昭和56年版 通信白書

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3 防災無線網の整備

(1)中央防災用無線
 中央防災用無線は,国土庁が53年度から整備を進めているものであって,中央における指定行政機関及び指定公共機関等を結んで,災害が発生した場合には迅速かつ的確に災害情報を収集伝達するほか,平常時はこれらの機関相互における災害関係事務の調整等に利用される。
 現在までに,国土庁,内閣官房(総理官邸),警察庁,気象庁,郵政省,建設省,消防庁等17省庁間を結ぶ無線網が整備されており,電話及びファクシミリ通信による連絡に使用されている。
(2)消防防災用無線
 消防庁と都道府県庁を結ぶ消防防災用無線は,後述の建設省の水防道路用無線施設の一部を共用しており,現在,全都道府県との間で運用されている。
 消防防災用無線については,大規模地震対策等災害全般にわたる必要な情報の伝送媒体としての重要性を考慮し,消防庁において設備の強化を順次実施してきた。54年度には従来からの電話機のほかファクシミリ装置を併設し,災害情報のより的確な収集伝達を図った。さらに55年度においては,従来,地方建設局の中継交換機を経由してその方面のいくつかの都道府県と結ぶという構成としていたが,全都道府県との間を直通化し,災害情報の一斉伝達等の機能強化を図った。
(3)防災行政用無線
 防災行政用無線には,都道府県が開設するもの,政令指定都市が開設するもの及び市町村が開設するものがある。いずれも,防災関係事務に利用するのみならず,平常時には一般行政事務に利用することが認められている。
 防災行政用無線は,45年に都道府県に対して防災行政用無線局の開設が免許されたことに始まる。45年以前において都道府県が開設する無線局は,水防,消防,行政等というようにそれぞれの部門別に開設され運用されていたので,これらの関係機関が総合的かつ一体的に活動しなければならない災害対策に当たっては不便な点が多く,また,電波の有効利用の面からも好ましくなかった。
 43年5月の十勝沖地震を契機としてより機能的な防災体制確立の要請が強まってきたので,45年3月,郵政省では,都道府県が開設する無線局を一元化し,防災行政用無線局として免許していくこととした。その後,47年7月に集中豪雨・台風等の被害が全国各地で相次いで発生し,この際における情報収集・情報伝達の不備が強く指摘される事態となって,翌48年度以降,都道府県防災行政用無線局の整備事業に対し消防庁による国庫補助が行われることとなった。
 更に,51年10月には,政令指定都市について防災行政用無線局の開設を認めることとした。
 また,市町村防災行政用無線は,53年1月に発生した伊豆大島近海地震の際に,市町村内の集落が孤立したため情報の伝達収集に支障を来した事例等が発端となり,同年,市町村防災行政用無線局の開設を認め,消防庁による国庫補助を行うこととしたことに始まるものである。
 防災行政用無線は,以上の無線局開設の免許方針及び助成等により,都道府県等の総合的無線通信網として,着々と整備が進められているが,現在までのところ都道府県と市町村が開設するものがほとんどであり,政令指定都市については,福岡市によるもののみである(第1-2-19表参照)。
 ア.都道府県防災行政用無線
 都道府県防災行政用無線は,一般的には次のような構成となっている(第1-2-20図参照)。
 [1] 防災業務上必要な指示連絡を電話,ファクシミリにより行うため,災害対策本部が設置される都道府県庁と,災害対策地方本部が設置される機関,土木出張所等の出先機関,気象台,陸上自衛隊等の関係機関及び市町村との間を結ぶ固定系無線
 [2] 被害状況を直接は握するため,都道府県庁,出先機関と被害現場の車載,携帯無線機等との間及びこれら無線機等相互の間を結ぶ移動系無線
 [3] 観測データを伝達するため,水位等を監視する観測所とダム管理事務所等との間を結ぶテレメータ系無線
 イ.政令指定都市防災行政用無線
 福岡市は,49年度から防災行政用無線局整備事業の検討に着手し,53年度以降その施設整備を進めている。その構成は,市庁と区役所との間を結ぶ固定系無線と水防系,保健医療系及び全市移動系の3通信系からなる移動系無線によっており,引き続き拡充が図られている。
 ウ.市町村防災行政用無線
 市町村防災行政用無線の場合も,一般的には,固定通信系,移動通信系及びテレメータ系により構成されているが,固定通信系は,市町村内の住民に対する災害情報の周知徹底を図るため,市町村役場と市町村内各集落にある出先機関,路上の屋外スピーカー等を結び,災害の予警報等の発令及びその内容をスピーカーによる信号(サイレン)又は音声(放送)で知らせる回報通信方式となっている。移動通信系,テレメータ系の働きは,都道府県防災行政用無線の場合と同様である(第1-2-21図参照)。
(4)防災相互通信用無線
 防災相互通信用無線は,49年末に水島臨海コンビナート地帯の重油流出事故等の発生に伴って,石油コンビナート地帯の防災について抜本的な見直しの必要性が痛感され,50年10月以来その無線局の開設が認められており,55年度末現在では,全国で3,145局に達している。防災に関係する行政機関・公共機関,地方公共団体及び地域防災関係団体が,これらの異なる機関相互間で防災対策に必要な情報を迅速に交換することにより,防災活動の円滑化を図るために開設運用しているものであって,すべて移動系無線である。
(5)水防道路用無線
 水防道路用無線は,水防活動及び洪水予警報のための情報収集を主目的として,建設省が25年に従来の有線通信に代えて中短波による非常局を開設したことに始まるが,その後の整備拡充により,現在では,基幹となる多重無線回線とその手足的な移動無線,テレメータ等の回線により構成され,災害の防御,予警報等に活用されている(第1-2-22図参照)。
 多重無線は,電話及びファクシミリはもとより,河川,ダム,道路の維持管理に必要な各種データの伝送にも利用されており,建設本省から地方建設局,工事事務所,出張所等に至る間がマイクロウェーブ回線で結ばれ,このうち幹線区間の建設本省・地方建設局等の間は,既に2ルート化が完成している。
 移動無線は,河川,道路のパトロ-ルカー等に無線機を積載し,平常時には巡回結果を工事事務所,出張所へ通報し,災害時には現場の正確な情報を迅速に通報することなどに利用されている。
(6) 非常無線通信協議会
 非常無線通信協議会は,非常無線通信の円滑な実施を確保するため,郵政省が中心となり,関係省庁,地方自治体,電電公社,NHK,国鉄,電力会社及び関係機関の無線局の免許人等により構成されている団体である。非常無線通信協議会(1),ブロック単位の地方非常無線通信協議会(11)及び県単位等の地区非常無線通信協議会(54)から成っており,その構成員数は,年々増加している(第1-2-23表参照)。
 非常無線通信協議会では,非常無線通信の円滑な運用が行えるよう平素から体制を整えておく必要があるため,中央,地方及び地区の各非常無線通信協議会ごとに非常無線通信の運用計画を作成するとともに,災害時等を想定して模擬通報等の通信訓練及び感度交換訓練を毎年実施している。また,53年からは,構成員各自による無線局設備のいっせい総点検も実施している。
 なお,過去に非常無線通信協議会の構成員により非常無線通信が行われた災害の例としては,新潟地震,十勝沖地震,宮城県沖地震等がある。

第1-2-19表 防災行政用無線の整備状況

第1-2-20図 都道府県防災行政用無線のシステム概念図

第1-2-21図 市町村防災行政用無線のシステム概念図

第1-2-22図 水防道路用無線のシステム概念図

第1-2-23表 非常無線通信協議会構成員数の推移

 

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