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第1部 特集 「スマートICT」の戦略的活用でいかに日本に元気と成長をもたらすか
第1節 新たなICTトレンド=「スマートICT」が生み出す日本の元気と成長

(2)新たなICTトレンドによって変わる事業活動

ア 国内外におけるO2Oの動向

我が国でも2011年頃よりO2O(オーツーオー)というワードが各種メディアに取り上げられる機会が増えている。例えばGoogleにおける検索頻度においても米国では2009年9月頃より、国内においては2011年8月頃より検索され始めている。(図表1-1-3-13)。本項では近年新しいマーケティング手法として注目を集めているO2Oについて、国内外の動向を取り上げる。

図表1-1-3-13 Googleにおける「O2O」の検索頻度39
(出典)総務省「O2Oが及ぼす企業活動の変化に関する調査研究」(平成25年)
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(ア)O2Oの概要

O2Oとは、ネット店舗やソーシャルメディア等の「Online」側と、実際の店舗を示す「Offline」側の購買活動が相互に連携・融合し合う一連の仕組・取組のことを指す(図表1-1-3-14)。かつては「クリック・アンド・モルタル(Click and mortar)」と呼ばれ、実店舗とネット店舗の各々を企業が運営するビジネス手法のことを主に指していたが、徐々に実店舗とネット店舗の仕組を融合するようになり、それがO2Oと呼ばれるようになった。

図表1-1-3-14 O2Oのイメージ

一方で、O2Oはかつて米国グルーポン社などが始めたネットクーポン等の実店舗への誘引施策が日本にも入ってきた経緯があるため、「O2O」と単に言う場合はスマートフォン等によるクーポン配信など「Online to Offline(ネットからリアルへの誘引)」のみを指すことが多い。しかし、インターネットやスマートフォン等の普及に伴い、ユーザーがいつでも身近にインターネットと繋がるようになったことで「Offline to Online(リアルからネットへの誘引)」の仕組も相互に融合し、両者の販売チャネルの境目がなくなってきた意味が大きい40

(イ)スマートフォン等の普及に伴うO2Oの加速

このようなO2Oの動きが、スマートフォン・タブレット端末の急速な普及を背景に進んでいる。世界の電子商取引市場は、米国調査会社によると2012年に1兆ドルを突破し、2013年には1兆3,000億ドル規模になると予測41されており、米国においても2012年の3,400億ドルから2013年3,800億ドルに拡大することが見込まれている。我が国においても、2011年の市場規模は約1,128億ドル(約11兆円42)で世界第3位の規模となっており、2013年には約1,404億ドル(約13.8兆円)まで成長する見通しである(図表1-1-3-15)。

図表1-1-3-15 世界の電子商取引市場規模(世界上位5か国)
(出典)米国イーマーケッター推計資料

また、国内の実店舗・ネット店舗それぞれの利用者の顧客行動を見てみると、ともに7割以上が商品の購入時に実店舗(Online)・ネット店舗(Offline)双方の情報を確認しているとの調査結果もある(図表1-1-3-16)。このことから、実店舗とネット店舗の垣根が無くなり相互に顧客が行き来する顧客行動が広く浸透しつつあることが見て取れる。

図表1-1-3-16 国内における実店舗・ネット店舗における顧客の購買行動
(出典)東急エージェンシー「O2O買い物行動レポート」2013/1/9

このような顧客行動の変化は、スマートフォンやタブレット端末でいつでもどこでも多くの情報のやり取りが可能になり、実店舗にいても容易にネット情報の確認が可能になったためである。ここで、総務省の通信利用動向調査でスマートフォン・タブレット端末の普及状況をみると、世帯保有率についてはスマートフォンが平成23年末の29.3%から平成24年末には49.5%に、タブレット端末が平成23年末の8.5%から平成24年末には15.3%に上昇している。また、端末別インターネット利用(人口普及率)についても、スマートフォンが平成23年調査の16.2%から平成24年調査では31.4%に、タブレット端末では平成23年調査の4.2%から平成24年調査では7.9%に上昇している(図表1-1-3-17)。本節第1項(2)で述べたように、民間調査機関の予測では、フィーチャーフォンからスマートフォン、パソコンからタブレット端末への移行が急速に進むことが予測されており、今後もこの顧客行動は更に広く浸透していくことが予想される。

図表1-1-3-17 主な情報通信機器の世帯保有状況・個人の利用状況
(出典)総務省「平成24年通信利用動向調査」
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(ウ)スマートフォン等の普及に伴う広告市場の変化

我が国における広告費においてはテレビ・新聞・雑誌・ラジオのいわゆる4大マス媒体と比較し、インターネット広告費が顕著に増加しており(図表1-1-3-18)、特にスマートフォン向け広告市場は拡大傾向が続き2017年には2,213億円と、2012年の856億円から約2.5倍の拡大が見込まれている(図表1-1-3-19)。

図表1-1-3-18 日本における媒体別広告費推移
(出典)電通「日本の広告費」
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図表1-1-3-19 日本におけるスマホ広告市場予測
(出典)2013/3/5 CyberZ発表・シード・プランニング調べ

一方で、スマートフォンの登場により広告手法にも変化が起きている。スマートフォンが登場し、パソコンサイト向けのバナー広告等もモバイルで閲覧できるようになり、モバイルとパソコンの区別がつきにくくなり境界線が曖昧になってきている43

また、フィーチャーフォン中心の時代では画像バナーやテキスト広告が中心だったが、スマートフォン中心の時代になり、スマホアプリで販促を行う企業が増えている。その結果、これまで広告費だったコストが徐々にアプリの開発やクーポン費用として販売促進費にシフトしつつあり、広告費と販売促進費の境界もスマートフォンの登場により曖昧になってきている。

加えて企業における今後の広告への見通しも、ソーシャルメディア広告の増加見込みが顕著に高い傾向であり、新しい媒体でもあるソーシャルメディアに対する期待度の高さがうかがえる(図表1-1-3-20)。

図表1-1-3-20 企業における広告メディアの利用見通し
(出典)総務省「ICT分野の革新が我が国社会経済システムに及ぼすインパクトに係わる調査研究」(平成25年)
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(エ)米国におけるO2Oの動向

A 米国におけるOffline to Online

米国ではOffline to Onlineの流れを受けて、ネット店舗(Online側)のAmazonと、ウォルマート・ベストバイ等をはじめとした実店舗(Offline側)の顧客争奪戦が熾烈さを増している。

そういった中で、ネット通販で世界最大手のAmazonは、急激な成長を続けており2012年にはついに世界最大の家電量販店ベストバイの売上高を上回った(図表1-1-3-21)。この売上の伸びを大きく支えるのは、積極的な物流への設備投資(図表1-1-3-22)と、メディア(本・CD・DVD等)以外の商品の拡大であり、同社の売上構成をみると開業当初の中核だったメディア部門から、徐々にエレクトロニクス・一般商品に売上の主軸がシフトし2010年にメディアを上回っている(図表1-1-3-23)。このことは、同社の総資産と売上高の成長率が共に30%以上と、日米の主要小売企業と比較しても突出したスピードで投資と規模の拡大を行っている(図表1-1-3-24)ことからも浮かび上がり、多くの品揃えとその商品の配送を支える物流ネットワークが同社の事業拡大を支えている構図が見て取れる。

図表1-1-3-21 Amazonとベストバイの売上・純利益比較
(出典)総務省「O2Oが及ぼす企業活動の変化に関する調査研究」(平成25年)
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図表1-1-3-22 Amazonの投資額推移および純利益
(出典)総務省「O2Oが及ぼす企業活動の変化に関する調査研究」(平成25年)
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図表1-1-3-23 Amazonの売上内訳
(出典)総務省「O2Oが及ぼす企業活動の変化に関する調査研究」(平成25年)
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図表1-1-3-24 日米における小売企業の成長率比較
(出典)総務省「O2Oが及ぼす企業活動の変化に関する調査研究」(平成25年)
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Amazon急成長のもう一つの背景として同社が「price check」と呼ばれるスマートフォンアプリを世界各国で無料配信している点がある。このアプリは、実店舗で商品のバーコードを撮影するとAmazonの価格が検索表示され、その場で注文することが可能な仕組で、実店舗から同社のサイトに顧客を誘引することに繋がっている。このような仕組のもと行われる、「店頭では実物の確認をするだけで、商品の購入はネットで」という一連の消費者の購買行動は「ショールーミング44」と呼ばれ、小売業界を中心に実店舗側への影響が懸念されるとの指摘がある。

米国の調査会社Placed社が行ったAmazonのショールーミングのリスク値45の調査結果によると、これまで家電量販店が中心と思われていたショールーミングが、日用雑貨・本・おもちゃ・ペット用品などの幅広い企業にも影響が出ており、前述のAmazonアプリの利用者においては、リスク値が更に高い傾向となった(図表1-1-3-25)。

図表1-1-3-25 米国企業におけるAmazonショールーミングリスク調査
(出典)2013.3.1 米国Placed社「Placed Study Reveals Most At-Risk Retailers for Showrooming by Amazon Customers」

また米国IBMコーポレーションが行った世界の商品の購入先店舗におけるショールーミングの調査結果によると、14%の顧客がネットで商品を購入しており、そのうちの4割にあたる6%はショールーミングによる購入だった。このことから全体的には実店舗利用による商品購入が主流であるが、ネット購入者の多くは何らかの形でショールーミングを行っている実態が浮かび上がってくる(図表1-1-3-26)。

図表1-1-3-26 世界における顧客の購入先店舗内訳
(出典)米国IBMコーポレーション「From Transactions to Relationships: Connecting with a Transitioning Shopper」

このようなショールーミングのリスクに対し、実店舗側も対抗策を講じている。世界最大のスーパーマーケットチェーンのウォルマートは2009年にネット通販にも参入、Amazon同様の自社通販サイトへ誘引するスマートフォンアプリも配布し、他社ネット通販企業への顧客流出防止を図っている。また、同社は2012年9月よりショールーミング対策の一環としてAmazonのタブレット端末Kindleの発売を中止した。

加えて、前述のベストバイや、ディスカウントストア大手のターゲットにおいても、最低価格保証を2013年より恒常施策として開始している。これはネットを含めた他社が自社より安い価格であれば、自社もそこまで価格を下げる仕組で、ターゲットにおいては購入後1週間以内であれば同一価格まで保障するというものである46図表1-1-3-27)。

図表1-1-3-27 米国におけるウォルマート・ベストバイのAmazon対抗策
(出典)総務省「O2Oが及ぼす企業活動の変化に関する調査研究」(平成25年)

B 米国におけるOnline to Offline

米国でのOnline to Offlineにおいては世界最大手に成長した米グルーポンなどを始め、Living Socialなど複数の企業が参入している。また、2011年にはFacebookがFacebookチェックインクーポンと呼ばれる位置情報を活用したクーポンを開始しており、同年にはFoursquare47といったSNS企業からも参入している。このようにSNS企業がクーポン事業に参入している背景として、日々の出来事を投稿するSNSでは位置情報も投稿することが多く、クーポン配信との親和性が高い点に加え、店舗に興味があるアカウントに対しピンポイントでクーポンを配信しやすい仕組が揃っている点がある。

また、米国のネットクーポン利用者数は、グルーポン社の北米ユニークユーザー数の増加傾向が続いていることからも、Online to Offlineが広く浸透していることがうかがえる(図表1-1-3-28)。

図表1-1-3-28 米国グルーポン社の北米・世界におけるユニークユーザー数
(出典)総務省「O2Oが及ぼす企業活動の変化に関する調査研究」(平成25年)
(オ)日本国内におけるO2Oの動向

A 日本におけるOffline to Online

我が国においても、Online to OfflineとOffline to Online双方が浸透し定着しつつある。

2012年の国内流通総額(サイト上での商品の販売総額)を見てみると、楽天が約1.4兆円、Amazonが約7,300億円、Yahooは約3,000億円と、各社数千億〜1兆円超の規模に達している。これを実店舗主体の企業における年間売上高と比較してみると、Amazonは家電量販店のエディオンと肩を並べる規模まで成長しており、楽天においては、家電量販店で国内最大手のヤマダ電機に迫ろうとしている(図表1-1-3-29)。

図表1-1-3-29 我が国における主要小売業の2012年流通額比較48
(出典)総務省「O2Oが及ぼす企業活動の変化に関する調査研究」(平成25年)
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ネット店舗側同士の競争も加速しており、Amazonにおいては在庫管理から販売、物流までを自社内で完結させる直販ビジネスモデルを中核としており、当日配送や無料配送、低い物流コストを生かした低価格戦略をとっている。

楽天においては、参加企業の販売機会を提供するビジネスモデルが主体だが、物流力の確保のため、日本各地に大型施設を建設し、フランスの物流システム大手を買収し国内の各施設で集荷・配送作業を自動化する計画を立てており、即日発送・翌日到着のサービス拡充を進めている。また、同社には購入額の一定額を還元するポイント制度を始め、クレジットカード事業や2009年に子会社化した楽天銀行(旧イーバンク銀行)など金融サービスにも特徴がある。

一方で、実店舗側においても米国同様にネット店舗に対抗する動きがみられる。ヨドバシカメラやヤマダ電機は米国ウォルマートと同じくAmazonのKindle発売を見送った。またヨドバシカメラにおいては2013年2月より本格参入した書籍にもAmazonにはないポイント還元を適用、無料配送に加え全国の主要都市部を対象にした即日配送もAmazonは年会費がかかるが、同社は無料とし差別化を図っている。ヤマダ電機においても、2013年1月よりネットの他社店舗より自社店舗の価格が高ければ値引きするという米国の最低価格保証と同様のサービスを開始しており、同年3月からは同社ネットサイトでの即日配達サービスも開始するなど、国内においても実店舗とネット店舗の顧客争奪戦が激化している。 

なお、企業アンケート調査49によりEC事業者への認識を聞いたところ、多くの企業では自社にはあまり関係がないと認識している(74%)が、歓迎している企業と懸念している企業を比較すると前者が13%に対し、後者が5%と後者を大きく上回った。歓迎理由としては、自社製品の販路拡大が最も多く、次いで大型ECの集客力に魅力を感じているとの回答があった(図表1-1-3-30)。

図表1-1-3-30 国内企業におけるEC企業への認識
(出典)総務省「ICT分野の革新が我が国社会経済システムに及ぼすインパクトにかかわる調査研究」(平成25年)
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B 日本におけるOnline to Offline

国内のOnline to Offlineにおいては、スマートフォンの急速な普及により(図表1-1-3-17)スマートフォン向けクーポンを中心とした取組が盛んになってきており、アプリやソーシャルなどの仕組も組み合わせ、これまでインターネットマーケティングとは距離があった業界からも様々な事例が出始めている。

各企業の取組事例を整理すると図表1-1-3-31のように、大きく「SNS連携」、「ソーシャルギフト」、「共同クーポン購入(フラッシュセール)」、「割引クーポン・ポイント」、「実店舗とECサイト情報連携(ポイント共通化、購買情報管理等)」、「ネットスーパー」の6つに分類することができ、様々な業種の企業でO2Oの取組が進んでいる。

図表1-1-3-31 O2Oの主な類型
(出典)総務省「O2Oが及ぼす企業活動の変化に関する調査研究」(平成25年)

我が国のOnline to Offlineの状況を企業アンケートにより分析すると、企業でのインターネットを活用した実店舗への誘引手段としては、8割以上が自社サイトでのプロモーションを、5割弱が既に自社サイトでのネット販売を行っており、自社商品・サービスの認知度向上には5割弱の企業、実際の宣伝効果としては約2割の企業で来店者の増加効果があったとする回答があった。このことからもO2Oの取組が広く浸透しており、とりわけ認知度向上を中心に具体的な効果も現れつつあることがうかがえる(図表1-1-3-32及び図表1-1-3-33)。

図表1-1-3-32 企業における実店舗への誘引手段
(出典)総務省「ICT分野の革新が我が国社会経済システムに及ぼすインパクトに係わる調査研究」(平成25年)
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図表1-1-3-33 インターネット上における実店舗への誘引手段と効果
(出典)総務省「ICT分野の革新が我が国社会経済システムに及ぼすインパクトに係る調査研究」(平成25年)
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一方で、インターネット活用の課題を聞いたところ、「投資対効果の説明が難しい」との回答が45%を超え、会員情報などの個人情報の漏えいリスク、社内の人材不足やシステムコスト等の課題が続いている(図表1-1-3-34)。高い期待の一方で、具体的に効果を上げるために的確なプロモーションを行い、効果を検証できる解析技術やそれを使いこなせる人材・スキルが課題となっていることが見て取れる。

図表1-1-3-34 インターネット活用の課題
(出典)総務省「ICT分野の革新が我が国社会経済システムに及ぼすインパクトに係る調査研究」(平成25年)
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イ 事業活動におけるソーシャルメディア利用の拡大

近年、スマートフォンやタブレット端末の普及により、ソーシャルメディアの活用が急速に拡大し、社会経済の様々な分野に大きな変革を与えており、ソーシャルメディアをマーケティングや社内のコミュニケーションツールとして活用する企業も急増している。1990年代から2000年代初め、企業が本格的にインターネットの活用を始めた当初は、企業の対外的なインターネットの活用はホームページの開設による自社の公告・宣伝等だったが、その後のソーシャルメディア等の発達により、各企業もそれらを積極的に活用するようになった。現在では多くの企業が、マーケティングやプロモーション、キャンペーン、従業員の採用活動等で、twitter、Facebook、YouTube等のメディアを活用している。また、CGM(Consumer Generated Media=消費者生成メディア)と呼ばれる一般消費者からの情報発信も、ブログサイト、口コミサイト、mixi等を通じてなされることが多く、企業は常にこれらの一般消費者の声に耳を傾けることが重要となっている。

企業アンケートの結果によると、4分の1以上の企業において既にソーシャルメディアを業務に利用しているとの回答があり、「今後の利用が決まっている」や「利用についての検討が行われている」まで加えると、半数近くの企業がソーシャルメディアの利用に前向きであるとの回答が得られた(図表1-1-3-35)。

図表1-1-3-35 ソーシャルメディアの業務利用
(出典)総務省「ICT分野の革新が我が国社会経済システムに及ぼすインパクトに係る調査研究」(平成25年)
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企業内で実際にソーシャルメディアを利用している、または利用を検討している部署について尋ねたところ、顧客に係る分析が必要となる「営業系部門」や「マーケティング系部門」が上位を占めたのに加え、企業から外部への情報発信を担当する「広報系・IR部門」においてもソーシャルメディアを活用しているとの回答の割合が高かった(図表1-1-3-36)。

図表1-1-3-36 ソーシャルメディアの業務利用(部門別)
(出典)総務省「ICT分野の革新が我が国社会経済システムに及ぼすインパクトに係る調査研究」(平成25年)
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また、どのような効果を見込んでソーシャルメディアを利用しているか、実際に効果を得られているかについて尋ねたところ、世の中のトレンドについて収集することを見込んでいるとの回答が多かった。さらに、「商品・サービスのプロモーション情報発信」との回答がそれに次いでおり、情報の収集及び発信と双方向のコミュニケーションを取れることを強みとして、ソーシャルメディアを利用しているものと考えられる。他方、実際に得られた効果については、当初の見込みほど得られていないとの傾向が見られる(図表1-1-3-37)。

図表1-1-3-37 ソーシャルメディアの利用による効果
(出典)総務省「ICT分野の革新が我が国社会経済システムに及ぼすインパクトに係る調査研究」(平成25年)
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ウ 事業活動におけるBYODの実施

従来、企業等は業務で利用する情報機器は一括で調達して、従業員等に支給するのが通常であったが、端末購入費や通信費といったコストを削減する観点から、一括調達・支給を取りやめ、従業員等が私物の端末を業務に持ち込み、企業等の情報システムに私物の端末からアクセスし、必要な情報の入力や閲覧を行う形態をBYOD(Bring Your Own Device)という。

企業等にとってのBYODのメリットは、先述の通り、コスト削減を行える点にあるが、利用者たる従業員等にとっては、普段から使い慣れている端末を業務でも利用できることや、同種の端末の「2台持ち」を回避でき、管理が容易になるといった点がある。また、私物端末からの通信費が従業員等の持ち出しにならないよう、企業等が通信費の一部を補助する運用もなされている。

他方、企業等が支給する端末と異なり、端末の設定や導入するソフトウェアの種類などを企業側が完全にコントロールするのは難しく、情報漏洩やウイルス感染といった情報セキュリティ対策や、紛失・盗難時の対応などが複雑になる点や、業務中に利用できる機能やアクセス可能なサイトの制限といった対応も難しくなる点、さらに、本来は私用の端末であるため、通信履歴や保存したデータなどをどこまで企業等が取得・把握できるかなどプライバシーとの両立に関する点などが指摘されているところである。

以下に、今回企業を対象としたアンケート調査において、BYODの実施状況やBYODに関する企業の意識について尋ねた結果について紹介する。

(ア)BYODに関するポリシー・ルールの策定状況

企業においてBYODを認めている、または禁止することについて、企業内のポリシーやルールで明確に規定しているかについて尋ねたところ、23%の企業がポリシーやルールで明確に禁止し、かつ、違反者に対する罰則規定を設けているとの回答であった。罰則規定までは設けていない企業を加えると、過半数の企業がポリシーやルールでBYODを禁止しているとの回答であり、ポリシーやルールにおいてBYODを認めていると答えた企業は17%にとどまった。業務における私物の使用を禁止する従来からのルールを踏襲している企業が多いものと考えられる(図表1-1-3-38)。

図表1-1-3-38 BYODに関するポリシー・ルールの策定状況
(出典)総務省「ICT分野の革新が我が国社会経済システムに及ぼすインパクトに係る調査研究」(平成25年)
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(イ)企業におけるBYODの実施状況

続いて、企業におけるポリシー・ルールの有無・内容にかかわらず、実際にBYODを実施している従業員の有無について尋ねたところ、3割以上の企業において、一部の従業員が私物端末を業務に利用しているとの回答であった。このように、我が国においては、企業はBYODを公式に認めることには躊躇する傾向がある一方、従業員側のリスクで非公式にBYOD的な運用がなされる実態があることが明らかになった(図表1-1-3-39)。

図表1-1-3-39 私物端末を業務で利用する従業員の有無
(出典)総務省「ICT分野の革新が我が国社会経済システムに及ぼすインパクトに係る調査研究」(平成25年)
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公式・非公式を問わず、実際にBYODを実施している企業において、どの部門においてBYODが活用されているかについて尋ねたところ、営業系部門が66.3%と最も高く、外出の多い従業員が可搬する端末を私物で使用しているケースが多いものと考えられる。また、2番目に高いのはシステム系部門であり、リテラシーの高い従業員が多い、全社導入に先駆けて試験的に導入している、といった理由が考えられる(図表1-1-3-40)。

図表1-1-3-40 BYODを活用している部署
(出典)総務省「ICT分野の革新が我が国社会経済システムに及ぼすインパクトに係る調査研究」(平成25年)
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BYODによる個人端末の利用について、どのような業務で利用が認められているかについて、海外と比較した結果が図表1-1-3-41である。インテルが米国・ドイツ・豪州及び韓国の4か国で比較調査を行った結果と我が国の調査結果を照らし合わせてみると50、日本はこれまでに述べたように全体的に利用を認める割合が低いのに対し、海外4か国では電子メールやスケジュール管理といった基幹業務とは無関係のアプリケーションにおいては、半数以上ないし半数近くの企業が個人端末からの利用を認めている。なお、韓国では、基幹システムや機密データを扱うアプリケーションなどの利用も許されているケースが、他国と比較して少し多い傾向にあるのが特徴である。

図表1-1-3-41 各業務においてBYODによる個人端末の利用を認めている企業の割合
(出典)総務省「ICT分野の革新が我が国社会経済システムに及ぼすインパクトに係る調査研究」(平成25年)
(ウ)BYOD導入に際しての課題

BYODを企業内のポリシーやルールで禁止していない企業に対し、BYODの導入に際して課題となっている事項について尋ねたところ、「セキュリティサポートの実装」や「自社規定を満たしたデータセキュリティの保証」といったセキュリティ関係の回答が上位にくる結果となった(図表1-1-3-42)。

図表1-1-3-42 BYOD導入に際しての課題
(出典)総務省「ICT分野の革新が我が国社会経済システムに及ぼすインパクトに係る調査研究」(平成25年)
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39 Googleトレンドにより、「O2O」の検索頻度を数値化したもの(最高値=100)

40 「すべての(オムニ)顧客接点(チャネル)」という意味で、オムニチャネルと呼ばれることもある。

41 米国イーマーケッター社推計値

42 1ドル98円換算

43 広告代理店の電通は毎年、日本の広告費について調査結果を発表しているが、2012年からこれまで発表していたインターネット広告費におけるモバイル広告の内訳公表を廃止した。

44 showrooming=実店舗のショールーム化

45 Amazonのショールーミング経験率が企業毎にどれだけ高いか、アンケート調査を行いリスク値として数値化

46 ベストバイ・ターゲット共に2013年1月時点の内容。

47 位置情報を登録しスタンプを集めるSNS。

48 Amazonは1ドル94円換算の2012年通期日本売上(2012年通期決算資料)、 楽天・Yahooは2012年通期流通総額(同)、Yahooは「Yahoo!ショッピング」「Yahoo!チケット」「Yahoo!トラベル」を含む。ネット側流通額規模感との比較対象として、イオン、セブン&アイHD、ヤマダ電機、エディオンの2012年度売上高を参考値として記載(2012年度決算資料)。

49 東証1部・2部上場企業3,583社を無作為に抽出し、最新ICTトレンドの社会実装の実態と課題に関する郵送アンケートを実施。うち、264社から回答があった(回収率7.4%)。具体的には「新しいインターネット販売および販売促進」、「BYODの利用」、「ソーシャルメディアの利用」などを主な調査項目として設計した(付注2参照)。

50 海外の調査については調査方法、調査時期が異なるため、厳密な比較ではない。

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