平成2年版 通信白書

本文へジャンプ メニューへジャンプ
トップページへ戻る
操作方法


目次の階層をすべて開く 目次の階層をすべて閉じる

第2章 国際交流の進展と情報通信

(2)情報通信産業をめぐる各国の競争

 情報通信産業は、将来の有望な成長産業として先進各国でも注目されており、程度の差はあるが、事業の自由化の方向の政策が取られ、また、各国とも情報通信機器生産に力を入れている。こうした中で、我が国の情報通信産業は、急成長を遂げ、機器輸出も増大したことから、情報通信の先進諸国間と著しい貿易不均衡が生じ、我が国の国内電気通信の市場の問題が国際経済問題の一環として取り上げられてきた。
 ここでは、情報通信分野の国際経済摩擦の背景と最近の動きについて述べる。
 ア 電気通信分野における国際経済摩擦の背景
 我が国の通信機器貿易は、1989年には、輸出は8,403億円、輸入は878億円で、差し引き7,525億円の輸出超過となっており、近年、多少の変動はあるものの、恒常的に輸出超過となっている(第2-2-19表参照)。
 これを我が国と米国の間の通信機器貿易について見ると、1989年の我が国の輸出は3,078億円であり、輸入は560億円で、差し引き2,518億円の輸出超過となっている。1985年以降で見ると、多少の変動はあるものの、対米輸出は増加していない反面、輸入は1985年の298億円から、1989年の560億円と87.9%の増加を示したことにより、輸出/輸入比は、10.3倍から5.5倍に減少し、日米間の通信機器貿易インバランスは改善の方向にある(第2-2-20図参照)。
 しかしながら、米国は通信機器の対日輸出が、1985年以降の大幅な円高の割には伸びていないとの認識を持っており、その原因は我が国の市場の閉鎖性にあると考えている。
 一方、我が国とECの間の通信機器貿易については、依然我が国の大幅な輸出超過であり、この傾向が続いている。1989年の我が国の輸出は2,073億円、輸入は55億円で、差し引き2,018億円の輸出超過となっている。1985年以降で見ると、輸出は1985年の536億円から、1989年の2,073億円に増加し、輸入は1985年の13億円から、1989年の55億円に増加したが、依然としてインバランス状態にある。
 我が国とECの間の通信機器貿易の特徴は、輸出額に占めるファクシミリの割合が66.6%(対全地域41.6%、対米国41.0%、対アジア19.6%)と高いことである。
 現在のところ大きな問題とはなっていないが、こうした我が国の大幅な輸出超過を背景として、ECは、日ECハイレベル協議や日EC電気通信定期協議等の場において、この通信機器貿易インバランスをたびたび問題として取り上げ、原因の一つに我が国の通信機器市場の閉鎖性があると主張している。これに対して、我が国は通信機器市場の開放性について説明を行っているが、今後、EC域内市場統合を控え、ECの動向が注目される。
 イ 電気通信分野における日米経済摩擦の動向
 1985年から1年間にわたって行われた日米MOSS協議において、電気通信機器及び電気通信サービスの広い分野で規制緩和を行った結果、我が国の電気通信市場は世界で最も開かれた市場の一つとなった。電気通信、医薬品・医療機器、エレクトロニクス、林産物のMOSS協議4分野の中でも、電気通信については、「著しい成功を収めた」と日米両国により評価され、電気通信分野における日米問題はいったん沈静化した。
 しかしながら、大幅な貿易赤字と、我が国の市場が閉鎖的であるとの米国側の認識を背景として、1988年8月には、保護主義的色彩の強い包括貿易法が成立した。包括貿易法には、既存の電気通信に関する協定についてレビューを行い、違反があると認められる場合は、一方的に交渉することなしに報復措置を発動できる旨の規定(1377条)を持つ電気通信条項や、外国の不公正貿易慣行に対して、関税の引上げ、数量制限等の報復措置を規定している1974年通商法第301条をより強化した、いわゆるスーパー301条が含まれている。
 米国はハイテク産業に強い関心を示しており、包括貿易法成立以降、米国内で保護主義的圧力が高まる中で、この分野に対する米国の動向が注目されていた。
 (ア) 自動車電話等の問題
 1989年4月、USTR(米国通商代表部)は、包括貿易法第1377条に基づき、電気通信MOSS協議の合意事項のレビューを行った結果、自動車電話と第三者無線(注)の分野で、我が国にこの合意に違反ありとする認定を一方的に下し、更にコードレス電話等通信機器関係20品目を含む54品目の製品及び4分野の通信サービスの制裁候補品目を発表するに至った。
 これに対し我が国は、MOSS協議の合意を誠実に遵守してきたところであり、電気通信のサービス、機器の両分野ともに競争を導入するなど、世界でも最も自由で開放された市場が形成されたことにより、電気通信のサービスの分野では多くの外資系企業が参入し、機器の分野でも着実に輸入が増加している旨、米国側に表明した。
 この問題については、電気通信分野における良好な日米関係を維持・発展させていくとの観点から、日米両国間で協議を重ねた結果、1989年6月末、最終決着し、米国による制裁措置は回避された。主な合意内容は、次のとおりである。
 自動車電話については、東京・名古屋地区等を事業エリアとする日本移動通信(株)(IDO)がNTT方式により割り当て済み周波数の一部を使用して、北米方式(モトローラ方式)の自動車電話サービスを提供できるよう措置するほか、これが満杯になった場合には、さらに周波数の追加割当てを行うなどの措置をとる。また、異なるニつのアナログ方式(NTT方式と北米方式)が存在することから生じる今回のような接続の問題の根本的な解決を図るため、デジタル方式による統一的な自動車電話の早期導入について、日米政府間で専門家会合を開き、意見交換を行う。
 第三者無線については、単一免許方式の導入をはじめとする免許条件の緩和を行うとともに、内外無差別の取扱いを徹底する。
 (イ) 人工衛星問題
 1989年5月、USTRは、包括貿易法「スーパー301条」に基づき、我が国の衛星調達を、スーパーコンピューター及び林産物とともに問題を有する優先慣行であるとの認定を行った。このうち、衛星に関しての米国の主張は、我が国において、国が研究開発を行った衛星が研究開発以外の目的に利用されていることは、結果として外国衛星の調達の道を閉ざし、自国の産業を保護するものであり、このような衛星については、市場を内外に開放すべきであるということ等であった。これに対し、我が国は、「スーパー301条」による制裁を前提とした交渉には応じられないが、日米間の問題は協力と共同作業の精神で対応することとし、1989年9月の日米貿易委員会以降、そのフォローアップ会合において、我が国の宇宙開発は自主技術基盤の確立を目的に進められていることを主張して、話合いを継続してきた。
 我が国は、争点となった衛星の研究開発の概念・定義等については、本来OECD等多国間協議の場で話し合うべきものであるとの立場を取りながらも、それには多大な時間を要するため、日米関係の重要性にかんがみ、現実的な解決に向けて両国が努力した結果、1990年4月、両国間で基本的な合意に達した。その内容は、次のとおりである。
[1] 国の開発する人工衛星については、今後は、商用目的あるいは恒常的なサービスの提供のためには利用しない。また、研究開発衛星以外の政府及び政府関係機関の人工衛星の調達については、オープン、透明かつ内外無差別の手続きによって行われる。
[2] 通信衛星4号(CS-4)計画については、通信・放送分野の技術の開発及びその実験・実証を目的とした研究開発衛星として開発を行うこととする。
 ウ HDTV規格問題
 HDTV(高精細度テレビ)の開発は、我が国が先行していたが、1986年のCCIR総会において日米加提案のHDTVの番組制作規格に対し、EC諸国が時期尚早を理由に反対し、国際規格の採択は延期された。EC諸国は、一致してHDTVの独自規格の開発に取り組んでおり、次の時代のテレビといわれる画期的なシステムであるだけに、各国の国内産業政策が複雑に絡み合い、決着は困難と見られていた。しかしながら、CCIRにおける努力により、一定の範囲で標準化を図る方向に進みつつある。
 これまで見てきたように、我が国と北米・EC等情報通信の先進諸国との間では、情報通信産業が先端的産業分野として国際経済問題の枠組みの中で論じられる機会が増大している。
 最近は、やや改善されつつあるが、我が国と先進諸国との間に貿易不均衡が存在する限り、常に国際経済問題の発生する可能性があり、今後、こうした国際経済摩擦を適切に解決することが重要である。


(注)第三者無線(米国の“Third Party Radio”の直訳)とは、宅配業者等の一般私企業が利用する業務用無線システムで周波数(通話チャンネル)を共同利用するシステムである。我が国では、現在、日本のMCAとモトローラ社のJSMRの2方式が運用されている。

第2-2-19表 我が国の通信機器輪出入動向

第2-2-20図 通信機器輸出/輸入比の推移

 

 

第2章第2節3(1)情報通信分野における緊密な交流 に戻る 第2章第2節4 中南米、アフリカ、中近東などに対する協力 に進む