総務省トップ > 政策 > 白書 > 令和元年版 > 「デジタル経済の計測」を巡る議論
第1部 特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0
第2節 デジタル経済の進化はどのような社会をもたらすのか

(2)「デジタル経済の計測」を巡る議論

GDP統計はデジタル経済の経済活動を捕捉できていないのではないか

英国のイングランド銀行元副総裁で経済学者のチャールズ・ビーンは、英国政府からの要請を受け、2016年にデジタル経済における国民経済計算7に関する報告書8を提出した。このことをきっかけとして、「デジタル経済の計測」というテーマが、国際的に注目されることとなった。すなわち、現在のGDP統計は、デジタル経済における様々な経済活動を十分に捕捉・反映できていないのではないかという議論である。

無料サービスはGDPに反映されるのか

現在のGDP統計が捕捉できていない可能性があるとされるものの一つに、前述の無料サービスがある。無料サービスは、インターネット上の検索サービスや地図サービス、動画配信サービス、スマートフォン上の各種アプリケーション等にみられる。

消費者が無料で利用できるサービスというもの自体は、インターネットの登場・普及以前から存在する。このため、無料サービスを巡る経済活動の捕捉というテーマは、決して新しいものではない。例えば、地上波の民間放送は、無料で視聴することができる仕組みとなっている。このビジネスモデルにおいては、視聴者は無料である反面、広告主が放送局に対して広告料を支払っている(図表2-2-1-3)。このため、広告に関連する経済活動を把握していれば、無料の地上波放送を取り巻く経済活動が全く捕捉できていないというわけではない。ただし、これはあくまでも広告という経済活動の価値を捕捉しているのであって、放送サービス自体の価値を捕捉しているものではない。すなわち、たとえ放送サービスの質を高めるために様々な活動を行ったとしても、それが広告収入を増やすものでない限りにおいては、GDPには反映されないことになる。

図表2-2-1-3 無料サービスの構造
(出典)各種公表資料より総務省作成

インターネット上の無料サービスについても、多くは広告収入により支えられている。このため、基本的な構図は地上波放送の場合と同じであり、インターネット上の無料サービスの質を高めようとする様々な活動は、広告収入を増やすものでなければGDPには反映されないことになる。インターネット上で次々と無料サービスが登場・普及しており、その提供のための生産活動が拡大している中で、このような無料サービスを巡る問題の影響は、かつてないほど大きくなっているといえる。

シェアリングエコノミーはGDPに反映されるのか

現在のGDP統計との関係で問題となっているもう一つのテーマとして、シェアリングエコノミーがある。シェアリングエコノミーは、空間・移動・モノ・スキル・お金をシェアするものであり9、従来消費者とされていた主体がモノやサービスを提供する、いわゆるC to CやC to Bの取引が含まれる。

図表2-2-1-4 シェアリングエコノミーの構造
(出典)各種公表資料より総務省作成

これらの取引は、フリマアプリにみられるように、デジタル・プラットフォーマーと呼ばれる事業者が仲介する形となっているのが通例である。そして、仲介しているデジタル・プラットフォーマーは、仲介手数料といった形で何らかの収入を得ることになる。このため、このようなデジタル・プラットフォーマーの収入等を捕捉している限りにおいては、シェアリングエコノミーについて一定程度把握することが可能である。

しかしながら、シェアリングエコノミーにおける最大の経済活動は、従来消費者とされていた主体によるモノ・サービスの提供すなわちC to CやC to Bの取引であり、この取引の規模や付加価値については、従来の統計ではなかなか捉えられない。この点についても、決して全く新たな課題というわけではなく、以前よりGDP統計には家事労働が計上されないといったことがあった10が、シェアリングエコノミーが伝統的な経済活動を代替しつつあるといわれる中で、大きな論点となっている。

具体的には、仲介者であるデジタル・プラットフォーマーの収入等からC to CやC to Bの取引規模を推計する方法や、個人による取引を直接捕捉する方法等、世界的に様々な方策が検討されている。



7 国の経済の全体像を体系的に記録するものであり、GDPは国民経済計算に基づく指標の一つである。

8 Bean, C.(2016)Independent Review of UK economic statistics: final report, HM Treasury, Cabinet Office.

9 シェアリングエコノミー協会の定義による。

10 このため、ある人が家事労働を行う使用人を雇用し、賃金を支払っているとして、その人が使用人と結婚した場合、引き続き同様に家事労働をお願いしたとすれば、たとえ何らかの金銭的報酬を支払い続けたとしても、GDPは減少することになる。

テキスト形式のファイルはこちら

ページトップへ戻る