平成10年版 通信白書

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第1章 デジタルネットワーク社会の幕開け〜変わりゆくライフスタイル〜

第2節 生活と通信

  3. 仕事

(1) 一般的動向
 企業の情報化が急速に進展する一方で、労働力の高齢化、就業形態の多様化など、雇用構造も大きく変わりつつある。

ア 企業の情報化
 郵政省の「平成9年度通信利用動向調査(企業調査)」(9年10月、以下「動向調査(企業)」という)によれば、企業におけるLANの利用率は、産業平均で75.2%(対前年度比8.6ポイント増)、イントラネットの導入状況は、産業平均で21.4%である。導入予定のある企業を加えると、それぞれ、83.0%、43.0%となる(2章7節参照)。これにより、企業活動の仕組みが大きく変わりつつあり、企業にとって情報通信の有効活用が不可欠なものとなっている。

イ 労働時間
 総実労働時間は、昭和63年以降、労働基準法(週40時間労働への移行)の改正を背景に減少しており、現在は戦後最低の水準にあるといえる(第1−2−15図参照)。

第1−2−15図 年間総実労働時間の推移(事業所規模30人以上)(グラフ)
ウ 労働力人口の高齢化の進展
 労働力人口に占める55歳以上の割合を見ると、日本は2年(1990年)時点で欧米主要各国よりも高い水準にあり、将来的にも、我が国の労働力人口に占める55歳以上の割合は、増加すると予想されている(第1−2−16図参照)。

第1−2−16図 労働人口に占める55歳以上の割合(男女計)(グラフ)
エ 就業形態の多様化
 雇用労働者の就業形態は多様化する傾向にあり、正規の職員・従業員の割合は低下傾向にある一方で、パート・アルバイト等の非正規従業員は、その割合・数ともに増加傾向にある(第1−2−17図参照)。

第1−2−17図 就業形態の多様化(グラフ)
オ 通勤距離の増加
 職場と住居の遠隔化が進んだことを背景に、勤労者の通勤距離は増加する傾向にある(第1−2−18図参照)。

第1−2−18表 平均通勤距離の推移
(2) 仕事分野における情報通信メディアの利用実態

ア 携帯電話
(ア) 利用実態
 携帯電話は、プライベートな目的よりも、仕事で使われることが多い。このことは、第一に、携帯電話の利用目的を見ると、仕事の効率化を挙げている者の割合が約5割と高いこと(「生活調査」)、第二に、携帯電話の世帯保有率は、46.0%(9年)であるが、携帯電話を半分以上仕事目的で使用すると回答している世帯が68.9%にのぼることで分かる(「動向調査(世帯)」)。
 さらに、携帯電話とPHSの利用者を比較すると、携帯電話の方が仕事に多く使われている。このことは、第一に、利用者属性について見ると、男性の割合が高く、会社員、自営業の割合が高くなっていること(第1−2−19図参照)、第二に、昼間の利用回数と1日当たりの通話回数がいずれも携帯電話の方が多いことから分かる(第1−2−12図参照)。

第1−2−19図 携帯電話の利用者属性(グラフ)
 なお、「平成9年度通信利用動向調査(事業所調査)」(9年10月)によれば、携帯電話は、事業所の約6割が保有しており、携帯電話の平均保有台数が多いのは、保険業、電気・ガス・水道業、建設業等であり、デスクワーク以外の業務が主である業種で特に利用されている。
(イ) 仕事の変化
 携帯電話を使用することにより、電話の発信・受信がどこからでも可能であり、場所にとらわれないで仕事ができ、仕事の効率化を促していると考えられる。これは、携帯電話の使用頻度が高い人ほど、仕事の効率化について期待どおりの効果があったと答えていることからも明らかである(第1−2−20図参照)。

第1−2−20図 携帯電話の使用頻度と満足度(グラフ)
 しかしながら、一方では、携帯電話利用者の多くが、仕事時間が増え、余暇時間が減ったと感じており、電話をどこでも受けられるという携帯電話の機能が、いつ、どこにいても仕事が入るという弊害を生んでいるといえる(「生活調査」)。

イ インターネット
(ア) 利用実態
 インターネットの使用目的としては、仕事とプライベートの両方があるが、企業におけるインターネットの導入が急激に進展しており、仕事で使われることが多くなってきている。
 このことは、第一に、企業におけるインターネットの導入状況について見ると、産業全体で7年度11.7%、8年度50.4%、9年度68.1%と急激に導入されており、特に金融・保険業、製造業での導入比率が高いこと(「動向調査(企業)」)、第二に、インターネットの保有目的としては、仕事(14.2%)、仕事とプライベート(18.1%)となっていること(「情報通信とライフスタイルに関するアンケート」(8年12月、以下「ライフスタイル調査」という。)(注10)、第三に、インターネットの効果として仕事の効率化(32.8%)、家で仕事ができる(21.1%)を挙げている人が多いこと(「生活調査」)、から分かる。
 さらに、仕事におけるインターネットの利用実態を見ると、利用者属性としては、男性30代以下、会社員・会社役員・公務員が多い(第1−2−21図参照)。利用の目的としては、情報収集(67.7%)、連絡相談(30.2%)、市場調査(9.6%)が多く、利用場所は、勤務先の職場(45.6%)、自宅(28.8%)、また、利用頻度としては、毎日1時間未満(32.8%)が多い(「ライフスタイル調査」)。
(イ) 仕事の変化
 インターネットを仕事に利用している人の目的として、情報収集(67.7%)、連絡相談(30.2%)が挙げられているが、こうしたインターネットを利用した情報検索、連絡は、国内外を問わず、リアルタイムで可能であり、仕事の効率化を促していると考えられる(「ライフスタイル調査」)。
 なお、インターネットについて期待どおりの効果があった項目として、「様々な情報の入手」(84.3%)、「情報のすばやいやりとり」(68.9%)、「海外と情報のやりとり」(49.0%)が挙げられている(「生活調査」)。
(ウ) 問題点
 インターネットについては、「映像が送られてくるのが遅い」、「プライバシーの侵害」、「利用料金が高い」といった点が課題として指摘されている(「生活調査」)。

(3) テレワーク

ア テレワークの定義
 テレワークとは、1970年代に出現した新しい労働形態の概念であり、「パソコン等の情報通信機器等を利用し、遠く離れたところ(TELE)で仕事を行うこと(WORK)」をいう。
 ここでは、テレワークを行う場所に着目して3分類し、 [1] 自宅等で行うものを「ホームオフィス」、 [2] 企業の支社等で行うものを「テレコミュート」、 [3] 外部で行うものを「モバイルワーク」とし、それぞれについて記述する(第1−2−22図参照)。

第1−2−22図 テレワークの分類(グラフ)
イ テレワークの現状
 テレワークは、高度情報化の進展や勤労者意識・企業の経営環境の変化等を背景に生まれた新たな労働形態であり、「テレワーク人口調査」(社団法人日本サテライトオフィス協会)によると、我が国では、80.9万人(テレコミュート人口のみ)(8年現在)が従事していると推計されている。
 テレワークに適した業務は、個人単位で行うことができる業務が中心であり、企画書や報告書の作成、洋服等のデザイン、設計・翻訳、パソコン等によるデータ入力や集計、調査研究があると考えられている。

ウ ホームオフィス
 ホームオフィスは、労働に従事する者により、 [1] 自営業者が行う「SOHO」(Small Office Home Office)、 [2] 契約社員(期間限定の雇用契約を結んでいる者)等が行う「テレホームワーク」、 [3] 正社員が自宅で行う「テレコミュート」に分類される(なお、 [3] については、「テレコミュート」の項で併せて記述する。)。
(ア) SOHO
(SOHOの現状)
 SOHOとは、Small Office Home Office の略語で、自営業者が、小さな貸し部屋や自宅で「独立して」事業を営むことと一般には定義できる。
(SOHOの事例)
  [1]
 フリーの音楽プロデューサーA氏(東京在住39歳)にインタビューをしたところ、次のとおりであった。
 A氏は、レコード会社や広告代理店から提示された大まかなコンセプトを基に、歌手、作曲家、作詞家、編曲家等の各種クリエーターを集め、組織化し、音楽の制作を行っている。
 従来は、クリエーターとスタジオに集まり、録音したテープを試聴しながら曲の調整を行っていたが、現在では、それぞれのオフィス(自宅)にいながら、インターネットを介して、曲の試聴・打ち合せを行っている。
 また、新人クリエーターの発掘も、新人クリエーターのホームページにアクセスすることによって行っている。新人クリエーターにとっても、従来はデビューのために東京近郊にいる必要があったが、インターネットを利用することで、必ずしも首都圏にいる必要がなくなったという。
 A氏によれば、自分の好む場所で仕事を行った方が、より創造力を働かせることができ、プロデューサーやクリエーターにとって、SOHOのメリットは大きいという。
  [2]
 自宅で雑誌記事の制作等を行っているB美さん(東京在住30歳代)にインタビューをしたところ、次のとおりであった。
 B美さんは、会社を退職し、結婚した後、6年前に上京した。勤め先を探したが、通勤事情等により適当なところがみつからなかった。自宅で写植オペレーターの腕を活かす方法はないかと考えていたところ、ネット上でつき合いがあった出版社に勤める友人から、映画関係業界紙制作のための基礎データの打ち込みを紹介された。データを自宅で作成し、通信を使い納品するという形でこの業務を受けることにした。これがテレワークのきっかけだった。
 その後、仲間5人と「在宅女性オペレータ井戸端会議」をネット上に開設し、情報交換を開始したが、ほどなく、オペレーター、ライター、翻訳者、プログラマーなど、様々な職種のテレワーカーたちが活発に意見交換する場になった。
 翌年には、在宅ワーキングフォーラムを開設した。フォーラムには、在宅で仕事を行うために役立つ「オンラインソフト」、先輩たちの書き込みをまとめた「在宅ワーカーのための営業指南」「確定申告の方法」などがあり、在宅ワーカーを志す人たちのより所となっている。
 B美さんによると、テレワークを上手く活かせるコツは、家族に仕事の内容に対して理解を求め、家族など身近な人とのコミュニケーションを上手く保つこと、とことん話し合うことだという。
(イ) テレホームワーク
 ベンチャー企業のC社(神奈川県所在)は、社長を含めて社員はわずか2人であり、アパートの一室に所狭しと並ぶパソコンを使い、障害者向けの補助機器の企画開発をするが、同社では、テレホームワークを行う契約社員のD氏(東京在住23歳)が大きな戦力になっている。
 D氏は脳性麻痺の障害を持つが、努力の末、第二種情報処理技術者等の資格を取得し、9年6月から同社の契約社員として在宅勤務を続けている。D氏は、C社が障害者向けに発売する特殊キーボードのコントロールプログラム開発などのソフトウェア部分を担当しているが、打ち合わせなどを除き、日常の情報交換は電子メールでやりとりしているため、業務上支障は一切ないとのことである。
 将来的には、C社の例のように、情報通信ネットワークの発達が、障害者の就労機会を増加させ、障害者の社会参加を促進するものと期待される。

エ テレコミュート
 テレコミュートの例として、郵政省が実施している試行がある。
 郵政省では、9年10月から、国家公務員としては我が国で初めてのテレワークを試行している。これは、本省等のベースオフィスと職員の自宅やその近辺のオフィスを専用回線等で接続するものである。現在、テレワークの試行の対象となるのは、本省・郵政研究所・関東郵政局に勤務する職員であり、横浜市(神奈川県)と立川市(東京都)に設置されたテレワークセンターに勤務する方式(約170名の職員が交代で参加する予定)と在宅勤務方式(2名)により実施されている。また、1人のテレワークの回数は、原則として週2回程度となっている(第1−2−23図参照)。

第1−2−23図 郵政省のテレワーク
 現在のところ、テレワークのメリットとして「通勤時間が短くなった」「時間外労働が減少した」「家族と一緒に食事ができる」という意見が挙げられており、肉体的・精神的な疲労の軽減についても効果があると好評である。
 郵政省では、このテレワーク試行を11年3月まで実施し、業務能率向上の度合い、勤務時間管理や服務管理の状況について検証を行うこととしている。

オ モバイルワーク
(ア) 技術的背景
 データ通信に適したデジタル移動体通信網の整備、ISDN公衆電話の増加などの通信インフラの充実を受け、モバイルワークが急増している。また、移動体通信では、昨年の春からPHS事業者が32kbpsのデータ通信サービスを開始し、今後は、携帯電話でも大容量のデータが送れるCDMA(符号分割多元接続)技術による高速データ通信サービス(64kbps)が、開始される予定であり、モバイルワークの環境は、ますます整備されつつある。
(イ) モバイルワークへのニーズ
 企業の34%が、外出先からイントラネットへ接続できる環境を構築していると回答しており、今後具体的な接続予定がある企業とあわせると、約7割の企業でのモバイルワークの利用環境の整備が見込まれる。内訳を見ると、サービス業・その他、製造業等において接続できる環境構築の割合が高い(第1−2−24図参照)。モバイルワークに適するのは、労働の場所・時間が固定的でない営業等の職種であり、こうした職種では、いつでもどこでも、音声、データ等によって会社との連絡が可能な携帯電話・携帯端末等への強いニーズがあると考えられる。
(ウ) モバイルワークの実施例
 大手コンピュータメーカーのE社(本社東京)の場合、営業マンを中心に、時間に縛られずに効率的に仕事をできる勤務体制が必要だという要望が強いことから、全国11か所にサテライトオフィスを設置し、同社のシステムソフトサービス部門、営業部門と全国34社あるSE会社を対象に、9年3月から、モバイルワークを開始した。同社では、ノートブックパソコンと32kbpsのPHSを、全営業職4,000人とSE1,500人(出張機会の多い人を対象)に配備した。

第1−2−24図 外出先等からのイントラネット接続率(グラフ)
 また、外部からでも情報検索を可能とするため、イントラネットを構築し、プロジェクトに関する情報についてWWWで参照できるようにしているなど、SE技術情報として過去に手がけた事例、技術情報パターンの共有化を行っている。
 同社の場合、モバイルワークを導入することで、移動時間を圧倒的に短縮でき、スピーディな結果報告もできるようになった。これにより、社員には、効率よく1日の仕事を終え、帰宅時間も早まり、生活にゆとりが持てるようになったと好評とのことである。
(エ) 課題
 今後、モバイルワークが企業に根付いていくためには、ハード・ソフトの両面で課題が残されている。
 ハード面では、バッテリー容量が小さいために携帯用のミニノートの連続稼働時間は、2、3時間に限定されており、かなりの重量のある予備バッテリーを常に持ち歩かねばならないため、モバイルワーカーの負担が大きい点が挙げられる。
 また、ソフト面では、情報の電子化、職場で発生する各種情報の共有化システムの構築、の2点が挙げられる。

カ 米国のテレワーク事情
 世界に先駆けて1980年代後半からテレワークが普及し始めた米国では、1995年時点で910万人の労働者がテレワークを実践していると見られている(第1−2−25図参照)。
 米国におけるテレワーク普及の要因としては、 [1] 米国では企業内の業務分担が明確で、仕事の評価が成果中心であることから、オフィスを分散させやすいこと、 [2] 経費削減の観点から、可能な業務についてはアウトソーシングを行うことが通常であること、が挙げられ、テレワークが定着しやすい環境にあるといえる。また、車社会である米国では、排気ガスによる大気汚染が深刻な問題であり、自動車通勤を抑制する必要があることから、テレワークの普及が求められることも要因と考えられる。

第1−2−25図 主要国におけるテレワーク普及状況(グラフ)
(4) 効用と課題

ア 効用
 仕事分野に情報通信メディアが普及することにより、 [1] 仕事の効率化、生産性の向上が図られる、 [2] 通勤時間削減、地方勤務・在宅勤務の増加などにより「ゆとり」の創出、 [3] 自動車交通量の減少による環境浄化、 [4] 高齢者、障害者雇用の促進などの効用がある。

イ 課題
 機器のハード面等では、映像伝送速度が遅い(インターネット)、パソコンの重量が重い(モバイルワーク)、通信料金が高い、などの課題がある。また、新しい勤労者管理の在り方などを確立する必要がある。



 

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