昭和63年版 通信白書

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1-1-4 情報化の現況

 (1)情報流通の動向

 流通する情報量の把握による情報化の定量的な分析として,郵政省では「情報流通センサス」を49年度以降毎年実施している。ここでは,情報流通センサスの四つの指標のうち,供給情報量及び消費情報量を中心に分析する。
(供給情報量の10年間の変化)
 情報流通センサスの対象となっている42種類のメディアのうち,10年前と比較可能な35種類のメディアについて,情報量と10年前との増加率との関係をみる。
 これによると,ファクシミリ,専用データ通信,公衆交換系符号伝送(無線呼出し)等の企業活動において主に利用されるメディアの増加率が大きくなっているのが,この10年間の特徴である(<1>-1-1-32図参照)。
 とりわけ,ファクシミリは,増加率が約60倍と伸びが顕著である。また,専用データ通信及び公衆交換系符号伝送も,増加率がそれぞれ約5倍,約4倍と大きい。企業活動において主に利用されるこれらのメディアは,今日,情報化の主流を占めている。
(消費情報量の10年間の変化)
 同様に,35種類のメディアについて,消費情報量について10年前との増加率との関係をみる。消費情報量については,マス・メディアの増加率が小さいのが分かる。また,総供給情報量と同様に,総消費情報量についてもマス・メディアの占める割合が高いので,全体の傾向も,マス・メディアと似た傾向になる(<1>-1-1-33図参照)。
(最近の情報流通量の特徴)
 最近の情報流通量の特徴は,マス・メディアにおいて,活字メディアから電気通信メディアへ,文字情報から音声情報及び画像情報へと相対的ウェイトが増大していることである。これは,情報流通量が増大した結果,電気通信メディア,音声情報,画像情報という,直観的に把握しやすいメディアが主流となる傾向を示しているものである。

 (2)家庭の情報化

 今日,情報通信に対するニーズは,家庭においても高まっている。ここでは,総務庁の「家計調査報告」により,家庭の情報化を支出面から概観する。
 ア 情報関係支出の推移
 62年の全国,全世帯(平均世帯人員3.67人,世帯主の平均年齢48.0歳)の消費支出は,1世帯当たり337万1,326円(1か月平均28万944円)で,前年に比べ名目で1.7%,実質では1.9%の増加となった。
 このうち,「情報通信支出」と「情報通信支援財支出」から成る「情報関係支出」についてみると,対前年比4.0%増の16万7,254円(1か月平均1万3,938円)で,消費支出全体に占める割合は5.0%となり,61年の4.8%から0.2ポイント上昇した(<1>-1-1-34表参照)。
 イ 情報通信支出の推移
 情報を直接提供し,又は提供を受けるための家計からの支出である情報通信支出は,62年は,1世帯当たり13万3,769円(1か月平均1万1,147円)で,前年に比べ3.2%の増加であり,10年前の1.5倍であった。
 電話通信料は,6万1,969円で1か月当たり5,164円であった。
 受信料は,前年とほぼ同額であるが,55年及び59年に受信料の改定があったため,10年前の1.5倍であった。
 新聞・書籍等に対する支出は,5万2,172円で,10年前の1.3倍であった。
 ウ 情報通信支援財支出
 情報を直接提供し,又は提供を受けるために使用する物的財に対する家計からの支出である情報通信支援財支出は,62年は,対前年比7.3%増の3万3,485円(1か月平均2,790円)であり,消費支出全体に占める割合は1.0%であった。
 このうち,電気音響機器(ラジオ,テレビジョン受信機,ステレオ機器,テープレコーダ及びVTR)に対する支出は,対前年比12.5%増の1万9,934円であった。
 VTRについては,60年から独立した支出項目として取り上げられたが,62年は,対前年比14.9%増の6,021円であった。
 また,62年のパソコン・ワープロに対する支出は,4,543円であった。これを都市規模別にみると,大都市では,VTRに対する支出を上回っており,現在,大都市において家庭への普及が進んでいることが分かる。

 (3)経済の情報化

 ここでは,産業連関の手法を用い,我が国の情報化の進展を経済的側面からとらえることとする。
 ア 情報通信経済の構造
 情報通信経済の構造が,[1]情報通信部門,[2]情報通信支援財部門,[3]非情報通信関係部門,[4]情報通信支援財部門の組織内情報通信部門及び[5]非情報通信関係部門の組織内情報通信部門の5部門から成り立っているものとして分析を行った。
 イ 投入構造
 組織内情報通信部門を産業連関表に組み込んだ,60年の5部門産業連関表は<1>-1-1-35表のとおりである。
 (情報通信関係部門)
 情報通信部門,情報通信支援財部門,情報通信支援財部門の組織内情報通信部門及び非情報通信関係部門の組織内情報通信部門から成る情報通信関係部門の生産額は,238兆2,960億円である。このうち両組織内情報通信部門が56.4%を占めており,経済の情報化は両組織内情報通信部門が中心となっていることが分かる。
 (情報通信部門)
 情報通信部門の投入構造は,中間投入が35.7%,粗付加価値部分への投入が64.3%であり,粗付加価値部分への投入比率が高い。
 粗付加価値部分への投入のうち,雇用者所得が73.4%(情報通信部門の生産額の47.2%)を占めており,情報通信部門が労働集約的な要素が強い部門であることを示している。
(情報通信支援財部門)
 情報通信支援財部門の投入構造は,中間投入が80.0%,粗付加価値部分への投入が20.0%であり,中間投入比率が高い。
 中間投入のうち,非情報通信関係部門が42.1%(情報通信支援財部門の生産額の33.7%)を占めており,物財生産部門の性格を表しているが,情報通信支援財部門の組織内情報通信部門も32.4%(同25.9%)と情報通信関係の投入も高い比率を占めている。
(組織内情報通信部門)
 情報通信支援財部門の組織内情報通信部門の投入構造は,中間財投入が56.7%,粗付加価値部分への投入が43.2%であった。
 非情報通信関係部門の組織内情報通信部門の投入構造は,中間財投入が34.9%,粗付加価値部分への投入が65.1%であった。
 同じ組織内情報通信部門であっても,投入比率に大きな差があるのは,情報通信支援財部門からの投入比率に大きな相違があるためである。
 これは,情報通信支援財部門の組織内情報通信部門は,非情報通信関係部門の組織内情報通信部門よりも,情報通信機材を多く使用することを示している。

(4)産業分野における情報通信の活用

 現在,情報通信は,産業分野を中心に活用が進んでいる。
 産業分野における情報通信のニーズは,経済構造が変化する中で,高度化・多様化している。今後とも,産業分野における情報化は,高度情報社会構築のための牽引車的役割を果たしていくことが期待される。
 ここでは,郵政省の調査(注1)を基に,産業分野における情報化の動向について概観する。
 ア 情報通信の活用目的
 企業における情報通信の活用目的は,現在,経営管理事務や受発注事務をはじめとした企業経営の合理化・効率化が中心となっている。さらに,今後は,決済事務の合理化,在庫の適正化等に目的が広がっていくことが予想される(<1>-1-1-36図参照)。
 一方,今後の重点的な活用の方向をみると,販売情報等の企業内情報資源の有効活用,市場ニーズの把握による商品開発力の強化等の,企業の意思決定と結びついた,企業戦略的活用がみられる。さらに,受発注システムを結合した取引先の確保,ダイレクトメール等による消費者ニーズ即応体制の整備,商品情報,入荷情報等の提供による消費者の利便性向上等を目的とする動きがみられる(<1>-1-1-37図参照)。
 イ 情報化の現状
企業においては,情報通信の活用を図るに当たって,企業内情報通信ネットワーク構築の一環として,OA化やFA化が進められている。
 OA化は,<1>-1-1-38図によると,これまで,ファクシミリ,パソコンの導入を中心に進められている。今後も,これに加えて,情報通信を重点的に活用するため,LANの導入によるOA機器のネットワーク化,各種情報資源の共有化及びマルチメディア間相互通信への取組に向けての検討が行われている(<1>-1-1-38図参照)。
 業種別にみると,単体としてのファクシミリ及びパソコンは,全業種にかなり普及している。また,LANの導入によるOA機器のネットワーク化は,卸・商社,小売業及び金融・保険業において導入の意向が比較的高い。
 FA化は,現在,NC工作機械,CAD・CAM,ロボット等の導入が進められている。さらに,生産システムと経営管理システムを統合する総合ネットワーク構築への取組が始まりつつある。
(データベースの活用状況)
 データベースの活用については,顧客,技術,商品情報等の自社内情報のデータベース化が中心となっている。また,業界内等の共同利用型データベースの構築・利用,自社内データベースの外部への提供及び外部の商用データベースは,現在あまり導入されていないが,今後活用するという意向がみられる(<1>-1-1-39図参照)。
 業種別にみると,自社内情報のデータベース化は全業種に活用されている。また,信用情報等を対象とした業界内の共同利用型データベースの構築が金融・保険業において,外部の商用データベースの利用が金融・保険業及び製造業において活用されている。
(ネットワークの構築状況)
 現在,過半数の企業が,自社内にネットワークを構築しており,今後もその構築の意向が高い。
 現在,取引先,企業等とを結ぶネットワークを既に構築している企業は約2割である。今後,この種のネットワークを構築する意向の企業は約半数である(<1>-1-1-40図参照)。
 業種別にみると,全般的には金融・保険業が先行している。さらに,取引先企業等とを結ぶネットワークの構築はほぼ全業種において,また,同業種企業等とを結ぶネットワークの構築が運輸業及び小売業において進んでいる。
 ウ 情報通信の進展が企業経営に与える効果
 情報化の進展は,今後,研究開発,生産,販売・マーケティング,グループ戦略,新規事業等の企業経営の様々な分野に影響を及ぼすことが予想される(<1>-1-1-41図参照)。
 エ 情報通信の活用に当たっての課題
 情報通信をより効果的に活用するに当たっては,人材,費用負担,標準化,安全性・信頼性等の様々な課題がある。とりわけ,経営センスを身につけた技術者の確保,ソフト開発・保守要員の確保,OA機器操作能力のある人材の確保といった人材に関する課題が多く指摘されている(<1>-1-1-42図参照)。
 オ 主要産業における情報通信活用の動向
 (ア)製造・流通分野
(製造業)
 製造業においては,情報通信を活用した生産システムの制御を図るため,NC工作機械,CAD・CAM,ロボット等を導入し,市場動向に対応した多品種少量生産体制に向けて情報通信の活用を進めている。
 このため,情報化は企業内の生産部門だけにとどまらず,生産部門と下請企業,流通部門と卸・小売業との間を結ぶ受発注業務を行うためのネットワークが構築されている。さらに,メーカーの物流部門と運輸業者の間等,外部とを結ぶネットワークの構築に向けての取組が開始されている。自社系列化の進んでいる部分について,物流業者に至るまでを一貫して結ぶネットワークを構築している例もある。また,同業種の製造業と卸売業が共同で利用するネットワークを構築していく動きが日用雑貨品業界や食品業界においてみられる。しかしながら,卸・小売業が他社製品や異業種の商品をも扱っている場合には,これらを結ぶネットワークがなかなか構築されない状況にある。
 また,加工組立部門を中心とした海外進出に伴い,国際的な情報通信ネットワークの構築が進んでいる。
(卸売業)
 EOS(Electronic Ordering System)による受発注及び在庫管理等,小口多頻度の納入ニーズに対応できる業務の効率化・高機能化が進められている。一部の卸売業では,EOS,POSデータ分析情報を活用し,小売店の支援,製造業への市場情報提供を行っている。
 また,地域性のある卸売業者が,中小卸売業同士,あるいは小売業と共同でこれらを結ぶ情報通信ネットワークを構築・活用し,共同配送システムの活用を軸としながら,ボランタリー・チェーン,フランチャイズ・チェーン等チェーン化して大規模化していく動きもみられる。
(小売業)
 大手,中堅の小売業を中心に,受発注,決済等の事務分野の効率化を図るとともに,POSデータの分析,顧客データベースの構築等により,商品企画・開発力,顧客ニーズへの対応力の強化を図っている。
 また,大規模店,量販店が,卸売業との間でこれらを結ぶネットワークを構築し,場合によっては製造業と直接にネットワークを構築する例もみられる。
 さらに,大手百貨店,スーパーマーケットにおいては,他業界との間を情報通信ネットワークで結び,これを活用して提携を深め,情報,サービス等の関連分野の総合サービスを提供し,店舗機能の高度化を目指すものが現れている。
(運輸業)
 大手を中心に,VANを利用した入出荷指示,貨物追跡管理等の総合物流管理,MCAシステムの活用による配車の効率化等を進め,流通分野からの多頻度多品種小口輸送や納期短縮のニーズへの対応が図られている。
 さらに,VAN等を活用して,受発注代行サービス,トータル物流情報サービス,無店舗販売支援サービス等の高度な輸送サービスの提供,新商品の開発等が行われている。
(倉庫業)
 大手を中心に,倉庫管理のためのシステムの導入により,在庫管理,入出庫管理の効率化等が図られ,荷主の流通ニーズに対応できる多頻度多品種小口出庫体制に向けての取組が進みつつある。一方,中小倉庫業者においては,ネットワークの共同利用により,全国規模の物流サービスの提供等,事業の共同化を進めている例もみられる。
 (イ)金融分野
(銀行業)
 40年代から50年代の第一次オンライン化及び第二次オンライン化は,預金,為替等の勘定系の業務の効率的処理を目的とするシステムの構築がその中心であった。現在,金融の自由化,国際化に対応するため,第三次オンライン化が推進されている。第三次オンライン化においては,従来の勘定系の業務の充実に加えて,顧客情報,経営情報等の各種情報の集計処理,ファームバンキング等外部に構築されているネットワークとの接続,海外支店との国際ネットワークの構築等の機能充実が目指されている。
(証券業)
 40年代から50年代の第一次オンライン化及び第二次オンライン化は,注文処理,顧客データの統括管理等の事務の合理化・効率化を目的とするシステムの構築が中心であった。現在,大手証券会社を中心に,第三次オンライン化が進められている。第三次オンライン化においては,急増する業務処理に対応した従来のシステムの見直し,投資情報等をオンラインで提供するための情報提供システムの充実及び業務処理シスデムとの統合,さらに,国際ネットワークの構築等の機能充実が目指されている。
 (ウ)サービス分野
(サービス分野全般)
 サービス分野全般としては,業務の主要機能の効率化,高付加価値化を目的とした情報通信の活用が行われている。
 また,顧客との間においては,個人向けサービスにおいてカードを利用した顧客ニーズ把握体制の形成への取組が多ぐみられる。現在のところ,事業所又は個人とを直接に結ぶネットワークを構築している例は少ない。
 さらに,飲食業等のチェーン店においてみられるように,本部とチェーン店等との間で組織内ネットワークを構築し,POS情報の分析結果等の経営情報の共有化の動きがみられる。
(労働者派遣事業)
 労働者派遣事業においては,情報通信の活用により,派遣要員管理等の内部事務を効率的かつきめ細かく実施することを図っているほか,派遣要員に対してそのニーズに合わせた業務情報の提供等によって就業機会の増加を図るなど,派遣要員の確保に努めている。
(旅行業)
 旅行業においては,鉄道,航空,宿泊施設等とを結んだVANの活用や,ビデオテックス等のニューメディアを活用した予約システムの提供等により,業務の効率化及び利用者の利便を図っていく動きがみられる。
(教育産業)
 ファクシミリ,パソコン通信を利用した通信教育や通信衛星を利用して授業を行うなどの動きがみられる。
(不動産業)
 業者間で物件情報を交換し,迅速かつ円滑な成約に結びつけるため,大手・中小業者を問わずレインズ(不動産流通標準情報システム)等情報システムの活用による物件情報の交換が広く行われている。

 

<1>-1-1-32図 供給情報量の10年間の変化

<1>-1-1-33図 消費情報量の10年間の変化

<1>-1-1-34表 情報関係支出の内訳(62年)

<1>-1-1-35表 昭和60年5部門情報通信産業連関表

<1>-1-1-36図 情報通信の活用目的

<1>-1-1-37図 情報通信の重点的活用

<1>-1-1-38図 OA化の状況

<1>-1-1-39図 データベースの活用状況

<1>-1-1-40図 ネットワークの構築状況

<1>-1-1-41図 情報通信の進展が企業経営に与える効果(各分野ごとの複数回答)

<1>-1-1-42図 情報通信の活用に当たっての課題(複数回答)

 

 

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