平成10年版 通信白書

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第3章 情報通信政策の動向

第8節 宇宙通信政策の推進

  1. 先端的な宇宙通信技術の研究開発

(1) 通信放送技術衛星(COMETS)の開発
 通信放送技術衛星(COMETS)は、21GHz帯での広帯域・高画質なHDTV放送、統合デジタル衛星放送(ISDB)等次世代の高度な衛星放送やKa(30/20GHz)帯及びミリ波(50/40GHz)帯を利用した衛星通信のパーソナル化、マルチメディア化に必要な移動体衛星通信等の技術開発を目的とした衛星で、10年2月21日に打ち上げられた。
 しかし、予定していた静止トランスファー軌道への軌道投入に失敗し静止軌道へ投入できなくなった。その後、宇宙開発事業団が、衛星の軌道を変更しているところであり、郵政省では、変更後の軌道において可能な限りの通信・放送実験が実施できるよう準備を進めていくこととしている。

(2) 技術試験衛星VIII型(ETS−VIII)の開発
 技術試験衛星VIII型(ETS−VIII)は、携帯端末による移動体衛星通信や移動体マルチメディア衛星放送の実現に必要な技術の開発を目的とした衛星で、10年度に衛星の開発に着手し、14年度に打ち上げられる予定である(第3−8−1図参照)。

第3-8-1図 技術試験衛星?型(ETS−?)
 ETS−VIIIでは次のような技術の開発が予定されている。
  [1] 移動体衛星通信技術
N−STARで使用しているSバンド(2.6/2.7GHz)を使用し、衛星上で回線交換を行う機能を有しており、携帯端末により通信を行う技術の確立を目指している。
  [2] 移動体マルチメディア衛星放送技術
移動体への64〜128kbps程度のマルチメディア放送を可能とする技術の開発を目的としている。
  [3] 大型展開アンテナ技術
このアンテナは、通信及び放送ミッション機器用として使用される10m級の展開アンテナである。このアンテナ技術の確立により、静止衛星通信システムにおいて、ハンドヘルド端末を用いたマルチメディア通信が可能となる。

(3) 超高速(ギガビット級)通信技術衛星の研究開発
 超高速(ギガビット級)通信技術衛星は、地上系の光ファイバ網とのシームレスな通信を実現するため、伝送容量が最大1Gbps程度の超高速衛星通信技術を確立するための衛星である。この技術を活用して、インターネット高速アクセス等多様なアプリケーション、GII構築への貢献が可能となる。欧州宇宙機関(ESA)と共同で研究開発を進めることとしており、14年度ごろの打上げを目標としている。
 この衛星には、マルチメディア・マルチエリア対応の高速衛星通信システムを実現するため、電子走査アンテナ、ATM交換機等を搭載することを検討している。
 また、この衛星は、光通信を活用してグローバルな衛星通信網を構築する技術を実証するために、光衛星間通信機器を搭載し、欧州の衛星との衛星間通信実験を行うことを検討している。

(4) 次世代LEOシステム(NELS)の研究開発
 現在、2000年ごろのサービス開始を目指した周回衛星を用いた移動体衛星通信システムの計画が進められている。衛星通信のニーズは、今後もより増大するとともに、パーソナル化、マルチメディア化することが予想されることから、この次世代のシステムにおいては、携帯端末による動画像伝送が可能な衛星通信サービスを提供する、次世代の周回衛星による移動衛星通信システム(NELS)が求められると予想される。
 郵政省では、このような社会的ニーズを踏まえ、NELSの実現に必要な技術を確立することを目標に、9年から通信・放送機構において研究開発に着手し、17年度ごろの宇宙実証を計画している。

(5) 衛星測位システムの研究開発
 衛星測位システムについては、近年、船舶や航空機の無線航行、カーナビゲーション、測量等、米国のGPS(注21)の利用が拡大している。我が国政府では、GPSの安定的かつ継続的な利用の確保に向け、米国と協議を行っている。また、衛星測位システムの構築に国際的な貢献ができるよう、次世代の衛星測位システムに必要な高精度な衛星搭載原子時計技術、衛星−地上間精密時刻比較技術等の研究開発に9年から着手している。

(6) 軌道上検査・修理システムの研究開発
 近年、米国を始めとして、新しい商用の衛星通信システムの開発が盛んになってきているが、衛星に故障が生じた場合、これを修復する手段は全く開発されていない。
 そこで、郵政省では、このような問題を解決するため、8年度から、衛星の軌道上における検査・修理システムに関する研究を行っている。具体的には、遠隔検査技術として、 [1] 多関節マニピュレータ、 [2] 高精細カメラ、 [3] オンボード画像圧縮等を含めた大容量画像通信技術、の研究開発を行っている。

(7) 熱帯降雨観測衛星(TRMM)及びETS−VIIの研究開発
 9年11月28日、TRMM及びETS−VIIがH−IIロケット6号機により打ち上げられた。
 TRMMは、日米共同プロジェクトとして熱帯・亜熱帯地方の降雨観測を行うことを目的に開発された衛星である。この衛星を利用し、通信総合研究所では、降雨の三次元構造、特に垂直分布、海洋及び陸域上の降雨を定量的に観測し、全地球規模での気候変動、水分循環等の解明を行うこととしている。
 ETS−VIIは、 [1] 無人宇宙機同士による自動及び遠隔操作ランデブ・ドッキング技術の実験、 [2] 地上から遠隔制御できかつ人工衛星に搭載可能な宇宙ロボットの実験、 [3] データ中継衛星を経由した軌道上作業の運用技術の習得、を目的とした衛星である。通信総合研究所では、搭載ロボットアームを使い、大型アンテナを組み立てる際に必要となるアンテナ鏡面を結合する実験を行う。



 

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