昭和55年版 通信白書

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2 画像通信の開発動向

(1) 電子郵便
ア.電子郵便の現況
 近年急速に発達した電気通信技術を用いた電子郵便サービスの各国の現状は第1-2-49表のとおりであるが,米国のメールグラムサービスを除いては利用は多くない。
 米国のウェスタン・ユニオン電信会社(WUT)が米国郵便事業(USPS)と提携し提供しているメールグラムサービスは,米国本土のどこにでも翌日配達を保証する電子郵便サービスで,1970年に導入され,1972年に実質的な営業が開始された。メールグラムサービスの特色は,WUTの電子交換及び伝送装置の高速性とUSPSの市内配達組織の経済性とを結びつけた点で,企業,一般公衆に広く受け入れられている。このため,サービスの成長は第1-2-50表及び第1-2-51図にみるとおり着実であり,1978年度にはWUTの全収入の9.3%を占めるまでになった。
イ.新たな展開を始めた電子郵便
 USPSは,メールグラムの成功,郵便事業経営の将来展望,電子送金サービスの登場といった各種要因を考慮し,米国研究諮問委員会の報告及び郵便事業委員会の勧告を踏まえて,現在,コンピュータ発信電子郵便(ECOM)及び国際電子郵便(インテルポスト)の計画を推進している。
 ECOMは,自己のコンピュータを有する大企業利用者を対象とし,25都市の郵便局網を利用して全米50州における翌々日配達を保証するシステムで,郵便事業における本格的な電子郵便システムの過渡的な形態である。
 ECOMメッセージは差出人のコンピュータ等によって直接に送付されるか,あるいは磁気テープの形で差し出され,あらかじめ指定された取扱郵便局に電子的に伝送される。郵便局ではそれを高速プリンタによってハードコピーに転換,封入し,通常郵便物とともに配達する。料金は1通当たり30〜55セント,年間送信数は約50億通を見込んでいる。
 なおECOMは,将来総合的な電子郵便システムである電子メッセージ・サービス・システム(EMSS)へ事実上移行していくこととなっている。
 EMSSは,企業,官公庁及び家庭の利用者を対象とした電子郵便システムで,全米の95%に対する翌日配達が目標とされている。このシステムでは通常のハードコピー・メッセージに加え,コンピュータ,ファクシミリ等からの電子的入力も受付け可能である。なお,ハードコピーは郵便局に設置された公衆用入力装置に入力され,OCR/ファクシミリにより磁気テープ等に変換されてEMS局へ電子的に伝送される(第1-2-52図参照)。
 一方,インテルポストはUSPSとコムサットの共同計画による国際電子郵便の実験サービスで,インテルサット<4>-A号衛星を介してアルゼンティン,ベルギー,西独,フランス,イラン,オランダ及び英国の7か国との間で行われる計画である。
 ところで,電子郵便は郵便と電気通信が重合化したメディアであるため,米国においては,その境界領域をめぐってUSPSと連邦通信委員会(FCC),電気通信事業者との間で議論が行われている。
 USPSは,1979年9月に監督機関である郵便料金委員会(PRC)に対し,ECOMの認可申請を行ったが,これに対し,FCCはECOMの管轄権を主張し,また,タイムネット,グラフネット,AT&T等の民間の通信事業者は,USPSの電子郵便サービス分野への進出は独占的支配をもった競争者の出現ととらえ,強く異議を唱えている。なお,1979年7月,カーター大統領が条件つきながらUSPSの電子郵便計画を支持する声明を発表し,更に同年12月にPRCが大統領声明の趣旨に沿って,契約者をWUT社1社に限定するのではなく,取扱いを希望する多くの通信事業者に通信業務を委託できるなどの内容を織り込んだ新しい内容・目的の電子郵便を認め,USPSもこれを基本的に受け入れたことから,ECOM計画は新たな段階を迎えている。
(2) 国際的競争下のビデオテックス
 現在,我が国をはじめ欧米主要国では,テレビ受像機をディスプレイ端末として利用し,情報検索サービスを提供するビデオテックスシステムの開発が活発に行われている(第1-2-53表参照)。取り分けヨーロッパ諸国においては1日4〜5時間しか使われていないテレビのブラウン管の有効利用を図ることにより新たな需要を創出し,各種産業を賦活・育成するとの政策的配慮から熱心な取組みを行っている。
 ビデオテックスシステムの原型となったプレステル(PRESTEL)を開発した英国郵電公社(BPO)は,このシステムを国の重要施策の一つに位置づけており,このため1979年3月,世界に先駆けて商用サービスを開始する一方,積極的な海外マーケッティング活動を展開している。BPOがプレステルの開発に投資した資金規模は商用開始までに約2,300万ポンドであったが,1984年までには更に約1億ポンドが追加されるものと予想されている。
 商用サービスは,現在,ロンドン,ノッチンガム,グラスゴー,エジンバラ及びバーミンガムの5地域で提供されており,1980年中には更に13地域が追加される予定であるが,これにより英国の電話加入者の約50%がカバーされることになる。ただし,端末機の普及は必ずしも順調ではなく,強力な施策が必要とされている。
 フランスでは,コンピュータ,端末機器,電気通信施設に対する国内需要を高めることにより,フランスの情報産業の体質を強化し,この分野での国際市場において優位を占めるための情報化政策の一環として,郵電省(PTT)によりビデオテックスシステムの開発が進められている。具体的なプロジェクトとしては,テレテル(TELETEL)及びエレクトロニック・ダイレクトリー(Electronic Directory)の実験が計画されている。
 テレテルの実験は1980年末からパリ郊外のベリジーで開始される予定であるが,この実験では情報センタの所有・運用をサービス提供者に積極的にゆだねていく方針をとっていること,また情報検索サービスに加えてメッセージサービス,処理サービス(計算,予約,オンライン取引等)といった多様な利用が計画されている点が大きな特色となっている。
 エレクトロニック・ダイレクトリーの実験は1981年からイレ・エ・ビレヌ地域で開始されるが,ビデオテックスを電話番号検索に利用しようとしている点及び電話加入者に対し端末機を無償で設置する点が大きな特色として各国の注目を集めている。
 カナダでは,通信省(DOC)が開発したテリドンを国内産業基盤の確立及び国際競争力強化の観点から重要施策の一つに位置づけており,その研究開発及び実験には積極的な助成を行っている。テリドンの実験は,ベルカナダがビスタ(VISTA)というサービス名で,トロント,モントリオールにおいて実施するほか,アルバータ州政府電話会社,マニトバ電話会社等多くの事業体が電話回線,CATV,光ファイバケーブル等各種の媒体を利用し,情報検索サービス,メッセージサービス,音声サービス等多様なサービス内容の実験を計画している。
 西独では郵電省(DBP)が英国の技術を導入し,ピルトシルムテキスト(BILDSCHIRMTEXT)の開発を進めてきたが,1980年6月にデュッセルドルフと西ベルリンにおいて実験を開始した。
 その他,1980年中にはオランダ,スイス,米国等が相次いで実験を開始する予定である。
 このような各国の開発努力により,ビデオテックスは今後急速に成長していくものと期待されている(第1-2-54図参照)が,同時に編集権,プライバシーの保護,他のメディアとの境界問題,運営主体,標準化等多くの課題にも直面している。
(3) 開発が相次ぐテレテキスト
 我が国において文字多重放送と呼ばれているテレテキストの開発は,英国,フランスを中心に進められてきたが,最近ではカナダ,米国等も独自の方式によるシステムを開発している(第1-2-55表参照)。
 英国では,英国放送協会(BBC)がシーファックス(CEEFAX)を開発し,1974年9月から2年間の実験放送を行い,1976年秋には正式業務としての許可を得て定時サービスを開始した。これに対し,独立放送協会(IBA)ではオラクル(ORACLE)を開発し,1975年6月以来実験放送を行っている。現在,BBC1,BBC2,ITVでテレビジョン放送の全時間テレテキストが放送されている。
 フランスではPTTとラジオ・テレビ送信担当公社(TDF)によって運営されているテレビ電気通信共同センタ(CCETT)が開発したアンチオープ-ディドン(ANTIOPE-DIDON)の多様な実験がなされている。主要なサービスとしては株式情報提供サービス,気象情報サービス,地域情報提供サービス等がある。
 西独では,西ドイツ放送連盟(ARD)とドイツ第2テレビ協会(ZDF)がビデオテキスト(VIDEOTEXT)の開発を進めてきたのに対し,ドイツ新聞出版協会(BDZV)はビルトシルムツアイトンク(BILDSCHIRMZEITUNG)という名のまったく同じ方式のシステムを開発してきた。放送界と新聞界はこのサービスの送信権を巡り激しい議論を続けてきたが,最近ようやく両者間で妥協が成立し1980年6月1日から実験放送が開始された。この実験放送にはARD,ZDF及び新聞社5社が参画している。
 米国では公共放送サービス(PBS)が開発したLINE21を利用した難聴者のための字幕放送サービス(Closed Captioning Service)が1980年春からPBS,ABC及びNBCのテレビジョン放送ネットワークを通じて放送されているが,その他,KSL-TVがビデオテックスの機能も併せ持ったタッチトーン・テレテキストシステムを開発するなどいくつかの開発が進められている。
 カナダではオンタリオ教育通信局(OECA)がテリドンシステムを利用したテレテキストの実験を1980年から開始することになっている。
(4) CATV ―その新しい展開―
 今日,CATVは米国,カナダ,ヨーロッパ諸国において普及しているが,その発展形態は再送信のみに限定されているヨーロッパ型と再送信以外に自主放送も行っている北米型に大別される。この中で米国のCATV産業は,1970年代中ごろから一大飛躍を遂げたが,その最大の理由はケーブルテレビと国内通信衛星との結合が行われたことによる。1975年12月にサトコム-1号衛星が打ち上げられたが,この衛星は全米をカバーし,かつ24チャンネル分のテレビ電波を送ることができることから,ホーム・ボックス・オフィス社(HBO)をはじめとする有料ケーブル会社はこの衛星を利用して,低コストで豊富な番組を全国にネットすることができるようになった。この結果,有料ケーブルも飛躍的な成長を遂げ,HBOについてみれば,1975年12月の契約世帯が25万世帯であったのに対し,1979年12月には270万世帯となった。また,ローカルの独立商業放送局のWTCG-TVが衛星を利用してCATVに対し,コマーシャル入りの自局番組の分配を開始したこともCATVに対する需要を高める上で大きな役割を果たした。三大ネットワークの系列外のローカル局であっても,衛星を利用することにより,全米的な放送が可能となったわけで,こうした局はスーパーステーションと呼ばれ,大きく成長している。
 米国のCATV加入契約者数等の推移は第1-2-56図のとおりであるが,今後も順調な成長が予想されており,このためCATV関連機器装置の売上げも,1977年の1億7,300万ドルから,1986年には8億ドルにまで拡大するものとみられている。

第1-2-49表 諸外国の電子郵便サービスの現状(1)

 

第1-2-49表 諸外国の電子郵便サービスの現状(2)

 

第1-2-50表 メールグラム利用通数

第1-2-51図 メールグラムサービスの収入

第1-2-52図 EMSSの概要

第1-2-53表 諸外国における主要なビデオテックスシステムの開発動向(1)

第1-2-53表 諸外国における主要なビデオテックスシステムの開発動向(2)

第1-2-54図 ヨーロッパにおけるビデオテックス端末の普及予測

第1-2-55表 諸外国における主要なテレテキストシステムの開発動向

第1-2-56図 米国CATVの推移(1970年=100)

 

 

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