昭和55年版 通信白書

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4 宇宙通信―脚光を浴びる国内衛星通信―の開発動向

 通信衛星の利用は,当初国際通信の分野で始められたが,国内通信に利用されるようになったのは比較的最近に至ってからである。
 現在独自の衛星を打ち上げ,国内通信を行っている国は米国,ソ連,カナダ及びインドネシアであるが,近年,通信需要の急騰,高度化に伴い,多くの国が打上げを計画している。
 第1-2-69表は現在運用中及び計画中の各国の国内通信衛星システムであり,また,第1-2-70表は地域通信衛星システムである。
(1) 米国の動向
 米国では,1972年に正式決定された「オープン・スカイ(複数参入)政策」の下に,五つの国内通信衛星システムが8個の衛星を利用して運用中である。現在計画中の国内通信衛星システムで最も注目を集めているシステムは,IBM,コムサット,エトナ保険会社の各子会社の合併により構成されたサテライト・ビジネス・システムズ(SBS)社のSBSシステムである。このシステムは,14/12GHz帯で運用され,音声,データ,画像を統合した高速ディジタルデータ伝送用の交換可能な企業内ネットワークを提供するシステムで,連邦通信委員会(FCC)は衛星による国内専用サービスの分野において競争を活発化させる目的で,1977年1月,これを認可した。
 しかし,連邦公正取引委員会(FTC),司法省,通信業界及びコンピュータ業界からは,コンピュータ業界の巨人IBMと,衛星通信の分野では最も豊富な経験を有するコムサットの提携は,反トラスト法に違反するばかりでなく,AT&T,コムサット及びIBMの3社で将来の衛星通信分野が完全に支配される可能性があるとして強い反対が表明された。その後,この問題は連邦控訴裁判所に持ち込まれたが,再審理の結果,1980年2月,FCCの認可が承認された。
 AT&Tは,コムサット・ゼネラル社が所有するコムスター衛星を賃借し,1976年以来,ゼネラル電話電子工業会社(GTE)と共同システムを運用してきたが,市場の独占化を防ぐ目的で,FCCにより運用開始後3年間は政府機関以外への専用線サービス提供が禁止されてきた。しかし,最近衛星回線に対する需要,特にテレビジョン伝送の需要が急速に増大し,現用衛星のトランスポンダに余裕がなくなってきたこと,また,既存の衛星通信事業者がAT&Tの参入に十分耐えられる状況になってきたことなどが考慮され,1979年7月にこの制限は解除された。この結果,AT&Tの本格的参入が可能となり,米国における国内衛星通信市場を巡る競争は一段と激しいものとなってきた。
 一方,現在まだ開発検討中の段階であるが,1979年コムサットが発表した直接衛星放送システム計画は既存の放送事業者,CATV事業者等に大きなインパクトを与えている。
 このような国内衛星通信を含め,最大の宇宙産業を有する米国の衛星市場は1978年の1億6,000万ドルから1988年には15億2,300万ドルの規模に達するものと予測されている(第1-2-71表参照)。
(2) その他の動向
 カナダでは人口が稀薄でまばらに広がった国土の様々な必要性を満たすことに衛星技術を最大限に利用するため,積極的な宇宙開発を行ってきたが,1972年11月にはアニクA-1を打ち上げ世界最初の国内通信衛星システムを持つ国となった。現在カナダでは,産業面あるいは文化面における米国の影響を払しょくし,カナダの独自性を確保することに多大の努力を傾注しているが,世界の先端にある衛星技術は,この観点から重要な開発目標となっている。
 国内通信衛星の打上げを計画中の国は,インド,フランス,オーストラリア等であるが,なかでもフランスは,情報化政策の一環として意欲的な取組みを行っている。
 フランスでは米国の情報通信産業の進出に対抗し,汎ヨーロッパのディジタルデータ網と各種の機構を設立するとともに,大陸間の衛星通信のインターフェイスなヨーロッパ各国政府の手に確保することを最優先課題としている。1979年3月に打上げが決定された総額約15億フランにのぼる国内通信衛星「テレコム1」のプロジェクトは,このような政策判断によるものと考えられる。
のシステム比較

第1-2-69表 各国の国内通信衛星システム(1)

第1-2-69表 各国の国内通信衛星システム(2)

第1-2-69表 各国の国内通信衛星システム(3)

第1-2-70表 地域通信衛星システム

第1-2-71表 衛星市場

 

 

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