昭和55年版 通信白書

本文へジャンプ メニューへジャンプ
トップページへ戻る
操作方法


目次の階層をすべて開く 目次の階層をすべて閉じる

2 航空保安用

(1) 航空交通管制通信
 航空の分野における無線通信の役割は,専ら航空機の航行の安全と秩序を確保することにある。したがって,その主要な利用形態は航空交通管制のための通信と無線航行援助のための通信(航空保安無線)である。
 民間航空機の航行の安全に関する業務は,多少の例外はあっても,ほとんどすべての国において国の責任によって行われている。このような業務に使用される通信を航空交通管制通信と称している。
ア.航空移動業務
 航空機が航行中,地上の航空管制官又は航空管制通信官との間に行う空地通信である。国内を航行する航空機に対しては,札幌,東京,福岡及び那覇の各航空交通管制部並びに各空港の管制機関が,また,洋上を航行する航空機に対しては,東京及び那覇の各航空交通管制部がそれぞれの責任分担空域において無線電話による航空交通管制通信を実施している。
 この業務に使用されている電波は,短波帯とVHF帯であるが,短波帯はITUで分配された2,850kHz〜17,970kHzの周波数帯を,VHF帯は118MHz〜136MHzの周波数帯を使用し,通信は無線電話によって行われている。
 54年度においては,航空管制業務を実施するため東京(小松),南大東の各航空局が開設された。
イ.航空固定業務
(ア) 航空固定電話
 航空機を管制する地上局が,自己の管制空域を離れて隣接する空域へ航行する航空機の管制を隣接の管制機関へ移管するための隣接管制区管制機関相互の直通無線電話通信である。
 国内を航行する航空機の管制移管のために札幌,東京,福岡,那覇相互間に,また,国際線就航便のために東京とアンカレッジ,ホノルル,大邱及び上海との間,那覇と台北,ホノルル,大邱及びマニラとの間並びに札幌とハバロフスクとの間にそれぞれ有線,衛星,マイクロウェーブ又は短波による直通電話回線が設定されている。
(イ) 航空固定電信
 航空機が飛行前にあらかじめ飛行経路上及び目的空港に関する航行の安全上必要な情報並びに航空管制上必要なデータを交換するために行われる電信通信(国際通信網としては,AFTN回線)である。
 国内を航行する航空機の航空交通業務通報(ノータム・捜索救難に関する通報等)は各空港及び管制部を接続する国内テレタイプ通信網により,また,国際線就航機のための通報は,東京AFTN通信局とモスクワ,ハバロフスク,アンカレッジ,カンサスシティ,香港,ソウル及び北京間並びに那覇AFTN通信局と台北間に設定されているAFTN回線(北京は準AFTN回線)により取り扱われており,ケーブル,衛星,マイクロウェーブ又は短波が使用されている。
(2) 航空無線航行用通信
 現在,航空機はヘリコプター,自家用軽飛行機等一部の小型航空機が主に有視界飛行方式により飛行を行っているほかは,地上の航空保安無線施設を利用して,機上の無線航行装置を用いて計器飛行方式により飛行を行っている。
 機上の装置には空地通信のためVHF帯及び短波帯を使用する通信設備のほかに,航行装置としてADF(自動方向探知機),VOR受信装置,ILS受信装置,電波高度計,気象レーダ,ATCトランスポンダ,DME機上装置,ドップラレーダ,オメガ受信装置等がある。
 地上においては,54年度末現在第2-3-10表に示すような各種の航空保安無線施設が設置されており,航空機はこれらの航空保安無線施設及び機上の装置を利用することにより自機の針路,位置,速度,高度等を確認し安全運行を行っている。
 54年度には,下地島に我が国初のジェット機訓練用飛行場が開港するのに伴い,ILS(2)及びVORDMEが設置されたほか,ILSが山形,八丈島,広島に,VORDMEが女満別,屋久島,石垣に,VORTACが串本に,NDBが喜界にそれぞれ開設された。
(3) 飛行場情報提供用通信
 飛行場情報提供用通信は,航空機が特定の空港に離着陸する際に必要な風速,風向,視程,飛行場の状態,航空保安施設の運用状況,使用滑走路の情報等を連続して提供するものである。この業務は,飛行場情報自動通報業務(ATIS)といい,運輸省が東京国際(羽田),新東京国際(成田),大阪国際,名古屋,福岡,宮崎,鹿児島,那覇の各空港において,VHF帯を使用して運用している。
(4) 航空路情報提供用通信
 航空路情報提供用通信は,飛行場周辺以外の空域を飛行するすべての航空機に対して,その航行の安全に必要な情報を対空送受信及び対空送信(放送)により提供し,並びに機長報告等航行の安全に関する空地通信を実施するものである。この業務は航空路情報提供業務(AEIS)といい,札幌,東京,福岡及び那覇航空交通管制部のAEISセンターからVHF帯の遠隔対空通信施設を使用して運用するものであり,運輸省では,これまで石狩,仙台,河和,土佐清水,岩国,沖永良部に対空送信施設,帯広,横津岳,上品山,新潟,成田,岩国,三国山,河和,土佐清水,三郡山,加瀬田,奄美,八重岳に対空送受信施設を設置・運用している。
(5) 将来の動向
 増大,多様化する航空需要とこれに伴う空港及び航空路の混雑等に対処するため,航空通信の分野では次のような計画が導入されようとしており,一部については既に整備が進められている。すなわち,[1]航空路監視レーダを整備すること,[2]管制情報処理システムを整備すること,などであり,さらに,将来においては,[1]計器着陸方式(ILS)に代わり精度の高いマイクロ波着陸方式(MLS)を整備すること。[2]航空機同士の衝突を自動的に防止する衝突防止装置(CAS)を機上に整備すること。[3]データ自動交換方式を採用すること。[4]通信の通達距離の拡大と質の改善及び洋上空域の監視のため,宇宙通信技術を導入すること。[5]ワールドワイドな運航管理通信の導入,などが考えられており,研究が進められている。これらの将来計画が実現されることになれば,航行の安全性と定時性はより一層確保されることとなるであろう。

第2-3-10表 航空保安無線施設等の設置状況(54年度末現在)

 

 

第2部第3章第2節1 警察用 に戻る 3 海上保安用 に進む