昭和52年版 通信白書

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第3節 宇宙通信の監理

1 国際機関の動向

 宇宙空間における人類の活動の発展に伴い,これらを国際的に秩序づけ,より有効な利用を図るため,ITU,国際連合,ユネスコ等において,国際的監理のための新しいフレームワークを作成する動きが盛んになってきた。
(1) ITU
 ITUは,すべての種類の電気通信に関する国際的秩序を確立する責任を有する政府間国際機関であり,その活動の一環として,無線通信を行う業務のための周波数帯の分配,各国が割り当てた周波数の国際登録,混信防止のための周波数の国際調整等の活動を行っている。
 ITUが宇宙通信用に初めて周波数帯の分配を行ったのは,人類最初の人工衛星スプートニク1号が打ち上げられて2年後の1959年のことで,宇宙研究業務用として13の周波数帯が分配された。加えて,1963年には,通信衛星,気象衛星等の各種人工衛星の業務別に新しい周波数帯を分配するとともに,それらの周波数帯を地上においても共用する場合の混信防止のための技術基準を作成した。
 その後,宇宙通信技術の急激な発展に伴い,限られた周波数と静止衛星軌道を有効に利用するため,各国の衛星通信網計画を国際的に調整する必要性が高まり,1971年ITUは宇宙通信のための周波数の国際的監理に関する規定の整備を行った。これにより,各国の通信主管庁は,自国又は他国の衛星通信網計画に関して,早期に問題点の解決を図り,円滑なシステムの導入を行うことができることとなった。また,新たに,放送衛星業務,地球探査衛星業務等に対して周波数帯の分配が行われた。
 このような規則の整備に対応して,1973年スペインのマラガ=トレモリノスで開かれたITUの全権委員会議においては,国際電気通信条約の改正が行われ,宇宙通信関係では,宇宙技術を使用する電気通信手段の調和的発展を図ること,周波数及び静止衛星軌道は有限な天然資源であり,その能率的かつ経済的使用が図られねばならないことなどの規定が追加された。また,1974年には海上通信に関する世界無線通信主管庁会議が開催され,船舶等による衛星通信に関して規定の整備がなされた。
 一方,放送衛星業務については,特に,周波数と静止衛星軌道の利用におけるこれまでの早い者勝ちの原則に疑問が投げかけられ,ITUは1977年1月から2月にかけて,12GHz帯における放送衛星業務の計画に関する世界無線通信主管庁会議(WARC-BS)を開いて,南北アメリカ地域を除く世界の各国別に,放送衛星業務を行うのに適した周波数帯である12GHz帯の周波数割当計画を作成し,各国が利用できる周波数チャンネル,静止衛星軌道位置,業務区域等を定めたほか,放送衛星業務と他の業務との間の周波数共用基準の作成等を行った。
 このほかITUの常設下部機関である国際無線通信諮問委員会(CCIR)及び国際電信電話諮問委員会(CCITT)においても,各々の研究業務の一環として宇宙通信関係の研究や意見の表明を行っている。
 なお,ITUは1979年に,一般問題に関する世界無線通信主管庁会議を開催し,周波数帯の再分配を含む全面的な規則の改正を行うこととしており,宇宙通信関係でも,新たな技術の発展に対応し,かつ,周波数と静止衛星軌道の有効利用を増進してゆく観点から,監理規定,技術基準等の一層の充実化が図られるであろう。
(2) 国際連合,ユネスコ等
 国際連合は,宇宙空間の探査と平和的利用について強い関心を持ち,1959年には,これらの問題を検討するため,宇宙空間平和利用委員会を設置した。そこでの活動の成果として,1966年には,宇宙活動の基本法ともいうべき宇宙条約を作成し,以後宇宙条約の規定の具体化を図ったものとして,1967年に「宇宙飛行士の救助,宇宙飛行士の送還及び宇宙空間に発射された物体の返還に関する協定」を,1971年に「宇宙物体により生ずる損害の国際的賠償責任に関する条約」を,また,1974年には「宇宙空間に発射された物体の登録に関する条約」を作成した。
 これらの条約及び協定は,宇宙通信を直接に規律するものではないが,宇宙通信が宇宙活動にとって不可欠なものである以上,密接な関係を有しているということができ,特に宇宙条約がいわゆる宇宙活動について国の直接責任を規定している点は,宇宙通信の監理上も重要な意味を持つといえよう。
 現在,宇宙空間平和利用委員会では,直接放送衛星の規律原則について法律小委員会において審議が重ねられており,衛星による外国向け直接テレビジョン放送の問題について情報流通の自由と国家主権の尊重との調和点をどこに見出すかをめぐって議論が進められている。また,衛星による地球の遠隔探査の問題について,科学技術小委員会及び法律小委員会において検討がなされている。このほか,各国の宇宙活動状況及び各国が打ち上げた宇宙物体に関する情報の配布,セミナーやパネル会議の開催等の活動が行われている。
 また,ユネスコは情報の自由な流通,教育の迅速な普及及び文化交流のため宇宙通信技術を利用することに関心を有しており,1972年には放送衛星の利用に関する指導原則宣言を,また,1974年には世界知的所有権機関(WIPO)と共同で,「衛星により送信される番組伝送信号の伝達に関する条約」を作成している。
 学術関係のものとしては,国際学術連合会議(ICSU)の宇宙空間研究委員会(COSPAR)が,各国が打ち上げた宇宙物体の国際標識の指定を行っており,これまで我が国が打ち上げた宇宙物体については郵政省電波研究所から通報を行い,国際標識の指定を受けている。
 

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