昭和53年版 通信白書

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第2節 諸外国における通信の動向

1 郵便の現状と将来への模索

(1) 各国の郵便サービスの現状

 まず,郵便の基本的サービス種目である書状(封書)とはがきの取扱いについてみると,第1-2-11表のとおり各国において差がみられる。
 米国では書状,はがきとも同種の郵便物としてとらえているが,料金は書状とはがきで差を設けている。英国では書状とはがきを同種の郵便物としてとらえ,料金差を設けていないが,送達速度により郵便物を第一種と第二種に分け,第一種を第二種より料金を高くし,優先的に送達している。フランスでは書状とはがきを異種の郵便物としてとらえているが,英国同様両者の間に料金差を設けておらず,送達速度により郵便物を急ぐものと不急のものに分け,急ぐものを不急のものより料金を高くし,優先的に送達している。西独では書状とはがきを異種の郵便物としてとらえ,料金差を設けているが,そのほかに航空とう載する郵便物については特別料金が加算されることとなっている。
 次に,欧米4か国の郵便窓口取扱時間についてみると,一部の例外はあるが,一般的には開始時刻は午前8時,午前9時であり,終了時刻については,平日は,英国では17時30分,米国では17時,フランスでは19時,また西独では18時となっており,土曜日は,12時〜12時30分となっている。日曜日,祝日については,取り扱っていないところが多い。

(2) 各国の事業運営の現状

 事業運営の前提となり事業の盛衰を端的に示す各国の郵便物数の推移は第1-2-12表のとおりである。郵便物数を年間1人当たり通数でみると,米国では419通,英国が172通,フランス220通,西独185通と欧米先進諸国においては我が国と比べていずれも多い。また年度別の推移をみると,1971年度から5か年間の年平均増加率ではフランスが最も高く2.5%,ついで米国の0.6%となっており,英国及び西独では逆にそれぞれ2.2%,0.4%と減少している。欧米諸国がこのように低迷しているのは,これら諸国においては郵便という通信手段は既に成熟段階に到達していることにもよるものと思われる。
 米国の郵便事業は,連邦政府の独立性の強い一行政機関として1971年7月に発足した米国郵便事業(USPS:The United States Postal Service)によって独占的に運営されている。米国では一般的に満足できる送達サービスが提供されており,USPSでは「差出地・名あて地別情報システム」(ODIS:Origin-Destination Information System)制度を設け,一定基準のサービスを提供することを国民に約束している。
 一方,USPSの財政的な見通しは,暗いものとなっている。USPSは企業的経営に基づく赤字の解消と事業の近代化を図るため,政府及び利用者からの強い支持と期待を受けて発足した。しかし,発足後も毎年15億ドル前後の政府補助金を受け1976年までに3回の料金引上げを行ったにもかかわらず第1-2-13表のように毎年大幅な赤字を計上している。この原因としては,インフレの影響を受けて給与引上げによる人件費の負担が増加したこと,郵便物数の伸び悩みにもかかわらず配達箇所数が増加しコスト高となったことなどが挙げられる。このため,USPSは,可能な限りの経費節減,業務の機械化,集配業務の削減,超過勤務の抑制,不採算田園郵便局の統廃合等を行っている。
 英国の郵便事業は,郵便電気通信公社(BPO)によって独占的に運営されている。この郵電公社は,事業を自主的・企業的に運営するために郵政省が改組されて1969年10月1日発足したものであり,産業大臣が監督している。郵便の送達状況は良好であるが,郵便事業の収支状況は,1971年から1975年まで毎年郵便料金の引上げを実施したにもかかわらず赤字が続いていた。この原因は,米国と同じくインフレによる人件費及び業務運営経費のコスト高のほか,英国の特殊事情として政府の価格抑制策によって料金引上げが低く抑えられてきたことが主因である。このため業務の機械化による人員の節減,日曜日の取集業務の廃止,業務の平準化,土曜日午後の窓口閉鎖等により経費の節減を図っており,1976年度収支は黒字に転じている。
 フランスの郵便事業は,政府の一省である郵便電気通信省(PTT)によって独占的に運営されている。郵便物数は,1974年の大幅な料金引上げの際,対前年度比で7.5%という大幅な減少があったものの,米国や英国,西独等と比べると比較的順調な伸びを示している(1972〜1976年度平均で2.5%)。また業務運行も順調であるが,郵便事業の収支状況は1967年から1976年の10年間に4回の料金引上げを行ったにもかかわらず,各国と同様インフレによる人件費の負担増等により,この間2回の黒字を記録しただけで,赤字基調が続いている(第1-2-13表参照)。また,この赤字は国庫借入金,事業債によって補われており,郵電省の総合収支としては黒字が維持されている。
 西独の郵便事業は,フランスと同様郵便電気通信省(DBP)が独占的に運営を行っている。西独における配達サービスは極めて良好な状態にある。郵便部門のみの収支状況は明らかではないが,赤字であると言われており,第1-2-13表のとおり郵電省全体としての総合収支も赤字基調である。この郵便部門の赤字の原因はインフレによる人件費コストの増加,料金引上げに対する政府の制約等である。

(3) 事業改善への努力

 以上述べてきたとおり,各国とも,郵便事業は世界的インフレの影響による人件費を主としたコスト高と郵便物数の伸び悩みの中にあって苦悩している。このため,各国とも事業改善のために各種の施策を講じ,業務の安定と事業収支の改善のため努力を重ねている。
 改善施策の方向は各国ともほとんど共通している。その中で最も基本的で効果的な施策は郵便番号制の採用であり,第1-2-14表のとおり各国とも実施している。これによって局内作業の大宗を占める区分作業の機械処理が可能となり,また,手作業においても合理的で効率的な区分が行われるところとなった。この区分作業の機械化をはじめ,選別・取りそろえ押印作業の機械化,集配作業の機動化,作業処理の集中化等が各国共通の施策となっている。
 書状区分の機械化としては,いずれの国も,従業員が郵便コードを読み取り,打鍵してから機械区分にかけるという方式が現在のところ一般的であるが,近時は光学的に文字を自動的に読み取り区分する方式,いわゆるOCRによる区分機の開発が積極的に進められている。  更に,各国では時代の要請に応じたきめ細かな新規サービスを実施し,郵便需要の堀り起こしを図っている。1970年以降,各国で実施された新しいサービスには次のようなものがある。米国では,利用者との契約に基づいて郵便物を特別に取集・配達する「エクスプレスメール」,クレジットカードの安全性を確保するため特別扱いで送達する「コントロールパック」,「旅券の申請受理」等のサービスを行っている。英国では,コンピュータデータ等の重要物件を時宜に応じて特別に取集し配達する「データポスト」,大企業あて郵便物を部課別等特別に区分し配達する「セレクタポスト」,我が国の料金受取人払制度と類似する「フリーポスト」,「窓口で雑誌などの定期刊行物の予約受付・交付」,「旅券発給」等のサービスを行っている。フランスでは,名あての記載されていない印刷物を特定地域内全戸に配達する「無名あて郵便物」,利用者の要求に応じて郵便物を特別に取集配達する「ポスタデックス」等を行っている。なお,西独でも「無名あて印刷物」サービスを行っている。

(4) 将来への模索

 郵便は1840年,英国で世界最初の新式郵便制度が開始されて以来,世界の国において,最も基本的な通信手段として今日まで人々に親しまれ利用されてきた。
 しかしながら,欧米先進諸国においては,今日の郵便事業は既に成熟期の段階に達しており,郵便物数は電気通信を中心とした他の通信手段の発達等から伸び悩みを見せている。人力依存度の高い郵便事業は,昨今の打ち続くインフレの影響をもろに受けて,人件費負担は増加し,度重なる料金引上げにもかかわらず事業の収支はほぼ慢性的な赤字を続けている。このため,各国とも新規サービスの開始や区分作業等の集中化・機械化・集配作業の機動化等事業の合理化・効率化を図り,事業の改善に取り組んでいる。
 各国の郵便事業経営体にとって今日の最大の関心事は,日々現実の業務運行を正常に確保することとともに,ファクシミリやデータ通信等の電気通信の著しい普及発展によって,郵便の将来はどうなるかということである。そのため各国で真剣な検討と模索が始められている。
 欧米先進諸国は電気通信の発展に対処するため,いわゆる「電子郵便」についてなんらかのかかわりを持ち始めている。米国では,斜陽化している電報の救済策を探っていたウェスタン・ユニオン株式会社と郵便の電子的送達についてかかわりを持とうとしていたUSPSが共同して「メールグラム」という世界最初の電子郵便サービスを1970年1月に開始している。
 このサービスはテレタイプ系のもので,電報型のものであるが,システムのプロセスにコンピュータを導入することによって同報送信が可能となっており,郵便的機能を持っている。ヨーロッパでは,ファクシミリ系の電子郵便が関心を持たれており,フランスでは「テレコピー」と称して1974年9月から試行されている。英国では,1974年10月に試行を始めたが,利用が極めて少ないことから2年間で中止し,西独では,1974年2月に研究を開始したが,2年後の7月,実施は時期尚早との結論が出されている。その他,電子郵便は,スウェーデン及びスイスでも試行されているが利用は極めて少ない。ヨーロッパの電子郵便がこのように極めて不振なのは,これらの諸国において,現在郵便サービスが良好であり,加えて国土が米国と異なり狭いこともあって,書状,はがきについては大部分が翌日配達されている事情が主な原因であるとされている。そのほか,そのサービスシステムが米国のメールグラムのように同報送信機能を持っていないことなどによる。
 現在のところ,ヨーロッパで実施されている電子郵便サービスは予想外に不振ではあるが,ファクシミリやデータ通値等電気通信の今後の発展は,郵便物数の減少をもたらすだろうというのが各方面の一般的な見方のようである。
 この点,米国の連邦議会によって1976年9月に設置された「郵便事業委員会」がその報告書の結論の中で,「第一種郵便物は,電子通信システム(電子的な資金送達,ファクシミリ及び伝送能力を有するデータ端末の発展)により大きな競争に直面している。郵便物数は減少し始めており,通信における将来の大きな発展は,電気通信の分野において行われるであろう。」と述べていることは注目される。

第1-2-11表 書状及びはがきの普通郵便料金

第1-2-12表 郵便物数の推移

第1-2-13表 各国の年度別収支状況

第1-2-14表 各国の郵便コード

 

 

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