昭和55年版 通信白書

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第3節 宇宙通信システム

1 宇宙通信の現状

(1) 国際動向
 国際通信用の衛星通信システムとしては,世界102か国(1980年3月現在)の加盟するインテルサット及びソ連,東欧圏を中心とするインタースプートニク(1980年3月現在加盟国数10)とがある。
 インテルサットは,1965年4月に大西洋上に打ち上げた第1号衛星(アーリーバード)をはじめとして,<2>号系,<3>号系を順次商用に供してきた。現在は,<4>号系及び<4>-A号系衛星によってグローバル・システムが構成されている。また,増大する通信需要を満たすため,電話1万2,000回線及びテレビジョン2回線の容量を有するV号系衛星が1980年秋以降大西洋地域から順次導入されることとなっている。
 インタースプートニクは,ソ連の国内通信衛星用として打ち上げた長楕円軌道を回るモルニア衛星を利用してきたが,近年,ソ連が打ち上げた静止通信衛星ラドガも利用して,東欧諸国を対象とした衛星通信を行っている。
 海上通信については,従来の短波を使った海上無線通信を改善する手段として,国際的な海事衛星通信システムを導入するため,1979年7月国際海事衛星機構(インマルサット,発足時加盟国数28)が設立され,1982年のサービス開始に向け諸準備が進められている。
 また,国際的な航空衛星通信システムについては,1974年以来,共同エアロサット評価計画が,米国,カナダ及び欧州宇宙機関(ESA)の共同で進められてきたが,米国内の事情により,その実現が大幅に遅れており,現在,同計画の見直しが行われている。
 このような国際通信における衛星の利用に加えて,近年は国内通信分野に衛星を導入する国が増加しており,現在,米国,ソ連,カナダ及びインドネシアがそれぞれ独自の実用通信衛星を打ち上げて,国内衛星通信システムを運用している。
 カナダは,1972年以来,世界に先駆けて,静止衛星による国内衛星通信サービスを行ってきたが,従来のアニクAシリーズに加え,1978年12月,アニクB衛星を打ち上げている。
 米国では,1974年以来,ウエスター衛星,サトコム衛星,コムスター衛星が順次打ち上げられ,それぞれ,国内衛星通信が構成されている。また,SBS(サテライト・ビジネス・システム)社も1980年に自前の衛星を打ち上げることを計画している。さらに,米国は,1976年にマリサットを大西洋,太平洋及びインド洋上に打ち上げ,海事衛星通信サービスを行っている。
 欧州においては,1978年5月ESAが軌道試験衛星(OTS-2)を米国に依頼して打ち上げているほか,海上移動通信のためのマレックス衛星(MARECS),ヨーロッパ各国を対象とする地域通信衛星(ECS)等の計画を進めている。
 ソ連では,従来の移動型の通信衛星モルニアのほか,静止型の衛星も利用して国内の通信需要に応じている。
 また,発展途上国においても国内通信衛星の導入計画が進んでおり,インドネシアでは,既に1976年及び1977年にそれぞれパラパ1号及び2号を米国に依頼して打ち上げ,運用を開始しており,更に1983年ごろまでには,次世代の衛星を打ち上げる計画である。アラブ諸国では,域内諸国の電気通信需要を満たすため,アラブ地域衛星通信網計画を推進しているが,1976年4月,その運営主体となるアラブ衛星通信機構(加盟国数22)が発足し,1984年運用開始を予定している。このほか,インド,中国等も通信衛星を打ち上げる計画であり,また,インテルサット衛星のトランスポンダを国内用に賃借使用して国内通信の改善に充てる国も増加している。
 次に,放送衛星の分野では,まず米国が1974年に打ち上げた応用技術衛星6号(ATS-6)を使って米国をはじめ,インドにおいても世界初の衛星放送実験を行ってきた(ATS-6は1979年6月をもって運用を停止した。)。また,カナダは,米国と協力して通信技術衛星(CTS)を使って各種の放送実験を行ってきた(CTSは1979年10月をもって運用を停止した。)。なお,ソ連においては,直接衛星放送を一部行っているといわれている。
 このほか,ヨーロッパ,インド,アラブ諸国等も放送衛星計画を進めている。
 通信,放送以外の実利用分野では,気象衛星,地球観測衛星,航行衛星等が打ち上げられている。
 このような世界各国における宇宙通信の目覚ましい発展に対応して,制度面からの検討も進められてきた。国際電気通信連合(ITU)は,1963年以来,宇宙通信に関する関連規定の整備を行ってきたが,1977年には12GHz帯の放送衛星業務の計画に関する世界無線通信主管庁会議(WARC-BS)が行われ,第一地域及び第三地域の放送衛星用の周波数割当計画等が作成された。この結果,我が国は,東経110度の静止軌道上に8波の放送衛星用周波数が確保された。
 また,1979年に開かれた世界無線通信主管庁会議においては,宇宙通信に関する技術基準,周波数分配表等が大幅に改正された。なお,国際連合の宇宙空間平和利用委員会においては,直接放送衛星の利用を規律する原則の作成作業が進められている。
(2) 国内動向
 我が国の宇宙開発は,宇宙開発委員会が行う総合的な企画調整に基づき,宇宙開発事業団及び東京大学宇宙航空研究所を中心として,国立試験研究機関及び電電公社,NHK等の関係機関の協力の下に推進されている。宇宙開発委員会は,我が国の宇宙開発が,これまでの技術の蓄積の結果,科学研究及び実利用の両分野にわたって多様かつ本格的な活動を展開し得る基盤が整ってきたことから,53年3月,今後15年程度の間に遂行する宇宙開発の基本的枠組と方向を示した「宇宙開発政策大綱」を策定した。現在における具体的な宇宙活動は,宇宙開発委員会が,宇宙開発に関する内外の情勢,宇宙開発政策大綱の趣旨,国内の研究及び開発の進ちょく状況,宇宙の利用に関する長期的な見通し等を踏まえて,毎年度に策定する「宇宙開発計画」に従って進められている。
 人工衛星及び人工衛星打ち上げ用ロケットの開発と打ち上げは,宇宙開発計画に基づいて宇宙開発事業団及び東京大学宇宙航空研究所が行っており,東京大学宇宙航空研究所においては,科学衛星打ち上げ用として開発したロケットによる科学衛星計画を進めており,45年2月に我が国初の人工衛星「おおすみ」を打ち上げて以来,現在までに11個の科学・試験衛星を打ち上げ,各種の宇宙観測に成果を上げている。
 実利用の分野においては,宇宙開発事業団が,将来の各種実用衛星システムの実現に不可欠な基礎技術を確立するため,Nロケットによる人工衛星の打ち上げ計画を進めており,50年9月に技術試験衛星<1>型(ETS-<1>「きく」)を打ち上げて以来,51年2月に電離層観測衛星(ISS「うめ」),52年2月に技術試験衛星<2>型(ETS-<2>「きく2号」)を打ち上げた。このうち「きく2号」は,我が国初の静止衛星である。
 また,52年7月には,静止気象衛星(GMS「ひまわり」),同年12月には実験用中容量静止通信衛星(CS「さくら」),53年4月には実験用中型放送衛星(BS「ゆり」)を米国航空宇宙局(NASA)の協力を得て,それぞれデルタ2914型ロケットにより米国東部射場から打ち上げたが,CS及びBSの静止軌道への投入は同事業団が自ら行い,両衛星とも所定の位置に静止させることに成功した。このほか,53年2月には電離層観測衛星(ISS-b「うめ2号」)を打ち上げ,本格的な電離層観測が行われている。54年2月及び55年2月に打ち上げた実験用静止通信衛星(ECS「あやめ」及びECS-b「あやめ2号」)は,それぞれ不具合が発生し,所期の目的は達成できなかったが,同事業団は,これまで7個の人工衛星の打ち上げに成功しており,人工衛星の開発,打ち上げに関する基礎技術の習得等においてほぼ所期の成果が得られている。
 今後の宇宙開発については,宇宙開発委員会が55年3月26日に策定した「宇宙開発計画(昭和54年度決定)」に基づき推進されるが,科学研究分野においては,第7号から第9号までの科学衛星の開発を進めるとともに,第10号科学衛星の開発研究を行うこと,また,実利用分野においては静止気象衛星2号(GMS-2),海洋観測衛星1号(MOS-1),通信衛星2号(CS―2a及びCS-2b),放送衛星2号(BS-2a及びBS-2b),技術試験衛星<3>型(ETS-<3>)及び技術試験衛星,4>型(ETS-<4>)の開発を進めるとともに測地衛星1号(GS-<1>)の研究開発を行うことが決定されている。
 以上のように我が国の宇宙開発の進展には目覚ましいものがあり,今や,人工衛星打ち上げのための基礎的な研究の段階を終え,多様な利用活動を展開する段階を迎えるに至っている。特に,通信・放送の分野については,CS及びBSの開発成果を踏まえて,通信・放送衛星の実用化施策が積極的に進められており,本格的な宇宙実用化時代を迎えようとしている。
 我が国の実利用分野の人工衛星一覧表を第2-7-1表に,科学研究分野の人工衛星一覧表を第2-7-2表に示す。

第2-7-1表 実利用分野の人工衛星(1)

第2-7-1表 実利用分野の人工衛星(2)

第2-7-2表 科学研究分野の人工衛星(1)

第2-7-2表 科学研究分野の人工衛星(2)

 

 

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