昭和55年版 通信白書

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3 データ通信の開発動向

(1) データ通信市場の動向
 近年,データ通信用のハードウェアと通信サービスに対する需要は,各国において劇的に増加している。
 データ通信の構成要素の一つである電子計算機の金額ベースの設置状況は,第1-2-57図に示すとおり米国が全体の45.4%を占めている。
 米国では,コンピュータ処理(EDP)ユーザが1978年にデータ通信のために支出した回線費用は13億1,000万ドルであった。この額は年平均26%で増加してきており,1980年代においても20〜30%の増加率を維持することが予想されている。また,リモートデータ端末機器(DTE)の利用は1960年代に始まったが,1970年代にはその数が急速に増加し,データ通信サービスに対するニーズをより一層増大させている。これはデータ処理が分散化の傾向を強めつつあることと関連をもっている。一方,データトラヒックについて,アメリカ電話電信会社(AT&T)が行った市場調査によれば,米国産業界における総トラヒックは1978年から1985年まで年平均12%の増加率を示すものと推定している。
 第1-2-58表は,米国におけるデータ通信市場の動向(一部推定値を含む。)を示したものである。
(2) ネットワーク・インフォメーション・サービスの動向
 ネットワーク・インフォメーション・サービス(NIS)は通信回線を通じてコンピュータ処理を行うもので,ユーザが即時に回答を得られ,また遠隔地からのアクセスが可能であることなどの利点があり,飛躍的な伸びが続いている分野である。米国におけるコンピュータ処理サービスの売上高は第1-2-59表のとおりである。1978年におけるNISの売上高は27億700万ドルで,処理サービス全体のうち47%に達している。NISの伸びは,今後5年間毎年平均20%の増加が期待され,1983年には約70億ドルに達すると予測されている。このような発展は,
[1] データベースの発展
[2] 安価で便利な通信回線の出現
[3] 情報処理の即時性への要求
によるものと考えられている。
 一方,1975年時点でのヨーロッパにおけるNIS分野の売上高シェアは,第1-2-60表に示すように58.8%が米国系業者で占められており米国系企業の侵入に対する脅威は大きなものであった。その後1978年の売上高はヨーロッパ・コンピューティング・サービス連合会(ECSA)加盟11か国で10億7,820万ドル,それに非加盟国のアイルランド,スイス,ポルトガル,オーストリアを含めた15か国では11億6,740万ドルとなった。これは依然米国の半分以下にすぎないが,第1-2-61表でわかるように各国とも前年に比べてかなりの成長を示しており,米国系企業に対する脅威も徐々に薄れつつある。なお,このNISの売上高はコンピュータサービス産業全体の20.4%を占め,今後においても毎年かなりの成長が見込まれている。また,ヨーロッパ諸国のデータ通信は,オランダとオーストリアを除いて郵電主管庁(PTT)のほとんど独占となっており,NISの発展もPTTの政策に大きく影響を受けることとなる。
(3) オンライン・データベース・サービスの動向
 NISのうち,主に検索サービスを行う分野を特にオンライン・データベース・サービスと呼んでいる。このサービスは,各種の情報を体系的に整理蓄積してユーザにデータ伝送網を通じて提供するもので,1970年以降欧米特に米国で急速に成長してきた。米国のインターナショナル・データ社の調査によると,米国のオンライン・データベース・サービス市場は1978年の5億4,600万ドルから1979年には6億8,300万ドルへと増加しており,将来予測によると1981年には10億ドル,1983年には16億ドルを超えるものと見積もられている(第1-2-62表参照)。
 欧米におけるデータベースの数は1978年時点で403件で,国別では全体の70%(284件)を米国が占めている(第1-2-63表参照)。また,オンライン・データベース・サービス提供者については現在欧米諸国では118の提供者があり,その半数を米国の提供者が占めている(第1-2-64表参照)。
 また,ヨーロッパにおけるオンライン・データベース利用件数を見ると,第1-2-65表のように,米国系サービスへの依存度が年々増えており,ヨーロッパ諸国における大きな問題となっている。そのための一つの対応策としてヨーロッパ諸国のデータベースをつないで融通し合うという目的でディジタルデータ網であるユーロネットの構築が急がれ,1979年末にサービスが開始されている。
(4) 進展するディジタルデータ網サービス
 近時,データ通信等の需要の増大に伴い,高品質・高速で経済的なシステムを構築することができる新しいネットワークに対するニーズが高まってきた。このため,欧米主要国のほとんどはパケット交換,あるいは回線交換方式によるディジタルデータ網の建設に取り組んでいる(第1-2-66表参照)。
ア.米国の動向
 米国のデータ通信サービスはAT&Tをはじめとする公衆通信事業者,特殊通信事業者,衛星通信事業者,付加価値通信事業者によってサービスが提供されており,多種多彩な新サービスの提供,サービス地域の拡大,マーケッティングの強化,料金の改訂等を通じて激しい競争が展開されている。
 回線交換サービスとしては,AT&TのDSDS(Dataphone Switched Digital Service)が1977年6月に条件付きで認可を受けているが,AT&Tから提出されたサービスの収支を記録するためのサービス費用記録システムの妥当性を巡ってFCCとの間で論議が交わされており,サービス開始には至っていない。次にパケット交換サービスでは,以前からテレネット社(1979年5月合併によりGTE-テレネット社),タイムネット社が全国的な公衆パケット網サービスを提供し,またグラフネット社がパケット交換網を使ってファクシミリサービスを行っている。これに加えてITT・DTS(Domestic Transmission Systems Inc.)が,1976年12月認可されたディジタルデータ網(COM-PAK)を使って,1979年12月,FAX-PAKと呼ばれるファクシミリサービスを開始した。
 これらパケット交換サービスを行っている業者は,付加価値通信業者(VAC)で,既存の公衆通信事業者から回線を賃借し,それによって網を構築するなどいわゆる付加価値をつけて再販売する,米国で誕生した新しい形の通信事業者であり,その総売上げは,まだ米国全通信事業者の総売上げの約0.8%を占める程度であるが,最近のデータ通信サービスに対するニーズの多様化,高度化を反映して急速な成長を遂げている(第1-2-67表参照)。
 また,AT&Tのパケット交換方式による公衆データ交換網であるACS(Advanced Communication Service)は1978年7月,既に認可済みのDDS(Dataphone Digital Service)やDSDSのディジタル設備を用いての提供許可を求める確認決定(declaratory ruling)の申請を行い,1979年7月タリフ申請を提出する予定であった。ところが予期しないソフトウェアの問題が起きたとして,AT&TはACSの開始延期を表明した。これに対して1980年3月,FCCはACSのシステムの基本的要素が不明であること,また料金や維持費等が提出されなかったため確認決定申請を却下している。
 またサテライト・ビジネス・システムズ(SBS)社は1980年10月に打上げを予定している衛星を利用したSBSシステムを計画しているのに対し,ゼロックス社も衛星を使い1981年までにサービス開始を予定しているXTEN(Xerox Telecommunication Network)計画を進めている(第1-2-68表参照)。
イ.ヨーロッパ
 ヨーロッパ諸国のディジタルデータ網サービスは,フランス,英国,スペイン等のパケット交換型と,西独,北欧等の回線交換型の二つのグループに分けられるが,最近では回線交換型の国も相次いでパケット交換サービスの導入を具体的に検討している。
 英国では郵電公社(BPO)がデータ通信の高まる需要に対処するため,1977年以来パケット交換実験サービス(Experiment Packet Switched Service-EPSS)を実施してきたが,国際規格と合わないため,CCITT勧告X.25等を採用した新たなパケット交換網(Public Packet Switching Service-PSS)の建設を進め,1980年3月からサービス開始を予定していたが,ソフトウェア作成に時間を要し夏ごろまで延期されることとなった。当初の計画では,英国内に九つの交換局を設置し,その間を48kb/sの高速データ回線で結ぶ予定である。
 一方,ディジタル交換機の開発計画としてはシステムXがある。システムXは将来のディジタル統合網の中核になることをねらいとして開発している蓄積プログラム制御方式の交換システムであり,1981年からサービスを開始する予定である。
 フランス政府は,いわゆるテレマティークを急速にかつ調和を保ちながら進めていくという方針を出しており,これを受けてフランス郵電省(PTT)は,公衆データ伝送網であるトランスパックをテレマティーク計画の一環として構築しつつある。1979年9月現在でユーザ数は500加入,積滞数は1,400加入あり,今後はスピードが遅く,価格の安い端末(例えばテレプリンター)を開発することによって遠隔時分割処理やデータベースの検索等,中小企業への普及が望まれている。また,PTTではトランスパックですべての伝送を行うことを考えているのではなく,これが刺激となって新しいデータ伝送に対する需要が拡大することをねらいとしている。
 西独では郵電省(DBP)が,従来のテレックス網の交換・伝送技術をべースとしてデータ伝送のためのダテックス(Datex)を構築した。当初この網は電子機械的交換システムであり,この技術で提供し得る性能やサービスには限界があるため,1975年にダテックス網をディジタル化し,電子データ交換機であるEDS(Electronic Data Switching System)を導入してデイジタル回線交換サービスを開始している。しかし,最近ではパケット交換の経済性と新しい可能性が注目されるようになり,DBPではパケット交換サービス(Datex-P)を1980年中に提供する予定である。
 スペインでは,1971年世界で初めてパケット交換技術を用いて公衆データ網としてRETDサービスを開始している。この網は国際標準であるCCITT勧告がなされる以前に構築されたものであるため,現在国際標準規格の導入を図りつつある。
 EC加盟9か国を結合する国際パケット交換サービスであるユーロネット(Euronet)は,1979年11月正式に開始したが,1980年中ごろまでには,ECに加盟していないスイスへも拡大される予定となっている。

第1-2-57図 世界の電子計算機の設置状況(設置金額ベース)

第1-2-58表 米国におけるデータ通信市場の動向

第1-2-59表 米国におけるコンピュータ処理サービスの売上高

第1-2-60表 ヨーロッパ諸国におけるNIS業者の売上高に占める米国系業者のシェア(1975年推定)

第1-2-61表 ヨーロッパ諸国のNISの売上高推移

第1-2-62表 オンライン・データベース・サービス市場の売上げ高見積り

第1-2-63表 欧米諸国で提供されているデータペースの分野別内訳

第1-2-64表 欧米諸国のオンライン・データベース・サービス提供者数とその内訳(1978年現在)

第1-2-65表 ヨーロッパにおけるオンライン文献情報検索件数と米国系サービスへの依存件数(ヨーロッパ情報サービス連合:EUSIDICの推定)

第1-2-66表 各国におけるディジタルデータ網サービスの現状

第1-2-67表 VACの売上げの推移

第1-2-68表 ACS,XTEN,SBSのシステム比較

 

 

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