昭和55年版 通信白書

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3 現代通信の新たな課題と展望

(1) 現代通信の新たな課題
 進展の著しい新しい通信メディアが今後とも,経済社会活動の効率化,国民生活の充実に寄与するためには,既にそれぞれの項で記述したとおり,発展のための多くの課題を解決することが必要である。また,同時に,新しい通信メディアの出現に伴い生じた課題の解決が必要である。
ア.プライバシーの保護
 政府,民間における高度の通信及び情報処理システム等の発展は,そこに蓄積された様々な個人情報をどのように保護していくかという問題を引き起こしており,企業秘密や国家主権の問題までも含む幅広い論議が国際間で提起されている。すでに,OECDは年内にプライバシー保護に関するガイドラインを加盟国に勧告する予定になっており,我が国でもこのような動きに対応して適切な措置を講ずる必要がある。
イ.通信システムの安全対策の問題
 通信と社会とのかかわりが密接となり,また,通信網,電子計算機等を利用したシステムの高度化が進展した結果,災害による通信の途絶,電子計算機等の故障は経済社会活動に大きな影響を与えることとなる。
 現在,例えば,通信網については電電公社では過去の地震災害時等の教訓を生かし,多ルート化等の対策を進めているが,今後とも各種の安全対策が一層必要となる。また,プライバシー保護の問題と同様,この問題もOECDの場で取り上げられており,我が国のみならず国際的な問題となっている。
ウ.著作権等の問題
 情報化の進展につれて,テープレコーダ,VTR等をはじめとする各種の情報関連機器の普及による複製の簡易化に伴う問題,キャプテンシステムのような新しい情報の提供及び利用方法の出現に伴う情報の保護の問題,あるいはコンピュータプログラムの保護の問題など,これまでにない問題が生じている。我が国では,一般にこのような著作権問題またはこれに類似する問題に関する認識が諸外国に比べて低いと言われている(第1-2-89表参照)。新しいメディアの健全な発展のためには,今後,この問題を解決していくことが不可欠となろう。
(2) 今後における現代通信の展開
 以上の各節において,新しい通信メディアの進展と,その社会的・経済的影響を取り上げてみた。我が国における新しい通信メディアは,いまだ草創の期にあり,その規模は小さい。しかしながら,これら新しい通信メディアの成長の伸び率はいずれも著しく,また,多様なメディアが登場してきており,情報化社会の進展とともにますますその重要性を増すものと考えられる。
 既に前章及び本章で紹介したとおり,諸外国においても新しい通信メディアの開発に積極的に取り組み,また,情報通信の政策展望を取りまとめ,その実施に取り組んでいる。その取り組みの姿勢は,それぞれの国の背景事情により様々であるが,大別すると,[1]通信事業経営の発展を目指すもの,[2]情報通信の発展が,社会,経済及び国民生活の各分野において大きな変革をもたらすものとしてこれを重視し,政府の重要施策としてとらえているもの,[3]国家主権の存立を左右するものとしてとらえ,その自主性を確保しようとするもの,等に分けられる。
 また,経済協力開発機構(OECD)においても,情報通信が社会に与える影響を重視しており,情報通信の在り方に関する政策問題,並びに,情報・電算機・通信のシステム,サービス及び技術が経済・社会全般に及ぼす影響を検討している。なかでも,情報流通の不均衡が国際社会発展の不均衡をもたらすとの観点から,各国におけるプライバシー保護等の規制との調和を図りつつデータ流通の障害化を防ぎ,情報のフリーフローを確保することを重視し,これを目的とするガイドラインの作成が行われている。
 こうした新しい通信メディアの発展を中心とした情報通信分野に対する世界的な関心の高まりは,[1]新しい通信メディアの発展が,今後,経済・社会・文化のあらゆる分野で,その高度化に寄与すると同時に,各分野に対応した多様なシステムの発展が期待されること,[2]これらのメディアの発展を支える情報通信の技術は,技術分野において,今後先導的役割を果たし,他の分野の技術との相互作用が拡大するものと考えられること,[3]これらの分野は産業経済的側面からも,他の分野に比し新たに開拓すべき重要な分野であり,今後の社会発展のかぎとなるものとしての認識が高まりつつあること,[4]さらには,新しい通信メディア出現に伴う情報流通をめぐる諸問題についての相互影響が,各国の間でますます増大しつつあり,情報通信が国家主権を確保するための重要な柱としての認識が深まりつつあること,などの理由に起因するものと考えられる。
 このような世界的な情勢を踏まえて,我が国の情報通信に臨む姿勢はいかにあるべきであろうか。
 まず第一に,情報化社会の進展,通信技術の発展に伴う多様な通信メディアの発展のためには,既存の概念や体系にとらわれない弾力的な施策が求められる。
 第二に,新しい通信メディアが,今後の経済・社会・文化などあらゆる分野に与える影響が大きいことから,これらの情報通信政策は,幅広い効果を目指した,広い視野の下で展開する必要がある。
 第三に,国家的プロジェクトの推進,官民一体となった高度なシステムの開発など,情報通信分野における先端的技術の開発を積極的に推進するとともに,その普及を通じて成果を国民に還元していくことが必要である。
 第四に,情報通信の意義を認識し,共通の課題を抱える世界各国との交流を深め,相互理解,相互協力を通じて,新たな展望を見出していくことが必要である。
 このような認識に立ち,従来にも増して,国民的総意を結集し,広い視野に基づいた総合的な情報通信政策を展開していくことが必要とされる。

第1-2-89表 著作権に関する世論調査結果

 

 

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