昭和55年版 通信白書

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4 新しいネットワーク

(1) 新しいネットワークの出現
 近年,経済・社会分野でのデータ通信に対する需要は年々増加してきている。この需要に対して,従来,通信回線としては,公衆通信回線及び特定通信回線が提供されてきており,共に目覚ましい伸びを示している(第1-2-41図)。
 しかし,これらの既存のデータ通信回線のうち,公衆通信回線は本来,電話又は電信に最適なように作られており,高度化したデータ通信ニーズを考えた場合,必ずしもデータ通信に適した網とはいえない。また,特定通信回線は利用の面で,すべての利用者にとって満足のいくものでもないといったことから,データ通信に適した新しい網の構築を望む社会的要請が急速に高まってきた。一方,技術の面でもディジタル技術の進歩により,ディジタルデータ網の構築が可能となった。
 こうした背景から,新しいネットワークの開発が内外において進められてきたが,我が国においては回線交換サービス及びパケット交換サービスが54年から55年にかけて開始された。国際間の網についてもパケット交換サービスが計画されており「国際コンピュータアクセスサービス」(ICAS)が55年に提供された。
 これらの網は,任意の相手と高速・高品質でデータ通信を行うことができ,なかでもパケット交換サービスは異速度端末間の通信が可能であるなど優れた特質をもっており,今後,データベースサービス等に発展の可能性を与えるものといえよう。こうした意味でデータ通信のための本格的なネットワークが出現したといえ,情報化社会を支えるインフラストラクチュアの一つとして期待されよう。
(2) ディジタルデータ網の効用
ア.サービスの特性
 第1-2-42表は,ディジタルデータ網(回線交換サービス,パケット交換サービス)と既存網を使用した場合に提供されるサービスの違いを比較したものである。これらのサービスは誤りの少ない伝送品質,48kb/sまでカバーする伝送速度,平均1秒程度の接続時間,任意の相手と通信ができるといった特長をもつ。このほかにもデータ通信システム作りにおいてセンタ回線数の削減が可能,個別の回線設計作業がなくなる,端末の増設変更が容易といった経済的な側面をもつほか,閉域接続,通信料一括課金といった各種付加サービスも可能となっている。
イ.サービスの利用分野
 ディジタルデータ網サービスの出現に伴い,データ通信システムを構成する場合の通信回線の選択の幅は更に拡大した。すなわち,公衆通信回線及び特定通信回線のほか,新たに,回線交換網及びパケット交換網が加わり,四つの選択が可能となった。
 これら,四つの通信回線は,それぞれ様々な特長を有しているが,距離と1日当たりの通信時間に着目してその適用分野をあえて概念的に図示したものが第1-2-43図である。
 公衆通信回線は,通信量が少なく近距離の通信の場合により有利となり,また,特定通信回線は,通信量の多い場合により有利となる。ディジタルデータ網の回線交換網は通信密度が高く,1日当たりの通信時間が長くない中距離の通信の場合により有利であり,パケット交換網は,通信密度が低く中距離以上の通信の場合より有利となるという見方をこの図は示している。
 なお,ディジタルデータ網の回線交換網とパケット交換網のそれぞれに適応するシステムの具体例を対比的に示したのが第1-2-44表である。
ウ.料金体系の特質
 ディジタルデータ網の料金体系は,公衆通信回線と同様に従量制であるが,遠近格差については,回線交換サービスについては約1:12であり,パケット交換サービスについては,データをいったん交換機に蓄積し,交換機間を高速度で伝送するため伝送路の効率的使用が図られ,距離に比例するコストのウェイトが極めて小さくなることを反映して1:1.5となっている。またパケット交換サービスについては,加入回線の使用時分ではなく,伝送された情報量に応じて課金される。
(3) 発展するネットワーク
 ディジタルデータ網は今後ファクシミリとか,データ通信といった非電話系サービスの発展を支えるものとして期待される。世界各国においてもデータ通信に適したネットワークの開発が進められており,こうした料金面,技術面について国際電信電話諮問委員会(CCITT)等の場において国際的レベルでの検討がなされている。
 このような動きがある反面,通信の個別ニーズにこたえるネットワークの形成の要望があり,また,端末機能の高まりに伴うネットワークとの機能分担の問題がある。これらについては将来のネットワークの形成の在り方と技術進歩との調和をどのように図っていくかが検討課題となる。
 また,今までは通信サービスごとに独立の網が構築されてきたが,電話,電信,ファクシミリ,データ通信などあらゆるサービスを包含する一元的な網,ディジタル総合サービス網(ISDN)についての研究もなされている。技術面ではCCITTの第XV<3>研究委員会(ディジタル網)を中心として関連する第V<2>研究委員会(新データ伝送網),第XI研究委員会(電話交換及び信号方式)とともに総合的検討が展開されようとしている。また,料金・制度面についても,我が国からCCITTの第<3>研究委員会(一般料金原則)に対し,次会期(1981〜84)に新たな検討課題とするよう提案している。

第1-2-41図 国内データ通信回線利用状況の推移

第1-2-42表 ディジタルデータ網と既存網により提供されるサービスの特性比較

第1-2-43図 適用分野の概念図

第1-2-44表 ディジタルデータ網に適したシステム

 

 

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