昭和63年版 通信白書

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2-2-4 企業の国際進出とネットワークの形成

 企業の海外取引の増加や海外進出の進展等により,国際通信量が増大するにつれて,企業は経済性,技術的な必要性から,その通信の一部を国際専用回線によって行うようになっている。
 ここでは,専用回線による通信の利用動向及び専用回線による企業の国際間ネットワークの構築状況を明らかにし,企業の海外進出との関係について記述する。
 今回,郵政省の行った調査においては,120社から404回線の専用回線の設置について回答があった。その内訳は電信級回線205回線,音声級回線143回線,中・高速符号回線56回線であった(<2>-2-2-32表参照)。
 業種別にみると,製造業は電信級回線が多く,非製造業は、電信級回線と音声級回線がほぼ半々である。非製造業の中では,金融業は音声級回線と中・高速符号回線の数が多く,商業等は電信級回線が多くなっている。
 1社当たりの回線数は全体では3.4回線であった。業種別では,金融業が最も多く3.8回線,次いで,商業等3.5回線,機械製造業2.3回線の順である。

 (1)専用回線の地域別設置状況

 ア 北 米
(設置状況)
 北米の専用回線設置状況については,音声級回線と中・高速符号回線の比率が高く,この両者で全体の71.3%を占めている(<2>-2-2-33表参照)。
 業種別では,どの業種も音声級回線の比率が高いが,機械製造業と商業等は他の業種に比べ,電信級回線の設置が多い。
 また,金融業は中・高速符号回線の設置が多く,ニューヨーク等の特定地点間において,大量の情報交換を行っていることが分かる。
(通信端末の種類)
 専用回線に接続されている通信端末としては,テレックス端末(54社)とファクシミリ端末(47社)が多く,それに加えてパソコン端末(16社)が多いのが特徴である(<2>-2-2-34表参照)。
 中・高速符号回線の比率の高さとあいまって,北米との専用回線による通信は他の地域より高度化が進んでいることが分かる。
 業種別では,電話とファクシミリを比べると,金融業は電話の比率が高く,機械製造業と商業等はファクシミリ端末の比率が高い。
 イ 欧 州
(設置状況)
 欧州に対して設置されている専用回線では,音声級回線と電信級回線がほぼ同じ比率である。
 業種別では,機械製造業と商業等は電信級回線の比率が高く,金融業は音声級回線の比率が高い。
(通信端末の種類)
 専用回線に接続されている通信端末としては,北米と同様,テレックス端末(44社)とファクシミリ端末(35社)が多い。業種別では,機械製造業と商業等でテレックス端末の比率が高い。
 ウ アジア
(設置状況)
 アジアは,電信級回線の占める比率が州別では最も高く,約6割を占めているのが特徴である。
 業種別では,北米,欧州と同様に商業等と機械製造業の電信級回線の比率が高く,特に,商業等は設置回線の9割が電信級回線となっている。金融業は音声級回線の比率が高い。
(通信端末の種類)
 専用回線に接続されている通信端末としては,テレックス端末(53社)の比率が高い。業種別では,商業等,機械製造業で,テレックスの比率が高い。また,金融業等によるパソコン端末(9社)の利用も多い。
 エ 地域間比較
 以上3地域に対する専用回線の設置状況とその接続端末の状況をまとめると,北米と欧州は,音声級回線の比率が高く,機械製造業は,主としてファクシミリ端末を,金融業は電話機を接続している。また,北米においては,金融業と商業等によりパソコン端末が多く使用されている。
 アジアは,電信級回線の比率が高く,これには主として,商業等によりテレックス通信に用いられている。
 これらの傾向は,地域別の通信サービス利用動向と同様であり,それぞれの端末の普及度,業種別の利用動向にょり影響を受けているものと考えられる。

 (2)専用回線の増減傾向

 過去5年間の専用回線の増減傾向をみると,増加が154回線,減少が9回線であった(<2>-2-2-35表参照)。
 増加回線のうち音声級回線が約7割を占めており,減少回線は主として電信級回線である。
 地域別では,アジア,北米,欧州の順に増加している。特に北米については,中・高速符号回線の増加が顕著である。
 また,本邦企業と外資系企業では,本邦企業が音声級回線の増加が主であるのに対し,外資系企業は中・高速符号回線の増加が顕著である。
(業種別傾向)
 業種別では,増加回線の約半数を金融業が占めている。近年の専用回線の増加は,金融業の国際的な進出によるところが大きいといえよう。次いで,商業等(22.1%),機械製造業(15.6%)の順である。回線種類別でみると,金融業は音声級回線の増加傾向が強く,商業等は音声級回線と電信級回線の両方が増加している。
(専用回線の高速化)
 過去5年間に,専用回線を電信級回線から音声級回線に変更するなどの高速化を行った企業は56社であった(<2>-2-2-36表)。
 業種別では,商業23社(48.9%),機械製造業15社(48.4%)について高速化の傾向が強くなっている。機械製造業では,専用線所有企業の48.4%に当たる15社が高速化を行ったとしており,商業も49.0%に当たる23社が高速化を図っている。
 地域別では,アジア22社,欧州16社,北米14社の順に高速化の傾向が強くなっている。
 以上のことから,比較的早期に海外進出を展開していた商業等及び機械製造業は,電信級回線を主体とした通信ネットワークを構築していたが,通信量の増加やファクシミリ端末の登場により,近年は,北米,欧州を中心に音声級回線への移行を進めているといえよう。
 一方,ここ数年,急速に海外進出を進めている金融業は,国際金融取引の増加により北米,欧州との通信需要が高まり,また,商業等に比べて電話による通信の必要性が高いことから,北米,欧州に対して,音声級回線による通信ネットワークの構築を進めている。
 このように,専用回線による通信に関しても,企業の国際化の動向は,国際通信の動向と密接に結び付いていることが分かる。

 (3)専用回線で交換される情報

 専用回線によって,交換される情報内容を通信端末別にみると,電話機とファクシミリ端末はほぼ同様の傾向であり,主として,マーケティング情報,経営管理情報,顧客情報等の送受に用いられている(<2>-2-2-37表参照)。
 テレックス端末は,マーケティング情報と受発注情報が多く,次いで,顧客情報,資金管理・経営財務情報の順である。
 パソコン端末は,経理財務情報,受発注情報の送受に用いられている。

 (4)専用回線による通信の増加理由

 専用回線による通信の増加理由については,「コンピュータ間通信やオンライン業務の増加」が最も多く,次いで,「情報収集業務の増加」,「金融業務の増加」,「独自ネットワークの構築のため」の順である(<2>-2-2-38表参照)。
 業種別では,機械製造業と商業等は「コンピュータ間通信やオンライン業務の増加」が挙げられており,これは「専用回線により,オンラインで生産管理情報を送っている。また,現地で設計してから日本で,リアルタイムでシミーレーションを行うことも可能になった。」(機械製造業B社)というような高度な通信の利用形態が増加しているためである。
 公衆網通信の増加理由と比べると,専用回線による通信では「オンライン業務の増力旧と「独自ネットワークの構築のため」が多く挙げられているのが特徴である。

 (5)専用回線による国際間ネットワークの構築

 ア ネットワークの拠点
 企業は国際通信を行うにあたり,通信量の少ない時点では,公衆網通信を利用する。そして,特定地点への通信量が増加してくると,専用回線を設定する。さらに,多地点間との通信量が増加するに伴い,複数の専用回線による国際間の自社ネットワークを構築するに至る。
 ここでは,まず,日本からの専用回線が集中している国と設置企業との関係を分析する。
(州別傾向)
 アメリカ州については,圧倒的に米国(88回線)に集中している(第3-2-39表参照)。次いで,カナダ(5回線),ブラジル(5回線)の順である。
 欧州については,英国(48回線),西独(15回線),スイス(9回線)の順であり,フランスは2回線と少なくなっている。
 アジアについては香港が最も多く,58回線である。次いで,シンガポール(36回線),韓国(20回線),台湾(12回線)の順であり,インドネシア,中国,フィリピンがそれぞれ9回線であった。
 それぞれの州の経済的な拠点が通信ネットワークの拠点となっているのが分かる。
(業種別傾向)
 業種別では,機械製造業は,米国,香港への集中度が高く,金融業は,米国,香港に加えて,英国との専用回線が多い。また,商業等は,米国を中心としながらも,専用回線を多地点に拡散させているのが分かる。この傾向は,それぞれの業種の海外進出動向とほぼ一致する。
(本邦・外資系の別による傾向)
 本邦企業の相手国としては,米国,英国,香港の順であり,外資系企業は,米国,香港に集中している。外資系企業で米国,香港が多いのは,専用回線設置企業にこの両国を本国とする外資系企業が多いことによるものと考えられる。
 イ ネットワークの型態
 今回の調査において,複数の専用回線によるネットワークを構築していると回答した企業は57社に及んでいる(<2>-2-2-40表参照)。
 これらの企業のネットワークを大きく類別すると,東京を中心に,世界主要都市を放射状に結ぶ放射状ネットワークと,ロンドン-ニューヨーク-東京を3角形に結ぶ3角形ネットワークに区分される。
(放射状ネットワーク)
 放射状ネットワークは,主として総合商社,大手機械製造業等により構築されている(<2>-2-2-41図参照)。
 この型態は,ロンドン,ニューヨークの他に,香港と結んでいるものが多い。香港と接続している理由は,香港がアジアにおける国際的な通信拠点となっているからである。
 この型態は,東京に大量の情報をより集積させることを第1の目的としているものであり,専用回線ネットワークの基本的な型態といえよう。回線の種類としては,電信級回線を主としたものが多く,現在,音声級回線や中・高速符号回線へ高速化が進められている。
(3角形ネットワーク)
 3角形ネットワークは主として大手都市銀行・証券会社等の金融業により構築され,金融の国際化に伴い,最近急速にその数をふやしている(<2>-2-2-41図参照)。
 この型態のネットワークが主として,金融業によって構築される理由は,[1]東京,ロンドン,ニューヨークが“世界3大金融都市”と呼ばれ,世界経済の中心となっていること,[2]この3地点は時差を考えると,ほぼ24時間をフルに利用して1つの都市から他の2都市へ金融情報を送ることが可能であり,また,「夕方になると,公衆回線ではロンドンや一部の地域がつながりにくくなるので,常に回線を使いたいために,専用回線を設置した。」(金融業B社)というように,必要な時に,即座に情報の送受をすることが求められる金融業にとって,専用回線によるネットワークが最も適していること,[3]金融業にとって,情報は非常に重要であり,ネットワークに対し高い信頼性を求めている。つまり,3角形ネットワークにすれば,1か所の回線が不通になっても,逆方向から迂回してバックアップできるからである。
 三角形のネットワークは,音声級回線・中高速符号回線により主として構築されているものが多い。
 このように,国際間ネットワークは,それぞれの業種の通信形態に左右されるものであり,今後の国際通信の高度化によって,さらに様々な型態のネットワークの登場が予想される。

 (6)企業の専用回線による通信と公衆網による通信

 ここでは,国際通信の大ユーザーである金融業と商業等について,これまで分析してきた企業の専用回線による通信の利用動向と,先にみた公衆網による通信の利用動向を対比させ,その特徴について述べる。
 ア 金融業の国際通信
(専用回線による通信)
 近年,北米,欧州等への海外進出が著しい金融業は,国際通信においても高い支出をしており,特に専用回線に対する支出が高い。
 金融業の設置する専用回線は,どの地域に対しても,音声級回線及び中・高速符号回線が多く,電話機とファクシミリ端末により通信を行っている。また,パソコン端末の設置が多いのも特徴である。
 これは,金融業の国際通信が大量の情報を特定地点と集中して送受する性質のものであることを示している。この場合の特定地点とは,世界的な経済拠点である,東京,ロンドン,ニューヨーク,香港等であり,これらの拠点を効率的に結ぶネットワークとして,3角形ネットワークが多数構築されている。
 また,過去5年間の音声級及び中・高速符号回線の増加は,主として,ここ数年の金融の国際化にともない,金融業の専用回線ネットワークでの利用増加によるものであることが分かる。
 これは,企業活動が国際通信の動向に影響を与えた顕著な例といえよう。
(公衆網による通信)
 公衆網による通信においては,他の業種に比べ,テレックスと電報の利用が多い。これは,専用回線で行われる電話とファクシミリの通信を補うものであると同時に,テレックス,電報が,金融業界においては決済時に正式書類とみなされること,あるいは追確認として利用されているためである。
 イ 商業等
(専用回線による通信)
 商業等は,金融業に次ぐ国際専用回線の大ユーザーであり,金融業に比べ多地点に分散して海外進出しているという特徴を有している。
 また,商業等は,金融業と異なり,電信級回線の比率が高くなっており,特にアジアに関しては顕著である。通信端末は,テレックス端末が主であり,このことは,商業等の国際通信が金融業と比べ,少ない量の情報を多地点と送受する性質のものであることを示している。
 しかし,専用回線の高速化の傾向は,他の業種に比べ最も高く,国際間の情報量が増加するに伴い,今後,ネットワークの性質が変化していくことが予想される。
(公衆網による通信)
 公衆網による通信では,電話又はファクシミリに対する支出が高く,特に電話については,アジア,北米において利用度が高い。これは,商業等の情報内容が場合によっては,記録性よりも,その場における情報交換にウエイトがおかれるものであることを示している。
 ウ 企業の海外進出と国際通信
 これまで述べてきたとおり,近年の我が国の国際通信量の急激な増加は,企業の海外活動の活発化と密接な関係を有している。また,通信量の地域別推移についても,その地域に進出する企業の通信形態,情報内容によって,大きく左右される。
 国際通信の動向は,企業活動以外にも,海外旅行者の動向,個人ユーザーの利用意向によって左右され,また,通信相手先における通信端末の普及状況,技術水準,通信回線網の発達状況,時差等様々な要因によって影響を受けるものである。
 しかし,企業の利用動向がその中でも,大きな要因となっていることは,これまでの分析からも明らかである。
 我が国の国際通信を考える場合,この企業の利用動向を踏まえた上で,技術的な対応や通信回線網の拡充を行っていくことが必要といえよう。

<2>-2-2-32表 国際専用回線の業種別設置状況

<2>-2-2-33表 国際専用回線の地域別設置状況

<2>-2-2-34表 国際専用回線に接続されている通信端末

<2>-2-2-35表 国際専用回線数の増減

<2>-2-2-36表 国際専用回線の高速化傾向

<2>-2-2-37表 国際専用回線による通信の情報内容

<2>-2-2-38表 国際専用回線による通信の増加理由

<2>-2-2-39表 主要国に対する国際専用回線設置状況

<2>-2-2-40表 国際間ネットワークの構築状況

<2>-2-2-41図 専用回線による国際ネットークの形態(概念図)

 

 

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