ここでは、世界のICT市場について、市場のレイヤー分類に基づき、コンテンツ・アプリケーション、クラウド/データセンター、ネットワーク、端末に分けて近年の動向等を概観する(図表1-2-1-5)。
全体的な動向として、「ネットワーク」「端末」の下位レイヤーの市場は、規模は大きいが成長率は低くなっている。対照的に「コンテンツ・アプリケーション」「クラウド/データセンター」の上位レイヤーの市場規模は相対的に小さいが成長率は高くなっている。デジタル経済の進化との関係で特徴的な動向としては、コンテンツ・アプリケーションではサブスクリプションサービスの増加、クラウド/データセンターではデータ流通量の増加を背景にした市場規模の拡大、ネットワークでは仮想化、端末ではICT利用産業における利用の拡大が挙げられる。
コンテンツでは、動画・音楽共にサブスクリプションサービスが拡大
コンシューマー向けのコンテンツ配信サービスのビジネスモデルは、一般に「広告収入型モデル」(主として無料)と「課金型モデル」(有料)に大別される。これまでインターネット広告の拡大とともに、とりわけ前者のモデルの利用が拡大してきた。
後者については、従来のダウンロード課金型サービスから、月額料金を支払うことで視聴し放題で利用できる定額制(サブスクリプション)サービスのシェアが上昇傾向にある(図表1-2-1-6)。
有料音楽配信サービスでは、ダウンロード課金型サービスが主流であったが、最近では動画配信と同様に定額制サービスの売上高が拡大している(図表1-2-1-7)。2019年時点の代表例としては、欧州発のSpotify や米国Pandora などが挙げられ、我が国でも2015年夏頃よりAppleやLINE等の多くの事業者がサービス提供を開始した。2016年にダウンロード課金型と定額制の売上高は逆転し、今後も音楽配信市場においては、定額制配信型サービスの拡大が市場を牽引することが見込まれている。
スマートフォン・タブレット向けのアプリケーション市場は、消費者向けのゲームが市場を牽引してきた。近年では、ビジネス用途、ヘルスケア用途、地図・ナビゲーション等のアプリケーションも増加傾向にある(図表1-2-1-8)。
データセンター・クラウドサービス共に引き続き拡大
コンテンツ・アプリケーションの利用を支えるのが、データセンターでありクラウドである。データセンターは、コンテンツ配信、クラウドサービス等の基盤となるものであり、これらのサービスの市場規模が拡大しているのに伴い、データセンターの市場規模も年10%程度のペースで拡大している。
地域別では、北米の市場規模が引き続き市場の約半分を占めている(図表1-2-1-9)。
クラウドサービスとは、インターネット上に設けたリソースを提供するサービスであり、IaaS, PaaS, CaaS, SaaS4の類型がある。コンテンツ配信や電子商取引(EC)などのサービス・アプリケーションから、多様なIoTプラットフォームまで様々なICTソリューションを支えており、企業のクラウド活用の増加に伴い、高成長を遂げてきた。クラウドサービスは、IoTを活用したサービスの重要なプラットフォームであることから、今後も成長が続くと見込まれている(図表1-2-1-11)。
地域別動向としては、先行して立ち上がり、最大市場である北米で引き続き高成長が見込まれている(図表1-2-1-12)。
ネットワークレイヤーでは、通信サービス市場および通信機器市場について概観する。
通信サービスは、固定・移動共に拡大は緩やかに
世界の固定ブロードバンドサービス(xDSL・CATV・FTTx)は、2016年から2017年にかけて、新興国を中心に2016年のオリンピック需要の反動減があったため約8.1億契約と減少したものの、IHS Technologyによると、2021年には8.9億契約まで拡大すると予想されている(図表1-2-1-13)。
携帯電話及びスマートフォン等の移動体通信サービスの契約数は、新興国を中心に増加してきた5が、今後は新規契約の成長は緩やかになると見込まれている(図表1-2-1-14)。
通信インフラは、様々なネットワーク機器・設備やそれを支える技術によって成り立っている。ここでは、ルータ・スイッチ、光伝送機器市場、仮想化ソフトウェア・ハードウェア及びFTTH機器市場について取り上げる。
ネットワークの仮想化の進展により、関連機器等が拡大する一方で縮小する機器も
通信事業者、データセンター事業者が用いるルータ・スイッチの市場規模は、全体としては増加傾向にあるものの、ネットワークの仮想化等を受けてエッジ部分に用いられるルータの市場規模は縮小傾向にある(図表1-2-1-15、図表1-2-1-16)。
光伝送機器の市場規模は、2014年から2017年までは増加傾向であったが2018年には落ち込みがみられる(図表1-2-1-17)。IHS Technologyによると、この落ち込みは中国における光インフラの導入がピークアウトした影響であり、今後は新興国での需要や先進国におけるデータセンターの大容量化等に対応した更新需要により増加が予想されている。
固定ネットワークにおける近年の特徴的な動きの1つが、仮想化である。サーバーの仮想化やクラウドサービスの普及が進んだことに伴い、物理的なマシンとコンピュータリソースの利用とが独立するようになっている。これに伴いネットワークの構成も柔軟に設定する必要が生じている。また、ネットワークを仮想化することで、従来個別のハードウェアが必要であった多様なネットワーク環境が汎用的なハードウェア及びソフトウェアで構成可能となり、システム全体の柔軟性と稼働率が向上し、設備投資コストや運用コストを下げることも期待される。
IHS Technologyによると、2018年の市場規模は87億ドルであり、2019年以降もVNF(ソフトウェアで実装されたネットワーク機能)を中心に成長が見込まれている(図表1-2-1-18、図表1-2-1-19)。
FTTH機器は、2016年から2018年まで減少しているが、2019年以降は増加が見込まれている。IHS Technologyによると、新興国を中心に2016年のオリンピック需要の反動減があったため2016年から2018年にかけて減少したものの、2021年には53.9億ドルまで拡大すると予想されている(図表1-2-1-20)。
スモールセル基地局の拡大が続く一方、マクロセル基地局は5G効果の出現までは縮小
移動体ネットワーク機器市場のうち、マクロセル基地局8市場は、中国におけるLTE投資額が大きかった2015年をピークに2018年まで縮小している。2020年以降は、5Gの普及の進展に伴い市場規模の拡大が見込まれている(図表1-2-1-21)。
スモールセルは、マクロセル基地局を補完してカバレッジを確保するものである。特にLTE以降の移動通信システムは、高い周波数の帯域を用いており、電波の直進性が強い(障害物があると電波が届きづらい)ことからスモールセルの必要性が増している。マクロセルと比べると単価は低いが、屋内設置の増加など、利便性改善のための投資拡大が続いており、2020年以降も市場規模の拡大が見込まれている(図表1-2-1-22)。
LoRaWANを中心に、引き続き拡大
IoTは、多種多様なアプリケーションの通信ニーズに対応することが求められる。このうち、従来よりも低消費電力、広いカバーエリア、低コストの通信を担うのが、LPWA(Low Power Wide Area)と呼ばれる技術である。LPWAの通信速度は数kbpsから数百kbps程度と携帯電話システムと比較して低速なものの、一般的な電池で数年以上運用可能な省電力性や、数kmから数十kmもの通信が可能な広域性を有している。
これまでLPWAモジュール市場は、欧州企業であるSIGFOXによるSigfoxとCiscoをはじめとした米国企業が推進するLoRaWANとが牽引してきており、出荷台数ではLoRaWANが最も多くなっている(図表1-2-1-23)。
3GPPが進めるセルラー系LPWAは、SigfoxやLoRaWANに比べると高ビットレートのため、LPWAの中でも比較的ハイスペックな用途を中心とした市場開拓が進められている(図表1-2-1-24)。
端末は、エンドユーザー向けでは主に固定通信を利用するパソコンが普及した後、移動通信を利用するタブレットとスマートフォンの利用が広がってきた。その後、眼鏡や腕輪として身に着けるウェアラブル端末が開発され利用が進んできている。
また、従来のインターネット接続端末に加え、様々なモノがつながるIoT化が進展したことから、エンドユーザー向け以外のスマートメーター、自動車に搭載されるセルラーモジュール等の様々な端末の利用が拡大してきた(IoTデバイスの普及状況については、図表1-2-1-3参照)。ロボットについては、ヘルスケア・介護や店舗の接客等でも利用されるサービスロボットも増加している。無人で遠隔操作や自動制御によって飛行できるドローンは高機能化と低価格化が進み、個人が趣味に使うほか、高所・遠隔地でのモニタリング等企業での活用も広がってきている。
さらに近年では、AIの発達を受けて、AIのパーソナルアシスタンス機能を活用したAIスピーカーの利用が始まっている。また、AR(Augmented Reality:拡張現実)/VR(Virtual Reality:仮想現実)端末も普及が始まっている。
スマートフォンは横ばい、タブレットは低迷
スマートフォンの出荷台数は、2015年以降横ばい傾向が続いている(図表1-2-1-25)。今後は、緩やかな増加傾向が見込まれているが、新興国市場向けを中心に低価格な端末が増加することから、金額ベースでは横ばいないし減少傾向で推移するとみられている。
タブレットの出荷台数は、スマートフォンやウルトラブックといった超薄型ノートパソコンなどとの競争等から、コンシューマー向けの市場で世界的に低迷が続いている(図表1-2-1-26)。
情報・映像型は低価格化による縮小から回復傾向
IoT時代における通信端末としてウェアラブル端末が挙げられる。一般消費者向け(BtoC)では、カメラやスマートウォッチなどの情報・映像型機器、活動量計等のモニタリング機能を有するスポーツ・フィットネス型機器などがある。業務用(BtoB)では、医療、警備、防衛等の分野で人間の高度な作業を支援する端末や、従業員や作業員の作業や環境を管理・監視する端末が既に実用化されている。
一般消費者向けのウェアラブル端末の市場規模の推移を種類別にみる(図表1-2-1-27)。IHS Technologyによると情報・映像型ウェアラブル市場は、2014年から2016年に市場が立ち上がり始めた時期はハイエンド品中心であったが、アジア系メーカーが参入し低価格化が進んだため、2017年の市場規模は縮小している。今後はアプリの拡充による裾野の広がりから市場の拡大が見込まれ、2020年には90.3億ドルになると予想されている。
また、スポーツ・フィットネス型については、先進国のみならず新興国においても健康意識の高まりやPOC(point of care)の需要が見込まれる一方で、アジア系メーカーの参入により低価格化の影響があることから、2019年以降、市場規模は前年並みで推移すると見込まれている。
様々な現場での導入が進み、引き続き拡大
サービスロボット9の世界市場は拡大が続いており、省人化や人的負担の軽減等を目的とした導入が進んでいるとみられ、IHS Technologyによると2019年以降も堅調に拡大すると予想されている(図表1-2-1-28)。
ドローンの世界市場も拡大が続いている。高所・遠隔地でのモニタリング等のため業務用ドローンの導入が進んでいるとみられ、IHS Technologyによると、2019年以降も堅調に拡大すると予想されている(図表1-2-1-29)。
出荷台数は引き続き拡大
機械を操作するためのインターフェースの1つとして音声が注目されつつあり、IHS Technologyによると2019年以降もAIスピーカー(スマートスピーカー)市場の拡大が見込まれている。AIスピーカー(スマートスピーカー)市場への参入は、GoogleとAmazonが先行し、それぞれGoogle Home、Amazon Echoを販売している。日本企業もLINEやソニーが参入している。
利用の広がりにより引き続き拡大
AR(Augmented Reality)は、目の前にある現実世界にコンピューターで作られた映像や画像を重ね合わせ、現実世界を拡張する技術、VR(Virtual Reality)は、現実にない世界又は体験し難い状況をCGによって仮想空間上に作り出す技術である。消費者向けのエンターテイメント向け以外でも、企業で利用が広がっており、例えば、不動産分野で物件を、旅行分野で旅先を疑似体験するもののほか、他の分野でも訓練や教育、3次元空間でのナビゲーション等に活用されている。
3 「クラウド・ICT サービス」:IaaS ほかクラウドサービスを展開するベンダー向け。
「コンテンツ・デジタルメディア」:SNSや電子商取引、動画などのデジタルコンテンツ・メディアサービス事業者向け。
「コンテンツ配信ネットワーク(CDN)」:ネットワーク系のICTインフラ提供を主力とする事業者向け。
「エンタプライズ」:官公庁や教育、ヘルスケア、小売業などの一般事業会社のシステム向け。
「金融」:金融機関のシステム向け。
4 「IaaS( Infrastructure as a Service)」インターネット経由でハードウェアやICTインフラを提供。
「PaaS (Platform as a Service)」SaaSを開発する環境や運用する環境をインターネット経由で提供。
「CaaS(Cloud-as-a-Service)」クラウドの上で他のクラウドのサービスを提供するハイブリッド型。
「SaaS (Software as a Service)」インターネット経由でソフトウェアパッケージを提供。
5 南米、アフリカ、中東、アジアの各国の契約数の統計が遡及して下方修正されたことに伴い、平成30年版情報通信白書に掲載した移動体通信サービス契約数の値から2017年以前の契約数も含め下方修正している。
6 NFVI:ネットワークの仮想化機能を実行するためのハードウェア
uCPE(Universal CPE):仮想ネットワーク機能をインストールして利用できる汎用加入者宅内機器
NFV MANO(NFV Management and Orchestration):ネットワーク機能を仮想化した環境でサービスやリソースを統合して運用管理するもの
VNF(Virtual Network Function):ソフトウェアで実装されたネットワーク機能
7 Broadband Gateway、ONT、PON、を含むFTTH CPE(Consumer Premise Equipment)を対象とする。
8 半径数百メートルから十数キロメートルに及ぶ通信エリアを構築するための基地局。
9 ここでは、製造業以外の物流、ヘルスケア・介護、店舗等で使われるサービスロボットを対象としている。