昭和52年版 通信白書

本文へジャンプ メニューへジャンプ
トップページへ戻る
操作方法


目次の階層をすべて開く 目次の階層をすべて閉じる

3 宇宙通信に関する国際協力,研究等の現状

(1) 国際協力の現状
 電気通信の国際性に加えて,宇宙通信のグローバル性は,必然的にこの分野における国際協力の発展を促す。国際電気通信条約が国際協カの維持,増進,宇宙技術を使用する電気通信手段の調和ある発展をうたっているのもこの表れにほかならないといえよう。
 我が国は,独自の衛星通信実験を行うだけでなく,国際協力の一環として諸外国の衛星通信実験にも参加し,多くの成果をあげている。それらの例としては,37年11月の郵政省とNASAとの間の了解覚書に基づく,リレー,シンコム,ATS-1等の衛星による日米間電話,テレビジョン中継実験,衛星管制実験,カナダの通信技術衛星CTS及び国際電離層研究衛星ISISを利用した実験,米国のマリサット衛星を利用した通信実験等があげられる。さらにインテルサット衛星を利用し,将来の衛星通信のための諸実験も行われている。
 他方,開発途上国との間でも,衛星通信に関する基礎知識の付与,衛星通信機器の操作及び保守技術の習得等を目的とした各国研修員の受入れ及び専門家の派遣,衛星通信システム導入計画のフィージビリティ調査等を目的とした調査団の派遣,主として地球局の建設のための資金協力,放送衛星に関するパネル会議及びセミナーの開催等の活動をこれまで行ってきている。
 このほか,我が国の宇宙開発にとって重要な意義を有するものとして,44年7月に「宇宙開発に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協力に関する交換公文」が交わされ,我が国の特定のロケット及び通信衛星その他の平和的応用のための衛星の開発のために一定範囲の技術及び機器が提供される道が開かれたこと,及び50年5月に「宇宙開発事業団の静止気象衛星,実験用中容量静止通信衛星及び実験用中型放送衛星の打上げ計画のための協力に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の交換公文」が交わされ,これら3衛星について米国政府が打上げ費用の実費弁償の原則により打上げ業務を提供することになったことがあげられる。
 現在,我が国と欧州宇宙機関(ESA)との間の定期行政官会議,宇宙開発委員会が毎年度招へいする外国人技術者との会談あるいは我が国と西独,フランス,カナダ等との間の科学技術関係の合同委員会等の場を通じて,現在及び将来の宇宙通信に関する協力基盤の拡大化がはかられつつある。また,我が国と周波数及び静止衛星軌道の使用において競合関係に立つアジア・オセアニア地域の国々や,近い将来衛星通信システムの導入を計画している開発途上国との間の協力関係も,今後一層重要なものとなると考えられる。加えて,米国は,1980年代の宇宙輸送の主流をなすと思われるスペース・シャトルにより在来型のロケットよりも経済的な打上げ業務の提供を行うことが予想される。このような状況から,我が国としても本年度打ち上げる実験用の通信衛星,放送衛星による実験をはじめとする各種の宇宙通信実験や,将来の宇宙通信の研究開発計画の策定を通じて,各国との有意義な協力関係を推進してゆくことが必要となってきている。
(2) 研究状況
 宇宙通信の発展のためには,人工衛星,地上施設,通信方式,衛星軌道等に関する基礎的先行的な研究が不可欠である。郵政省電波研究所においては,本年度打ち上げられるCS及びBS並びに来年度打ち上げられるECSに関する研究のほか,ミリ波による衛星通信回線の設定のための電波伝搬に関する研究,衛星とう載用ミリ波中継器の研究開発,衛星の軌道の決定法に関する研究等を行っている。
 電電公社,国際電電及びNHKにおいても,国が進めているCS,BS及びECS計画に協力して,あるいは独自に,衛星通信技術の研究開発を行っている。
 また,郵政大臣の諮問機関である電波技術審議会においては,宇宙通信技術に関しても各種の諮問を受け調査審議が進められており,特に宇宙通信用の周波数及び静止衛星軌道の有効利用方法の研究については,将来の宇宙通信の電波需要に直接に関係する重要な問題として精力的に審議が重ねられ,50年度その答申が行われた。現在,通信衛星の利用技術及び衛星間通信技術について調査審議が行われている。
(3) 宇宙開発事業団の動き
 宇宙開発事業団は,平和目的に限り,人工衛星及び人工衛星打上げ用ロケットの開発,打上げ及び追跡を総合的,計画的かつ効率的に行い,宇宙の開発及び利用の促進に寄与することを目的として,宇宙開発事業団法に基づき,44年10月1日に設立された特殊法人である。
 事業団は宇宙開発計画に基づき,45年度から人工衛星及びロケットの開発に着手し,50年9月Nロケット1号機によって技術試験衛星<1>型(ETS-<1>)「きく」を,51年2月には同2号機によって我が国初の実用衛星である電離層観測衛星(ISS)「うめ」をいずれも地上約1,000kmの中高度軌道に打ち上げることに成功し,また52年2月には我が国初の静止衛星となった技術試験衛星<2>型(ETS-<2>)「きく2号」の打上げに成功した。
 事業団は,発足以来その機構,予算ともに増加の一途をたどり,52年度の職員数は804人,予算規模は約798億円にのぼっている。郵政省としてもこれに対応して監督体制の整備に努めている。

第1-2-12図 宇宙開発事業団予算の推移
 

2 監理の現状と新たな対応 に戻る 第1部第2章第4節1 宇宙通信技術の発展と利用の可能性 に進む