昭和53年版 通信白書

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1 新しいデータ通信網の動向

(1) データ通信システムとネットワーク・アーキテクチャ

 従来のデータ通信システムは,コンピュータを中心とし,これに多数の端末が専用線を通じて接続される形式のものが大部分であった。しかし,コンピュータが広い分野に普及し,社会活動が多様化してくるに伴い,一つの端末で多数のコンピュータと通信したいとの要望が出てきており,また,利用範囲の拡大に伴い低トラヒックの端末の需要が増加してきている。更に,分散設置された複数のコンピュータを結合してより高度のシステムを構成するいわゆるコンピュータネットワーク形成の動きが盛んとなっている。
 すなわち,オンラインシステムの普及,システム規模の大形化,業務内容の多様化,高度化は中央処理装置への負荷の増大やソフトウェアの複雑化ぼう大化をもたらし,従来の集中形システムでは,システムの拡張,変更に融通性がとぼしく,データ処理機能の効率的活用が難かしくなってきた。
 また,半導体技術の進歩により超LSI,マイクロプロセッサ等が出現し,ハードウェアの価格は急激に低下するとともに,今まで言われてきたグロッシュの経験則(計算機の処理能力は費用の平方に比例する)も成り立たなくなってきた。このようなことから特にコンピュータ資源の共同利用やシステムの拡張性の向上を目的として,データ処理機能を分散してシステムを構成する分散処理形システムへの傾向が強まってきており,通信制御処理装置,インテリジェント端末等プログラム制御機能を持つ装置類に機能を分散する階層分散方式やセンタを分散させ計算機間結合を行う方式が実現されている。これに伴い,データ通信システムはしだいに広範囲にネットワーク化される動向にある。
 これらのことから,交換網利用のデータ通信システムへの期待は今後ますます高まるものと予想され,電電公社ではDDX網を,また国際電電ではVENUS計画を導入すべく準備が進められている。
 このため,センタ・回線・端末から構成されるデータ通信網の各構成要素の機能を明確化し,それらの要素間のインタフェース,通信規約(プロトコル)を定めて相互通信を可能としてデータ通信網の最適化を図るネットワークアーキテクチャの開発が重要な課題となっている。このような情勢を背景として,内外のコンピュータメーカが相次いでネットワークアーキテクチャの構想を発表している。これらの内容をみると,階層分散方式やハイレベルデータリンク制御手順の採用等基本的概念の面では共通しているが,それぞれ個別に開発されているものであり,今後予想される異機種システム間通信の要望の増大に対処するためには,これら各社のネットワークアーキテクチャ間の整合を図ることが望まれる。
 この具体的な動きとして,電電公社では,ディジタルデータ網の効率的な利用も考慮したDCNA(Data Communication Network Architecture)と呼ばれる汎用ネットワークアーキテクチャの開発をメーカ各社との共同研究により進めており,52年度末に次のような特徴を持つDCNA仕様第1版を完成している。
[1] 異機種コンピュータ及び端末相互間で資源の共用が可能である。
[2] DDXの異速度端末通信,多重通信等の通信処理機能を有効利用できる。
[3] 専用線及び公衆網によるネットワークの双方に共通に使用できる。
[4] 既存端末及び新規端末等を統一的な思想に基づき処理可能とする仮想端末仕様を持つ。
 更に郵政省では,国家的見地から国際通信網も含めた「汎用コンピュータ・コミュニケーション・ネットワーク・プロトコル(CCNP)」の開発を52年度から進めている。これは,DCNA等を広く国家的立場から検討し,国際通信網との接続等も考慮した標準的なプロトコルの確立と普及を目指したものである。

(2) 新しいデータ通信網

 交換網を利用するデータ通信についてみると,既設の電話網や加入電信網は,データ伝送の場合接続品質,伝送品質上の制約があり,通信速度についても限界がある。そのため,高速,高品質で今後の多彩かつ高度なサービスを効率的に提供できるディジタルデータ交換網の開発が必要とされ,電電公社を中心に実用化が進められてきた。
 このディジタルデータ交換網は,44年度から検討が開始され,DDX-1,DDX-2が試作され,回線交換方式について東京,横浜,名古屋を結び試験が行われた。
 この試験の一環として,東京大学と京都大学間を結ぶ異機種コンピュータ間通信の実験も行われ,良好な結果を得た。またパケット交換方式についても所内試験機TL2が試作され,機能確認が行われた。これらの成果をもとに,54年のディジタルデータ交換網の商用サービス開始を目指して準備が進められている。
 一方,諸外国においても,新しくディジタルデータ交換網を建設する動きが活発となっており,既に商用に供している国もある。このような状況に鑑み,国際電電においてもパケット交換を主体とするディジタルデータ交換網(VENUS)の導入計画が進められている。
 この準備段階として,国際電電では51年度に試作したパケット通信処理システム(プロトコル・マシン実験システム)を用いて,引き続き国際データ通信網を建設するための各種プロトコルの研究を進め,52年度には,第1ステップとしてCCITT標準ネットワーク・プロトコルを採用したTSSサービスの検証を行った。この成果を踏まえ,国際電電では,VENUS計画の一環として「国際コンピュータ・アクセス・サービス」(ICAS)を53年度中の実施を目途に準備を進めている。
 このような新しいデータ通信網技術に関する国際標準化作業は,CCITT(国際電信電話諮問委員会)において重要かつ緊急を要する課題として審議されており,我が国もこの標準化作業に積極的に参加し,研究の成果を発表するなどの寄与を行っている。51年には,X.25をはじめデータ通信網に関するいくつかの重要な勧告が採択されたが,その後も各勧告の整備,新しい勧告の審議等データ通信網の充実に向けて積極的な検討が行われている。

 

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