昭和53年版 通信白書

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3 今後の課題

 我が国は,政府開発援助の対GNP比が他の先進国に比較して低すぎるとの批判にこたえるため,政府開発援助を今後3年間に倍増する方針を公表している。したがって,通信・放送分野においても,この国策に沿って,国際協力を更に一層積極的に推進してゆかなければならないが,そのさい,特に次の点に留意しなければならない。
 通信・放送開発の基本的特性は,ハードウェアとソフトウェアを結合させた高度の技術と長期にわたる多額の資金とを必要とする全国的規模のシステムを作り上げて運用することにある。これは,計画の策定からシステムの設計,入札,施工,施設の運用・保守,技術者の養成に至る過程を経て実現されるものである。これを国際協力の側面からみると,政府ベースでの専門家調査団の派遣,研修員の受入れなどの技術協力と円借款などの資金協力を有機的に組み合わせ,更に民間ベースでの協力も活用して推進することにより,はじめて効果的に実現されるものである。実際に,開発途上国ではこのような有機的かつ一貫した協力を求めている。しかし,我が国の場合,特に通信・放送の分野では,このような協力を推進する体制が必ずしも十分に確立されていない現状である。したがって,今後,通信・放送分野における国際協力を推進してゆくとすれば,このような観点からの協力体制の整備と強化が必要であり,具体的には次の諸点に配慮してゆく必要があろう。
 第一は,通信・放送開発プロジェクト発掘活動の強化である。我が国が今後政府開発援助を積極的に展開するとなれば,まず開発途上国の開発計画に対する資金協力の拡大が想定されるが,これを実行するためには,具体的な協力案件の手持の増大を図っていく必要がある。そのためには,適切な新規プロジェクトの発掘に積極的に努めなければならない。通信・放送分野においても,コンサルタントを活用し,コンサルタントが行う事前調査に政府補助を行うなどして活動の強化を図っていく必要がある。
 第二は,施設の運用・保守に関する協力体制の確立である。開発途上国では,通信・放送施設が完成しても,これを運用し,保守していく技術者が少ない。このため,最近特に大規模プロジェクトを進めつつある産油国等では運用・保守についての協力が必須となっている。運用・保守については,比較的長期間多数の要員が必要となるが,通信の場合,現地でその指導に当たりうる人材が非常に少ないのでこのような人材の育成,確保が急務となっている。したがって,今後,政府補助など積極的な助成を行って運用・保守の協力体制の確立を図っていく必要がある。
 第三は,海外からの技術研修員受入れ体制の整備,強化である。開発途上国の通信技術者に対する技術研修は,途上国の人材養成に貢献するところが大きい。我が国では,これらの研修は,その技術的特性から,郵政省のほか,電電公社,国際電電,NHK,民間放送,その他通信関係メーカーの協力を得てそれぞれの自社職員のための訓練施設などを利用して行っている。このため,研修はこれらの施設があいている期間に限定されるなどの制約が多く,集団コースの増設等も難しい実情にある。また,このほか,資金協力の進展や我が国機器の導入に伴う新技術習得のための個別的,長期的な研修需要も増加してきているが,現在の体制が集団研修主体となっているため,これらの需要に適切に対応することが難しい状態にある。このような動向に対処し効果的な研修受入れ活動を行っていくためには,現在の研修体制の見直しと長期展望に立った研修体制の整備が必要である。

 

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