昭和63年版 通信白書

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2-2-3 企業の国際通信の利用動向

 我が国の国際通信は,電話の利用の約7割が企業の利用によるものといわれ,ファクシミリ,テレックス,専用回線等のユーザーもほぼ100%が企業であり,企業が我が国の国際通信の利用の中心となっている。
 ここでは,郵政省の調査(注4)に基づき,企業の国際通信の利用動向について分析する。
 なお,分析は,業種別,専用回線設置の有無,本邦企業・外資系企業の別に分類して行う。

 (1)国際通信に対する支出

 ア 総通信費
 企業の国際通信に対する支出(61年度の総通信費。海外事務所等の通信費を含む。)については,1社当たり8,400万円であった(<2>-2-2-18表参照)。
(業種別傾向)
 業種別では,製造業の平均支出は1社当たり4,400万円,非製造業は1社当たり1億6,000万円である。中でも,商社を中心とする商業等では貿易活動を中心に国際通信のネットワークを積極的に展開していること,金融業は近年の金融の国際化を反映していること,機械製造業は海外進出が進んでいることから,高い水準の支出となっている。
(専用回線の有無による傾向)
 専用回線設置企業と専用回線を設置していない企業(以下「非設置企業」という。)を比較すると,専用回線設置企業の平均支出額は,非設置企業の約15.2倍である。これは,専用回線設置企業は,恒常的に国際通信量が多いこと,それは単に専用回線の利用にとどまらず,公衆網まで含めた総合的な国際通信ネットワークを大幅に活用していることを示している。その中心を占めるのは,総合商社,大手外国為替銀行,総合証券,大手電気機械メーカ等である。これら国際通信の大ユーザーである専用回線設置企業は,専用回線をもたない中小ユーザーに比べて,桁違いの通信量を送受していることを示している。
 (本邦・外資系の別による傾向)
 本邦企業と外資系企業を比べると,本邦企業の平均支出は1億400万円であり,外資系企業の約3倍の支出となっている。これは,本邦企業が,自社の国際通信ネットワークの中心となっているのに対し,外資系企業は本国にネットワークの中心があり,自身はネットワークの一部であるため,本邦企業と比べると国際通信の規模が小さいからである。
 イ 国際電話に対する支出
 公衆網による電話(電話回線を使用したファクシミリ通信等を含む。)に対する支出は,1社当たり4,400万円であった(<2>-2-2-19表参照)。
(業種別傾向)
 製造業と非製造業の平均支出を比べると,総通信費ほどの大きな差はみられない。個別には,機械製造業,その他の製造業,金融業,商業等が高い。合計額でみると,電話については製造業のウエイトが高く,特に機械製造業は全体に対して30.3%を占めている。
 ウ 国際テレックスに対する支出
 公衆網によるテレックスに対する支出は1社当たり1,700万円であり,電話に対する平均支出の約3分の1である(<2>-2-2-20表参照)。
(業種別傾向)
 業種別では,1社当たりの支出については金融業が高い。機械製造業と金融業,商業等のそれぞれについて,電話に対する支出とテレックスに対する支出を比べると,機械製造業は,金融業,商業等に比べ,電話をよく利用しており,金融業,商業等はテレックスの利用が多いことが分かる(<2>-2-2-21図参照)。
 エ 国際公衆データ伝送に対する支出
 公衆データ伝送に対する1社当たりの支出は600万円であった。
(業種別傾向)
 業種別では,1社当たりの支出は機械製造業と商業等の支出が高く,それぞれ900万円,800万円である(<2>-2-2-22表参照)。
(専用回線の設置の有無にょる傾向)
 専用回線設置企業と非設置企業の1社当たりの支出を比較すると,他の通信サービスについては,いずれも専用回線設置企業の方が高い支出をしているのに対し,公衆データ伝送については,非設置企業の方が高くなっている。これは,専用回線設置企業がデータ通信を主として専用回線を通じて行っているためと考えられる。
(本邦外資系の別による傾向)
 本邦企業と外資系企業を比較すると,他の通信サービスと異なり,外資系企業の方が高い支出となっている。これは,日本の外資系企業の大半が本国としている米国で,日本よりパソコン通信が普及しているためである。
 オ 国際電報に対する支出
 電報に対する支出は,1社当たり500万円であった(<2>-2-2-23表参照)。
(業種別傾向)
 1社当たりの支出額を業種別でみると,金融業と商業等の非製造業が非常に高くなっている。特に,金融業の支出は高いが,これは銀行等が「取引の決済時に,ファクシミリやテレックスで送った内容を再度,電報で送って確実にしている。」(金融業A社),などの特殊な使い方をしているためである。
 カ 国際専用回線に対する支出
 専用回線に対する支出の平均は,1社当たり6,400万円であった(<2>-2-2-24表参照)。
(業種別傾向)
 1社当たりの支出額を業種別にみると,製造業は5,700万円,非製造業は6,700万円であった。
 これをそれぞれの合計額の全体に対する比率でみると,製造業は23.1%,非製造業は76.9%であり,電話に対する支出の場合と逆転している。製造業の利用は,公衆網による通信にウエイトがあり,非製造業の利用は,専用回線による通信にウエイトがあるといえよう。
 平均支出が最も高いのは,機械製造業の7,900万円であり,金融業,商業等が続いている。しかし,合計全体に対する比率では,金融業と商業がそれぞれ約4割を占めている。これは大手外国為替銀行や総合商社等が,専用回線により大量の情報交換を行っているためであり,この2つの業種が,専用回線の動向に大きな影響を与えているのが分かる。
 キ 国際郵便に対する支出
 郵便に対する支出は,1社当たり500万円であった(<2>-2-2-25表参照)。
 1社当たり支出額を業種別にみると,金融業と商業等が高い支出をしている。
 また,専用回線設置企業の平均支出額は,非設置企業の31.0倍であり,他の通信サービスよりも大きな格差がみられる。
 ク クーリエ等に対する支出
 国際宅配便事業者(以下「クーリエ」という。)等に対する支出の平均は1,400万円であり,国際郵便の約2.8倍であった(<2>-2-2-26表参照)。
 これは,「クーリエをよく使うのは,速くて正確であり,到着日が分かることである。このことは,入札をする場合はとても便利である。」(商業A社)などが理由と考えられる。
(業種別傾向)
 業種別では,金融業と商業等が1社当たりの支出が高い。また,国際郵便に対する支出では平均額の低かった機械製造業もクーリエに対しては高い支出を示している。

 (2)国際通信の地域別利用動向

 ここでは,国際通信の支出が高い,機械製造業,金融業,商業等の3業種を中心として,主たる通信相手先であるアジア,北米,欧州との通信サービス別の傾向を分析する。なお,ここでは電話とファクシミリは,それぞれ独立して扱う。
 ア アジア
 アジアとの企業通信の利用状況の特徴は,ファクシミリに次いで電話とテレックスの利用度(順位平均の値)が高く,それぞれの利用意向の高さが接近していることである(<2>-2-2-27図参照)。
 テレックスの利用度が他の州と比べて相対的に高いのは,アジアの電話回線網が北米や欧州に比べまだ充実していないためである。
 また,電話の利用度が高いのは,アジアが日本との時差が少なく,より電話が利用しやすいためであり,時差が国際通信の利用形態に大きな影響を与える例である。
 業種別では,機械製造業はファクシミリ,商業等は電話,金融業はテレックスの利用意向が高く,業種によってはっきり分かれている。
 イ 北 米
 北米との国際通信は,ファクシミリの利用度が非常に高いのが特徴である(<2>-2-2-28図参照)。
 これは,「米国との通信では,時差の関係で,夕方ファクシミリで用件を送っておけば,翌朝には,先方の返事が貰えて効率的に仕事ができる。」(機械製造業A社)といった効果的な通信をする企業が増加しているためである。
 また,北米では,テレックスの利用度が低いが,これは,北米においては,電話回線網が充実しているためと考えられる。
 業種別では,機械製造業は,ファクシミリに次いで,電話の利用意向が高く,金融業はファクシミリに次いで,テレックスの利用意向が高い。また,商業等はこれらのメディアに加えて,公衆データ伝送の利用度が高い。
 ウ 欧州
 欧州との国際通信は,最もよく利用されているファクシミリに次いで,テレックスの利用意向が高いのが特徴である(<2>-2-2-29図参照)。
 業種別にみると,機械製造業はファクシミリの利用度が高く,商業等は,ファクシミリより,テレックスの利用意向が高くなっている。
 エ 電話とファクシミリの利用度
 ここで,電話とファクシミリのそれぞれの利用度を比べると,どの州についても,電話よりファクシミリの利用意向が高い。過去5年間の通信サービス別の増加傾向においても,ファクシミリが6.73(順位平均の値)で最も高くなっており,次いで電話(同6.00)の順である。
 このことは,近年の電話の取扱数の増加は,主としてファクシミリ通信の増加によるものであることを示している。これは,「過去5年間で最も利用量が増加したのは,ファクシミリである。それは,安いファクシミリ端末が出回っていることと,ファクシミリを所有する企業が増えているためである。」(商業B社)というように,ファクシミリ端末の普及によるところが大きい。国際通信におけるファクシミリの利点は,時差に影響されずに利用でき,しかもテレックスと比べても,「ファクシミリの場合は,受け取った資料をそのまま送信できるので便利である。」(繊維業A社)というように,一般的にテレタイプに不慣れな日本人にとって,日本語の資料をそのまま送れるファクシミリの有用性は高い。
 また,ファクシミリは北米,欧州で利用意向が高く,電話はアジアの利用が高い。これは,アジアでは,まだファクシミリ端末が北米,欧州ほど普及しておらず,また日本との時差も少ないため,電話の方が利用意向が高いものと考えられる。しかし,「電話は証拠が残らないので,緊急の場合のみ使っている。通常はファクシミリの方がはるかに多く使う。」(機械製造業B社)というように,ファクシミリ端末の価格の低下,普及の進展に伴って,ファクシミリの通信量は引き続き増大していくものと考えられる。

 (3)公衆網による通信の増加理由

 公衆網による通信の増加理由としては,289社が「通信サービスの利用方法が便利になった」を挙げており,最も多い(<2>-2-2-30表参照)。
 ダイヤル通話の対地の拡張や通信料金の値下げが通信量の増加に大きな影響を与えているのが分かる。また,「社内ネットワークと海外がダイヤル通話で直接つながるようになり,非常に便利になった。これにより,通信量が3倍くらい増加した感じである。」(機械製造業C社)というように,自社への効率的な通信システムの導入により,国際通信の利便性を高めている企業もみられる。
 次に多い増加理由としては,「情報収集業務の増加」が挙げられている。これは非製造業で多く挙げられており,金融業,商業等にとって,国際間の情報交流が特に重要であることを示している。
 そのほか,「輸出入業務の増加」,「海外事業所数の増加」などが多く挙げられている。これらは,国際通信の増加と,企業の海外進出等の国際化の進展が密接な関係にあることを示すものである。
 業種別では,金融業は「金融業務の増加」,「情報収集業務の増加」に次いで,「海外事業所の増加」を多く挙げており,金融業の通信量の増加が,最近の金融業の国際化を一因としていることを裏付けている。

 (4)公衆網による通信の情報内容

 ここでは,企業が公衆網による通信によって送受している情報内容についてメディア別に分析する。
(電話)
 電話では,マーケティング情報(137社)が最も多く,次いで,顧客情報(93社),人事労務情報(84社)の順であった(<2>-2-2-31表参照)。顧客情報は機械製造業が多く,人事労務情報は金融業と商業等が多い。
(ファクシミリ)
 ファクシミリについても,最も多いのがマーケティング情報(363社)であり,受発注情報(294社),顧客情報(223社)の順で比率が高くなっている。受発注情報は,機械製造業と商業等に多く,金融業は,マーケティング情報の次に経理財務情報を挙げている。
(テレックス)
 テレックスで送受される情報では,受発注情報(178社)が最も多く,マーケティング情報(119社),顧客情報(95社)の順である。
 テレックスでの情報内容は,業種により特徴的であり,機械製造業は受発注情報,金融業は資金管理情報,商業等はマーケティング情報をそれぞれ第一に挙げている。
(郵便,クーリエ等)
 郵便,クーリエ等については,電気通信がマーケティング情報,顧客情報の伝達に主として用いられているのとは,異なる傾向を示している。
 郵便では,人事労務情報(118社)が最も多く,次いで研究開発情報(114社),経理財務情報(107社)の順である。また,クーリエ等では,研究開発情報(114社),経理財務情報(53社),経営管理情報(51社)が多く,一般的に分量の多い書類等による情報に用いられている。

<2>-2-2-18表 国際通信に対する支出(総通信費)

<2>-2-2-19表 国際電話に対する支出

<2>-2-2-20表 国際テレックスに対する支出

<2>-2-2-21図 機械製造業,金融業,商業等における電話とテレックスに対する支出の比率

<2>-2-2-22表 国際公衆データ伝送に対する支出

<2>-2-2-23表 国際電報に対する支出

<2>-2-2-24表 国際専用回線に対する支出

<2>-2-2-25表 国際郵便に対する支出

<2>-2-2-26表 クーリエ等に対する支出

<2>-2-2-27図 アジアにおける国際通信の利用度

<2>-2-2-28図 北米における国際通信の利用度

<2>-2-2-29図 欧州における国際通信の利用度

<2>-2-2-30表 公衆網による通信の増加理由

<2>-2-2-31表 公衆網による通信の情報内容

 

 

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