昭和55年版 通信白書

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3 国際電気通信連合(ITU)

(1) 概   要
 国際電気通信連合(加盟国154か国)は,国際連合の専門機関の一つで,電気通信の分野において広い国際的責任を有する政府間国際機関であり,1865年に万国電信連合として発足した。
 我が国は,1879年にこれに加盟しており,したがって1979年は加盟100年に当たっていた。この100年間,我が国は連合の活動に積極的に参加し,国際協力の実現に貢献してきたが,特に1959年以降は,連合の管理理事会の理事国及び国際周波数登録委員会(IFRB)の委員選出国として連合の運営面においても主要な役割を果たしている。また,連合の本部職員として我が国から5名(55年3月末現在,IFRB委員を含む。)が派遣されている。
(2) 管理理事会
 管理理事会は,全権委員会議によって委任された権限の範囲内で,全権委員会議の代理者として行動し,条約,業務規則,全権委員会議及び連合の他の会議・会合の決定の実務を容易にするための措置をとることを任務としている。
 第34回会期管理理事会は,1979年6月4日から6月21日まで18日間スイスのジュネーブにおいて開催され,連合の会議・会合計画,1980年度予算,人事関係,技術協力関係等について検討を行った。1980年度予算については,6,231万9,000スイス・フランが承認され,このうち我が国は,252万8,000スイス・フラン(約3億円)を分担することとなった。
 なお,この第34回会期においては,副議長が我が国から選出された。
(3) 無線通信規則及び追加無線通信規則の全般的改正のための世界無線通信主管庁会議(WARC-79)
ア.会議の概要
 上記の会議は,1979年9月24日から12月6日までの間,スイスのジュネーブにおいて,ITUの連合員(加盟国)142か国及び35の関係国際機関の代表及びオブザーバー約2,000名が出席して開催された。
 この会議では,総会の議長選出の問題,短波周波数帯及び静止衛星軌道の使用の在り方等を巡り,先進諸国と開発途上国とが厳しく対立したが,ITUの伝統ともいえる妥協の機運が生まれ,最終的には予定の期間を1週間延長して所期の目的を達成し,閉幕した。今回の会議では,周波数帯分配表,技術基準,周波数割当ての調整・通告・登録手続,一般管理規定,複数の業務に関係する規定等電波の使用に関する一般的かつ主要な規定が改正されたほか,無線通信規則及び追加無線通信規則の規定の再編成が行われ,後述のとおり,従来の追加無線通信規則は廃止されることになった。会議の諸決定は最終文書に収録されており,この最終文書には,133か国が署名した。最終文書は,下記の規定を除き,1982年1月1日に発効する。
(ア) 局の識別に関する第N23条及び附録第CA号(海上移動業務識別)並びに第62A条(海上移動業務及び海上移動衛星業務の公衆通信)の規定については,1981年1月1日に発効する。
(イ) 附録第27号の航空移動業務(R)の周波数区域分配計画及びこれに直接関連する同附録の規定については,1983年2月1日0001時(UTC)に発効する。
 なお,技術基準等に関する一部の規定においては,新しい規律の適用までに一定の経過措置が設けられているものがある。
イ.主な決定事項
(ア) 周波数帯分配表
[1] 4MHz以下の周波数帯
 この周波数帯では,国際遭難・呼出し周波数である500kHz(電信)及び2,182kHz(電話)のガード・バンドの縮小,無線航行業務のための周波数帯の確保,第二地域の中波放送バンドの拡大等が決定された。
 また,第一地域の長波放送と第二地域及び第三地域の航空ビーコン局との混信問題は,我が国等の努力にもかかわらず,基本的な解決には至らず,我が国は,最終議定書において,航空ビーコン局の運用を確保するために必要と認める措置を執る権利を留保した。
[2] 4〜27.5MHzの周波数帯
 この周波数帯は,衛星回線及び海底ケーブルの発達,普及により,短波固定回線の需要が低下している一方,海上移動業務や放送業務では需要がひっ迫していることから,固定業務専用の周波数帯の一部を海上移動業務,放送業務等に分配替えすることとし,10MHzより低い周波数帯では,その一部を他の業務と共用とすることが決定された。この結果,従来約10MHz幅あった固定業務用の専用周波数帯は約3.5MHz幅に減少し,約5MHz幅が,海上移動業務,放送業務等との共用となり,約1.6MHz幅が,これらの業務の専用となった。
 なお,既存の固定局が新たな分配表の固定業務の周波数帯に移行するための最終期限は,10MHzより低い周波数帯の局については1994年7月1日,また,10MHzより高い周波数帯の局については1989年7月1日に,それぞれ定められた。
[3] 27.5〜960MHzの周波数帯
 この周波数帯では,将来の移動通信の需要に応じるため,移動業務に対する分配が増加されたほか,従来,放送業務,固定業務,移動業務等に,地域間で不統一に分配されていたものが,相当程度統一された。また,800MHz帯では,我が国等の提案により,移動衛星業務への分配が行われた。
[4] 960MHz〜40GHzの周波数帯
 この周波数帯では,固定衛星業務に対する分配が4/6GHz帯及び11/14GHz帯を中心に大幅に拡大されたほか,海上移動衛星業務等の移動衛星業務に対しても分配幅の拡大及び新規の分配が行われた。
 また,地球探査衛星業務のセンサ用にも相当の周波数帯が分配された。
[5] 40〜400GHzの周波数帯
 この周波数帯では,今回の会議において初めて,固定業務,移動業務等の地上業務に周波数が分配され,また,固定衛星業務等の宇宙業務への周波数分配の見直しが行われた。
 また,周波数帯分配表の上限が275GHzから400GHzに拡大された。
(イ) 技術基準等
 局の一般的技術基準については,周波数の許容偏差,スプリアス発射レベルの最大許容値等に関し,新基準を採択した。
 また,電波の発射の表示方法は,5字から成る表示に改められた。
 宇宙業務相互の周波数共用のための規定については,固定衛星業務及び放送衛星業務の静止衛星の位置を経度の±0.1度の精度に保つこととし,また,静止衛星のアンテナビームの指向確度は,既に0.1度と定められている12GHz帯放送衛星以外についても,ビームの半値幅の10%又は0.3度のいずれか大きい方の値を超えてはならないこととし,規定を改めた。
(ウ) 周波数割当ての調整・通告・登録手続
[1] 地上無線通信業務の周波数割当て
 現行制度を改善する具体的方法として,短波帯固定業務の既登録のすべての周波数割当てを点検して,A(他の電気通信手段によっては,満足なサービスを提供することができないもので,通常運用に使用するもの),B(他の電気通信手段に対する予備として使用するもの)及びC(臨時使用のために保留するもので,国際的に混信の保護を必要としないもの)に3分類し,それぞれ異なるステータスを与えることとなった。また,この分類の考え方については,現行記録の整理が終了した後,短波帯における固定局の新たな周波数割当ての通告を行う場合にも適用することとなった。
 このほかに,開発途上国が短波帯の固定局に対する周波数割当ての通告を行う場合,周波数のポイントを示さなくとも,比較的簡単な周波数割当ての特性に関する事項を示して通告すれば足りることとし,この場合には,国際周波数登録委員会(IFRB)及び他の主管庁は,適当な周波数を選定するため,援助と協力を行うことが定められた。
[2] 宇宙無線通信業務の周波数割当て
 現行の事前公表,調整及び通告の3段階の手続を基本的に維持することとし,規定の明確化を図るための細部の手直しが行われた。また,地上無線通信業務の周波数割当ての場合と同様,国際周波数登録原簿の周波数割当ての記録を定期的に総点検する規定が加えられた。
[3] 周波数帯分配表の脚注で要求される調整については,おおむね宇宙業務の局の調整手続に準じた内容の手続が新たに定められた。
(エ) 一般的管理規定等
 将来の宇宙通信の発展等に備えるため,新たな定義が作成されたほか,海上移動業務の局が使用する数字による新たな識別方法についての基本規定が採択され,また,国際呼出符字列の不足に対処するため,従来のコールサインの組立て方が改められ,今後の全世界的な無線局の増加に備えることになった。
 さらに,1949年のジュネーブ条約によって保護される医療輸送体の識別方法等について,新たに規定を設けた。
 また,WARC-BS(1977年ジュネーブ)の最終文書は,無線通信規則の附録として統合された。
(オ) 追加無線通信規則の廃止と無線通信規則の再編成
 海上移動業務及び海上移動衛星業務の公衆通信に関する規定のうち,国際計算等に関する基本的事項のみを無線通信規則に残し,ほかは国際電信電話諮問委員会(CCITT)の勧告にゆだねることとし,追加無線通信規則を廃止した。また,無線通信規則については,過去20年間における数次の一部改正で,規定が複雑になっていたが,今回,体系化を図り再編成した。
(カ) 決議及び勧告
 新規定の実施を補充するもの,周波数帯分配表の改正に伴う周波数割当ての移行に関するもの,将来の会議開催とそれに対する指針に関するもの,国際無線通信諮問委員会(CCIR)等への研究の要請に関するもの等,87件の決議,91件の勧告が採択された。
ウ.今後の問題
 この会議では,既述のとおりの改正が行われ,今後約20年間における電波需要の変化に対する手当てがなされた。もっとも,この会議の結果を受けてより具体的な運用規定を作る必要性や個別の業務に関する規定の細部的な見直しを図る必要性が残されている。また,今回の会議では,開発途上国の発言が目立ち,特に短波帯,宇宙業務用周波数帯及び静止衛星軌道の使用の在り方を巡り,先進諸国と対立した。しかし,これらの問題を解決するための技術基準が確立されていないこと及び種々の論点を検討するための準備期間が必要であることから,将来の主管庁会議において解決の道を探ることとなった。
 以上の状況は,決議・勧告における諸種の無線通信主管庁会議の開催要請となってあらわれており,これらを総合的にみると,1982年以降の数年間は,毎年のように会議を開催することが要請されていることになる。我が国としては,これらの会議への諸準備,南北問題の中での対応の在り方等を考慮していく必要がある。
(4) 世界電気通信展示会「テレコム79」
 全権委員会議(1973年,マラガ=トレモリノス)「希望」第3に基づく世界電気通信展示会「テレコム79」は,1979年9月20日から26日までジュネーブで開催された。
 世界電気通信展示会は,「電気通信技術の最新の進歩を連合員に周知するため及び開発途上にある国の利益のため電気通信の科学及び技術の利用の可能性を周知するため」(「希望」第3)開催されるものであるが,「テレコム79」には42か国から約600機関が参加,展示を行った。
 我が国からは,電電公社,国際電電,NHK,(財)海外通信・放送コンサルティング協力(JTEC)のほか民間の3団体7企業が参加した。
(5) 国際無線通信諮問委員会(CCIR)
 CCIRは,国際電気通信連合の常設機関であって,1929年に創設され既に半世紀の歴史を持っている。
 CCIRの任務は,無線通信に関する技術や運用の問題について研究し,勧告を出すことである。研究項目は,CCIRのほかITUの全権委員会議,主管庁会議などで決められ,CCIRの中に設けられている研究委員会に付託され,審議される。
 研究委員会は全部で13あって(第2-8-3表参照),それぞれ担当分野が定められており,基礎的な研究である電波伝搬から地上通信,宇宙通信,放送などの実際的な業務に関するものまで広範囲にわたっている。このほかに,研究問題の専門化,多様化に対処して効率的な活動を行うため,総会や研究委員会の下に多くの中間作業班が設けられている。
 総会は,通常3〜4年ごとに開催され,研究委員会の研究成果を承認するかどうかを決定する。総会で採択された文書は,勧告等の形で発表され,無線通信システムの設計及び実施のための世界的な技術的指針となる。
 一方,CCIRは,各種無線通信主管庁会議の審議のための技術的基礎を提供し,また,必要な場合には,無線通信規則の改正案を無線通信主管庁会議に提出する。
 CCIRは,第14回総会(1978年)以降新たな研究会期に入り,次期総会(1982年)に向けて研究活動が始められた。
 1979年度の主な活動は,次のとおりである。
ア.CCIR第8研究委員会中間作業班IWP8/7
 この中間作業班は,海上移動衛星システムの技術運用特性に関する基本的な問題について研究するため,第14回総会においてその設立が決議されたもので,第1回会合が1979年5月9日から11日まで,第2回会合が1980年3月24日から28日まで,それぞれロンドンにおいて開催された。
 これらの会合では,[1]衛星利用による遭難通信システムの技術運用要件,[2]船舶地球局の技術運用特性,[3]固定衛星業務からの干渉保護基準等について検討が行われ,報告案等が作成された。
イ.CCIR中間作業班IWP/PLEN 1
 この中間作業班は,最近における無線技術の発展と多様化に伴い,研究委員会の研究課題が増加し,複雑化してきたことから各研究委員会の責任範囲及びCCIRの作業組織を見直すために,第14回総会でその設立が決議されたもので,第1回会合が1979年6月25日から28日までジュネーブにおいて開催された。
 この会合では,今後検討すべきCCIRの組織上の問題点が整理され,総会の役割,研究委員会の構成,ITUの中でのCCIRと他の機関との関係,CCIRと他の国際機関及び発展途上国との関係等について討議が行われるとともに今後の作業手順等が決定された。
(6) 国際電信電話諮問委員会(CCITT)
 CCITTは,電信及び電話に関する技術,運用及び料金の問題について研究し,勧告を作成することを任務としている(第2-8-4表参照)。
 1979年度中には,1976年の前回総会で定められた研究課題について,1980年秋に開催される次回総会への報告提出を目指して,引き続き各研究委員会で検討が行われた。特に活発な研究活動が行われているのは,新データ網,電子交換,ファクシミリ,データ伝送等の分野である。我が国は,すべての研究委員会に参加するとともに,多数の寄与文書を提出し,これらの活動に積極的に貢献している。
 なお,54年11月7日から15日まで,ファクシミリに関する第14研究委員会の会合が京都で開催された。

第2-8-2図 ITUの組織

第2-8-3表 CCIRの研究委員会

第2-8-4表 CCITT研究委員会,プラン委員会等一覧(1)

第2-8-4表 CCITT研究委員会,プラン委員会等一覧(2)

 

 

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