昭和53年版 通信白書

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4 情報提供サービスの動向

 電気通信手段を使って,商品価値のある情報を広く不特定多数の顧客に提供するサービスとして従来からテレホンサービスがあり,電話普及率の高い欧米諸国では市民生活の中にすっかり溶けこんできているが,近年のデータ通信技術や画像通信技術の著しい発展によりテキスト通信用の新しい情報メディアが出現するなど1980年代に向かって情報提供サービスも大きく変わろうとしている。

(1) テレホンサービスの現状

 電話による案内サービスが世界で最初に行われたのは米国で,1927年に行われた「時報サービス」が最初のものであった。米国では,ほとんどの案内サービスはTAS(Telephone Answering Service)という代理応答サービス会社が行っており,ニュース,株式市況をはじめとしておとぎ話サービス,目覚ましサービスに至るまできめ細かい各種のサービスが行われている。電話会社は電話回線,自動応答装置などの設備だけを提供しており直営のテレホンサービスは時報や天気予報などの一部に限られている。
 英国では,自動応答装置を自営で設置することは認められているが,録音内容に厳しい制限が加えられており自営のサービスは行われていない。郵電公社が行っているサービスも時報サービスなどを除きサービスが提供される地区はロンドンなどの大都市に限られている。
 西独では,録音再生装置接続料さえ払えば自由に加入電話に録音再生装置を接続することができるが逓信省で実施しているサービスが充実しており,自営で行っているものは人手不足を補う程度のもので,極めて小規模である。
 なお,直営サービスのサービス情報は外部の機関に委託しており,情報の提供先に対しては利用度数に応じた料金を支払っている。
 一方,フランスでは加入者による自営サービスが主体であり天気予報サービスは気象庁が,ニュースサービスはフランス国営放送が行う形式をとっている。テレホンサービスの提供主体は国家機関や大きな団体であり,電話回線,自動応答装置は専用のものを用いている。
 また,その他の国々の状況をみると,スイスでは自営テレホンサービスは郵電庁のサービスと競合しないことが認可条件の一つとなっており,内容の規制も行っている。特徴としては利用者は通常電話料金の倍額を払わなければならないことであり,イタリアでも人の応対によるよろず案内的サービスの料金は通常通話料の4倍にしているなど情報料の概念がみられる。
 テレホンサービスの内容もバイオリンの音律調整のためのイ調音を聞かせるサービスや馬市せり情報,庭園散水制限情報等その国柄,都市の状況によってそれぞれの特色を持ったサービスが行われている。

(2) データ・バンク・サービスの現状

 豊富な情報を迅速かつ適切に収集し,それを効率的に利用することにより,情報化時代における諸活動を適切かつ効率化していくための手段として,データ・ベース・システムを利用したデータ・バンク・サービスが出現しつつあり,我が国においても近年,経済情報や科学技術情報を中心としたサービスが行われるようになってきた。一般にデータ・ベース・システムの制作はその重要性に比べコスト・パーフォーマンスが低く,また技術的にも高度,困難である場合が多いところから情報化先進国においても米国を除いて十分に発達しているとは言えず,むしろ各国ともデータ・ベースの基礎となる各種データの整備が当面の課題であるとも言える。
 米国では政府機関などによるソース・データの作成提供に始まり専門化された数多くのデータ・ベース提供者と,これを利用者に運んで提供するデータ・バンク・サービス業者があり,ほぼ一貫した分業体制によるデータ・ベースの流通機構が確立されている。ここではデータ・ベース提供者はデータ・バンク・サービス業者からロイヤリティ料金を,利用者からは加入料金を受け取り,データ・バンク・サービス業者は利用者からコンピュータ・リソースの使用料金と通信回線使用料金等を取るのが一般的である。
 現在のところ,データ・バンク・サービス市場のうちバッチ型が80%を占有するとも言われており,オンライン型への移行傾向があるものの原情報についてはオンラインでカバーしきれないものがあり,提供者,利用者ともオンライン,オフライン両方式を効率的に使い分けて利用することになるものと推測される。
 一方,ヨーロッパ諸国においては,各国とも政府関連機関を通じて,その研究開発に多方面からの経済的補助を与えている。しかしオンラインを使用してサービスを提供しているものは数少なく,ほとんどが電話又は印刷物による提供を行っているのが現状で,主管庁指導型をとり基礎データの整備に力を入れているのがヨーロッパの段階である。
 西独では各種大規模プロジェクトを遂行するためには,その基盤となる情報をいかに整備するかが重要な要素であるとの認識から情報ドキュメンテーション計画(IUD計画)を推進しており,公共的データ・ベースに対しては開発,維持運営費の全額を政府負担とし,個別的なものについては重要性に応じて40〜50%の補助を行っている。
 フランスでも国立科学技術情報局(BNIST)を中心に農業,化学,生物医学等の各種分野における専門情報センターを電子計算機によって有機的に連携させるためのネットワーク化を推進している。
 ヨーロッパの情報提供者の抱える問題は広域サービスの必要性からくるデータの数か国語翻訳の課題であり,回線サービスの料金体系及び規制条件の相違からくる問題であるが,ユーロネット(EURONET)の推進など意欲的な試みがされている。
 ユーロネットは,ヨーロッパの郵政事業との調和を図りつつ,米国のNISのヨーロッパへの進出に対し,科学技術情報の流通という機能を通じてヨーロッパ独自のネットワークを形成することと,約100種類のデータベースの共同利用を推進している点が注目されている。
 なお,米国における主なデータ・バンク・サービスは第1-2-23表に示すとおりである。

(3) 新しい情報メディアの動向

 マイクロプロセッサをはじめとする技術革新の進展に伴なって,英国のビューデータ(VIEWDATA)やテレテキスト(TELETEXT)等にみられるように,個別情報を企業レベルにとどまらず広く一般家庭の利用者に提供する情報メディアの開発がヨーロッパ諸国を中心に活発に行われている。
 この種のサービスは,一般家庭に普及したテレビ受像機にアダプタを付加して文字や図形などによる個別情報を提供するもので,家庭にいながらにして,ニュース,スポーツ結果,商品市況,株式市況,学習プログラム等の好みの情報をいつでも手に入れることができるため,今後かなりの発展がみられるものと予想されている。
 ビューデータやテレテキスト等,この種の技術はもともとテレビ放送でろうあ者のために字幕スーパーを表示し公共の福祉に資することに端を発しており,広く諸外国において研究,実用化が進められてきた。
 これには,空中波を利用した放送系システムであるテレテキスト(TELETEXT)と,電話網を利用した電話系システムであるビデオテックス(VIDEOTEX)とがあり,国際電気通信連合(ITU)の場においても,有線系と無線系との互換性(コンパチビリティ)等について審議が始められている。
 我が国では,放送系のシステムが文字多重放送として,有線系のシステムがキャプテン・システムとしてそれぞれ調査,研究,開発が進められているが諸外国におけるこれらのサービスの開発動向等は第1-2-24表のとおりである。
 放送系システムとしては英国のシーファックス(CEEFAX)が最初であり,1972年に英国放送協会(BBC)によって発表され,翌1973年には英国独立放送協会(IBA)もオラクル(ORACLE)を発表した。当初その方式に相違がみられたがテレテキストとして方式が統一され,それぞれ1974年,1975年から実験放送が行われている。
 これは,テレビ画面への全面表示とスーパー表示の機能を持っており,1画面は最大40字×24行の960字で構成され,カラー表示が可能である。番組のページ数は最大800ページとなっておりニュース,天気予報,道路交通情報等のサービスが提供されている。
 西独においては放送界と新聞界がそれぞれ英国の方式を導入しビデオテキスト(VIDEOTEXT),ビルトシルムツァイトウンク(BILDSCHIRMZEITUNG)と名付け研究開発を進めている。
 これに対し,フランスでは,テレビ電気通信共同研究センタ(CCETT)が多重化の方式であるディドン(DIDON)と映像化の方式であるアンティオープ(ANTIOPE)を開発しており,1977年5月からパリの証券取引所の株式情報等を提供する実験放送を行っている。この方式は本質的に英国のテレテキストと異なるものではないが放送系と電話系のコンパチビリティを最初から考慮して進められておりヨーロッパでのもう一つの注目すべき方式となっている。
 一方,電話系システムとしては英国郵電公社(BPO)のビューデータが最も進んでおり,1976年1月から実験を開始し1978年6月からはロンドン,バーミンガム,ノーウィッチの3地区で1,500端末を対象に試行サービスを開始している。この結果を見た上で,1979年4月から公衆サービスを開始する予定である。
 このシステムの概要は第1-2-25図のとおりであり,センタに蓄積された各種情報(ニュース,天気予報,スポーツ,株式市況等)を一般家庭のテレビ受像機に付加したアダプタを介して検索し,テレビ受像機に表示するサービスである。顧客は,電話をダイヤルしてサービスセンタを呼び出した後,附属のキーパッドを用いて希望するページを順次検索することが可能であり,テレビ受像機には1ページ最大40字×24行の960字がカラーで表示される。一方情報素材提供者は編集用キーボードでテレビ受像機の画面を見ながらページの編集を行い,直接情報ファイルの更新をすることができる。現在,情報素材提供者は約150社に上っておりプレステル(PRESTEL)(注)に積極的に情報素材の提供を行う体制を確保するなどの協力が進められている。
 また,加入者が郵電公社に支払う料金はページ索引料(1/2ペンス/ぺ一ジ)と電話料で,情報素材提供者へは情報の内容に応じて0〜数十ペンスの情報料が支払われることになっており,情報素材提供者は郵電公社に加入料(250ポンド/年),ファイル料(1ポンド/年・ページ)と編集用キーボード借料(400ポンド/年・台)を支払うことになっている。
 英国はこのシステムの海外への売り込みにも力を入れており,西独ではこれを導入してビルトシルムテキスト(BILDSCHIRMTEXT)とし,1980年から2,000端末の規模で実験を行う計画を推進している。
 一方,フランスでは郵電省通信研究所(CNET)で音響カプラを利用したティックタック(TICTAC)を,テレビ電気通信共同研究センタ(CCETT)ではアンティオープによるティタン(TITAN)をそれぞれ開発しており,この二つの方式のどちらを採用するかについて検討が進められている。

第1-2-23表 米国の主なデータ・バンク・サービス

第1-2-24表 諸外国における画像情報サービスの動向(1)

第1-2-24表 諸外国における画像情報サービスの動向(2)

第1-2-25図 ピューデータ・システムの構成

 

 

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