気通信事業利用の特化指数である。 これによっても,商業が18.2,金融・保険が8.1,公共サービスが4.9と高くなっており,これらのサービス部門が他の産業と比較しても多くの国内第一種電気通信事業サービスを利用していることが分かる。
 (郵便)
 60年の郵便サービスの利用先のうち,87.2%が産業部門であった。 郵便利用の主な産業も国内第一種電気通信事業サービスとほぼ同様に,金融・保険(14.9%),商業(8.3%),公共サービス(8.3%)等であった(<1>-1-1-23図参照)。 しかし,特化指数をみると,公共放送(4.9),情報サービス(4.6),金融・保険(4.3)等が高くなっている。製造業では,電子計算機・同付属装置(2.7),事務用機械(2.3)等の情報通信関連機器に高いものが目立っている。
 (全体的傾向)
 商業及び金融・保険は,ともに国内通信を最も多く利用する産業分野であるが,郵便と国内第一種電気通信事業への特化の仕方には特徴的な違いがある。商業は国内第一種電気通信事業により強く特化しているのに対し,金融・保険はむしろ郵便により強く特化している。 郵便の利用が金融・保険に多いのは,60年の「郵便利用構造調査」の郵便物の内容別利用状況をみても,金銭関係が23.6%で最も高くなっていることと一致している。

<1>-1-1-7図 加入電話等契約数の推移

<1>-1-1-8図 ファクシミリ通信網サービス契約数の推移

<1>-1-1-9図 無線呼出し及び自動車電話契約数の推移

<1>-1-1-10図 一般専用サービス回線数の推移

<1>-1-1-11図 ディジタルデータ伝送サービス回線数の推移

<1>-1-1-12図 ビデオテックス通信サービス利用契約数の推移

<1>-1-1-13図 テレビジョン放送及びラジオ放送の総放送時間(1日当たり)

<1>-1-1-14図 衛星放送受信世帯数の推移

<1>-1-1-15表 NTTの経営状況

<1>-1-1-16表 NTTの収支計画

<1>-1-1-17表 新第一種電気通信事業者の経営状況

<1>-1-1-18表 NHKの経営状況

<1>-1-1-19表 郵便事業の経営状況

<1>-1-1-20表 国内通信産業の生産誘発効果

<1>-1-1-21図 NTTの投資が我が国経済に及ぼす波及効果

<1>-1-1-22図 国内第一種電気通信事業サービスの利用分野

<1>-1-1-23図 郵便サービスの利用分野

 

 

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