昭和63年版 通信白書

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1-3-4 地域の情報化推進のために

 地域の情報化を促進していくため,市区町村がどのような課題を抱えているのか,あるいは,どのような要望をもっているかについて概観し,併せて,地方公共団体の情報化の推進のために果たす役割と方策について述べる。

 (1)情報化の推進への課題

 情報化の推進に当たっての課題は,<2>-1-3-51図に示すように,[1]財源の確保,採算の確保等の経済的な課題,[2]人材の確保,システム運営体制の確立等のソフト面の課題,[3]情報ニーズの把握,情報提供者の確保等の情報の収集,提供に係る課題,[4]住民参加体制の確立,企業参加体制の確立といった体制の課題,に大別できる。
 これらの課題について,情報化事業の実施中,計画・構想中,未計画の別に分けて,市区町村がどのような課題を抱えているかをみる。
 ア 実施中の市区町村の課題
 実施中の市区町村については,情報ニーズの把握(45.3%)が最も高いほか,情報収集・更新,情報提供者の確保というものも高くなっている。財源の確保(37.6%),採算の確保は他の場合に比べ,相対的に低くなっている。実施中の市区町村の課題の特徴は,情報そのものについての課題の占めるウェイトが大きく,経済的な課題,あるいはソフト面の課題のウェイトが相対的に低くなっていることである。これは,実際にシステムが構築・運営されている段階にあっては,いかにニーズに即した有益な情報を迅速に提供するかが,情報化事業のかぎとなることを示すものである。
 具体的な例をみても,「端末の普及が思わしくない。」(金沢市),「高度の専門家が必要であるが,地方公共団体では人材の確保に一定の限界がある。」(岸和田市),「現在の情報提供者が情報提供の効果に疑問をもっている。」(岡山市)などとなっており,財源の問題よりもソフト面の問題,情報そのものの問題について,多くの課題を抱えていることが分かる。
 イ 計画・構想中の市区町村の課題
 計画・構想中の市区町村については,財源の確保(62.4%)が最も高く,次いで,システム運営体制の確立(43.0%),人材の確保(37.6%)となっている。計画・構想中というテイクオフの段階においては,財源の確保や採算の確保といった経済的な課題とシステム運営体制の確立,人材の確保といったソフト面の課題をクリアすることの重要性を示している。
 具体的な例をみると,「投資効果が疑問のため,財源確保が困難である。」(新潟市),「財源は確保したが,今後の採算性と人材(特にシステム・エンジニア)の確保が困難。」(高崎市)などのように,経済的な問題を中心として,課題が多岐にわたっている。
 ウ 未計画の市町村の課題
 未計画の市町村については,財源の確保(75.2%)が圧倒的に高く,次いで,採算の確保(45.9%)が他の場合に比べて著しく高く,経済的な課題が最も大きな壁となっている。

 (2)情報化事業に関する要望

 ア 郵政省に対する要望
 情報化事業への郵政省に対する要望(1〜5位について,ウェイトづけを行い算出した百分率)は,<2>-1-3-52図のとおりである。
 これによると,実施中の市区町村と,計画・構想中の市区町村及び未計画の市町村との間で,要望が大きく異なっている。
(実施中の市区町村の郵政省に対する要望)
 実施中の市区町村の郵政省に対する要望は,情報端末機器の普及促進や設置の支援が15.2%と最も高く,次いで,市内料金区域の拡大(10.6%)となっている。情報化を実際成功させるには,端末の普及という利用層の広がりが必要であること,情報化事業が同一市町村や近隣市町村と行われる例が多いので,市内料金区域の拡大による利用者負担やランニングコストの低減化が求められていることを示している。
 計画・構想中の市区町村については,まずシステムを構築し,ハード的な基盤を整備し面的拡大を図ることが急務であると考えられているため,情報端末機器の普及促進や設置の支援(13.9%)及び中核となる情報サービスセンターの設立支援(12.5%)のウェイトが高くなっている。
 未計画の市町村については,情報サービスセンターの設立支援(13.5%)及び広域ネットワークの構築援助(11.3%)のウェイトが高くなっており,まず基盤となる拠点やネットワークの整備を望んでいることを示している。
 イ 事業者に対する要望
 情報化事業への事業者(通信機器製造業者,ソフトウェア業者,情報処理業者,情報サービス業者等の民間の事業者)に対する要望(1〜5位について,ウェイトづけを行い算出した百分率)は,<2>-1-3-53図のとおりである。
 これによると,実施中の市区町村,計画・構想中の市区町村及び未計画の市町村の要望が,郵政省に対する要望と比べて,傾向が比較的似ている。
 しかし,各段階を通じて,利用者コスト負担に対する援助の要望が高くなっている。また,計画中の市区町村では,情報ソフト製作への支援,人材育成の整備というソフトや人材育成に対するものも高くなっている。これは,情報化を今後実現する上での,課題の解決に事業者が寄与することを求めているものといえよう。

 (3)情報化推進のための方策

 ア 積極的な役割が期待される地方公共団体
 地域の情報化を推進していくためには,情報化の必要性を強く認識し,広く地域住民や企業のニーズをくみあげ,全体をリードする推進役が不可欠である。この推進役を欠くと,情報化の促進が図られず,あるいは地域全体の円滑な発展につながらないおそれもある。この結果として,その地域が地盤沈下をきたし,格差が拡大してしまうことさえあり得る。
 地域のかなめであり,地域社会全体の経営者とでもいうべき地方公共団体は,このような地域の情報化の推進役として最もふさわしいといえよう。
 既に述べたように,地方公共団体は,自らが地域の情報化の積極的な役割を担うことについて高い意向を示している。また,情報産業関連企業の立地促進に関しても,高い意向を示している。地方公共団体により,関係者間の調整機能,地域ニーズの発掘,地域独自情報の創造をはじめとして,情報化の動機づけや啓蒙活動,情報化の対象分野の選定,推進体制作り等様々な局面で重要な役割を果たしており,今後も積極的な役割を果たすことが期待されている。
 しかしながら,情報化事業は,採算,人材,情報ソフトをはじめ,必ずしも容易に進むものではない。
 地域の事情に精通し,かつ地域の要請にこたえる地方公共団体が,このような課題に積極的に取り組み,情報化を進めることが,各地域の発展を図るために期待される。
 地域の情報化を進める上で重要なものとして,全国につながるネットワーク,当該地域の情報交流のためのネットワーク及び情報交流のための拠点づくりがある。地域の主体性の下に,国,地方公共団体,民間企業,住民等が一体となって,各々の実状に即して独自性を発揮することが,今後一層重要となる。
 郵政省としても,例えば,テレトピア計画の推進,テレコムプラザ,テレコム・リサーチパークの指定,民間テレビジョン放送の多局化,CATV網の整備促進等により,地域における情報通信網の整備,情報通信拠点の整備等,地域の情報化のための基盤整備を進めている。これらの施策は,地域の情報化を,いわば側面から支援するものである。
 イ 都市機能に応じた情報化の推進
 東京は,我が国の情報通信の中核であり,我が国の情報化を主導する存在である。また,国際化が進展する中で,東京は,単に我が国の首都としての役割のみならず,世界都市としての役割が高まり,世界的な情報通信の拠点となっている。
 情報化については,集積のメリットがあること,我が国の国際化が今後とも進展することにかんがみれば,その東京の都市機能を支えるためにも,我が国全体の情報通信の連結点としての効率化を高めるためにも,テレポートやマリネット等のハード面の整備やソフトの充実が必要である。
 情報化の進展は,都市機能の集積と密接な関係にあり,都市の規模,機能に応じた情報化を全面的に進めることが必要である。そして,地域における情報化の進展は,大阪,名古屋,札幌,福岡等の各地域ブロックの中枢機能を有し,かつ既に相当の都市機能を有している都市から,その周辺部や他の県庁所在地等の府県レベルでの中枢機能を有する都市及び小規模の市町村へと波及していくことが効果的であると考えられる。
 また,現に各地方公共団体等において進められているように,大都市,中都市,小規模の市町村が,面的な広がりをもって連携し,各々の機能を有機的に活用し,情報化事業を進めることも効果的である(<2>-1-3-54図参照)。
 ウ 地域の実状に応じた推進
 地域の実状やその抱える課題は,実に様々である。都市機能の集積の度合いも,情報通信関連産業の立地状況も経済構造もその地域ごとに異なっている。したがって,情報化の推進に当たっては,個別のニーズ,機能,規模に即して推進することが重要であり,その実状に応じて推進することが情報化のかぎである。
 東京には東京の,地方中枢・中核都市には中枢・中核都市の,町村には町村の,各々に必要とされる情報通信の役割なり基盤整備の在り方があり,情報化の促進方法がある。
 地域の情報化に当たっては,中核となる地方公共団体が,独自のポリシイに支えられた創造力に基づいて展開することが重要である。
 エ 地域間の連携と競争
 一部のテレトピア指定地域から,パソコン通信によるテレトピア都市間の経験交流が提言されている。
 情報化の推進に当たり,異なる地域間の連携を図ることは,各々の情報やノウハウを交換することにより,問題解決手法の発見,新たな視座の確保等につながり,各地方での効果的な情報化事業の推進につながり、有益である。
 同時に,各地域が自ら情報発信源となることにより,経済や文化の交流の促進を通して,産業や観光の発展に通じ,地域経済の発展にも資することが期待される。
 各地域で情報化事業が促進されるということは,換言すれば地域間で競争が進むということでもある。その場合も単に東京や他の大都市の例を見習うというだけでは,企業や住民をはじめとする経済主体を魅了することはできないであろう。また,各地域のニーズにこたえることにもつながらないであろう。
 この意味において,地域の情報化の促進にあっては,各地域の独自性やニーズを踏まえた展開が必要とされる。そのためには,地方公共団体をはじめとする関係者の一層の創意がかぎとなろう。

<2>-1-3-51図 情報化事業実施への課題(複数回答)

<2>-1-3-52図 情報化事業への郵政省に対する要望(順位付複数回答)

<2>-1-3-53図 情報化事業への事業者に対する要望(順位付複数回答)

<2>-1-3-54図 情報化の有機的連携

 

 

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