昭和51年版 通信白書

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4 ファクシミリ放送の可能性

(1) ファクシミリ放送の構想
 現在の国民生活においては,種々のメディアにより多量の情報がもたらされ,我々の生活をより豊かなものとしているが,中でも新聞,雑誌,ラジオ放送及びテレビジョン放送は,マスコミュニケーションのうちの中心的なメディアとして日々我々に各種の大量の情報を提供している。新聞は,その歴史も長く,国民に広く普及しており,マスコミュニケーション・メディアの中でも主要な役割を果たしている。一方,ラジオ放送及びテレビジョン放送は,その歴史は新聞ほどには古くはないものの,受信機が高度に普及した現在,国民により迅速に多量の情報を提供している。とりわけ,テレビジョン放送は,今日高度の普及を見せており,新聞とともに国民生活における二大情報メディアとして機能している。
 これらマスコミュニケーション・メディアの特質について見れば,新聞は記録通信メディアであり,かつ,輸送手段により情報を伝達するのに対し,テレビジョン放送は,非記録通信メディアであり,その情報の伝達は,電気通信手段によりなされる。これに対し,ファクシミリ放送は,これらメディアのそれぞれの長所を生かしたもので,電気通信手段により情報を伝達する記録性を有したマスコミュニケーション・メディアである。すなわち,それは具体的には,無線通信でファクシミリによる情報を各受信者に直接送信するものである。
 ファクシミリ放送の構想は古くからあり,既に1926年には米国において実施されたことがある。しかし,当時の技術では既存の放送波に対する電波障害,端末機の機能上の問題が完全には解消し得ず,このサービスは間もなく中止された。
 我が国においては,ファクシミリ放送ではないが,これと類似のサービスとして,ファクシミリにより各種の情報を提供する同報通信がある。これには,無線によるファクシミリ通信で,通信社が,一般のニュース等をそのサービスの契約者に伝達するものや,気象庁が主に外航船舶や遠洋漁船に対し,各種の気象図を伝送しているものなどがある。
 その他のファクシミリ放送と類似のサービスには,多摩ニュータウンにおいて多摩CCIS(同軸ケーブル情報システム)実験計画の一環として行われているファクシミリ新聞サービスがある。これは,ファクシミリ送信機から自動的に新聞紙面を伝送し,それを共同アンテナで受信の上,他の種々の情報メディアと共に同軸ケーブルを通じて各家庭に設置されたファクシミリ受信機に新聞紙面を配信するものである。
(2) ファクシミリ放送の伝送方法
 現在のところファクシミリ放送を実施するには,現用のFM放送及びテレビジョン放送の電波に別の信号を重畳して放送する多重放送が考えられる。受信側においては,放送受信機に簡易なアダプタを接続し,ファクシミリ信号を取り出し受信画(ハードコピー)を得るものである。郵政省では,多様化する国民の情報需要にこたえるとともに,有限である電波の効率的使用を図るため,「多重放送に関する調査研究会議」を設置し,多重放送の種類,その実用化等について調査研究を行っているが,その一環としてファクシミリ放送のための多重放送についても検討が行われている。
(3) ファクシミリ放送の今後の動向と課題
 このようにファクシミリ放送は,記録性があり,しかも迅速性をも兼ね備えたマスコミュニケーション・メディアとして多くの利点を備えているが,それが広く普及するまでにはいくつかの過程を経ることになろう。普及の初期的段階においては,テレビジョン放送による情報のうち,取り分け重要なものをまとめてファクシミリ放送で提供するなど他のメディアの補完的手段として機能することも考えられよう。その後は,ホームファクシミリの構想等とともにファクシミリ放送の実施について社会的要請が高まれば,大量普及の時代を迎えることとなろうが,その時期が来るのか,来るとすればいつごろとなるかは,今後慎重に見極めていく必要がある。
 ファクシミリ放送を実現するには,更に端末機の問題がある。現存のファクシミリ端末機は,各家庭に設置するにはまだ大きすぎ,また価格も高い。更に端末機の性能ともかかわるが,受信することができる紙面の大きさをどのくらいにすべきか,活字の大きさをどの程度とするか,また受信紙の再使用等の問題もある。
 将来ますます電気通信メディアの多様化が進み,国民に多くの情報選択の可能性が開けるであろうが,そのような状況においてファクシミリ放送を含むそれぞれのメディアを情報システム全体の中でどのように位置づけていくのが最適かを今後総合的に検討していく必要があろう。
 

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