平成10年版 通信白書

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第1章 デジタルネットワーク社会の幕開け〜変わりゆくライフスタイル〜

第2節 生活と通信

  6. 学習

(1) 一般的動向
 情報通信の進展は、初等中等教育、高等教育機関といった学校を中心とした教育の分野にも及んでおり、パソコンやネットワークを活用した新たな学習形態を生み出すなど、様々な変化をもたらしている。また、学校教育のみにとどまらず、幅広い年代、地域の人々に生涯学習の機会を提供することにも大きな役割を果たしている。
 学校における教育分野の情報化については、文部省を中心に様々な取組が行われている。
 初等中等教育分野においては、文部省が6年度から、11年度までを目標として、公立の小学校に22台(児童の2人に1台)、中学校及び普通科高等学校に42台(生徒の1人に1台)、特殊教育諸学校に8台(児童・生徒の1人に1台)を目標に、教育用コンピュータの計画的整備を実施している。また、学校のインターネット接続に関しては、2001年までにすべての中学校、高等学校を、2003年までにすべての小学校をインターネットに接続できるよう、計画的な措置が行われている。
 大学等の高等教育分野においては、文部省が8年7月に出した「マルチメディアを活用した21世紀の高等教育の在り方に関する懇談会」報告書や9年12月の大学審議会答申「「遠隔授業」の大学設置基準における取扱い等について」などにより、 [1] 基盤となるハード(ネットワーク)の整備、 [2] 制度の見直しなど、高等教育におけるマルチメディア活用のための提言がなされた。これを受けて、学内LAN等の整備や、遠隔授業実施のための設備等の整備が進められている。
 生涯学習分野については、教育委員会、公民館、カルチャーセンター等における生涯学習講座の学級・講座数が昭和61年より徐々に増加しており、特にカルチャーセンターでは、7年度中の学級・講座数は8万6,135件に達している。
 また、大学における公開講座等の実施も毎年増加する傾向にあり、8年度には、実施講座数が9,299件(実施大学525大学)、受講者数は64万9,027人に達しており、生涯学習に対するニーズの高まりが見られる。

(2) 情報化の現状

ア 初等中等教育分野における情報化の現状
 8年度の初等中等教育における公立学校の教育用コンピュータの設置状況は、設置率が小学校で全体の90.7%、中学校で99.8%、高等学校で100.0%、盲・聾・養護学校を含む特殊教育諸学校で98.7%となっており、設置率は9割を超えている。
 8年度において、公立学校の教員のうち、コンピュータを操作できる教員は全教員の46.5%であるが、コンピュータで生徒を指導できる教員は全体の約19.7%にとどまっている。
 9年5月現在における公立学校のインターネット接続状況は、9.8%と全体の1割未満となっており、コンピュータの設置は進んできているが、ネットワーク接続されずに使われることが多い実態にある。インターネット接続率を学校の種別ごとに見ると、小学校で7.3%、中学校で12.5%、高等学校で17.3%となっており、上位の学校になるほどインターネットに接続している学校の割合は高くなっている(第1−2−60表参照)。

第1−2−60表 公立学校のインターネット接続状況(9年5月1日現在)
 また、情報化が進んでいると言われる米国の場合を見ると、公立学校では、6年から9年にかけて、毎年約15%の伸びでインターネット接続率が上昇しており、9年時点での接続率は78.0%である。日本では前述のとおり、9年の時点で接続率は9.8%であり、インターネット接続の点では、日米で大きな格差を生じている。

イ 高等教育分野における情報化の現状
 大学教育を始めとする高等教育において、通信衛星によるネットワークの整備、学術情報ネットワークの充実、学内LANの構築といった基盤となるネットワークの整備が行われている。また、意見交換や情報収集にインターネット等のネットワークを活用する動きが活発になってきている。さらに近年では、画像伝送技術の進歩により、複数の高等教育機関間、同一の高等教育機関の中の分散キャンパス間において、通信衛星及びISDN回線を利用した遠隔授業が実施されるようになり、それに伴い、文部省でも単位数の取扱いなど必要な制度の整備を行った。

ウ 生涯学習分野における情報化の現状
 生涯学習分野での情報化の大きな動きの一つとして、放送大学の全国化の推進がある。放送大学は、テレビ・ラジオを通じて広く学習の機会を提供することを目的に昭和58年度に設置された。以来、生涯学習機関として、「生活科学」、「産業・社会」、「人文・自然」に関して、広く社会人に大学教育の機会を提供してきた。従来は、地上波テレビジョン、ラジオ放送により実施され、関東地方に放送エリアが限定されていたが、近年の生涯学習へのニーズの高まりに対応して、10年1月から、CSデジタル放送での放送が開始され、全国での受信が可能となった。
 また、8年6月からサービスが開始されたCSデジタル放送における、教育・資格関連のチャンネル数は7チャンネルであり、全チャンネル数の7.1%となっており、これも生涯学習へのニーズに対応したものといえる。

エ 学習分野への情報通信メディアの利用動向と学習意向
 CS放送、ケーブルテレビの利用者に対して、学習関連番組の効果について聞いたところ、英会話などの外国語の勉強に関してはCS放送で11.2%、ケーブルテレビで13.6%が、生涯学習に関してはCS放送で4.2%、ケーブルテレビで13.6%が、効果があったと回答している(「生活調査」)。
 また、CS放送による放送大学での学習意向については、「放送大学の学生となり、ぜひ学習したい」との回答が3.3%、「とりあえず、放送を見てみたい」との回答が26.0%となっており、CS放送による放送大学に対する期待の高さを表している(第1−2−61図参照)。

第1−2−61図 CS放送による放送大学での学習意向(グラフ)
CS放送による放送大学での学習意向の表
(3) 先進的な活用事例

ア 初等中等教育分野における活用事例
(ア) インターネットを利用した情報教育
 横浜市立本町小学校(神奈川県)では、児童の自主性を重視した教育活動の一つの手段として、昭和60年にコンピュータを導入して以来、積極的に情報教育を行ってきている。本校の情報教育の特徴としては、児童がコンピュータに触れ、慣れ、親しむことを目標に、コンピュータを道具の一つとして位置づけ、文書・図表作成、情報検索に活用できるように、個人差及び学年差に応じて適切な指導を行っていることが挙げられる。
インターネットを利用した情報教育のイメージ(写真)  7年度からはインターネット接続を開始し、これを活用して、情報検索、プライバシー保護及びネチケット(注13)について学習させる教育を実践している。また、ホームページを作成し、児童の活動状況、作品及びメッセージを積極的に地域や世界へ情報発信していることも本校の特徴である。
 コンピュータは児童がいつでも使用できるように、ネットワーク接続していない40台については多目的ホールに配置、インターネット接続された20台については他の教材と共にオープンスペースに分散配置している(写真参照)。
 児童にコンピュータ使用の契機について聞いたところ、「基本的な使い方は先生から教わった」が、その後は「自分なりに作業するうちにより高度な使い方を覚えている」という回答が多く、学校教育を契機に、児童が無理なく情報リテラシーを身につけていることがうかがえる。また、「作品の製作時には、お互いの作品を利用し合っている」、「他校の生徒とメールのやり取りをしている」、といった意見も得られ、児童間の共同作業、ネットワークを利用した他校との情報交換を自発的に行っていることが分かる。
 教師側からは、情報通信を活用した教育により、学習意欲が高まり、共同で作業する喜びが感じられるようになったとの意見が得られている。また、インターネットの利用に際しては、有害情報の扱いにも十分配慮しているとのことである。
(イ) 小学校間の遠隔授業
 離島や山間地の学校等を光ファイバや通信衛星を利用して、都市部の学校等と接続し、テレビ会議システム等により、効果的な活用方法に関する研究開発が全国の23地域において行われている。
 その中で、伊豆諸島、青ヶ島村(東京都)の村立青ヶ島小学校と中央区立城東小学校(東京都)の間では、8年度から、衛星通信を利用して、双方の土地の紹介や課題に対する意見交換といった遠隔授業が行われている。青ヶ島小学校は、伊豆諸島最南端に位置する離島にあり、それに対して、城東小学校は、東京駅八重洲口のすぐ前に位置しているといったように、両校の立地条件は大きく異なっているが、その交流により、高い教育効果が得られることが期待されている。
 遠隔授業は、通信衛星を用いた回線(1.5Mbps)により、テレビ会議システムを接続して行われている。また、衛星通信のみでは回線が足りない時や、教員同士が話し合う際には、ISDN回線(64kbps)も利用されている(第1−2−62図参照)。衛星を使用した合同授業は70から80時間実施している。
 両校の児童の遠隔授業に対する意見として挙げられたのは、「相手の土地の様子を知り、自分の土地と比べることができた」(青ヶ島)、「相手の考えが分かって楽しかった」(城東)、「自分たちと違う意見が聞けて有意義だった」(城東、青ヶ島)、「クラスの仲間が増えたような気がした」(城東)であり、お互いの違いを知ったり、交流が深まったことに対して、メリットを感じていることが分かる。
 両校の教師からは、「マルチメディア機器の教育における効果について知ることができた」(青ヶ島、城東)、「特にへき地校においては、マルチメディアを活用して社会性や情報収集活用能力を培う必要を実感した」(青ヶ島)、「自由に話し合える関係が築けた」(城東)、といった好意的な意見が得られている。

第1−2−62図 遠隔授業のシステム構成図
イ 高等教育分野における活用事例−海外の大学との遠隔授業−
テレビ会議システムを利用した遠隔授業のイメージ(写真)  青山学院大学大学院では、国際ビジネス専攻コースを中心として、海外の大学との間でテレビ会議システムを活用した「グローバルクラスルーム」と呼ばれる遠隔授業を4年から実施している。グローバルクラスルームでは、米国を始めとする海外の大学との間で、テレビ会議システムを1.5MbpsのISDN回線で接続して遠隔授業を行うとともに、インターネットを経由した仮想金融市場での取引をリアルタイムでシミュレーションする演習を行っている(写真参照)。
 本授業に出席していた受講生に、授業の感想を求めたところ、「日本にいながら米国の大学の授業をリアルタイムで受けられて興味深かった」など、他大学の授業を受講できることに対するメリットについて高い評価が得られている。また、今後の遠隔授業の普及に対しては、授業の選択の幅が広がることをメリットとして挙げている。問題点としては、「映像が見づらい」、「画像・音声がさらに鮮明である方がよい」、「授業が一方通行である」、「海外の場合、時差があるため、授業の開始時間、機器の設定に注意が必要」が挙げられている。

ウ 生涯学習分野における活用事例−大学と地方自治体の協力による生涯学習−
 早稲田大学では、大学における生涯学習機関として、エクステンションセンターを昭和56年に発足し、以来、一般向けの公開講座(オープンカレッジ)として、年間約520の講座を開設している。このオープンカレッジの一環として、8年より、遠隔授業が実施されている。
 遠隔授業は、早稲田エクステンションセンターと本庄市(埼玉県)、所沢キャンパス(埼玉県)の間を、通信衛星及びISDN回線(64kbps)で接続して行われている(エクステンションセンター−所沢キャンパス間は、現在のところISDN回線のみであり、衛星回線については10年度接続予定)。本庄市では、市の協力を得て、本庄市中央公民館で早稲田大学の授業が受講可能となっている。所沢キャンパスでは、人間科学の教授が授業を提供している。
 オープンカレッジの会員数は、3対1の割合で、女性が多く、昼間の時間帯では、比較的年輩の主婦などの受講者が多い。具体的な受講生の感想としては、「東京の大学の授業が聞けて良かった」、「テレビとは違って迫力がある」など、好意的な評価が得られている。音声、画像は「聞きやすい、鮮明である」といった評価が概ねである。また、問題点としては、「授業内容の進み方が早い」、「講師の話すスピードが速い」が挙げられている。

エ その他の学習分野における活用事例
 大手予備校では、本校の有名講師による授業を、授業風景そのままに撮影し、通信衛星を利用して、地方の教室や高等学校に向けて毎日配信している。臨場感をもって授業を受けられるほか、電話回線を利用して講師に質問することもできるので、地方においても内容の充実した授業が受講でき、また、授業の選択の幅も広がると好評である。
 また、予備校によっては、本校の授業を直接撮影するのではなく、地方の教室等向けの授業を別途収録して配信し、地方の教室等において1日複数回使用している例もある。

(4) 効用と課題

ア 効用
 授業にコンピュータを利用したり、遠隔授業を行うことによって、学習における選択肢の多様化、ネットワークを介した学習機会の増大がもたらされる。また、初等中等教育におけるインターネットを活用した授業は、情報リテラシーのかん養とともに、へき地、離島等地域に関わりなく、様々な情報を活用した充実した教育を受けることを可能にする。

イ 課題
 回線速度の高速化、回線の信頼性の確保、回線使用料の低廉化等が必要である。初等中等教育では、インターネット利用の際の有害情報の排除が重要な課題となっている。



 

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