平成10年版 通信白書

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第3章 情報通信政策の動向

第3節 第2次情報通信改革に向けた電気通信行政の推進

  5. 情報通信利用環境整備

(1) 電気通信利用の利用者保護対策

ア 電気通信サービスの利用環境の向上のための体制の整備
 近年、電気通信市場の競争の進展やサービスの高度化・多様化に伴い、苦情処理・相談体制の整備など、電気通信サービスの利用者が安心してサービスを利用できるための環境を整備することが必要になっている。
 このため、郵政省では、電気通信局電気通信事業部業務課に電気通信利用環境整備室を設置し、電気通信サービスに関する利用者からの苦情・相談等の受付け、利用者への情報提供、電気通信サービスモニター制度による利用者の意見・要望の把握・分析等を行い、利用者利益の確保に努めている。

イ 電気通信サービスにおける情報流通ルールに関する調査研究会
 パソコン通信やインターネット上におけるわいせつ情報、他人を誹謗中傷又は差別する情報、詐欺的情報等の違法・有害情報の流通に対しては、サービスの提供者である電気通信事業者に対する苦情が多発しており、このような場合における事業者の対応の責任の在り方が問題となっている。
 このため、郵政省では、電気通信事業者の責任範囲の明確化等の情報流通に関するルールを作成するため、9年10月から「電気通信サービスにおける情報流通ルールに関する研究会」を開催し、9年12月に報告書「インターネット上の情報流通ルールについて」を取りまとめた。概要は次のとおりである。
(ア) 自己責任の原則の確認
 発信者は、公然性を有する通信における情報発信に伴う責任とリスクを認識し、受信者は、インターネット上の情報には信頼性の低い情報等があることを自覚すべきである。
(イ) 違法な情報発信に対する現行法の適用
 オフラインで違法なものはオンラインでも違法であり、違法な情報流通に対しては、まずは、現行法の適用で対応すべきである。
(ウ) プロバイダによる自主的対応
 法律によってプロバイダの責任を規定することは慎重に検討すべきであり、当面はプロバイダの自主的対応に期待していくことが適当である。プロバイダが発信者への注意喚起や利用停止等の措置を取ることは、電気通信事業法上、可能である。
(エ) 発信者情報開示(匿名性の制限)の検討
 公然性を有する通信や1対1の通信において、一定の要件の下、発信者を特定する手続きを検討すべきである。
(オ) 受信者の選択を可能とする技術的手段の活用
 レイティング及びフィルタリング技術の活用及び普及のための施策を推進していく必要がある。また、迷惑通信対策として、電子メールの受信拒否機能の導入を進めていくことも必要である。
(カ) 苦情処理窓口の明確化
 プロバイダによる苦情処理窓口の明確化を図るとともに、苦情処理ホットラインの創設や各専門機関の苦情受付窓口との連携等を進めていくことが課題である。
(キ) 今後の動向等を踏まえた検討の推進
 今後とも、本研究会での検討結果を踏まえつつ、国内外での議論の動向を見極めながら、調和のとれたルールを形成すべく、更に努力を続ける必要がある。

ウ コンテントのフィルタリング技術に関する研究開発
 郵政省では、9年から、横浜市(神奈川県)及び横浜市教育委員会との連携により、受信者側においてインターネット上の有害情報を格付け・選別する技術の研究開発を実施している。具体的な技術の研究開発は次のとおりである。
[1]  コンテント格付けを支援する技術の研究開発
[2]  分散する格付け情報の連携・有効活用技術の研究開発
エ 発信者番号通知サービスと個人情報保護ガイドライン
 発信者番号通知サービスは、発信者の電話番号を通話の相手方に通知するサービスである。昭和54年に加入電話の自動即時化が完了して以来、電話サービスは、電話に出て始めて発信者が誰か分かるという発信者優位のシステムで利用されてきた。その結果、迷惑電話の被害や事業者が電話をかけてきた顧客に適切に応対できないなどの課題が発生していた。
 発信者番号通知サービスは、発信者と受信者が対等な立場で電話を利用することを可能とすることにより、こうした問題の解決に資するものである。NTTでは、9年1月から同年6月まで、横浜(045)、名古屋(052)、福岡(092)において、試験サービスを実施し、その結果を踏まえ、同年10月から当該試験サービス提供地域において、また、10年2月から、全国において本格提供を開始した。なお、携帯電話(デジタル)、PHS、ISDNにおいては、既に発信者番号通知を実施している。
 一方、このサービスを利用して入手した電話番号情報を不当に利用されるおそれもあることから、郵政省では、8年11月に「発信者情報通知サービスの利用における発信者個人情報の保護に関するガイドライン」を策定し、その周知に努めているところである(第3−3−9図参照)。

第3-3-9図 発信者番号通知サービス(NTT)のしくみ
(2) 電磁環境対策の推進

ア 医療機関等における携帯電話等の使用に関する指針
 携帯電話等の急速な普及に伴い、携帯電話等から発射される電波が医用電気機器の性能に与える影響について、電気通信事業者、関連工業会等、学識経験者、郵政省・厚生省を始めとする関係省庁で構成される不要電波問題対策協議会は、7年12月から検討を続けてきたが、9年3月、携帯電話の使用方法等について「医用電気機器への電波の影響を防止するための携帯電話端末等の使用に関する指針」を取りまとめた。また、本協議会等を通じ、関係団体や医療機関等に対して指針の遵守を依頼するとともに、リーフレット等を作成し、広く周知活動を行った。

イ 電波利用における人体防護の在り方
(ア) 「電波利用における人体防護の在り方」に関する答申
 郵政省は、携帯電話等の移動体通信の急速な普及に伴い、無線局から発射される電波が人体に与える影響に関しての疑問や不安に適切にこたえるため、「電波利用における人体の防護指針」(2年6月、電気通信技術審議会答申。以下、「電波防護指針」という。)をより具体化するとともに、今後の取扱いについて、8年11月に「電波利用における人体防護の在り方」について電気通信技術審議会に諮問を行い、9年4月に答申を得た。概要は、次のとおりである。
(局所吸収指針の制定)
 携帯電話端末等のように身体の極めて近くで無線機器を使用する場合、人体は局所的に電波を受けることになる。この場合の電波防護指針を具体化するため、新たに電波のエネルギーの身体への吸収量に関する指針である「局所吸収指針」を制定し、携帯電話端末等の指針として今まで使われていた「低電力放射源に関する指針」を廃止する。
(電波防護に関する規制の導入)
 最新の信頼できる学術的知見に基づく防護措置の確実な実施、新しく開発する電波利用システムの安全性の担保、諸外国における動向との整合性の確保、国民への安心感の醸成等を考慮すると、無線局等の電波利用施設から発射される電波からの人体防護に関し、一般国民の安全性を考慮した電波防護指針値に基づくべきである。ただし、身体の極めて近くで使用する携帯型等の無線機器については、測定法あるいは推定法の確立した段階で、各国における規制の実態を考慮したものとすべきである。
(今後研究を進めることが必要な項目)
 電波の安全性に関しては、動物実験等を含む各種の研究が行われており、電波防護指針を下回るレベルの電波で、がんを含めて健康への悪影響が生じるとの科学的な証拠はないというのが、国際機関等の専門家の見解である。しかしながら、本件は人体の健康にかかわる視点も含んでいるので、今後も動物実験等による遺伝子・がん・免疫系・神経系への影響等に関する研究を推進する必要がある。
(イ) 電波防護指針の運用の在り方に関する調査研究会等の開催
 上記の答申を受け、郵政省では、電波防護の充実強化とそのための制度の在り方を検討するため、9年10月、「電波防護指針の運用の在り方に関する調査研究会」を開催し、10年3月に報告を取りまとめた。
 また、電波による人体への影響に関しての国民の不安を解消し、安全で安心な電波利用社会の構築に資するため、9年10月、「生体電磁環境研究推進委員会」を開催し、電波の生体安全性評価に関する研究・検討を産学官が連携して推進することとした。期間は9年10月から5年程度とし、年度ごとに研究成果の評価を行う予定である。

ウ 不要電波の許容値等の規格化
 国際無線障害特別委員会(CISPR)で取りまとめられた勧告に基づき、電気通信技術審議会において、機器から発射される不要電波の許容値及び測定方法について審議が行われてきたが、郵政省は、9年9月、我が国固有の事情を勘案した国内規格について答申を受けた。本答申を受け、郵政省は、個別の機器を所管する関係省庁等に本答申を踏まえた技術基準の策定等を要請した。

(3) 移動電話利用のマナー啓発
 携帯電話等移動電話は、いつでもどこでも使える通信手段として急速に普及し、利用者の利便の向上に寄与しているが、一方、自動車運転中の利用の危険性や電車等公共交通機関での利用等の問題が生じている。
 このため、郵政省では、関係団体と連携をとるなどして、利用の際のマナーを盛り込んだリーフレットを作成するなど、マナー啓発に取り組んでいる。特に自動車運転中のマナーについて,郵政省では、8年9月から、携帯・自動車電話の安全な利用・操作方法等について調査研究を行うために「自動車と電波利用の在り方に関する調査研究会」を開催してきたが、9年6月、報告を取りまとめた。その概要は次のとおりである。
 運転中には携帯電話を使用しないよう運転者の意識の向上を図り、ドライバーのマナー意識向上に向け、関係者の連携による幅広い啓発活動を継続展開するとともに、携帯電話を含めたカーマルチメディアの今後の展開に向け、9年度からヒューマン・マシンインターフェース等の試験研究を実施している。

(4) 不法無線局対策
 電波利用の拡大とともに、免許を取得せずに開設・運用する不法無線局や、免許は受けているものの電波法に違反して運用している違法無線局が、重要な無線通信に妨害を与える事例を始め、不適正な電波利用による障害が多発している。
 このため郵政省は、不法無線局対策として、不法無線局の探査活動の強化、捜査機関との共同取締の実施を含め、不法無線局を取り締るとともに、不法無線局の未然防止対策として、周知啓発活動の強化や不法無線設備の製造販売の防止等に取り組んでいる。

ア 電波監視システム(DEURAS)の全国的整備
不法無線局探知車の実物(写真)
不法無線局探索車
 郵政省では、電波利用料を財源として、5年度から電波の監視及び規正並びに不法に開設された無線局の探査等を効率的・効果的に行うための電波監視システム(DEURAS:Detect Unlicensed Radio Stations)を整備している。
 9年度においては、遠隔方位測定設備(DEURAS-D:DEURAS Direction finder)を21地域に、遠隔受信設備(DEURAS-R:DEURAS Receiver)を7地域に、不法無線局探索車(DEURAS-M:DEURAS Mobile)を4台整備した(写真参照)。

イ 電波監視業務システム(MARKS)の整備
 郵政省では、電波の利用者等から寄せられる混信・妨害等に対する苦情申告を基に、不法又は違法無線局の調査、評定、措置等に係る事務処理を電子化するための電波監視業務システム(MARKS:Multipurpose Assistance system Radio monitoring worKS)、9年度には、すべての地方電気通信監理局に整備を行うとともに、MARKSをDEURAS及び総合無線局監理システム(PARTNER)とネットワーク化し、電波監視業務における情報支援能力の向上を図った。

ウ 宇宙電波監視施設の整備
 近年における静止衛星軌道及び周波数の使用状況等の高密度化とともに、我が国の衛星通信システムに対する混信発生等の問題も現実的なものとなってきている。
 衛星通信系に対応した電波監視システムを整備するため、9年度は関東電気通信監理局国際監視部(神奈川県三浦市初声)において宇宙電波監視施設を整備し、10年度からの業務の開始を目指している。

エ 電波適正利用推進員制度
 電波適正利用推進員(民間ボランティア)制度を9年度に導入し、周知啓発等の活動を通じて、地域社会の草の根レベルから電波利用環境の保護を推進する。10年度は全国に600人程度を配置する予定である。

(5) 周波数資源対策
 我が国においては、社会経済活動の発展、国民生活の向上、科学技術の進歩等に伴う電波利用分野の拡大とニーズの多様化により、移動通信の分野を中心にして周波数の需要がますます増加している。周波数のひっ迫と今後の需要に対応して、将来においても安定した周波数の供給を図るため、郵政省は周波数資源の開発を推進している。

ア 未利用周波数帯の開発
 技術上の理由からこれまで利用が困難であったミリ波(30〜300GHz)や光領域の周波数は、広い帯域を有し、将来の有望な周波数資源として期待されている。郵政省では、このような未利用周波数帯を利用可能とするため、ミリ波利用技術及び光領域周波数帯の利用技術について調査・検討を行っている。

イ 周波数ひっ迫対策のための技術試験事務
 急速な無線局数の増加により、周波数がひっ迫するために生じる混信、ふくそうの解消又は軽減を目的として、技術基準を制定するために、次のテーマについて技術的検討を行っている。
  [1]
利用が進んでいない高周波数帯(3GHz以上)を有効に活用するための技術
  [2]
伝送効率及び収容効率の向上により、既存の周波数を有効に利用するための技術
  [3]
他の無線局からの混信妨害を軽減又は解消することにより、周波数を有効に利用するための技術

ウ 周波数資源開発公募研究
 大学等の研究機関において研究が先行している周波数資源開発に係る研究テーマを公募することにより、周波数資源開発の一層の促進を図っている。なお、9年度においては、2件の公募を認めた。

(6) 西暦2000年問題への対応
 現在使われている各種情報システムでは、西暦を下二桁で扱う場合に、2000年を1900年と誤って認識する問題(西暦2000年問題)が発生するおそれがあるといわれている。
 この西暦2000年問題に対応するため、郵政省では、8年11月、「情報通信ネットワークの安全・信頼性に関する研究会」を開催し、9年3月に報告を取りまとめた。本報告において、情報通信ネットワークにおける西暦2000年問題発生の可能性及びその影響を明らかにするとともに、プログラムの修正等の主体となる電気通信事業者又はベンダー等への周知啓もうの推進等を行うことが重要であると提言された。
 

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