昭和55年版 通信白書

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3 宇宙通信

(1) 進展する宇宙通信
 宇宙空間に打ち上げた衛星を利用して行う衛星通信は,1965年,国際電気通信衛星機構(INTELSAT)の第1号衛星によって本格的な実用期を迎えることになり,その後,インテルサットをはじめとする衛星通信は,全世界をカバーする巨大なネットワークを構成し,電気通信の分野において多彩に利用されているばかりでなく,様々な影響を与えるに至っている。
ア.衛星によるグロ-バル・ネットワークの構成
 現在商用に供されているインテルサット系の衛星は,大西洋上の<4>号系衛星1個及び<4>-A号系衛星2個,太平洋上の<4>号系衛星及びインド洋上の<4>-A号系衛星各1個であって,これら5個の衛星(他に予備衛星7個)によってグローバル・システムが構成されている。
 インテルサットの発足後,これまでに<1>号系1個,<2>号系3個,<3>号系5個,<4>号系7個及び<4>-A号系5個の打ち上げに成功しているが,これらのインテルサット衛星の発展状況は第1-2-31表に示すとおりである。
 <2>号系までの衛星の容量は,電話240回線又はテレビジョン1回線にすぎなかったので,国際テレビジョン伝送をする際には,その衛星を経由する国際電話,国際テレックス等を中止しなければならなかった。これに比べ,近く打ち上げ予定のV号系衛星は,電話1万2,000回線及びテレビジョン2回線という大きな容量を有するまでに至っている。
 第1-2-32表は,インテルサットの利用状況の推移を示すものである。加盟国についてみると,インテルサットの母体となった組織が発足した当時は,米国を中心にヨーロッパ,カナダ,オーストラリア及び日本の先進国11か国の参加により発足したが,その後,インタースプートニク系衛星を利用するソ連等共産圏諸国を除くほとんどの国が加盟しており,1979年12月末日現在で102か国に達した。ただし,インテルサットは加盟国以外にも衛星の利用を認めているので,同日現在で地球局を設置している国の数は,124か国にのぼっている。
 また,第1-2-33図は,地球局数の地域別割合の推移を示すものである。当初は衛星が大西洋上にしかなかったこともあって,まず北米,ヨーロッパを中心とするネットワーク化が始まった。次いで,太平洋上及びインド洋上への衛星の打ち上げに伴い全世界的な広がりをみせ,近年においてはアフリカ等の開発途上国における地球局の設置が目立って多くなっている。
 インテルサットは,衛星通信の実現のために世界各国が協力して形成した,電気通信の分野における新たな国際秩序といえよう。これによって,経済力の小さな国又は技術水準の低い国にあっても,高度な技術に基づく衛星通信の利用が可能となった。
 さらに,インテルサット系衛星は,国際間のグローバルなネットワークを構成する核としての役割にとどまらず,国内通信用のネットワーク構成にも貢献している。これは衛星回線をトランスポンダ(中継器)単位で,又はその4分の1単位で賃借をするごとによって実現するものであり,その現状を第1-2-34表に示す。
 このインテルサット・ネットワークとは全く別のネットワークで,やはり衛星によって構成されているものに海事衛星通信システムがある。
 このシステムは,大西洋,太平洋及びインド洋上に打ち上げられた各1個の衛星を使用して,地球上のほとんどの海域をカバーするグローバル・ネットワークを構成し,これによって航行中の船舶と陸上との間の通信を行っているもので,1976年から運用が開始されている。
 なお,この海事衛星通信システムは,現在,米国の公衆電気通信事業者のジョイント・ベンチャーであるマリサット(MARISAT)により運用されているが,他方,世界の主要な海運国が共同して本格的な国際海事衛星通遣システムを設置することとなって1979年に国際海事衛星機構(INMARSAT)を発足させており,1982年にはインマルサットによる新しいシステムが運用開始の予定である。
イ.衛星による新たな通信分野の利用
 衛星通信の実用化は,通信の利用の面に新たな展開をもたらした。国際データ通信,国際ファクシミリ通信等,大量かつ高速の伝送を要する通信が容易になったのはいうまでもないことであるが,衛星通信でなければできない機能を生かして,従来は不可能とされていたことを可能としたものに,テレビジョン番組の国際中継がある。南極大陸からの生中継,オリンピック,サッカー等のスポーツ実況放送等,記憶に新しいところであろうが,国際テレビジョン伝送は,このようなメインイベイトばかりでなく,毎日一定の時間帯に,日常的な国際ニュースの伝送にも利用されている。
 また,前述の海事衛星通信も,衛星通信の実用化によって初めて可能となったものである。従来,外洋を航行する船舶と陸上の通信は,主として短波により行っていたが,場合によってはまる一日中通信不能という事態すらもあった。衛星通信の実用化によって,テレックス,電話のほか,ファクシミリ,データ伝送も可能となり,SOS等の非常時における通信も容易に行うことができるようになった。
ウ.衛星利用の経済的側面
 グローバルなネットワークを構成し,いろいろな分野で利用されるに至っている衛星通信は,近年における目覚ましい技術革新の成果が,その実現をもたらしたものである。また,衛星通信の実現とその後の発展がなお一層の技術進歩を促し,さらに,その成果を急速に衛星通信に採り入れることによって,衛星通信はますます発展しつつある。
 このような経緯の下に,第1-2-31表に示したとおり,技術の進歩によるインテルサット衛星の通信容量の増大は,回線・年当たり投資額の低下をもたらしており,加盟国の増加,衛星利用量の順調な伸びなどとも相まって,第1-2-35図に示すとおり,インテルサットの利用料が次第に低減化することとなった。
 また,通信衛星の経済性をみると,国際電気通信に広く用いられる衛星とケーブルとは,それぞれ得失を持っているが,ケーブルのコストは回線距離と比例的な関係にあり,他方,衛星の場合には,そのコストが距離に無関係である(第1-2-36図参照)。
 なお,国際通信回線の設定に際しては,回線の経済性のほかにも,利用対象とする通信に必要な伝送品質,通信の安定的な確保,対地との距離や通信量等といった側面から,衛星,ケーブル等のいずれかが選択されることになり,あるいは,複ルート化という観点から衛星とケーブル等とが併用されていくであろう。
 衛星通信に関する技術は,今後においても急速な進歩が予想されるところであり,多様な需要の増大と相まって,衛星通信は,ますます多彩な発展をみるものと期待される。
(2) 宇宙通信等の開発に伴う経済的社会的な影響
 宇宙通信をはじめとする宇宙開発について総体的にみれば,我が国はこの分野の先進国である米国からの技術等の導入等によって実用化する傍ら,自主技術の開発に努力してきた。
 宇宙の開発を行う意義は,宇宙開発の実用化による国民の福祉ないしは産業経済の発展への波及効果を得ること,科学技術の水準向上及び新技術の開発に寄与することなどにあるといわれる。
ア.技術開発の波及効果
 宇宙開発の過程では,通信,制御,計測,材料加工をはじめ様々な分野で極限まで達した先端技術が開発されることとなり,その技術は他の多くの分野で利用・転用されている。また,そのシステム的思考は企業経営をはじめとする経済社会活動に広く浸透することとなった。
 この宇宙開発の分野で先導的な役割を果たしたのは,アメリカ航空宇宙局(NASA)による一連のプロジェクトである。NASAは,1958年,軍事用以外の宇宙計画を一手に引き受ける国家機関として発足し,その最盛期(1960年代後半)には年間50億ドルを超える資金が投資された。NASAによって実施されたアポロ計画をはじめとする様々なプロジェクトの中から数多くの新技術が開発され,広く経済社会へ波及することとなった(第1-2-37図参照)。
 特に,LSI,通信,コンピュータ等にかかわるエレクトロニクスの分野は最も大きな波及効果を受けたものの一つと考えられ,近年の多彩な新しい通信メディア・新しいネットワークの誕生を促すこととなった。
イ.産業経済活動に対する寄与
(ア) 開発関係予算
 宇宙開発のようなプロジェクトは,かつて米国ではNASAが推進したように,我が国においてもナショナル・プロジェクトとして進められている。
 第1-2-38図は,我が国の宇宙開発関係予算の推移を示すものであるが,予算額は逐年増加し,55年度においては1千億円を超えるに至った。宇宙通信の開発もこの予算によって推進されているが,郵政省においては,通信衛星,放送衛星,電離層観測衛星等を,また運輸省及び宇宙開発事業団と共同で航空・海上技術衛星の開発を推進している。
(イ) 生産額及び設備投資額
 この予算の実行段階において,通信衛星,放送衛星等の人工衛星や打ち上げ用ロケット等の飛しょう体の調達,地上設備の整備及びソフトウェアの作成が行われ,これらが宇宙開発産業の主たる生産額となる。
 第1-2-39表は,我が国の宇宙開発産業の生産額及び設備投資額を示すものである。
 50年度から53年度に至る調査対象期間において,我が国では12個の人工衛星を打ち上げ,また,マリサットによる海事衛星通信システム用の山口海岸地球局の完成をみたが,毎年850億円ないし1,050億円程度の生産額となっている。
 また,設備投資額は,年度によりかなりの変動をみせているが,分野別構成では60%が飛しょう体のための設備投資となっている。
(ウ) 輸出入高
 (社)日本機械工業連合会の調査によれば,50年度から53年度の累計で,輸出573億円に対し輸入が1,075億円で,約500億円の輸入超過となっている。輸出の大部分は地上設備(通信衛星用地球局及びその関連設備)であって,この分野における我が国の競争力の高さを示している。他方,輸入では飛しょう体が約73%を占め,ロケット等の外国への依存度が高いことを物語っている。
 なお,地球局設備プラント輸出の推移を地域別に示したのが,第1-2-40表である。41年から45年までのプラント輸出実績は11局であったのが,次の46年から50年までには17局に増え,さらに51年から55年までの5年間には55局と飛躍的な伸びを示している。全期間を通じてみると輸出先は世界の全地域に及び,最近では中近東,アフリカ,ヨーロッパ(ルーマニア,オーストリア,スイス,ソ連等)の増加ぶりが目立っている。
 この地球局設備のプラント輸出の輸出高は,通信工業統計資料によると,45年度から54年度までの10年間で総額4億1,545万ドルに達し,地域別ではヨーロッパ1億1,465万ドル,中近東8,877万ドル,アフリカ7,623万ドル等となっている。
(3) 宇宙通信の今後
 宇宙通信の実用化は,短期間のうちにグローバルなネットワークを構成して,電気通信,放送等の普及と高度化を促し,経済産業面に新たな需要を創出している。また,宇宙通信に関する自主技術の開発は,我が国の技術の総合的な進展のみならず,様々な分野の変革に先導的役割を果たすものと期待されるところである。
ア.通信衛星及び放送衛星の開発の推進
 通信衛星2号(CS-2a及びCS-2b)は,通信衛星に関する技術の開発を進めるとともに,利用機関における通信需要に応じることを目的とした衛星で,57年度及び58年度に打ち上げることを目標にして開発が進められているものであり,また,放送衛星2号(BS-2a及びBS-2b)は,放送衛星に関する技術の開発を進めるとともに,テレビジョン放送の難視聴解消等を図ることを目的とした衛星で,58年度及び60年度に打ち上げることを目標として開発が進められている。
 なお,いずれの衛星も,現在打ち上げられている実験用中容量静止通信衛星(CS)又は実験用中型放送衛星(BS)と基本的に同様の構成であるが,国産化率の向上,軽量化等が図られている。
 ちなみに,CSの国産化率は約23%,BSの国産化率は15%程度であるが,CS-2では国産化率が64%程度と期待されている。
イ.実用衛星の利用の在り方に関する基本的方策の策定
 第二世代の実用通信衛星(仮称CS-3)及び実用放送衛星(仮称BS-3)の利用の在り方に関する基本的な考え方についての調査研究を行うことを目的として,55年6月,電波利用開発調査研究会に学識経験者から成る「実用衛星部会」を設置した。
 特に放送衛星については,その利用の在り方いかんによって既存の放送体系,放送事業者等に大きな影響を与えることとなるので,十分検討する必要がある。

第1-2-31表 インテルサット衛星の発展状況

第1-2-32表 インテルサットの発展状況

第1-2-33図 インテルサット地球局数の地域別割合の推移

第1-2-34表 インテルサットの国内通信への利用状況

第1-2-35図 インテルサット利用料の推移

第1-2-36図 衛星とケーブルの経済比較概念図

第1-2-37図 宇宙開発技術の波及効果

第1-2-38図 我が国の宇宙開発関係予算の推移

第1-2-39表 我が国の宇宙産業の生産額及び設備投資額の推移

第1-2-40表 地球局設備プラント輸出(出荷)の推移

 

 

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