昭和63年版 通信白書

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2-1-2 電気通信に関する諸外国の動き

 電気通信分野への自由化の導入やその検討は,我が国に限らず,諸外国においてもみられる。特に,最近ではISDN時代を展望した電気通信の役割と通信網の在り方等が主要な検討の対象となっている。同時に,電気通信事業を戦略的産業として位置づけ,その育成を図る動きも著しい。
 また,電気通信に関する各国の制度や政策は,その国の歴史的背景や特有の環境の中で形成されるので,各国の現状や制度自体を個別に分析する必要がある。
 ここでは,我が国の主要な通信相手国における電気通信政策の動向について記述する。

 (1)米国の動向

 ア 概 況
 米国の電気通信事業は,当初からほぼ一貫して民間企業により運営されてきた。
 電気通信分野では,1960年代に至るまで競争の結果成立した自然独占が受認され,AT&T等による寡占状態が形成されていた。
 電気通信事業は,このガリバー型寡占の弊害を防止する目的で,公正な料金での良質なサービスの提供及び他の事業者の競争阻害の防止等を目的とした規制が行われた。
 その後,電気通信とコンピュータ利用との融合が進展するに伴い,FCC(連邦通信委員会)が中心となって推進したコンピュータ調査,司法省及び裁判所が推進した反トラスト訴訟の帰結としての修正同意審決等により,AT&Tの分割等が行われ,米国は,公正かつ有効な競争を推進した国の一つとなっている。
 イ 主要な動き
(1982年修正同意審決の見直し)
 司法省がAT&Tに対して提起していた反トラスト訴訟は,1982年,修正同意審決という形で決着した。
 この結果,AT&Tの通信事業部門は,AT&T-C(長距離通信会社)及び22のBOC(ベル系電話会社)に分割された。これにより,従来,ベルシステムと呼ばれていた垂直体制は解体したが,AT&Tは,その代償として分離子会社による高度サービス等への進出が認められた。
 また,BOCは,長距離通話の提供,通信機器の製造及び情報サービスの提供が禁止され,LATA(Local Access and Transport Area)内のサービスのみを提供できることとされた。
 その後,1987年の同意審決の見直し時に,司法省はBOCに課した業務制限措置の大幅な緩和の勧告をワシントンD.C.連邦地裁に行ったが,同地裁は,勧告とは大幅に相違した内容の判決を下した。
 その内容は,非電気通信事業への進出,情報サービスに関する規制の一部緩和以外は,BOCに課している制限を維持するというものであった。特に国際通信,長距離通信への進出については,BOCが市内通信分野で独占的支配を維持しており,この独占力を背景に反競争的な行為を行うおそれがあることを理由に,禁止を継続することとされた。
(第3次コンピュータ調査裁定)
 FCCは,1980年に採択した第2次コンピュータ調査裁定において,電気通信サービスを基本サービスと高度サービスに分類し,高度サービス分野を非規制化した。同時に,AT&T及びBOCは,その分離子会社によって高度サービスの提供を認められることとなった。
 その後,FCCは,AT&T及びBOCに課していた分離子会社要件に係るコスト等が両者の競争力を低下させているという主張を勘案し,これに代わる反競争的行動の抑止条件として,新たにONA(オープン・ネットワーク・アーキテクチャー)等の設定を目的とした裁定を行った。
 これは,AT&T及びBOCが自ら高度サービスを提供する場合と他の高度サービス提供事業者が両者の提供する基本ネットワークへ接続する場合との接続条件を平等にするため,高度サービス提供事業者が基本サービス部分を借用する条件を公開することを義務付けたものである。
 これにより,AT&T及びBOCは,高度サービス提供事業者に対して平等な相互接続を行うことを条件に,直接,高度サービスを提供することが可能となった。
(第2次コンピュータ調査裁定の国際適用)
 第2次コンピュータ調査裁定の国際適用を検討してきたFCCは,1986年5月,以下の裁定を採択した。
[1] 国際公衆通信サービスを提供する高度サービス提供事業者に対してRPOA(認められた私企業)の資格を付与する。
[2] 海底ケーブルに空き容量を所有する国際通信事業者が高度サービス事業者及び国際通信サービス利用者へIRU(破棄し得ない使用権)を譲渡することを認める。
[3] データ網識別コード(DNIC)の不足に対処するため,その割当に共有方式を採用する。
 このような政策決定を踏まえて,米国は,国際VANに関する二国間協議を進め,我が国及びカナダとの間で国際VANの提供に関する合意が成立し,さらに現在,英国とも協議を行っている。
 ウ 米国の政策の特徴
 米国における規制は,支配的事業者であるAT&T及びBOCに法の規定による規制を課しているのに対して,競争事業者には,FCCが規制権限を留保しつつ,緩やかな規制を課しているという特徴がある。
 これは,AT&T及びBOCが,強大な市場シェア,あるいは独占市場を有しているため,競争を阻害することを予防するための措置である。

 (2)英国の動向

 ア 概 況
 英国では,1950年に電気通信事業が郵政省に一元化されて以来,1969年に事業の公社化は行われたものの,郵便と電気通信の一元的な運営体制が維持されていた。
 1979年以降,英国の電気通信分野では,自由化と競争体制の導入,さらには,それに伴う産業育成と国際競争力の強化を目的とする政策が次々に打ち出された。特に,英国電気通信公社(BT)の民営化とマーキュリーの新規参入及び付加価値サービスの一般免許の公布により,英国の電気通信の自由化は大きく前進した。
 英国の電気通信政策の特徴としては,事業の実施主体を2社に限定していること,市内,市外及び国際の全ての分野で競争の実現を指向していること,BTとマーキュリーに対する規制に差が設けられていることなどが挙げられる。
 イ 主要な動向
(1981年英国電気通信公社法)
 1981年,電気通信の自由化を推進するため,以下を内容とする電気通信公社法が成立し,長期にわたった電気通信の一元的運営体制は,事実上,終了した。
[1] 郵便事業と電気通信事業の分離によるBTの設立
[2] マーキュリーへの免許付与
[3] 電話応答サービス,プロトコル変換,ビデオテックス等のVANサービスを自由化するための一般免許の公布
[4] 公衆網へ接続する宅内機器の段階的な自由化
(1984年電気通信法の成立)
 政府は,自由化の一層の促進と国家財政の立て直しを目的として,公社形態であるBTの民営化等を図り,1984年電気通信法を公布した。
 その主な内容は,BTを株式会社とし,政府が保有する株式の51%を売却すること及び電気通信の規制・監督機関として電気通信庁(OFTEL)を設置することであった。
 また,法案の審議の過程で政府は,[1]1990年までは基本電気通信事業者を2社に限定すること,[2]1989年までは通信回線の単純再販売を禁止すること,[3]国際専用回線の利用についてはCCITTの勧告を遵守することなどの重要な基本方針を表明した。
 この法改正と基本方針により,英国の新しい制度的枠組みが作られ,現在に至っている。
(付加価値・データサービス免許の動向)
 英国政府は,1987年4月,「付加価値及びデータサービスに関するクラス免許」を実施した。
 この中で,国際専用線の単純再販売は禁止したが,VAN事業者が番号案内サービス,付加価値サービス及び英国と他の国の電気通信主管庁との国際協定に基づき,貿易産業大臣がこの免許のために定めるサービス等を提供することが認められた。
(今後の課題)
 今までの自由化の議論のなかで,現在の制度について再検討が約束されている課題は,以下のとおりである。
[1] 回線の単純再販売禁止の見直し
 通信回線の単純再販売の禁止は,1989年7月までとされており,その後,制限の在り方について議論される。
[2] 2社独占政策の見直し
 1990年11月までは,全国的な基本通信事業者をBTとマーキュリーの2社に限定する政策を取っている。この目的は,BTに対する有効な競争を確保するため,新規参入のマーキュリーの企業基盤を確立することにあった。
 今後,マーキュリーの経営状況等を勘案して,政策の見直しが図られる。
[3] BTの提供するサービスに対する利用者の不満
 OFTELの年次報告書によれば,BTのサービスに対する苦情が大幅に増加しており,全体的にみて,民営化後もそのサービスの向上は行われていないという判断を下され,大きな課題となっている。
[4] BTに対する料金規制方式の見直し
 BTについての現行の料金規制方式は,1989年7月までとされており,OFTELは,その規制方式の見直し手続きを進めている。

 (3)EC加盟諸国の動向

 ア 全体的動向
 国家又は公企業による独占を前提とする電気通信事業を営んできたEC諸国は,前述の英国以外においても,電気通信政策の見直しの動きが顕著である。
 EC諸国について,その全体的な傾向を概観すると,電気通信の基盤となる設備の構築と基本サービスの提供については,国の責任分野であるとの認識がほぼ各国共通にみられる。
 一方,体制面では,郵電分離,通信事業体の形態(公社化,民営化又はその他の自立性付与)等について見直しが行われようとしている。また,サービス提供面では,専用線利用の規制緩和,VANサービス提供の自由化,端末機器提供の独占の縮小等が進められている。
 このような各国の動向をうけて,欧州共同体委員会(EC委員会)においても,「電気通信サービス・機器のための共同市場の発展に関するグリーン・ペーパー」(以下「グリーン・ペーパー」という。)が採択された。
 イ グリーン・ペーパー
(提言の要点)
 グリーン・ペーパーでは,「EC域内における強力な電気通信インフラストラクチャ及び効率的サービス発展のための基本的提案」として,サービスと端末機器の国境を越えた提供やEC全域の技術標準と規制緩和に焦点を合わせて,概要,以下の内容を提言している。
[1] 電気通信主管庁と新しいサービス提供者との間における実効性のある競争を確保するために,電気通信主管庁の規制機能と運営機能の分離を明定すること
[2] 基本サービス提供についての電気通信主管庁の独占的権利を容認すること
[3] EC域内において,電話サービスを除く全ての電気通信サービスの自由な提供を認めること
[4] 全ての端末機器について自由な市場を創出すること
[5] 全ての電気通信主管庁は,国際電気通信サービス提供者との接続を認めること
[6] 競争市場にとって不可欠な標準ならびに技術仕様の作成のため,新しい欧州電気通信標準協会を設立すること
[7] 競争サービスに対する内部相互補助を防止するため,電気通信主管庁による営利的サービス,私企業が提供するサービスについても厳格な審査を行うこと
 ウ 今後の課題
 グリーン・ペーパーは,ECにおいて提言の権限しか与えられていないEC委員会によって採択された予備的性格のものであり,この提言が直ちにEC全体の電気通信政策となるものではない。
 今後は,加盟各国間の実状を踏まえ,加盟国間の利害を調整していくことが大きな課題とされている。

 (4)西独の動向

 ア 概 況
 西独では憲法により,郵便及び電気通信事業は連邦政府の独占とされ,郵電分野に関する立法は連邦の専管事項であること,郵電事業の管理運営は連邦固有の行政としてブンデスポストで行われることが規定されている。
 ブンデスポストによる郵電事業の経営上の特徴としては,郵電一体による内部相互補助,公的独占による公共経済的責務,国庫補助を排除した独立採算制等がある。
 しかしながら,近年の急速な技術革新の進展,国際電気通信市場での世界的な激しい競争等により,ブンデスポストの経営の在り方が競争力のある電気通信料金の設定の阻害,電気通信市場の需要抑制,情報通信市場の成長の阻害等を引き起こしているという意見が出されてきた。
 このような状況に鑑み,政府は電気通信制度政府諮問委員会(以下「諮問委員会」という。)を設置し,1987年9月,電気通信制度の改革に関する答申を得た。
 郵電省では,この答申をもとに,1988年3月,電気通信改革草案を発表した。
 イ 電気通信改革草案の主要な内容
 電気通信改革草案の主要な柱は,監督主体と経営主体の分離,郵便事業と電気通信事業の分離及び電気通信市場での競争の拡大の3点である。
 (ア)監督主体と経営主体の分離
 従来,郵電大臣が一元的に負っていた郵電省における行政責任とブンデスポストにおける経営責任とを分離する。
 電気通信事業の経営組織体であるテレコム等は,経営の合理性に基づく行動が可能となるが,予算及び事業計画は,郵電大臣による認可を取得しなければならない。
 (イ)ブンデスポストの3事業体への分離
 ブンデスポストを3事業体に分離することにより,各事業の相対的自立化を図り,ブンデスポストによるインフラストラクチャの供給の維持と競争市場への対応能力の強化を図る(<2>-2-1-3図参照)。
 (ウ)電気通信市場での競争の拡大
 電気通信市場における独占と競争の構造調整を競争拡大の方向で進めるが,ネットワーク,サービス,端末機器の3分野において,独占と競争の関係は異なる形態が選択される(<2>-2-1-4図参照)。
[1] ネットワークの問題に関しては,電気通信インフラストラクチャに対する責任を維持するために,テレコムが独占的に設置,運営する。
[2] サービスの提供の問題に関しては,民間事業者は,テレコムから回線を借り,電話サービスを除くあらゆる種類の基本サービス及び付加価値サービスを提供することができる。また,競争原理導入の水準の違いに応じて,独占サービス(電話サービスのみ),責務サービス(例えば電報サービスのようにテレコムに提供義務を課されるが,民間の参入は自由であるサービス)及び自由参入サービス(届出等のいかなる規制も行われないサービス)の3つのカテゴリーに分けられる。
[3] 端末機器の問題に関しては,規制のない競争が支配し,従来の本電話機の独占も撤廃されるが,テレコムは当面,製造分野へは進出しない。
 ウ 今後の動向
 今後,この電気通信改革草案は,1989年1月の発効を目指して,関係省庁との調整,各州との協議を経て,閣議決定後,連邦議会に提出される予定である。

 (5)フランスの動向

 ア 概 況
 フランスの電気通信事業は,郵電省の独占下で提供されてきた。
 フランスの電気通信サービスは,1970年代初めまでは先進諸国に比べて,電話普及率の低さ,高い故障率等から十分ではなかった。
 これに対して政府は,第7次国家計画(1975〜1979年)において,電話網の拡充に重点をおいて多額の設備投資を行い,電話サービスは飛躍的に向上した。その後も,ビデオテックス,電子電話帳,通信衛星テレコム1の開発・商用化等を含むテレマティーク計画を実施するとともに,電話網のディジタル化を推進し,電気通信設備の充実に力を注いできた。
 また,近年における我が国,米国,英国等に代表される電気通信分野への競争導入等の動向,国際電気通信分野での世界的競争の激化による国際通信料の値下げの必要性等から電気通信政策の見直しが進められている。
 イ 主要な動向
(通信の自由に関する法律)
 1986年,通信の自由に関する法律により,電気通信と放送に対する独立した規制機関として,「コミュニケーションと自由に関する国家委員会」(CNCL)が設立された。
 また,同法により電気通信競争法を制定し,電気通信自由化の枠組みを作ることとされた。
(電気通信競争法の草案の内容)
 郵電省は,1987年9月,電気通信競争法の草案を発表し,CNCLに諮問した。
 その主な内容は,以下のとおりである。
[1] 電気通信サービスを伝送される通信内容に処理を加えない「基本電気通信サービス」と「その他のサービス」に分け,前者を規制サービスとし,後者を完全自由化する。前者には電話,テレックス,パケット交換・回線交換データ伝送サービス及び専用線を含む。
[2] 規制・監督・許可権限をCNCLに与え,電気通信事業の規制と運営を分離する。
[3] 電気通信総局は,1992年末までに全額国の出資になる電気通信国有会社等へ改組される。
[4] 端末機器の認定,標準化の設定は従来どおり郵電省が行い,独立機関を設置しない。
 ウ 今後の動向
 フランスにおける電気通信分野への競争原理の導入,電気通信総局の経営形態の変更等については,現在,各方面で様々な検討がなされている。

 (6)主要国の電気通信政策の特徴

 世界の電気通信分野は,自由化の大きな潮流の中にあるが,各国の取る政策は,それぞれの歴史的な事業運営や制度の相違により異なっている。
(基幹通信網等の競争と独占)
 基幹通信網や基本サービスに関する政策は,我が国,英国及び米国のように競争を導入する国と欧州諸国のように独占を維持する国とに二分されている。
 また,電気通信サービスを基本サービスと高度サービスに分類し,規制政策を構築する方法を採用する国の代表は米国である。
 この方法は,両サービスの境界の不明確さがあると同時に,ISDN時代においては,サービスによる分類が困難になるという限界がある。
 一方,わが国のように電気通信回線設備の所有と非所有で通信事業を分類する規制政策があり,カナダもこの政策の採用を表明している。
(地域分割)
 我が国及び英国では,それぞれ公社の民営化に際して,地域分割の是非が論議されたが,結局,単一事業体のまま民営化された。一方,米国においては,AT&Tの分割により有効な競争状態の創出を目指した。
 米国では長距離通信事業者間の公正競争を確保するため,分割後のBOCに対して,イコール・アクセスを義務付けた。
 これは,AT&Tの利用者とその他の競争通信事業者の利用者では,ダイヤルの桁数が異なっていたため,BOCに対して両者の桁数を同一とするように交換機の改造を義務付けたものである。
 また,MCI等の新規参入事業者がBOCに対して支払う接続料金は,AT&Tとの相互接続条件が同等でないという理由で,AT&Tより安いものとなった。その後のイコール・アクセスの進展により,AT&Tと新規参入事業者が支払う接続料金には,差がなくなってきている。また,電話加入者にもアクセス・チャージを課すことが決定された。
 一方,英国では,BT・マーキュリー間における電話通信網の相互接続問題について,マーキュリーから一部接続に関する制限の解除についての要望が出された。これに対して,OFTELは,両者の網を無条件で相互接続すること,利用者のルート指定の便宜を図ること,コストベースによる接続料金とすることなどの裁定を下した。
 我が国では,NTTが長距離と市内の両方のサービスを提供するため,NTTと新事業者との間の公正かつ有効な競争が行われるよう,NTTと新事業者との接続に関する問題等については,適切に対処する必要がある。

<2>-2-1-3図 ブンデスポストの組織構造案

<2>-2-1-4図 西独の新しい電気通信市場の構造案

 

 

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