昭和51年版 通信白書

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第2節 記録通信の新たな展開と今後の動向

1 転換期を迎える加入電信

(1)加入電信の歴史と運営形態
 加入電信は,加入電信回線,交換機及び印刷電信機から構成される全国網であり,電話の即時性と電報の記録性を兼備したサービスとして順調な発展を続けてきた。
 加入電信サービスは,1931年(昭和6年)世界で初めて米国において実施され,続いて翌年には英国で,翌々年にはドイツでサービスが開始された。我が国でも昭和12年から加入電信の導入に関して制度的な検討が行われたが,戦争により中断された。戦後は28年に技術的検討が始まり,31年10月15日東京(65加入)及び大阪(63加入)において試行的にサービスが開始され,33年7月に本制度として実施されて今日に至っている。
 この加入電信に類似のシステムとして,専用回線と印刷電信機を組み合わせたシステム及び自営電気通信回線と印刷電信機を組み合わせたシステムがある。これらは,いずれも技術的には電信信号を送信又は受信し,その信号を文字,記号等に翻訳して印字,さん孔等を行ういわゆる印刷電信(printing telegraphy)に属し,また,記録通信メディアであるという点では加入電信と同じであるが,加入電信は加入電信網に接続されている他の利用者の端末と自由に通信できるのに対し,他の2システムは原則として同一企業内の通信に限定される点に大きな相違がある。
 加入電信制度のうち利用者に最も関係が深いのは通信料体系であるが,加入電信の通信料は,加入電話の通話料と同様に,区域内通信及び隣接区域内通信の場合通信時間に応じて,また,区域外通信の場合通信時間と通信地域間距離に応じて料金が課されている。このように時間と距離に応じて通信料が課される料金体系は,専用回線を利用するほど通信量が多くない加入者には有利であり,任意の相手に通信が可能であることとともに加入電信の大きな長所となっている。
(2) 加入電信の利用動向
 上述のような歴史的経過と制度的内容を有する加入電信は,サービス開始以来着実な伸びを示してきた(第1-3-3図参照)。我が国の加入電信のサービス開始が米国,英国,西独に比べて20数年間遅れたことや我が国には欧米諸国のようにタイピングの習慣がないことなどを勘案すれば,7万4千加入(50年度末現在)の普及は著しい発展といってもよいであろう(第1-3-4図参照)。
 加入電信を利用している企業の規模を見れば,50年度末現在資本金が1億円未満の比較的小規模な企業が約半数を占めており,42年当時と比較してもその比率が増加する傾向にある(第1-3-5図参照)。
 また,加入電信加入者を業種別に見た場合,製造業,卸・小売業,金融保険業,運輸通信業及びサービス業で広く利用されており,最近では製造業の利用比率が増加する一方,金融保険業及び卸・小売業のそれが減少している(第1-3-6図参照)。
(3) 加入電信の今後の課題
 このように順調な発展を遂げてきた加入電信は,普及の進展や他の通信メディアの発達に伴って,最近次のような転換期的な現象が現れつつある。
 第一に,近年加入電信の成長率が鈍化していることである(第1-3-3図参照)。この原因としては,加入電信の普及が進んだという事実のほか,既設加入電信や新規需要が他の通信メディアに奪われている事実も無視しえない。
 加入電信加入契約の解除理由から,加入電信の成長鈍化の原因を推測すれば,景気の影響,他の通信手段への移行が主なものとして上げられる(第1-3-7図参照)。特に,50年度においては,他の通信メディアへの移行を契約解除の理由として挙げる率が大幅に上昇しているのが注目される。これはファクシミリ通信とデータ通信への移行が大部分であり,なかでもファクシミリ通信への移行が顕著である(第1-3-8図参照)。ファクシミリ通信システムは,加入電信に比べて操作が簡単であり,また,漢字や図も送れるので,漢字国でもある我が国においては,加入電信と今後とも強い競合関係が続くこととなろう。
 また,47年11月加入者自営の電子計算機等と公衆通信網との接続を認めるいわゆる公衆通信網の開放が行われて以来,加入電信から電子計算機にアクセスすることが可能となり,加入電信を用いてデータ通信(テレックス・オンライン・システム)も行えるようになった。しかし,最近,加入電信から特定通信回線等を利用したデータ通信システムへ移行する利用者が現れており,加入電信はデータ通信とも競合関係にあるといえよう。
 第二に,加入電信の利用構造がメッセージ通信主体のものから伝票伝送,データ通信主体のものへと多様化の傾向が見られることである。
 加入電信は,当初は,いわゆるメッセージ通信を主な目的とした通信メディアであったが,企業内における事務近代化の進展に伴って,その利用方法も変化を来しており,メッセージ通信の比重が低下しつつある(第1-3-9図参照)。
 その原因のひとつとして,加入電信は,伝票の作成や複写が可能であること,また,これを瞬時に遠隔地の関連部門へ伝送できることなどから,企業内でいわゆる伝票伝送(テレックス・ワンライティング・システム)の利用が促進されたことがあげられる。
 加入電信利用のもうひとつの動きとして,先に述べたテレックス・オンライン・システムの開発と普及が上げられる。その利用形態は,公衆通信網開放当初は同一企業内システムがほとんどであったが,逐次加入電信網の特質を生かした企業間のデータ通信システム(宿泊・座席予約システム等)や特定又は不特定の多数を対象としたシステム(振込入金通知等)が開発されてきた。
 以上のような現象は,加入電信の将来を洞察する場合,重要な判断要素となるものであるが,特に成長率鈍化の問題については,電報が加入電話等の普及の影響を受けて衰退の一途をたどったように,加入電信もファクシミリ通信やデータ通信の発展により同様の運命をたどるか,それとも独自の通信メディアとしてその地位を維持して行くか,今後の動向が注目されるところである。

第1-3-3図 我が国における加入電信加入数の推移

第1-3-4図 先進諸国における加入電信加入数の推移

第1-3-5図 加入電信加入者の資本金別構成比

第1-3-6図 加入電信加入者の業種別構成比

第1-3-7図 加入電信契約解除理由

第1-3-8図 加入電信から移行した通信メディア

第1-3-9図 加入電信加入者の利用目的別構成比
 

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