昭和52年版 通信白書

本文へジャンプ メニューへジャンプ
トップページへ戻る
操作方法


目次の階層をすべて開く 目次の階層をすべて閉じる

3 国際通信技術

(1) 衛星回線におけるエコー対策技術
 長遅延回線での通話時に生ずるエコー対策として,国際電電では,エコーサプレッサの欠点を除いたエコーキャンセラの研究を進めている。
 エコーキャンセラは,エコーと同じものを複製し,これを本もののエコーから差し引くことによりエコーを打ち消すもので,現用のエコーサプレッサの欠点である言葉の切断,残留エコー等を除き,更にデータ通信時におけるエコーサプレッサの着脱を不必要とするなどの利点があり,国際電話回線の通話品質向上に効果がある。
 このエコーキャンセラの設計基礎資料を得るため,実験用エコーキャンセラが試作され,各種テストが実施された。更に,マイクロコンピュータ等の外部技術を用いる小形化,経済化についての開発が進められている。
(2) トランスマルチプレクサ
 近年,PCM時分割多重(TDM)によるディジタル伝送路の開発と導入が盛んであるが,一方,周波数分割多重(FDM)による既存のアナログ伝送路も依然多く使用されており,TDM回線とFDM回線の円滑な相互接続が重要な問題となってきている。トランスマルチプレクサは,TDM信号とFDM信号を多重化レベルで直接相互交換する装置であり,回線レベルで接続する従来の方式に比し,装置の小形化,低価格化,通信の高品質化の点で有利である。
 このため,国際電電においては,ディジタル衛星回線と中央局-地球局間FDM連絡線の相互接続を目的としたトランスマルチプレクサの研究が進められ,52年3月に24回線PCM基礎群1群と12回線FDM基礎群2群とを相互変換する試作装置を完成している。
 この種の装置は,種々の領域に適用されると予想され,引き続き相互変換におけるハイアラーキレベル及び諸特性の標準化等について検討が進められている。
(3) 誤り訂正技術(FEC;Forward Error Correctio-n)
 衛星通信において,PCMにより高速ディジタル伝送を行うことができる通信方式としては,SCPC(Single Channel Per Carrier)及びTDMA(Time Division Multiple Access)がある。しかしながら,制限のある回線品質の下で,いかに低いビット誤り率でより高速のディジタルデータ伝送を実現するかが問題となってくる。
 FECは,このような通信方式を利用した高速ディジタルデータ伝送における誤り訂正技術の一つで,事前にディジタル情報列に特殊な形でチェックビットをそう入して符号化し,受信端で自動的に符号誤りを訂正する方式であり,SCPC方式では,既にその有用性が確認されている。TDMA方式では,SCPCと信号形態が異なることから,その適応性についての検討が必要であり,国際電電が,インテルサットと研究開発契約を結んで研究を進めている。この研究は,まず各種符号の能力,構成方法,適応性等の基礎研究を行い,その結果をもとに装置の試作が行われる予定である。
(4) 大電力TWT(進行波管)増幅器の非線形補償回路(リニアライザ)
 国際衛星通信において,国際電電の地球局のように多数の相手地球局と通信するには,複数の搬送波の送出が必要となる。この様な地球局の電力増幅器は,割り当てられた周波数帯域幅(500MHz)をカバーし,かつ,まとめて送信される各搬送波の電力が十分なものでなければならない。
 これら複数の搬送波を,一つのTWTで送信するためには,大電力のTWTが必要となるが,TWTの特性上そのリニアリティが悪く,一般には最大出力の10〜20%で使用せざるを得ない。このリニアリティを向上させるために各種の研究が進められているが,国際電電では,大電力TWTの非線形特性を低電力TWTを使用した逆特性の回路で補償することにより,リニアリティを大幅に改善することに成功した。
 本方式は,[1]補償帯域幅が広い(500MHz以上),[2]補償入出力特性の可変範囲が広い,[3]逆特性を得るための調整が容易であるという特徴を備えており,今後実用化する方向で研究が進められている。
 

2 通信網の信頼性向上技術 に戻る 4 降雨ダイバシチ技術 に進む