昭和53年版 通信白書

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3 我が国の通信をめぐる諸情勢

(1) 転換期を迎えた我が国の通信

 48年のオイルショックを契機として,我が国経済は戦後最大の不況を体験し,それまでの高度経済成長から安定成長へと変容を遂げつつあり我が国の社会経済動向は大きな転換期を迎えている。
 このような情勢は,我が国における通信においても例外ではなく,すべての分野において大きな転換期を迎えており,今後への模索が続けられている。通信が転換期に直面している背景としては,次の要因が考えられる。第1に高度経済成長を通じて大きな発展をみせてきた電話,テレビジョンといった既存の主要な通信メディアに一種のサチュレーション現象がみられることである。
 まず,電話については電電公社発足以来5次にわたる5か年計画を遂行してきた結果,永年の課題であった「加入電話の積滞解消」,「全国自動即時化」の2大目標が実質的に達成され,53年度から始まる第6次5か年計画では従来の計画とは異なり,過疎地域へのサービス普及,各種の新電話サービスの積極的普及,社会福祉の向上に寄与する電話サービスの充実などサービスの質的充実,改良を兼ね備えたものとなっている。
 またテレビジョン放送については,52年度末のNHKの受信契約数が2,777万件と前年度に比較して2.6%の伸びしかみられず,受信料制度を基礎としているNHKの長期経営見通しを考えるとき,今後多くの課題に直面することになろう。反面,テレビジョン多重放送の実用化の動きに象徴されるように,白黒,カラーテレビに続く第三世代のテレビジョン放送出現の動きがみられる。
 第2に,広帯域伝送技術,情報処理技術などの分野における急速な技術の発達とシステムの高度化に伴い従来独立していたメディアが相互に影響し合い,協力し合いながら役割を分担するといった「メディアの重合」現象が生じつつある。具体的には,ファクシミリ放送,電子郵便,キャプテンシステム等であり,放送メディア,印刷メディア,狭義の電気通信メディア間の重合が起こりつつある。
 第3に,通信は従来から社会経済の発展段階に応じて多様な社会的ニーズを満たしてきたが,我が国の社会経済が大きな転換期を迎えた現段階においては,省資源,省エネルギーとか,住宅,交通等の都市問題の解決などに電気通信手段を活用していこうといった新しいタイプの社会的ニーズが現れてきている。
 第4に,我が国の情報化の動向をみると,テレビジョン放送,新聞などのマス・メディア,電話,データ通信などのパーソナル・メディアから大量の情報が氾濫し,消費情報量より供給情報量が大幅に上回るといった大量情報時代にある。このような時代においては個人が必要な情報を入手するための情報供給体制の整備が必要となり,個別情報ニーズを充足する新たな情報メディアの開発が望まれている。
 以上,四つの要因のほかにも定住構想を背景としたコミュニティにおけるコミュニケーションの問題等関連ある多くの要因が存在しており通信の今後は多くの可能性に満ちていると言えよう。

(2) 大量情報時代における通信政策

 情報化社会的状況がますます顕著になり,大きな転換期を迎えたこの時期においては,このような情報化に即応するため通信政策も幾多の課題に直面している。
 ところで,我が国の通信の分野における現在の法体系としては,戦後の民主化政策により従来の政府専掌の方針に基づいた法体系に代わって登場した有線電気通信法,公衆電気通信法,電波法及び放送法等が根幹をなしており,今までの行政はこのような有線,無線という伝送手段の差異等に基づく法体系の下でそれぞれ固有に進められてきたと言えよう。
 しかし,情報化社会の進展に伴う情報量の飛躍的増大,その内容,形式の複雑多様化の現象及び通信技術の発展に伴う「メディアの重合」現象などが現れてきた結果,既存の法体系では解決困難な課題が生じつつある。このような時期,通信主管庁の郵政省としては既存の概念あるいは体系にとらわれない計画的でかつ総合的な通信政策を展開していく必要があろう。
 このような情勢の下で,現時点において我が国の通信が抱える主な課題を挙げると第1-2-42表のようになり,現在それぞれの分野において検討が進められている。このような課題は,第2節でみてきたように欧米先進国が抱えている課題と非常に似ており,そのため今後は単に国内政策の次元のみでなく各種の通信政策会議や国際機関等での意見交換が重要となってこよう。

第1-2-42表 我が国の通信が抱える当面の主要課題

 

 

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