昭和53年版 通信白書

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3 データ通信の現状と動向

(1) 概   況

 世界各国のデータ通信の現状をみると,サービス提供地域は北米,西欧,我が国等のごく一部に限られ,各国ともその開発は今後の大きな課題となっている。
 データ通信の構成要素の一つである電子計算機の金額ベースの設置状況は,第1-2-18図に示すとおり,主要先進国で全体の87.1%を占めるものと推測されるが,第1-2-19図に示すように米国籍コンピュータ・メーカーのシェアが設置金額ベースで82.8%に達していることからすれば,各国の動向は米国の動向に大きく左右されているとも言える。
 データ通信発展の将来予測は,アーサー・D・リトル社の1977年の調査報告によれば1975年から1985年までの10年間に世界のデータ通信のメッセ一ジ数は年間23億から92億へと4倍に増加し,データ通信端末市場は9億ドルから35億ドルとなって,端末市場全体の26%から44%へ拡大すると予測されており,今後電気通信の中で大きな位置を占めるものと推測される

(2) 高度化するデータ通信回線サービス

 欧米諸国においては,既設の電話交換網,加入電信網及び専用線を利用したデータ通信回線サービスが早くから提供されてきているが,最近では,公衆ディジタル・データ網の計画・実施が急であり今後急速に主要サービス分野として成長していくものと予想される。
 一方,開発途上国では電話設備の整備が急務となっており,基本的なテレックス通信を除けば中高速のデータ通信回線サービスはほとんど提供されていないのが現状である。
 米国においてはAT&Tをはじめとする公衆通信業者,特殊通信業者,衛星通信業者,付加価値通信業者によってサービスが提供されており,多種多彩な新サービスの提供,サービス地域の拡大,マーケティングの強化,料金の改定等を通じてし烈な競争を続けてきた。この結果,テレネット,タイムネット,グラフネット等がネットワークの拡張を行い,更には国際記録通信業者を通じ海外との接続を盛んに行っている。
 カナダでは実質的に公衆通信業者であるトランス・カナダ・テレホン・システム(TCTS)とカナディアン・ナショナル・カナディアン・パシフィック(CNCP)の寡占下にあり,世界最初の商用化されたディジタル・データ網サービスを行うなど革新的な高品質のサービスが提供されている。
 一方,欧州各国では,電気通信主管庁によるほぼ独占的なデータ通信回線サービスが提供されており,公衆電話網による2,400b/sまでの伝送サービスが可能となっている。
 英国のデータ通信回線サービスはその早期導入と低廉な経済的料金の採用により,1976年初めに英国郵電公社(BPO)の回線に接続された端末数は4万2,000台を超えており,欧州で最も普及したサービスが提供されている。
 フランスの電話交換網は信頼性の低いことが指摘されてきたが,このため1972年に電話型回線交換のカデューセ網(CADUCEE)を,1973年には専用線によるトランスプレックス(TRANSPLEX)を提供し,ユーザの特殊なニーズに対応してきており,1976年末現在でデータ端末数は3万921台となっている。1978年にサービスを予定しているトランスパック(TRANSPAC)は混合会社により運営されることとなるが,その使用料金は距離に無関係で欧州の電気通信の歴史にとって画期的なものとなっている。
 西独では,テレックス網,電話交換網,専用線のほかにデータ通信回線サービスの専用網としてダイレクトコール網とダテックス網を持っており,1976年末の接続端末数は4万4,790台となっている。現在1978年完成を目途としてディジタル回線交換網であるテレックス・データ統合網の建設が推進されており,パケット交換網も1979年から実施される予定である。
 各国で計画されているディジタル・データ網の状況を第1-2-20表に示す。

(3) 進展するネットワーク・インフォメーション・サービスの現状

 ネットワーク・インフォメーション・サービス(NIS)とは「ユーザ側にある端末機器をデータ伝送網を通じてサービス提供者の中央コンピュータと接続し,データ処理を行わせるサービス」であって我が国においてはデータ通信サービスを言う。
 米国におけるNISは,バッチサービス・センタからの移行の増加やネットワークの利用の地域的拡大等によって,最近の伸びは著しく,コンピュータ・サービス・インダストリー社によれば独立NIS業者だけで1975年に売上げ規模が11.2億ドルであったものが,1980年には30億ドルに達し,コンピュータ・サービス産業全体の約3分の1に達すると予測されている。
 しかしながら一方で企業内オンラインシステムと小型ビジネスシステムの進展により,厳しい競合下に置かれつつあり,今後は単なる処理サービスにとどまらず,高度なコミュニケーション技術を生かしてシステム開発,ファシリティ・マネージメントサービス,コンサルタントサービス等を含めたマルチサービス業者として脱皮していく必要が出てくるものと思われる。
 西欧におけるNIS市場はフランス,西独,英国,スウェーデンの4か国で全体の66%を占めているが,米国企業による進出が著しく,IBMがほぼ市場の3分の1を占めるほか全体で60%の占有率に達している。
 市場はいまだ小規模であり未成熟であるが,第1-2-21表に示すように,1975年の4億1千万ドルから1980年には13億6千万ドルへと大幅に拡大するものと予想されている。この成長率は年平均27.1%であるが,これに対して米国NIS業者の西欧における売上げは45%〜60%の成長を示すものと考えられ,さらに米国内にある電子計算機で処理されるヨーロッパの業務量は1980年に13%に達すると予測されている。
 フランスはヨーロッパ最大のNIS市場を持っており,9,940万ドルと24%の規模になっている。大部分の大企業がデータセンタを持ち企業内システムを採用しているが,他の西欧諸国で発達している政府関連分野は十分開拓されていない。
 西独では公衆交換網や専用線の料金が非常に高いにもかかわらず,NISは急速に発展しておりその売上げ高は1975年の7,780万ドルから1976年には1億2,410万ドルとなっている。
 NIS市場の収入は,ほとんど製造業からのものであり,リモートバッチ収入の53%を占めている。
 英国のNISは1975年に6,280万ドルとなっており,大企業に関する限りよく開拓されているが小規模ないし中規模企業に対する浸透力はいまだ低調である。しかし郵電公社のネットワークの持つ低廉性,信頼性及び品質を利用することによりバッチサービスからNISへの切替えに拍車がかかるものと思われる。
 スウェーデンでは米国に次いで第2位という電話の高い普及率と同様にNIS市場も十分に発達しており金融界での浸透が著しく1975年の売上げは3千万ドルとなった。

(4) 政策と課題

(ア) 通信/情報処理の境界問題
 FCCは通信業者のWUTとオンライン証券情報サービスを提供していたバンカーラモ社の紛争(バンカーラモ事件)を契機に問題となっていた通信と情報処理の境界問題について,1966年11月に第1次コンピュータ調査を開始し,1971年の最終裁定において
[1] 通信業者の情報処理市場への進出は別組織の子会社によってのみ可能である。
[2] 混合サービスの定義をした上で,混合データ処理サービスは情報処理業者に認めて自由競争市場とし,混合通信サービスは公衆通信業者の領域とする。
などとした。
 これによって,FCCは情報処理市場の競争原理を認め,その管轄権を主張するとともに通信法上の規制下にある通信事業と自由競争下にある情報処理事業の領域を明確にした。しかし,数年後の分散処理ネットワークの急速な展開により,通信と情報処理の一体化がより緊密なものになると,再度FCCは境界設定に取り組む必要に迫られ,1976年8月から第2次コンピュータ調査を開始した。
 この調査では,混合処理サービスについての定義を排除した改訂案を発表し,これに対する各関係者の意見提出を求める形で行われて1977年10月に締め切られた。
 AT&Tは利用者のデータ通信への要求を満たすために,自由に最新の技術を駆使して電気通信サービスの最も有効な利用を促進させることが究極の目的であるという立場から回答を寄せており,IBMも規制の対象とすべきサービスは「純然たる伝送サービス」としての「自然独占サービス」であって,その他の関連サービスは規制の対象としてはならないとしている。
 一方,第1-2-22表に示すようにほとんどの関係者は第1次調査における混合サービスの定義を排除し,通信とデータ処理のみのカテゴリーに分けて規制するというFCCの新方針に反対の意見を表明していると言われている。米国においては日本や西欧諸国と異なり,公衆通信業者は私企業であり,また自由競争体制を基本理念とするところから通信業界と情報処理業界の争いが複雑化したものとみられ,今後のFCCの対処の仕方が注目される。
(イ) プライバシー保護と国際間データフロー規制
 プライバシーの保護は,容易に行政機関等に集中管理される個人データのし意的な利用に対する懸念にとどまらず,外国企業等に集積される個人,企業データの管理に対する不安から企業秘密や国家主権の問題をも包含する極めて幅広い概念として国際間の問題にまで及んできている。
 米国,西独,スウェーデン,フランス,デンマーク,カナダ等の国々は,既に電子計算機に蓄積される情報のプライバシー保護立法を行っており,ノルウェー ベルギーなどの国々でも検討中である。これらは,いずれも個人データファイルの利用制限や本人のデータアクセス訂正権等の配慮がなされている。
 一方,最近の国際間データ通信の飛躍的発展により,自国の個人に関するデータが他国に移送され,蓄積処理されるという現象が増加してきており,次のような問題を抱えることとなった。
[1] 個人のデータが国境を越えて処理されることにより,個人のプライバシー保護に問題が生じないか。
[2] 多くの個人にかかわるデータや一国の経済等にかかわるデータが外国に一方的に蓄積されたりその処理装置に依存する場合に,国家の主権を確保し,その安全を保障することはできるか。
 こうした問題意識は,米国の情報資源に隷属するという懸念からカナダ,西欧諸国において強く,国際間のデータ流通に障壁を設ける動きがみられる。しかし一方で国際経済活動の面で悪影響を及ぼすおそれがあるためプライバシー保護のためのデータ処理に対する各国の規制を可能な限り相互に調和させ,情報の自由な流通を図ることが,各国の共通の利益につながるものであるとして,北欧評議会やヨーロッパ評議会等の国際機関の中に,国際的に解決しようとする動きがでてきている。

第1-2-18図 世界の電子計算機の設置状況(設置金額ベース)

第1-2-19図 世界の汎用電子計算機市場に占める米国系メーカの占有率(設置金額ベース)

第1-2-20表 ディジタル・データ網の現状(1)

第1-2-20表 ディジタル・データ網の現状(2)

第1-2-21表 NISの国別売上高推移予測

第1-2-22表 第2次コンピュータ調査の関係者回答('77年10月現在)

 

 

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