昭和63年版 通信白書

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1-2-1 地域経済と通信

 ここでは,分析可能で地域バランスを考慮した10道府県及び地域ブロックにおいて,通信とそれぞれの地域経済との関係を分析する。合わせて,県民経済での運輸・通信業の動向についてみる。

 (1)道府県別の分析

 ここでは,使用可能な直近のデータとして55年道府県別産業連関表を用い,産業連関表の基本分類のうち「郵便」,「国内電信電話」,「国際電信電話」,「その他の通信サービス」が統合されている通信部門を取り上げた。道府県別の分析対象として,ここでは北海道,岩手,千葉,神奈川,新潟,愛知,大阪,岡山,徳島及び大分の10道府県を取り上げた。対象道府県の産業構造は,<2>-1-2-1表のとおりである。
 ア 各道府県における通信
 我が国の通信部門の総生産額に占める各道府県の比率と,当該道府県の全生産額が我が国の総生産額に占める占率との関係を示すと,<2>-1-2-2図のとおりである。全国の総生産額に占める当該道府県生産額の割合よりも,全国の通信部門総生産額に占める当該道府県の通信部門生産額の割合が高いのは,大阪,北海道,岩手の3道府県で,特に,大阪が高くなっている。この3道府県に共通することは,総生産額に占める第3次産業の割合が全国平均よりも高く,第2次産業の割合が全国平均よりも低いことである。また,通信部門生産額と,第2次産業及び第3次産業の生産額の相対比との関係を示すと,<2>-1-2-3図のとおりである。大阪を除いて他の道県は,ほぼ直線上に位置しており,第2次産業に対し第3次産業の割合が高いほど,通信部門の総生産額に占める割合が大きくなることが分かる。これは,通信部門の生産が第3次産業に依存するところが大きいことを示している。大阪及び全国平均が直線上よりも高い位置にあるのは,大阪及び東京が大都市圏の通信需要の中心として高いウェイトを有しており,その結果として,全国平均が上方へシフトしているためと考えられる。
 イ 各地域における通信利用
 各地域における産業分野等における通信の利用について分析する。
 (道府県別の通信需要)
 通信部門の産出構造を利用して,道府県別の通信需要を分析する。道府県別にみた通信の需要先は,<2>-1-2-4表のとおりである。通信部門の需要構造をみると,全国ベースでは産業部門(内生部門)が71.3%,民間消費等の最終需要部門が28.7%である。産業部門の計を100%とした場合,通信部門の需要先は,全国ベースでは第3次産業が72.6%,第2次産業が26.4%,第1次産業が1.0%を占めている。この需要比率を産業構造比率で除した数値をみると,全国ベースでは第1次産業が0.31,第2次産業が0.53,第3次産業が1.20であり,通信部門が第3次産業と密接な関係にあることを示している。道府県別にみると,岩手及び大阪は全産業部門で全国ベースを上回っており,この2府県の産業は財及びサービスを生産する際に全国平均より多くの通信を利用しているのが分かる。また,道府県別の需要先の特徴的なこととして,千葉及び神奈川の輸移入の水準の高さが挙げられる。これは,東京という巨大な大都市の後背地として,通信分野において両県が,大きく東京に依存していることを示すものである。
 (各産業の生産額に占める通信の割合)
 各産業の生産額に占める通信の割合についてみると,全国ベースでは第1次産業が0.22%、第2次産業が0.38%,第3次産業が0.86%であった。地域別にみると,第1次産業では大阪,神奈川等,第2次産業では大阪及び神奈川,第3次産業では大阪及び北海道が全国ベースよりも高い比率を占めている。また,大阪に関しては各産業とも生産額に占める通信の利用が全国ベースよりも高く,通信が各産業で広く利用されていることが分かる。逆に岡山は各産業とも生産額に占める通信の利用が全国ベースよりも低くなっている。
 ウ 通信部門の生産誘発効果
 道府県別にみた通信部門の生産誘発効果及び生産誘発額は,<2>-1-2-5図のとおりである。各道府県別にみると,北海道の1.32から大分の1.13にまで分布している。各道府県の投入構造の差異を反映し,生産誘発効果にもかなりのばらつきがみられる。55年の通信部門の生産額は4兆8,993億円であり,生産誘発効果1.37により,全国の生産誘発額は,1兆8,127億円であった。道府県別にみると,最も多い大阪では1,170億円,最も少ない徳島で44億円であった。

 (2)地域ブロック別の分析

 ここでは,利用可能な直近のデータとして,55年地域間競争移入型産業連関表を用いて地域ブロックごとの通信の利用について分析するとともに,特に通信部門の地域間の移出入についてみる。
 ア 各地域ブロックにおける通信部門の地位
 各地域ブロックにおける通信部門の生産額や全国に占める比率は,<2>-1-2-6表のとおりである。全国の通信部門の総生産額のうち各地域ブロックが占める割合は,関東が42.39%,次いで近畿が18.45%,中部が8.88%である。これと,各地域ブロックの総生産額の全国に占める割合と比較してみると,おおむね対応している。しかし,中部ブロックについては,総生産額では全国の12.45%を占めていたものが,通信部門の生産額では全国の8.88%と著しく低い値となっている。これは,先の道府県別の分析でみたように,愛知の通信部門生産額の総生産額に占める割合が低いこと,通信部門が第3次産業に対する依存度が高いのに,中部ブロックでは,第3次産業の比率が低いことなどによる。
 イ 通信部門の産出構造
 各地域ブロックの通信部門の産出構造をみると,産出比率が最も高いのは各地域ブロックとも第3次産業,次いで民間消費支出であった。通信部門の生産額と通信部門産出額に占める第3次産業のシェアの関係は,<2>-1-2-7図のとおりである。通信部門産出額に占める第3次産業のシェアが高いほど,総生産額に占める通信部門の生産額の割合がおおむね高くなっており,通信産業の第3次産業への依存度の高さをここで示している。通信部門の第3次産業への産出先のうち,最も産出比率が高いのは,商業で,次いでサービス業,金融・保険の順となっている。ただし,四国及び沖縄では商業よりもサービス業への産出比率のほうが高くなっている。
 ウ 各地域ブロックの相互関連
 通信はコミュニケーションの手段であり各地域ブロック内で閉鎖的に活動が終わるものではなく,他の地域ブロックとの間にかなり大きい移出入がある。この移出先,移入元の構造は,各地域ブロック間の関係を通信活動の面から示すものといえる。通信部門の特徴として,移出入とも関東との関係が顕著であることが挙げられる。
 (通信部門の移出先)
 地域ブロックの通信部門の移出総額に占める移出先のウェイトは,<2>-1-2-8図のとおりである。関東への移出額が移出総額の5割を超えているのは,九州,北海道,東北及び中国であり,移出先が関東に集中していることが分かる。このことは,通信を通じてみた場合には,関東,特にその中核の東京が全国の情報のコントロールタワーとしての役割を果たしていることを示しているものである。例外的に移出先として関東より他の地域ブロックの方が上回っているのは,近畿の中国への移出のみである。関東の移出先としては,近畿への移出が25.0%と最も多いが,東北,九州,中部及び中国への移出も10%を超えており,移出先は各ブロックに分散されており,関東,特に東京の全国拠点としての性格を示している。
 (通信部門の移入元)
 各地域ブロックの通信部門の移入総額に占める移入元のウェイトは,<2>-1-2-9図のとおりである。各地域ブロックの移入総額の中で最もウェイトの高い相手地域ブロックは関東であり,最も低い沖縄でも57.5%を占め,最も高い四国では94.0%にもなっている。

 (3)地域における運輸・通信業

 ここでは,運輸・通信業の総生産額の地域別の状況について,県民経済計算年報(経済企画庁)を利用して分析ずる。
 ア 都道府県における運輸・通信業
 50年度,55年度及び60年度の都道府県別県内総生産額と運輸・通信業県内総生産額は,<2>-1-2-10表のとおりである。50年度から60年度までの各都道府県における県内総生産額の伸びと運輸・通信業県内総生産額の伸びをみると,全国平均では前者が2.10倍,後者が2.11倍とほぼ同一である。60年度の国内総生産額に占める県内総生産額の割合が高い地域は,東京(17.16%),大阪(8.67%)等であった。また,関東については各都県とも50年度のシェアに比べて60年度のシェアの方が高くなっている。運輸・通信業についてみると,東京が23.60%,大阪が7.99%等となっている。都道府県別にみると,運輸・通信業の伸びが高かったのは,千葉の3.58倍,埼玉の3.12倍等であった。県内総生産額と運輸・通信業県内総生産額の伸びの全国平均よりも高く,かつ,県内総生産額の伸びよりも運輸・通信業県内総生産額の伸びのほうが高かった都道府県は,山形,茨城,栃木,群馬,埼玉,千葉,福井,長野,奈良,鹿児島であり,そのうち5県は関東の県であった。関東は県内総生産額が伸びているばかりでなく,それ以上の割合で運輸・通信業総生産額が伸びているのが分かる。地域ごとの分散を変動係数でみると,運輸・通信業は約1.7で,総生産額の1.3を上回っている。これは,人,物,情報の流れという社会・経済のネットワークに当たる部門の集中の強さを示している。
 イ 政令指定都市における運輸・通信業
 60年度の政令指定都市における市内総生産額と運輸・通信業市内総生産額は,<2>-1-2-11図のとおりである。政令指定都市が所属する道府県における,県内総生産額及び運輸・通信業県内総生産額に占める政令指定都市の市内総生産額及び運輸・通信業市内総生産額の割合は,各都市とも高い比率を占めている。しかし,政令指定都市の中でも,都市機能の性格によって生産額の集中度に差があることが分かる。60年度の同一県内にある川崎市と横浜市とを比較すると,市内総生産額の県内総生産額に占める割合では,横浜市は川崎市の1.90倍であるが,運輸・通信業の総生産額でみると,横浜市は川崎市の3.56倍となっており,運輸・通信業においては横浜市のほうが生産額がより集中しているのが分かる。同じく,同一県内にある北九州市と福岡市とを比較すると,市内総生産額の県内総生産額に占める割合では,福岡市は北九州市の1.29倍であるが,運輸・通信業の総生産額でみると,福岡市は北九州市の1.54倍となっており,運輸・通信業においては福岡市のほうが生産額がより集中しているのが分かる。ここに共通することは,横浜市と福岡市が県庁所在都市という行政,商業,金融のウェイトが高く,情報発信の中心地であること,川崎,北九州市は工業都市であることである。運輸・通信業はこのような情報の集積点,ネットワークの拠点に集中することが分かる。

<2>-1-2-1表 道府県別産業構造(55年)

<2>-1-2-2図 道府県別通信部門の地位(55年)

<2>-1-2-3図 通信部門生産額と第3次産業生産額との関係(55年)

<2>-1-2-4表 通信部門の需要構造(55年)

<2>-1-2-5図 道府県別通信部門の生産誘発効果と生産誘発額(55年)

<2>-1-2-6表 地域ブロック別通信部門の地位(55年)

<2>-1-2-7図 通信部門生産額と第3次産業(55年)

<2>-1-2-8図 各地域ブロックの通信部門の移出先(移出総額に占めるウェイトが10%以上)(55年)

<2>-1-2-9図 各地域ブロックの通信部門の移入元(移入総額に占めるウェイトが10%以上)(55年)

<2>-1-2-10表 都道府県別県内総生産額

<2>-1-2-11図 60年度政令指定都市別市内総生産額

 

 

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