昭和55年版 通信白書

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第2章 転換期を迎える現代通信

第1節 新しい通信メディアの進展

 1 通信メディアの進展を支える技術革新

 近年における電子技術の飛躍的な進歩は,既存通信メディアの普及・発展に大きな役割を果たすとともに,社会・経済活動の進展に伴う多種多様な新しい通信に対する需要に応じ,データ通信・画像通信等の高度かつ多様な新しい情報通信メディアの創出とその目覚ましい発展をもたらしている。
 この新しい情報通信分野の発展は,今後の社会・経済活動の変革と発展を促す重要なかぎとなるものと期待されている。本項ではこのような新しい情報通信分野の発展に目覚ましい影響を与えつつある代表的な先端技術の状況について述べ新しい通信メディアとのかかわりについて記述する。
(1) 集積回路技術
 微細な素子を大量に組み合わせて作られる集積回路は,電子計算機への導入によりその基礎を築いた。以来集積回路の集積化は急速に進み,いまや数mm四方のシリコン片上に数十万個の記憶素子をちりばめた記憶容量64kビットの大規模集積回路が市場に出回り始めている。
 このような集積回路技術の進歩は情報通信装置の種々の分野に多くの効果をもたらしている。
 記憶素子と論理素子の集積度は第1-2-1図のとおりの推移を示しており毎年約2倍ずつの集積度の改善が続いている。また集積度向上により第1-2-2図のとおり年約40%の割合で低廉化傾向が続いている。
 第1-2-3図は,汎用大型電子計算機の主記憶装置が高集積化により小型,軽量化されていることを示している。
 この結果,各種の通信装置は飛躍的に小形化,経済化が図られ,真空管時代には約0.5m3のスペースを必要とした主記憶装置が現在では約2cm3と数十万分の1と小型になり,故障の際にもパネルの取替等によるなど保守の簡易化が実現し得るに至った。
 さらに集積回路の演算機能,記憶容量が飛躍的に増大したことによって,様々な機能を持った装置,機器が出現し,様々な機能を経済的かつ容易に実現し得ることとなった。
 第1-2-4図は汎用大型電子計算機の主記憶装置に供給する電力が高集積化により大幅に減少していることを示している。
 データ通信,各種の画像通信を始め,宇宙通信などの新しい高度な通信は,このような素子の出現によって,現在みられるような発展が可能になったものといえる。
 今後も高集積化は著しく進むことが予想され,通信網,各種端末機器などの高度化を促し新しい通信メディアの進展に大きな影響を与えるものと思われる。
(2) 光ファイバ通信
 集積回路技術と並んで情報通信分野に重要な変革をもたらすと予測されているものに光ファイバ通信技術がある。
 光ファイバ通信は,伝送路としてグラス・ファイバを使い光に情報をのせて通信を行うものであり,テレビやラジオの放送波あるいはマイクロ波に比べて情報通信容量が格段に大きく,損失が少ないなどから近年特に注目を集めている。
 光ファイバ通信の特徴は次のとおりである。[1]細芯・軽量。グラス・ファイバの直径は0.2mm以下で同軸ケーブル等の既存ケーブルの数十分の1である。また重量も銅の数百分の1である。[2]低損失。既存のケーブルに比べ中継器なしで通信できる距離が数倍長い。[3]大容量。多量の情報を同時に伝えることが可能である。[4]無誘導。外部の雑音に影響を受けない。[5]省資源。グラス・ファイバの材料となる珪素は地球上に無尽蔵に存在するため資源の問題が少ない。
 第1-2-5図は,既存通信方式と光ファイバ通信方式の経済性を比較したものである。今後は材料技術及び製造技術の進歩により量産化が行われるに従って生産コストもいずれ大幅に低減し,データ通信,CATVなどの通信媒体として活発な開発が促進されることとなろう。
(3) 宇宙通信
 世界的規模で行われる情報通信に大きな変革を与えつつあるものに宇宙通信がある。
 宇宙通信は既存の通信回線に比較して高品質の情報を地球上のどこへも地形に関係なく広い範囲にわたり伝送できる等の特徴を持っており,情報流通の国際化という時代の要請にこたえるかっこうの通信手段として飛躍的な技術進歩と量的拡大を遂げている。
 1965年に打ち上げられたインテルサット<1>号の通信容量は電話240回線にすぎなかったが,<4>号-A衛星の通信容量は約6,000回線であり実に25倍以上の容量を持つに至っている。
 今や世界中の主要都市間は即時通話が可能となり,国内通信と同様にいつでも,だれとでも通信が可能となった。宇宙通信は陸上だけでなく船舶用の通信手段としても既に使用されており,航空機等との通信にも利用されることが期待される。このように多様化するサービスに対応するため種々の技術開発が進んでいる。最近の電波技術の進歩は,衛星からの送信電波を地球上の特定地域に集中することを可能とし,この結果受信アンテナの小形化が可能となった。また衛星に用いられる周波数帯が不足することのないように新しい周波数帯の開発も進められている。一方静止軌道に打上げ可能な衛星の数には限度がある。静止軌道を有効に利用するため同一軌道条件をもつ複数の衛星を一つの大型構造物にまとめて電力,推進制御等を共用し効率よく軌道を使用する計画もある。
 近い将来宇宙連絡船スペース・シャトルの登場が予定されておりこれにより衛星の打上げコストは一層経済的になるであろう。宇宙通信は今後開発が進むに従い新しい情報通信サービスの普及に寄与していくものと期待されている。

第1-2-1図 記憶素子と論理素子の集積度向上推移

第1-2-2図 記憶素子の容量別にみた価格の低減曲線

第1-2-3図 小形化の傾向図

第1-2-4図 省エネルギー化の傾向図

第1-2-5図 光ファイバ通信方式の経済性

第1-2-6図 通信容量の推移

 

 

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