総務省トップ > 政策 > 白書 > 令和元年版 > インターネットによる世論の二極化についての定量的な研究結果
第1部 特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0
第4節 デジタル経済の中でのコミュニケーションとメディア

(2)インターネットによる世論の二極化についての定量的な研究結果

ここでは、定量的な研究結果を基に、ネットの利用が世論の二極化にどの程度影響しているのか概観する。

米国では過去10年の間で二極化が進んだことを示す研究結果が出ているが12、我が国での実証研究例は少なく、二極化していると断定することはできない。しかしながら、世の中の言論が極端になってきていると感じている人は3割近く存在するという研究結果も存在する(図表1-4-2-3)。

図表1-4-2-3 世の中の言論は、中庸がなくなり、右寄りか左寄りか、極端になってきている
(出典)田中辰雄、浜屋敏(2017)「結びつくことの予期せざる罠−ネットは世論を分断するのか?−」富士通総研研究レポートNo.448

インターネットによって、情報の選択的接触は、マスメディアの時代よりもはるかに容易になっているとの指摘もある13が、以下取り上げる複数の定量的な調査結果からは、インターネット自体が分極化を進展させているのかどうかは引き続き議論の余地があるものと考えられる。

辻・北村(2018)による研究結果−ネットの利用により両極端な意見を持つ人々がそれぞれ増える可能性

辻・北村(2018)14は、「ネット利用が排外意識を強めるのか、それとも、排外意識がネット利用をうながすのか。あるいはまた、両者がたがいにたがいを強めあう関係(双方向の因果)にある」のかを定量データを用いて分析した。それによると、インターネットを利用することにより両極端な意見をもつ人々がそれぞれに増える可能性を示唆することが示され、反対に排外意識/反排外意識がネット利用量に影響する因果は確認されなかった。

同研究においては、排外意識を持つ人々だけでなく、反排外意識を持つ人々も増加することで、「社会全体が一様に排外主義化していく結果にはなりにくいだろう」としたうえで、「両極端な意見をもつ人びとがそれぞれに増えることによって、(中略)外交関係等についての世論が二極化し、社会的な対立・分断が深刻化していく」と懸念している。

一方で、他の有識者からは、そもそも我が国では、若年層を中心に多くの者が政治的に無関心、又は無関心を装うため、政治的言論空間への参加者やSNS上での政治的議論が限られるとの指摘15、また、少数の両極端な意見が目立つとの指摘16もある。

田中・浜屋(2018)による研究結果−ネットメディアはむしろ人々を穏健化させる

田中・浜屋(2018)17は、同じ対象者のグループに時期を離して2回の調査を行い、それによりインターネットの利用が社会の分極化に影響するのか明らかにしようとした。1回目の調査では、前述の二極化を助長するとした調査結果と同様に「ネット利用する人ほど過激な傾向があることがわかった」とした。しかし「元々政治的に過激な人がネット利用にも熱心だからかもしれない」という因果までは不明とし、それを確認するための2回目の調査を実施している。

その結果、メディアの継続利用者について見ると、全体としてメディアの継続利用による政治傾向の変化は軽微であった(図表1-4-2-4)。仮に影響があるとしてもネットメディア利用の場合、Facebookを除いて影響の方向はマイナスであり、分極化の強化ではなく弱化している傾向が見られる。すなわち、ネット利用が分極化を進めている証拠は乏しく、むしろネットメディアの利用者はどちらかといえば穏健化していると結論付けている。

図表1-4-2-4 メディア継続利用による分極化度合いの変化
(出典)田中辰雄、浜屋敏(2018)「ネットは社会を分断するのか−パネルデータからの考察−」富士通総研2018年8月研究レポートNo.462

また、1回目の調査においては、ソーシャルメディアの利用は意見の過激化と有意な正の相関はあるものの、過激度に最も大きな影響を与えているのは「回答者の年齢」であり、年齢が高いほど過激な意見を持つ傾向があることが明らかになった。(図表1-4-2-5

図表1-4-2-5 年齢別分極化指数
(出典)田中辰雄、浜屋敏(2017)「結びつくことの予期せざる罠−ネットは世論を分断するのか?−」富士通総研2017年10月 研究レポート No.448

これらの結果により、「もしネット利用が分極化を促進するならネット利用に熱心な若年層でこそ分極化が生じているはずであるが、そうはなっていない。むしろネット利用が相対的に少ない中高年でこそ分極化が起きている。この事実はネット利用が分極化を促進するという仮説に疑問を抱かせる」とし、社会が分極化しているとしたら、ネット利用以外の要因が存在するはずであるとしている。



12 Pew Research Center(2014)“Political Polarization in the American Public: How Increasing Ideological Uniformity and Partisan Antipathy Affect Politics, Compromise and Everyday Life”

13 辻大介、北村智(2018)「インターネットでのニュース接触と排外主義的態度の極性化」情報通信学会誌 Vol.36 No.2

14 辻大介(2018)「インターネット利用は人びとの排外意識を高めるか」ソシオロジ 第63巻1号

15 総務省(2019)「デジタル化による生活・働き方への影響に関する調査研究」有識者ヒアリング(東京大学大学院情報学環 橋元良明教授)に基づく。

16 総務省(2019)「デジタル化による生活・働き方への影響に関する調査研究」有識者ヒアリング(学習院大学法学部 遠藤薫教授)に基づく

17 田中辰雄、浜屋敏(2018)「ネットは社会を分断するのか −パネルデータからの考察−」富士通総研2018年8月研究レポートNo.462

テキスト形式のファイルはこちら

ページトップへ戻る