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第1部 特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0
第1節 デジタル経済の特質は何か

(2)規模の制約を超える―ニッチマーケットが成立する「市場の細粒化」がおこる

デジタル経済においては、あらゆる活動が時間と場所の制約のみならず、規模の制約を超えるという点も重要である。すなわち、前述の「市場の拡大化」のみならず、これまでは一定の規模がなければ成立しなかったミクロの取引の成立を可能とし、新たなニッチマーケットを創出している。これは、いわゆる「ロングテール現象」と呼ばれるものであるとともに、「市場の細粒化」と呼ぶこともできる。

ICTによるコスト構造の変革が、多品種少量生産のロングテール市場を可能にした

インターネットが普及する以前は、遠く離れた場所に住む一部の人にとってのみ価値を持つ一冊の書籍を、その人に届けるというビジネスは困難であった。これは、そのような書籍が欲しい人がいる、あるいはそのような書籍を売っても良いと考えている人がいるということを探し当てること自体が困難であったし、仮に探し当てることができたとしても、一冊の書籍だけでは供給する際のコストに見合わないことから、マッチングが不可能であったことによる。このように、点在している小さなロットの需要に対してモノやサービスを供給すること、すなわち個人のそれぞれのニーズに合わせた商品を提供することは、取引費用が高いものとなるため、困難であった。ICTによるコスト構造の変革により、これらが可能となった。その結果、個人や少数の主体のニーズに即した、多品種少量生産のロングテール市場が成立するようになった(図表2-1-3-1)。

図表2-1-3-1 ニッチ市場とロングテール
(出典)三菱総合研究所

シェアリングエコノミーも、ICTによるコスト構造の変革が可能にした

シェアリングエコノミーの登場も、この観点から説明することができる。これまでは、買うか買わないかという0か1かの選択であった消費に、「必要な時に、必要な分だけ買う/借りる」という選択肢が生まれることとなった。

ICTがなければ、このような「必要な時に、必要な分だけ買う/借りる」ことは、コストがかかりすぎるのが通常である。例えば、あるモノが必要な時に、モノの持ち主にそのことを連絡し、買うまたは借りるための条件を交渉し、モノがきちんと届くかどうかを監視することには、膨大なコストがかかる。そもそも、モノが必要なタイミングでそのモノを提供しても良いと考えている人を見つけ出すことや、モノが借りられる状態となっているかを確認すること自体にコストがかかる。このため、あるモノが必要な時にすぐ使えるようにしておくためには、そのモノを所有するという方法が確実であり、また、コストの観点からも都合が良かったということになる。

他方、ICTによるコスト構造の変革は、これらのコストを大幅に低下させた。インターネットを使えば、前述のような探索・交渉・監視は、さほどコストをかけずにできることになる。むしろ、自動車の所有には様々な維持費用が必要であることからも分かるとおり、所有することのコストが相対的に著しく高くなる場合もあり得る。この点に目を付けたのが、いわゆるシェアリングビジネスである。シェアリングビジネスが、基本的にインターネット上のプラットフォームの形で展開しているのも、まさにこのような理由がある。

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