昭和63年版 通信白書

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2-3-1 国際通信の高度化・多様化に向けて

 (1)国際通信需要の動向

 ア 増加する国際通信の利用
 国際電気通信の代表的なメディアである国際電話について,料金の段階的引下げ率(10%,20%及び30%)に伴う利用意向の変化についてみる。
 10%の料金の引下げ率により,国際電話の利用が増加する(「非常に増加する」及び「やや増加する」と答えた企業の合計)と回答した企業は,410社(38.3%)である。同様に,20%の引下げ率の場合は,549社(58.5%),30%の引下げ率の場合は,620社(66.0%)に達している(<2>-2-3-1図参照)。
 今後,新事業者が事業を開始することによる競争市場の現出等に伴って,国際電気通信料金は,一層の低減化が予想されることから,国際電話をはじめとする国際電気通信の需要は,今後とも確実に増加するものと思われる。
 イ 通信量の増加が予想される地域
(全体的な傾向)
 通信量が最も増加すると考えられている地域は,北米(457社)であり,次いでアジア(265社),欧州(146社)となっている(<2>-2-3-2表参照)。
 これは,全企業の97.0%がこれら地域との間で通信量が最も増加すると考えていることを表している。
 この傾向は,過去5年間の地域別の通信量の増加順位と同様であり,我が国の国際通信需要がこの3地域へ集中する度合を強めていることが分かる(<2>-2-3-3図参照)。
(業種別の傾向)
 製造業,非製造業別にみても,その順位は全体的な傾向と変わらない。しかしながら,製造業ではアジア(195社)の割合が高く,特に,建設業及びその他の製造業ではアジアが最も高くなっている。
 また,非製造業のうち,金融業では,欧州(30社)がアジア(28社)よりも多くなっている。
 ウ 通信量の増加が予想される国
(全体的な傾向)
 通信量の増加が予想される国をみると,全企業では,米国(598社)が最も高く,次いで英国(270社),西独(223社)の欧州諸国となっている(<2>-2-3-4表参照)。
 続いて高い国は,韓国(195社),台湾(184社),香港(185社),シンガポール(147社)と,我が国と経済的な結び付きの強いアジアNICS諸国となっている。
(業種別の傾向)
 業種別にみると,米国に対しては,どの業種も増加を予想する企業が多い。
 製造業の特徴としては,韓国(148社),台湾(148社)が多くなっている。
 また,非製造業のうち,金融業についてみると,英国(92社),香港(70社),シンガポール(31社)が多く,これらの都市が有力な金融拠点であると同時に,我が国からみた場合の通信拠点となっていることが分かる。

 (2)通信量増加への対応

(全体的な動向)
 国際間の通信量の増加に対応するため,各企業が講じると予想している手段についてみる。
 全企業では,公衆サービスの活用(54.8%),端末機器の高度化・多様化(35.0%),専用線の新増設(21.8%)の順になっており,公衆通信サービスを有効的に利用して対応しようとする意向が分かる(<2>-2-3-5図参照)。
(専用線設置企業の動向)
 専用線設置企業に限ってみると,専用線の高速化(66.1%),専用線の新増設(44.9%)で対応すると回答した企業が多数に上っている。また,端末機器の高度化・多様化(49.2%)も公衆サービスの活用(22.9%)を大幅に上回っている。これは,専用線設置企業では,既に専用線や端末機器を利用して構築している自社のネットワークの活用により,国際通信需要の増大に対応していこうとしているためである。

 (3)専用線の新増設に対する意向

(対象国)
 企業が専用線の新増設先として考えている国についてみると,全企業では,米国(74.6%),英国(33.2%),香港(20.2%)の順となっている。
 業種別にみると,金融業では,米国(67.3%),英国(61.5%),香港(44.2%)と順位は同じであるが,英国,香港の割合が高く,これらの市場が金融業にとって有益な情報を集積していることが分かる。
(回線種類別の意向)
 今後の専用線の新・増設可能性を回線の種類別にみると,全企業では音声級(37.6%),高速符号品目(36.2%)の比率が高くなっている。
 また,専用線設置企業は,高速符号品目の比率(51.5%)が高く,既存の専用線の高速化の意向が分かる(<2>-2-3-6図参照)。
(地域別回線種類の意向)
 北米,欧州では,全地域と比して,高速符号品目の比率が高く,逆に,音声級の比率が低くなっている。アジアでは高速符号品目の比率が先の2地域に比べて低くなっているのに対して,音声級(47.4%)が高くなっている。特に,専用線非設置企業で音声級(53.6%)と電信級(35.7%)の比率が非常に高くなっている。

 (4)専用線の利用意向

 今後,通信量が増大していった場合,専用線の利用に切り替える可能性のあるサービスについてみる。
 全企業では,ファクシミリ(72.3%),電話(50.4%),テレックス(20.1%)の順に高くなっている(<2>-2-3-7図参照)。
 金融業では,テレックスの専用線化の可能性比率が37.0%と高くなっている。これは,前述のとおりテレックスが全体的には使用量が減少傾向にあるのに対して,金融業においては,使用量が増加しているメディアであり,重要度が高いためである。テレックスは対顧客用の決済・指示書・報告書の送付,資金管理情報の交換,ディーリング関係等に使用されており,特に顧客への報告書では,正式書類とみなされるという利点がある。

 (5)専用線設置の回線選考度

(回線選考の傾向)
 専用線を設置する場合,衛星回線と海底ケーブル(この場合は,大容量化され,高速符号品目等のサービスが可能であることを前提としている。)のどちらの回線を選択するかについてみる。
 全体では,その選択の比率は,ほぼ同じである。
 これを専用線の設置,非設置企業別でみると,専用線設置企業の66.3%は海底ケーブルを希望しているのに対して,非設置企業では,逆に69.3%が衛星回線の利用を希望している(<2>-2-3-8図参照)。
(衛星回線と海底ケーブルの特徴)
 衛星回線と海底ケーブルの特徴を利用者の立場からみると,信頼性は両者ともに高い。
 回線選考の基準となっている大きな要因は,衛星回線の利用の場合生じる伝送遅延である。
 「電話での遅延は問題である。」(銀行A社),「高速符号品目による複合ネットワークを作る可能性があるが,その際,衛星回線の遅れは大きな問題である。」(電気機器製造B社)といったように,電話における会話の不自然さ,メッセージ交換の多いTSS(タイムシェアリングシステム)によるデータ伝送の効率の低下が指摘されている。
 したがって,専用線を既に設置している企業の多くは,光ファイバを利用した大容量の海底ケーブルが建設されることを前提に,現行では,海底ケーブルを選考していると思われる。
 他方,衛星通信は,多地点間の通信回線を弾力的,容易に設定できるため,多地点に同じメッセージを送る場合に有効である。また,災害時における回線確保の容易さなどの優れた特徴を有している。
 したがって,今後とも,利用者のニーズとそれぞれの特徴を生かした形で,衛星回線と海底ケーブルについてその進展が図られることが望まれる。

 (6)ニューメディア等の利用意向

(ニューメディアの利用意向)
 全企業についてみると,電子メール(48.6%),G4ファクシミリ(41.3%),テレテックス(39.7%),テレビ会議(15.1%),ビデオテックス(8.1%)の順になっている(<2>-2-3-9図参照)。
 本邦企業に限ってみると,G4ファクシミリの利用検討比率(46.0%)が最も高く,電子メール(43.1%),テレテックス(42.5%)の順となっている。また,外資系企業でみると,電子メール(61.8%),テレテックス(32.3%),G4ファクシミリ(30.l%)の順となっている。
(国際第二種電気通信事業者に希望するサービス)
 国際第二種電気通信事業者に対しては,種々のサービス形態での提供が希望されているが,全体では,ファクシミリ専用通信網(57.3%)の利用意向が最も高くなっている(<2>-2-3-10図参照)。
 これは,ファクシミリ自体の需要が大幅に伸びていることと同時に,「公衆ファクシミリでは目的地以外の相手に届く可能性があるため情報の機密保持のため。」(電気機器製造業A社)等によるものと思われる。
 また,電子メール(33.7%)の利用意向が高いのは,「外国,特に米国企業が既にこの設備を持っているため。」(電気機器製造業B社)等によるものと思われる。
 その他,全企業の16.6%が利用しないと考えていることが特徴的である。

 (7)通信メディア別の需要の変化

 料金の値下げに伴う通信需要の変化をメディア別にみる。
 最も通信需要の増加するメディアは,ファクシミリであり,値下げのどの段階においても,最も高くなっている(<2>-2-3-11図参照)。
 次に需要の増加する率が高いのは,クーリエであり,どの値下げ段階においても2番目に高くなっている。
 一方,電報,テレックスは,30%の値下げでも現在以上の増加は期待できないことが分かる。
 また,値下げ率の拡大に伴う各メディアの伸び率を見るため,値下げ率10%の値から30%の値への伸び率をみると,増加傾向の大きい順に電話(116.0%),クーリエ(114.9%),ファクシミリ(114.4%)となっており,価格の弾力性が高いことが分かる。逆に,一番低いのは電報(104.0%)である。

<2>-2-3-1図 料金引下げに伴う国際電話利用の意向の変化

<2>-2-3-2表 通信量が最も増加する地域

<2>-2-3-3図 過去5年間の通信量の伸び(州別)

<2>-2-3-4表 通信量が最も増加する国

<2>-2-3-5図 通信量増加への対処

<2>-2-3-6図 回線種類別専用線新増設可能性

<2>-2-3-7図 専用線化の可能なメディア

<2>-2-3-8図 専用線の回線の種類に対する希望

<2>-2-3-9図 利用ニューメディア

<2>-2-3-10図 国際第二種電気通信事業者に希望するサービス

<2>-2-3-11図 料金値下げに伴う通信需要の変化

 

 

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