 第1章 デジタルネットワーク社会の幕開け 〜変わりゆくライフスタイル〜
 第1節 情報化の動向
 第2節 生活と通信
 4. 趣味・娯楽
 8. 地方行政サービス
 第3節 情報リテラシー
 第4節 サービスが抱える問題(ネットワークサービスを安心して利用できる環境の整備)
 第5節 デジタルネットワーク社会の実現に向けて
 第2章 平成9年情報通信の現況
 第1節 情報通信産業の現状
 第2節 情報通信経済の動向
 第3節 情報通信サービスの動向
 1. 国内電気通信料金
 第4節 通信料金の動向
 1. 国内電気通信料金
 第5節 電波利用の動向
 第6節 情報流通センサス
 第7節 情報通信と社会経済構造の変革
 1. 産業の情報化
 2. 地域の情報化
 第8節 海外の動向
 第3章 情報通信政策の動向
 第1節 高度情報通信社会の実現に向けた政府の取組
 第2節 高度情報通信社会の構築に向けた情報通信政策の推進
 1. 情報通信21世紀ビジョン
 第3節 第2次情報通信改革に向けた電気通信行政の推進
 第4節 放送政策の推進
 第5節 郵便局ネットワークの活用の推進
 1. 郵便局ネットワークの開放・活用による国民生活への貢献
 第6節 情報通信のグローバル化に対応した国際政策の推進
 第7節 21世紀に向けた技術開発・標準化の推進
 1. 情報通信の高度化・多様化を支える技術開発の推進
 第8節 宇宙通信政策の推進
 第9節 安全な社会づくりを目指す防災対策の推進
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第2章 平成9年情報通信の現況
第7節 情報通信と社会経済構造の変革
- 2. 地域の情報化
- (1) 条件不利地域の情報化
「平成9年通信に関する現状報告」では、全国3,255市町村(東京都23区を含む。)の情報化の現状について、電気通信事業者及び放送事業者によって整備されてきた情報通信インフラやサービスの現状を利用環境指標(注22)、各地方公共団体によって整備されてきた情報化の現状を開発整備指標(注23)として、これらを合わせて地域情報化指標(注24)を作成し、評価と分析を行った。
今回は、地理的または気象的に条件の不利な地域のうち、特に、山村地域、離島地域、豪雪地帯に着目し、これらの地域の地域情報化指標の平均点を見てみると、全国平均を下回っており、情報化が遅れていることが分かる(第2−7−24図参照)。
そこで、今年度は昨年の指標を用いて、条件不利地域の情報化の現状について分析を行った。
ア 条件不利地域の現状
(ア) 運用中のアプリケーション
9年4月1日現在、過疎地域は1,231、山村地域は1,195、離島地域は184、豪雪地帯は962市町村が指定されている。
これらの市町村のアプリケーションの運用状況について、地方自治体に対して昨年行ったアンケート(注25)で見ると、いずれの地域においても、「緊急通報システム」、「行政窓口オンラインサービス」、「防災情報提供システム」といったアプリケーションが多く運用されている(第2−7−25図参照)。
なお、全市町村について見ても、緊急通報システムは37.2%、行政窓口オンラインサービスは30.5%、防災情報提供システムは18.9%の高い割合で運用されており、これらのシステムはどの地方自治体にとっても積極的に取り組んでいるアプリケーションである。
(イ) 地域住民及び地方自治体の情報化ニーズ
今回は、条件不利地域の地方自治体と住民に対し、アンケート調査(注26)を行い、地域情報化に関する意識調査を行った。
それによると、住民は、情報通信ネットワークを使い、離れた場所からでも利用できると良いと考えている行政サービスについて、「行政窓口オンラインサービスシステム」、「保健医療・福祉情報提供システム」、「緊急通報システム」及び「遠隔保健医療・福祉支援システム」を挙げており、行政事務や、医療・福祉サービスについての利用意向が高い(第2−7−26図参照)。
また、地方自治体は、すべての地域で上位に、「保健医療・福祉情報提供システム」、「緊急通報システム」、「遠隔保健医療・福祉支援システム」の医療・福祉関連のアプリケーションを挙げている(注27)、(第2−7−27図参照)。その理由については、「過疎化・高齢化の進展、独居老人の増加」、「集落が点在」、「交通が不便(行政サービスや医療サービスが不十分)」、「医療体制の不備」等、共通の項目が挙げられている。
しかし、「緊急通報システム」以外の「保健医療・福祉情報提供システム」と「遠隔保健医療・福祉支援システム」を運営している地方自治体は、それぞれ3.2%、0.9%と少なく、これらのシステムについては、住民のニーズがあり、地方自治体においても必要性を感じているものの整備が進んでいない。
また、条件不利地域で適用されている制度及びこれら地域が関心のある制度について見ると、「電気通信格差是正事業(郵政省)」、「自治体ネットワーク施設整備事業(郵政省)」、「ふるさと交流拠点事業(農林水産省)」の順となっており、条件不利地域にとって電気通信格差是正事業が有益であり、また、アプリケーションを重視した制度に関心がある(第2−7−28図参照)。
(ウ) 地域情報化を推進する上での問題点
これらの市町村が地域情報化を推進する上での問題点を、地方自治体に対して行ったアンケート(注28)で見てみると、「情報通信インフラの整備が不十分」、「情報通信関連機器・施設・システムの開発整備コストが高い」、「専門知識が不足」の順となっている(第2−7−29図参照)。
イ 条件不利地域における取組
(ア) 山村地域の取組
西会津町(福島県耶麻郡)は人口9,845人(7年国勢調査)、振興山村と過疎地域及び特別豪雪地帯の指定を受けている。西会津町では6年度から在宅健康管理システムの導入を行った。町民は貸与された端末を用いて、自宅で体温、血圧、心電図等の健康管理データを測定し、電話回線又はケーブルテレビ回線を通じて保健センターへ送信する。保健婦はデータをチェックし、必要に応じて医師がアドバイスを行うというものである。
西会津町が当該システムを導入した経緯は次のとおりである。
西会津町は、地域における生涯を通じた健康づくりと適切な保健医療の確保に努めるなど、町民のための総合的な健康づくりのための施策を従来から展開してきた。しかしながら、町民の平均寿命は福島県内でも下位に低迷していることから、原因究明のため住民健康調査を行った結果、脳卒中による死亡が多いことが判明し、脳疾患等の成人病予防対策のために食生活の改善や日常の健康チェックの重要性が明らかとなった。このような状況の中で、町長がある健康管理に関する講演会に参加した際に、在宅健康管理システムが住民の健康管理に有用であると紹介され、当該システムの導入を発案した。
導入に当たっては、当該システムを先行して導入している岩手県の病院の協力を得ながら進めた。情報システムの専門家の必要はなかったが、医師会や住民への説明には十分時間をかけ、最終的には町内の医師全員の協力が得られた。
システム導入後の町民の反応を見ると、健康管理への意識が向上し、食事に気を付ける人が増えており、成人病の予防に対して効果を挙げている。
なお、町では利用者の利便に考慮して、町営のケーブルテレビ回線でもデータ送信を行っている。当該ケーブルテレビは加入率が8割で、地域情報や、行政情報を提供しており、町の情報化に寄与している。町では行政情報の充実を図るため、役場内の各課に2名の番組作成チームとカメラを配置して、週1本の番組を各課で順に持ち回って作成している。町民の番組に対する反応は良い。
(イ) 離島地域の取組
美津島町(長崎県下県郡)は人口8,609人(7年国勢調査)、対馬の中央部に位置し、離島地域と過疎地域の指定を受けている。美津島町では離島における町民の情報格差是正のため、4年4月からケーブルテレビを導入しており、全世帯で視聴することができる。昭和50年ころは、新聞を取っていない家庭も多く、テレビが主要な情報源であったが、そのテレビも画像が乱れることもあった。そこで、町長はケーブルテレビを導入することを発案したが、住民、職員とも知識がないので、職員でプロジェクトチームを作り検討し、長崎県の民間のケーブルテレビ等を視察し検討を重ねた。自主財源での設置は厳しいので、国の補助スキームの適用を受け(1/2補助)、更に過疎債の適用を受けた。過疎債は昭和62年度までは有線ラジオしか対象にならなかったが、交渉の結果、昭和63年度から新たにケーブルテレビも対象となり、本町のケーブルテレビは最初の適用を受けた。
運営の円滑化を図るため、運用担当者として、町の出身者で技術面に詳しい人を特に採用した。ケーブルテレビでは、現在1日6回、約20分間の自主制作番組を放送しており、これの視聴率は90%以上にのぼるという。町では今まで、広報誌や回覧板により行っていた周知を、ケーブルテレビでの周知に切り替えている。住民に行ったアンケートによると、70.6%の住民が行政情報の入手方法としてケーブルテレビを挙げており、十分な成果を挙げていることが分かる。
今後は、ケーブルテレビを使い、水道や電気メーターの検針、真珠養殖に関した水産関連情報の提供等も検討している。
(ウ) 豪雪地帯の取組
大森町(秋田県平鹿郡)は人口8,371人(7年国勢調査)、特別豪雪地帯のほか振興山村と過疎地域の指定を受けている。大森町では、高齢化社会における「福祉の町」として、情報通信を活用した保健・医療・福祉の在宅サービスの実現を目指しており、 [1] 緊急通報装置とテレビ電話を活用した老人福祉システム、 [2] テレビ電話等を活用した寝たきり等介護が必要な家庭の在宅医療支援システム、 [3] 発信器をつけた老人の所在地を確認する徘徊老人システム、 [4] 町立病院と大学病院を結んだ遠隔医療システム、 [5] 災害時の緊急連絡に、電話や屋外装置を使い、一斉に通報を伝達する緊急通報伝達システム、 [6] 農業、行政、福祉保健、生涯学習情報等の情報提供をする営農情報システム、 [7] 町の公共施設を結んだテレビ会議システムの整備を進めている。
大森町は昭和50年後半より「福祉の町」を目指し、昭和63年に「秋田県南部老人福祉総合エリア」に在宅介護老人センター等を開所し、秋田県南部の福祉活動の拠点となった。このような状況の中で、町は、先進の福祉施設を利用することが困難な人のための手段として情報化に着目した。大森町の町長は、自らインターネットを駆使するなど情報通信の有用性に対する造けいが深く、県内の電気通信事業者に協力を求めてISDN回線の整備を図るとともに、国に対して情報化のための財政支援を要望して、町の情報化を積極的に推し進めた。 保健・医療・福祉のシステムに対する住民の反応は良く、更にアプリケーションの多様化や広域化等を要望する意見も見られる。システム開発に当たっては役場内に専任の職員を1名配置し、電気通信事業者等の協力を得ている。また、町民のパソコン操作能力向上のために、教育センターでは、専門家によるパソコン教室(ボランティア)を開催している。
ウ 不利な条件を克服するための方策
以上のように、条件不利地域における情報化の取組は、首長の意欲、アドバイザーの有無、国や都道府県の助成制度の有効な活用、住民や関係団体の理解等が必要となる。また、これらの市町村は財政的な問題により単独の取組が難しいので、複数の市町村による広域・連携化が重要となってくる。
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