総務省トップ > 政策 > 白書 > 令和元年版 > 過去の汎用技術の教訓は何か
第1部 特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0
第2節 デジタル経済の進化はどのような社会をもたらすのか

(2)過去の汎用技術の教訓は何か

汎用技術が効果を発揮するまでには時間がかかる

平成30年版情報通信白書において述べたとおり、コンピューターやインターネットは汎用技術(GPT:General Purpose Technology)であるとされている(図表2-2-2-2)。汎用技術とは、広い範囲で多様な用途に使用され得る基幹的な技術のことであり、社会・経済のあらゆる分野におけるイノベーションにつながるという性質を持つ。また、現在は新たな技術として注目されているAIやブロックチェーンについても、将来的に汎用技術となるのではないかとの見方がある。

図表2-2-2-2 これまでの汎用技術(GPT)
(出典)総務省(2018)「平成30年版情報通信白書」を基に作成

過去の汎用技術による経済効果の出現には、一つの法則がある。それは、技術の登場から普及を経て経済効果の出現に至るまでに、タイムラグがあるということである。例えば、18世紀末から19世紀初頭にかけて登場した蒸気機関の場合、技術の確立から経済効果の発現まで80年程度を要したとされている。同様に、19世紀末に技術が確立した電力の場合、確かな生産性の向上効果が現れるまで40年程度を要したとされている32

補完的なイノベーションが伴うことで汎用技術は効果を発揮する

これら汎用技術の効果の発現には、なぜ時間がかかったのだろうか。それは、汎用技術を補完するイノベーションが必要だったからであると分析されている。例えば、電力の場合は工場の形の変革が重要であった。電力が登場した頃、すなわち蒸気機関が動力の中心であった時代には、工場は一般的に複数階から成る縦長の姿をとっていた。蒸気機関の技術的な特性を踏まえ、大型の蒸気機関を中央に据え、機械類を蒸気機関からの距離が最小となるように配置されていたためである。電力が工場に導入され始めたときも、当初は大型の発電機を蒸気機関に置き換えるのみであった。しかしながら、発電機は小型化が可能であり、工場の各機械に小型の発電機を取り付けることが効率的・効果的であるとの認識が広まり、最終的に工場の形は平屋建てのものへと変わっていった。この工場の形の変革に代表される補完的イノベーション33があって初めて、電力は効果を十分に発揮することができるようになったとされる。

このように、汎用技術は①従前の方式の根幹は維持したまま部分的に新技術に置き換える第一段階、②当該新技術のポテンシャルを発揮できるように生産や業務のプロセスを変更して新たな付加価値を生み出す第二段階、③当該新技術が社会に定着し、社会・産業に変革をもたらす第三段階という3つの段階を経て展開するとされる。

新たな技術はバブルと恐慌を経て普及してきた

このほか、新技術はバブルと恐慌を経て普及するという見方がある34。新たな技術が研究開発段階から市場化を迎える「整備期」には、起業家が新たなビジネスを開始しようとして、投資家が多額の拠出を行うが、このことが金融的なバブルと恐慌につながるとするものである。そして、バブルと恐慌を乗り越えることで、「普及期」へと移行するとされている。

図表2-2-2-3 新たな技術の「整備期」と「普及期」
(出典)Perez(2013)を基に作成

ICTについても、1990年代から2000年にかけて「ITバブル」(あるいは「ドットコムバブル」)が生じたとされ、2000年から2002年までの間は「ITバブル崩壊」(あるいは「ドットコムクラッシュ」)の時代とされている。この観点からは、ようやく「普及期」に入っているという見方も可能である。

また、ICT分野の調査会社であるGartner社は、新たな技術は「黎明期」「『過度な期待』のピーク期」「幻滅期」「啓蒙活動期」を経て「生産性の安定期」に至るとしており、各技術が現在どの期に位置付けられるかを示す「ハイプ・サイクル」を毎年公表している。このように、技術の登場から普及に至るまでを長期的に見る視点が重要であろう。

図表2-2-2-4 Gartner社による日本における技術のハイプ・サイクル
(出典)Gartner社


32 Paul A. David(1990)“The Dynamo and the Computer: An Historical Perspective on the Modern Productivity Paradox” American Economic Review, Vol.80, No.2, pp.355-361

33 このほか、生産現場とモノの移動に必要な空間的な配置を分けるとともに、生産ラインにおける権限や責任等を細分化し、新たな分業を反映して人員を再配置するといった補完的イノベーションがあった。

34 Carlota Perez(2003)“Technological Revolutions and Financial Capital”

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