 第1章 デジタルネットワーク社会の幕開け 〜変わりゆくライフスタイル〜
 第1節 情報化の動向
 第2節 生活と通信
 4. 趣味・娯楽
 8. 地方行政サービス
 第3節 情報リテラシー
 第4節 サービスが抱える問題(ネットワークサービスを安心して利用できる環境の整備)
 第5節 デジタルネットワーク社会の実現に向けて
 第2章 平成9年情報通信の現況
 第1節 情報通信産業の現状
 第2節 情報通信経済の動向
 第3節 情報通信サービスの動向
 1. 国内電気通信料金
 第4節 通信料金の動向
 1. 国内電気通信料金
 第5節 電波利用の動向
 第6節 情報流通センサス
 第7節 情報通信と社会経済構造の変革
 1. 産業の情報化
 2. 地域の情報化
 第8節 海外の動向
 第3章 情報通信政策の動向
 第1節 高度情報通信社会の実現に向けた政府の取組
 第2節 高度情報通信社会の構築に向けた情報通信政策の推進
 1. 情報通信21世紀ビジョン
 第3節 第2次情報通信改革に向けた電気通信行政の推進
 第4節 放送政策の推進
 第5節 郵便局ネットワークの活用の推進
 1. 郵便局ネットワークの開放・活用による国民生活への貢献
 第6節 情報通信のグローバル化に対応した国際政策の推進
 第7節 21世紀に向けた技術開発・標準化の推進
 1. 情報通信の高度化・多様化を支える技術開発の推進
 第8節 宇宙通信政策の推進
 第9節 安全な社会づくりを目指す防災対策の推進
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第1章 デジタルネットワーク社会の幕開け〜変わりゆくライフスタイル〜
第2節 生活と通信
- 7. 医療・福祉
- (1) 一般的動向
ア 少子・高齢化の現状
我が国の65歳以上の高齢者人口は、総務庁の「人口推計」で見ると、1,902万人(8年10月1日現在)となっており、総人口(1億2,586万人)に占める高齢化率の割合は15.1%となっている。これを「平成7年国勢調査」(7年10月1日現在)と比較すると74万人、高齢化率0.5%の増加である。また、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(9年1月推計)」で今後の高齢化の推移を見てみると、27年(2015年)には65歳以上の高齢者人口は3,188万人、高齢化率は25%を超え、国民の4人に1人以上が65歳以上の高齢者という本格的な高齢化社会が到来するものと予測される(第1−2−63図参照)。
また、「平成9年版厚生白書」によると、寝たきりや痴呆、虚弱となり援護(介護や支援)を必要とする要介護者は、約200万人(5年)おり、12年には280万人、37年には520万人に増加することが予測されている。
一方、厚生省の「人口動態統計」(7年)によると、一人の女性が一生の間に生む平均子ども数は1.42人と過去最低を記録しており、先進諸国においても低い水準である。
イ 入院患者、外来患者、障害者の現状
厚生省の「患者調査」で推計入院患者と推計外来患者の推移を見てみると、それぞれ65歳以上が増加している(第1−2−64図、第1−2−65図参照)。
厚生省の「身体障害者実態調査」によると、現在、身体障害者の総数は294.8万人であり、年々増加している。また、障害の発生時点別で見ると、特に40から64歳の年齢層が多くなっている。
ウ 過疎地域の医療
「医療機関のない地域で、当該地区の中心的な場所を起点として、おおむね半径4kmの区域内に50人以上が居住している地域であって、かつ容易に医療機関を利用することができない地区」を「無医地区」というが、過疎地域における無医地区数や無医地区を有する市町村数は減少しているものの、過疎地域における無医地区はまだ多い(第1−2−66表参照)。
(2) 医療と情報通信メディア
ア 医療・福祉に対する住民のニーズ
郵政省の「動向調査(世帯)」によると、自宅で利用したい情報通信新サービスについて、「画面を通じて医師に健康相談したり診断を受けたりできる」が40.8%と最も多く、50から59歳で43.7%、60歳以上では55.3%と50%を越している(第1−2−67図、第1−2−68図参照)。
また、総理府の「暮らしと情報通信に関する世論調査」(7年1月)によると、21世紀のマルチメディア時代に向けたサービスの利用について、「在宅医療支援システム」が45.6%と最も高く、以下、「ビデオ・オン・デマンド」(24.6%)、「電子新聞」(19.6%)となっている。さらに、日常生活において不足している情報については、「健康・医療」が25.7%、「地元地域」が15.6%、「政治・行政」が14.7%となっており、医療に対する関心が高いことが分かる。
イ 地方自治体における医療・福祉分野のアプリケーション運用状況
9年11月、3,255市町村(東京都23区を含む)に対し行った「地域情報化に関するアンケート」によると、46.3%の地方自治体が緊急通報システムを運用しているのに対し、保健医療・福祉情報提供システムを運用している地方自治体は3.2%、遠隔保健医療・福祉支援システムを運用している地方自治体は0.9%しかない。しかし、これらシステムについて、2000年までに導入又は2000年以降に導入することを検討している地方自治体が、それぞれのシステムについて44.5%、36.8%となっており、必要性を強く感じているのが分かる(第1−2−69図参照)。
(3) 遠隔医療・在宅医療
ア 遠隔医療の経緯及び現状
情報通信を活用した遠隔医療は、医療の地域間格差等を是正するため、昭和40年代から、実験が行われてきた。遠隔医療の定義及び範囲は厚生省の遠隔医療研究班が9年3月に取りまとめた「総括班最終報告書」によると、「映像を含む患者情報の伝送に基づいて遠隔地から診断、指示などの医療行為及び医療に関連する行為を行うこと」とされている。そして、近年の情報通信の発達により、伝送速度の高速化、映像の高精細化が可能となり、新たな医療の可能性が生まれた。また、9年12月、厚生省では、「情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について」という通達を出し、遠隔医療についての基本的な考えを示した。それによると、「遠隔診療はあくまで直接の対面診療を補完するものとして行うべきものである。」としている。なお、日本における遠隔医療の事例数は195件に及ぶ(第1−2−70表参照)。
イ 在宅医療の経緯及び現状
在宅医療は、テレビ電話や専用の端末を用いて、血圧、脈拍、心電、体重等の測定を行い、そのデータを通信を用いて伝送することにより、これらのデータを基にして健康相談を受けたり、退院後の患者の在宅での療養の支援を行っている。主として患者宅において適切な医療提供を行い、可能な限り患者の精神的・肉体的な自立を支援し、患者とその家族の生活の質の向上を図ることを目的としている。4年には医師法において在宅医療が法律上明らかにされ、6年には健康保険法において在宅医療が療養の給付として法律上位置づけられるなど、在宅医療について施策が講じられてきた。
ウ 先進的な活用事例
(ア) 遠隔医療診断等のための移動体衛星通信活用技術に関する研究開発
7年度から、信州大学医学部付属病院の松本リサーチセンターと衛星通信移動検診車との間で通信放送技術衛星(COMETS)を介した高精細医用画像データの伝送実験等を実施しており、へき地医療の高度化に必要な通信システム及びアプリケーションの研究開発を実施している。
(イ) 高臨場感眼科医療画像伝送技術の研究開発
眼科の分野に関する高臨場な手術映像等の伝送は、まだ実用のレベルに達しているとはいえない現状であるので、眼科医療画像の特殊性を活かした、3D医療画像に適した圧縮技術の研究と、高臨場感を実現するための映像表示技術の最適化に関する研究開発を、9年度から旭川眼科画像リサーチセンターで行っている。
(ウ) 都立広尾病院の取組
都立広尾病院は、伊豆諸島9島、小笠原諸島2島の基幹病院として位置づけられていることから、4年から、これらの島への医師の派遣を開始した。以前は、島の医師と広尾病院との間で、患者の治療方法についてディスカッションするときには、電話を使ってレントゲン写真の様子を伝えたり、ファクシミリでレントゲン写真を送付していた。しかし、情報通信機器や回線の進歩により、画像転送が可能となり、6年10月から公衆回線を使用し、都立広尾病院の救急救命センターと伊豆七島・小笠原諸島全地域の医療機関11か所を結んで、24時間体制で、画像転送とコンサルテーションを行うシステムを構築し、遠隔医療診断を行っている。CT画像、単純レントゲン写真、超音波画像等のやり取りをしており、CTスキャン以外はすべての診療所に設置されている。これらの画像は、島の医師が広尾病院の医師に相談するときに伝送されるほか、島では処置できない患者を、広尾病院に搬送させるときなどの補助資料として伝送される。現在、月に10例程度の画像が伝送されている。こうした画像転送により、専門医の診断が行われ、緊急搬送を回避できた事例や、危険な夜間の搬送を避け、翌朝まで現地で管理できた事例がある。
(エ) サイバークリニック(インターネットで医療相談)
医療機関がインターネット上にホームページを掲載し情報発信したり、電子メールで医療相談を行うなど、医療分野におけるインターネットの利用が進みつつある。ホームページの内容には、 [1] 医療機関が患者や一般市民向けに自らの情報を提供するもの、 [2] 医療機関が一般市民からの医療相談を受け付けるもの、 [3] 医療機関が、医療関係者や研究者に情報の提供を行うもの、 [4] 個人や民間企業が様々な医療機関を紹介する「サイバークリニック」の運営を行うもの、がある。
(オ) 郵政省における遠隔病理画像診断の実験事例
郵政省では、9年度において、遠隔地からの顕微鏡操作等による術中迅速病理診断システムを用い、画像の種類、画質及び操作性並びに通信回線の種類による診断への影響を調査するため、実験を行った。
東京逓信病院と横浜逓信病院との間を公衆回線INS(64kbps及び1.5Mbps)で接続し、診断の依頼側の横浜逓信病院において、標本の動画像を伝送するためのCCDカメラ付きの顕微鏡(対物4倍、10倍及び20倍のレンズ)を使用する。東京逓信病院の病理医の音声指示に従い、横浜逓信病院から動画像を伝送し、特定した病変部の静止画像により病理医が診断を下す実験を行った。
その結果、顕微鏡の対物レンズが20倍以上で、384kbps以上の伝送速度の公衆回線を使用すれば、診断を行う上で十分なレベルの画質が得られ、診断所要時間も適性であり、診断結果の正診率はほぼ100%であった。
エ 効用と課題
(ア) 効用
専門的な医療をすぐに受けることが難しい過疎地の人々や、通院が困難な在宅の高齢者にとって、遠隔医療が可能となることで、医療の地域間格差を是正し、患者の無駄な搬送を避けるなどの医療の効率化が図られるメリットがある。また、在宅医療により、通院の労力から解放され、健康で安心して暮らせる生活が実現する。さらに、より専門的な分野の医師からの診療を得ることが可能となり、場合によっては、海外の医師からの診療も可能となる。
(イ) 課題
遠隔医療ではより鮮明な画像をより早く伝送するための通信インフラの整備、画像を送受信する機器の解像度や操作性の向上が不可欠となっている。その他、患者のプライバシー保護や患者情報の保護が必要である。また、厚生省が9年6月に取りまとめた「21世紀初頭に向けての在宅医療について」によると、在宅医療の目的を達成するためには、在宅医療に適合した医療提供体制及び医療保険制度の整備に加え、患者を中心とした関係者の密接かつ自覚的な連携による効率的なシステムの構築が必要である。
(4) 高齢者・障害者福祉
ア 情報通信メディアの高齢者への普及の現状
過去3年間の60歳以上の情報通信機器の保有状況を見てみると、7年度と比較して9年度には、携帯電話は4.9倍、PHSは44.0倍、パソコンは2.4倍、ファクシミリは1.4倍と、高齢者においても情報通信機器が急速に普及している(第1−2−71図参照)。
イ 先進的な活用事例
(ア) シニアパソコン通信学習教室
(教室の概要)
郵政省、厚生省、金沢市(石川県)等が7年度から共同で実施している「情報長寿のまちづくり」モデル実験の報告によると、パソコン通信が高齢者間の交流などの生きがいの創造に効果が高いことがわかり、9年度からは、本格的に地域の社会福祉施設で高齢者向けのパソコン通信学習教室を開催している。教室は週1回、1サイクル12回で、1期の参加人数は5人である。9年度は前期、後期合わせて20人が受講しており、10年の後期まですでに予約で一杯とのことである。12回の講義のうち8回は専門の講師であるが、残りの4回は過去の参加者との交流会を行っている。なお、講師も高齢者であり、高齢者同士が気軽に教え合い、コミュニケーションを深めながら学べるようカリキュラムが組まれている。
(利用者の反応)
金沢市在住のAさん(女性)は兼六園の歴史や自然を研究する市民グループ「兼六園研究会」のメンバーで、7年11月から、パソコン通信のモデル実験に参加し、本格的にパソコン通信を開始した。最初は、「兼六園花だより」を電子掲示板に掲載していたが、大きな反響をよび、市のホームページでも紹介されるようになった。現在は、1日2、3通の電子メールが届き、そのメールを見て、返事を出すことが楽しみで、夕食後の日課となっている。そのため、以前に比べて睡眠時間が減ってしまったが、生活に幅ができ、パソコン通信・インターネットなしの生活は考えられないという。
(イ) 視覚障害者支援
東海電気通信監理局では、9年8月から、電波を利用して視覚障害者に情報案内や安全喚起ができるシステムの研究及び実現方策の検討を行うため、「視覚障害者を支援する情報通信システムに関する調査研究会」を開催しており、10年3月に報告を取りまとめた。本研究会では、実際に視覚障害者が携帯している小型ビデオカメラで見た映像を、他の場所にいる介護者が見て判断し、PHSで指示を行う実験を駅構内で行った。
(ウ) 視覚障害者用音声アシストシステム
信越電気通信監理局では、8年度から視覚障害者が切望している盲導犬の不足を補完し、視覚障害者の行動を支援するための電波利用システムとして、位置情報や安全情報等をFM波を使い、ラジオ受信機で受信する「視覚障害者用音声アシストシステム」の調査研究を実施している。なお、調査研究では、システムを視覚障害者だけでなく、聴覚障害者等の障害者や高齢者、在日外国人も利用可能とする研究を引き続き行うこととしており、文字多重情報を「見えるラジオ」に提供するシステムを開発し、実用化に向けた実験を実施する予定である。
(エ) 障害者の自立生活情報室
障害者にとって必要な情報がばらばらに存在し、どこに必要な情報があるかわからないといったことがある。例えば、コンサートや映画に行くとき、その会場の障害者用エレベーターやトイレの有無、駅の障害者用エレベーターの有無などの情報が必要となる。そのためにも、障害者自らが情報を収集し、情報を発信することが必要である。
「わかこま・自立生活情報室」は、八王子市(東京都)から障害者関係の情報発信を行っている団体で、5人(うち障害者が4人)のメンバーで運営されている。障害を持つ自分を見つめ直し、自信の回復や良い人間関係を形成し自立に近づくことを目指し、自立したいと願う障害者に、独立した生活を始められるまで援助したり、障害者にとって必要な情報を提供している。情報室では、初心者向けのパソコン教室を行ったり、パソコン通信やインターネットを活用して、情報を収集している。また、情報提供にあたっては、障害者の立場に立って、障害者の自立生活を支援し、生活に役立つ正確な情報を提供することを基本としている。
ウ 効用と課題
(ア) 効用
テレビ電話やパソコン通信、インターネットを活用することにより、高齢者や障害者の自立を支援したり、生きがいの創造など、生活の質の向上をもたらすこととなる。また、仕事や社会活動を促進させることが可能となる。
(イ) 課題
情報通信機器の進歩は激しく、使える者と使えない者の格差が生じやすい。高齢者や障害者が満足した生活を送り、また社会参加を果たしていくためには、誰でもが等しく情報通信を利活用できるような環境を整備することが不可欠である。ハード、ソフトともわかりやすさ、見やすさ、聞きやすさ、使いやすさに考慮し、高齢者・障害者が扱えるデザインや技術の開発、また、困ったときに助けることができるサポート体制の充実も必要である。
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