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第1部 特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0
第3節 ICTの新たな潮流

(1)デジタル経済におけるデジタル・プラットフォーマーの位置付け

ア デジタル経済そのものを機能させる舞台を提供しているデジタル・プラットフォーマー

前述のとおり、デジタル・プラットフォーマーは、我々の生活を豊かなものにする上で大きく貢献している。また、中小企業等にとっては、従来は取引相手となり得なかった企業や消費者とのマッチングを可能とし、国内外の新たな販路の開拓というメリットをもたらしている。更に、2018年のNHK紅白歌合戦に出場した米津玄師や、近時広く人気を博してきたYouTuberに代表されるように、個人がその能力を広く発信し、活躍のチャンスをつかむきっかけを与える存在となっている。

デジタル・プラットフォーマーは、インターネットを通じ、人と人、人と企業、企業と企業といったあらゆる活動の主体を結びつける場を提供している。かつ、遠距離の主体であってもリアルタイムで結びつけることを可能としているとともに、広い範囲でのマッチング機能を通じた小規模なニッチマーケットの成立に貢献している。すなわち、デジタル・プラットフォーマーの提供するサービスは、第2章第1節で述べるデジタル経済の特質である、時間・場所・規模の制約を超えた活動を可能とする場であるとともに、各主体の関係の再構築を実現する場としても機能している。

このように、デジタル・プラットフォーマーは、デジタル経済そのものを機能させる舞台を提供する役割を果たしており、だからこそ隆盛していると考えられる。伝統的な資本主義経済においては、市場がその舞台の役割を果たしてきたことを踏まえると、デジタル・プラットフォーマーは、伝統的な市場の機能を代替しているともいえる。また、市場が機能するためには、法律等の制度による裏付けが必要であるが、デジタル・プラットフォーマーは、利用規約の設定と執行等を通じ、この機能すら備えているといえる1

デジタル・プラットフォーマーの提供するサービスには、取引の対象に対して何らかの評価システムを備えているものが多い。例えば、利用者が星の数等で評価を行う仕組みや、あるいはデジタル・プラットフォーマー自身が何らかの基準により優先順位を設定する仕組みが用いられている。デジタル・プラットフォーマーは、それまで探索が困難であったものを探索可能にした一方で、増えすぎた情報量により、利用者にとってあまりに多い選択肢を与えることになる。このことは、逆に取引費用を高いものとしてしまうため、このような評価システムを提供することで防いでいる。他方、この評価の仕組みが恣意的なものである場合、リソースの適切な配分という市場が持つメカニズムを損なうこととなる。

イ デジタル・プラットフォーマーのサービスはなぜ無料なのか

本節の冒頭で述べたようなサービス等には、無料で利用できるものが少なくない。例えば、無料で検索を行うことができ、また、各種コンテンツも無料で視聴することができるものがある。これは、第2章第1節で述べる情報の複製・提供に関する限界費用がほぼゼロであることを反映しているものの、全くの無料であれば事業は成立しないことになる。デジタル・プラットフォーマーは、なぜ無料でサービスを提供できる、あるいは提供しているのだろうか。

この点については、デジタル・プラットフォーマーのサービスに関する両面市場(あるいは多面市場)という側面に注目する必要がある。例えば、検索サービスを例に取ると、サービスを提供するデジタル・プラットフォーマーには、検索を行う利用者が存在する。同時に、検索結果を表示する際には広告も掲載することが通例であり、このような広告の掲載を依頼する広告主も存在する。このように、検索サービスには、検索の利用者と広告主という2種類の顧客が存在し、デジタル・プラットフォーマーにとっては、それぞれを相手とする2つの市場があるということになる。無料で視聴ができる動画共有サイトにおいても、同様である。そして、利用者は無料で検索等を行うことができるが、広告主は広告料を支払っているという構図になる。これらのことから、デジタル・プラットフォーマーは、広告料収入を原資とすることにより、検索サービスを無料にすることが可能となっていると考えることができる。

それでは、検索の例において、デジタル・プラットフォーマーは、なぜ広告主の側を無料にするのではなく、検索の利用者の側を無料にするのだろうか。この点については、「需要の価格弾力性」という概念が鍵となる。需要の価格弾力性とは、価格が変化した場合に、どれだけ需要が変化するかという度合いのことである。例えば、200円の牛乳の価格が50%引きの100円になれば、その牛乳を買う人は大きく増えると考えられる。他方、1000円の牛乳があったとして、同じく50%引きの500円になっても、その牛乳を買う人は大きくは増えないだろう。この場合、200円の牛乳の方が、需要の価格弾力性が高いということになる。検索の例でいえば、検索サービスを利用することの方が、広告を出すことよりも需要の価格弾力性が高いと考えられている。つまり、検索サービスの料金を安くしたときに利用者が増える度合いの方が、広告料を安くしたときに広告主が増える度合いよりも大きいということである。このことを踏まえ、デジタル・プラットフォーマーは、需要の価格弾力性が高い検索サービスの利用者の方をなるべく安くすることで、得られる利潤を最大化しているとされる23

このほか、基本的なサービスの利用は無料であるが、高度な機能等を使う場合には有料になるという、いわゆる「フリーミアム」戦略がとられることもある。この場合は、「補完財」という概念が鍵となる。あるモノの価格が下がった場合、そのモノ自体の需要が増えると同時に、別のモノの需要も増えるとなると、この2つのモノは補完財の関係にあるとされている。例えば、コーヒーの価格が下がると、コーヒーがより売れるようになるとともに、砂糖も売れるようになる。このとき、コーヒーと砂糖は補完財であるという。フリーミアムのビジネスモデルにおいては、基本的なサービスと、高度な機能等は補完財の関係にあるととらえ、前者を安くすれば、後者がより売れるようになるという考え方がとられている。このため、前者の基本的なサービスを無料とするのである4

なお、サービスが無料であることは、実際には高い価格が設定されているという考え方もある。後述するとおり、デジタル・プラットフォーマーの多くは、利用者から大量のデータを収集している。本来であれば、デジタル・プラットフォーマーは対価を支払って利用者からデータを購入すべきものであるところ、無料でデータを入手しているとみることも可能である。この場合、デジタル・プラットフォーマーのサービスは、競争に基づく市場原理で実現される価格は本来マイナスであるにもかかわらず、それを無料という「高い」価格で提供しているという見方も可能である5

ウ デジタル・プラットフォーマーはなぜ巨大化するのか

デジタル・プラットフォーマーの多くは、2000年前後に創業した比較的新しい企業であるにもかかわらず、急速に利用者を拡大し、独占・寡占といった競争法上のテーマの関心事項となってきている。デジタル・プラットフォーマーは、なぜこのように急速に成長した、あるいは成長できるのだろうか。

OECD(2019)6は、デジタル・プラットフォーマーの経済的特性として、図表1-3-1-2のとおり整理している。この中にあるとおり、これら各特性は組み合わされることで大きなものとなり、爆発的な成長につながることになるが、特に留意が必要と考えられるいくつかの特性について述べる。

図表1-3-1-2 デジタル・プラットフォーマーの経済的特性
(出典)OECD(2019)“An Introduction to Online Platforms and Their Role in the Digital Transformation”を基に作成

ネットワーク効果

我が国におけるSNSの利用の歴史を振り返ると、2000年代後半にはmixiの利用者が多く、その数は一時2000万人を超えたとされている。現在では、Facebookの利用者が2800万人(2017年9月時点)となっており、mixiからFacebookに乗り換えた利用者は多いと考えられる。その背景には、「家族や友人が乗り換えたから」というケースも多いだろう。利用者にとって、家族や友人が使っているSNSとそうでないSNSとでは価値が異なり、「家族や友人が使っているSNSを自分も使う」という選択は自然である。このように、あるネットワークへの参加者が多ければ多いほど、そのネットワークの価値が高まり、更に参加者を呼び込むという現象が、ネットワーク効果(あるいはネットワーク外部性)である。この結果、多くの利用者を抱えるサービスは、更に利用者を獲得することが可能となり、規模を拡大していく7。デジタル・プラットフォーマーの提供するサービスには、このようなネットワーク効果が働くため、「雪だるま式」に利用者を拡大していく傾向にある。

このネットワーク効果については、もう一つ重要な要素がある。それは、前述の効果とは別に、両面市場の両面をまたがったネットワーク効果も働くということである。すなわち、検索サービスにおいて、サービスを提供するデジタル・プラットフォーマーは、検索サービスの利用者と広告主という2種類の顧客を抱えており、この2者との関係でそれぞれ市場が成立している。そして、例えば検索サービスの利用者が増えると、広告主にとっても魅力的となるため、広告主も増えていく。このように、一方の市場での利用者の増加が、その市場の利用者のみならず、もう一方の市場での利用者をも増やしていくことになる。これを「間接ネットワーク効果」という。この関係で、前述の同じ市場内での利用者増の効果のことは「直接ネットワーク効果」ということもある。

このような直接・間接のネットワーク効果による「雪だるま式」の利用者拡大(図表1-3-1-3)が、デジタル・プラットフォーマーの急速な成長の大きな要因の一つとなっている。このため、特にサービス提供の初期においては、ネットワーク効果を通じた利用者拡大の流れに乗ることができるよう、様々なポイントの付与等によるキャンペーンを行うこと等により、採算性を重視せず利用者を増やす取組が行われるといったことがみられる。

図表1-3-1-3 ネットワーク効果
(出典)各種公表資料より総務省作成

スイッチング・コスト

SNSの利用に当たっては、アカウントを作成した上で、文章とともに様々な写真・動画等を投稿し、人とのつながりを構築することになる。このため、これらのコンテンツを移せないとすれば、一度使い始めたSNSから離れて他のSNSに移ることはハードルが高いものとなる。現在利用している製品・サービスから、代替的な他の製品・サービスに乗り換える際に発生する金銭的・手続的・心理的な負担のことを、スイッチング・コストという。デジタル・プラットフォーマーの提供するサービスにおいては、このスイッチング・コストが高いとされる8

スイッチング・コストが高い場合、利用者はたとえ他に安くて質の高い代替的なサービスがあったとしても、乗り換えをためらうことになる。この結果、利用者はサービス提供者にロックインされた状態となるため、サービス間の競争の効果を弱めることになる。

特に、デジタル・プラットフォーマーが一つではなく様々なサービスを提供しており、これらが連動している場合、スイッチング・コストによる乗換え抑制効果は一層高いものとなる。実際、複数のサービスを提供することで範囲の経済性が働くことから、多種多様なサービスを提供するデジタル・プラットフォーマーは少なくない。そして、例えば一つのアカウントによりメール、SNS、動画視聴、電子商取引等の利用を行っている場合、たとえそのうちのサービスの一つに不満があったとしても、アカウントを閉じるまでには至らないだろう。

データに関する「雪だるま式」拡大効果

デジタル・プラットフォーマーの提供するサービスには、利用者からデータを収集し、それを活用するものが少なくない。例えば、アカウントの作成の際に入力を求める利用者の情報のほか、検索を行った語、サイトの閲覧履歴、動画の視聴履歴、SNSでの投稿内容、「いいね」を付けたサイトといった情報から利用者の関心事項や趣味などを推測し、その利用者にターゲットを絞った広告の提供を可能とするといったことが行われている。

多数の利用者を集めることは、これら利用者に関する多数のデータを集めることになる。そして、データには、前述のネットワーク効果とは異なる2つの「雪だるま式」拡大効果があるとされる9

まず、「規模に関する収穫逓増」(increasing returns to scale)が挙げられる。これは、サービスに関して利用者のデータがより多く集まれば集まるほど、そのサービスの質が向上し、更に利用者を呼び込むというものである。例えば、デジタル・プラットフォーマーの提供する電子商取引のサービスには、多数の利用者の過去の購入データを基に、商品の推薦を行うものがある。つまり、Aという商品を買った利用者は、Bという商品も買う傾向にあるため、新たにAを買った利用者に対して、Bを薦めるというものである。この精度は、購入データが集まれば集まるほど高まることになり、電子商取引サービス自体の質を向上させる10

次に、「範囲に関する収穫逓増」(increasing returns to scope)が挙げられる。これは、より多くのサービスから利用者のデータを集まるほど、これらサービスの質が向上し、更に利用者を呼び込むというものである。例えば、検索サービス、動画共有サービス、メールサービスのそれぞれから得られる利用者の関心事項についてのデータを組み合わせれば、その利用者のより精度の高いプロファイリングを行うことができ、より効果的な広告を提供できる。

これらは、前述のネットワーク効果やその他の効果と相まって、デジタル・プラットフォーマーの成長に貢献することとなる。

エ デジタル・プラットフォーマーの経済への影響

OECD(2019)は、デジタル・プラットフォーマーの経済への影響についても整理しており、その概要は図表1-3-1-4のとおりである。前述したとおり、デジタル・プラットフォーマーはデジタル経済を機能させる舞台を提供しており、ここで整理されていることは、デジタル経済の中で生じることそのものであるともいえよう。

図表1-3-1-4 デジタル・プラットフォーマーの経済的なインパクト
(出典)OECD(2019)“An Introduction to Online Platforms and Their Role in the Digital Transformation” を基に作成


1 経済産業省・公正取引委員会・総務省(2018)「デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する中間論点整理」においても、「デジタル・プラットフォーマーは、そのプラットフォームに消費者(個人)や事業者が参加する際のルールやシステムを、契約(約款)とも融合させつつ、設計・運営している(デジタル化の進展に伴い、人々の行動を起立する「法」や「市場」といった要素のうち、いわゆる「コード/アーキテクチャ」の重要性が大きく拡大しているとされるが、デジタル・プラットフォーマーは、その私的な設計者と捉えることもできる)。」としている。

2 プラットフォームの価格設定については、例えば、川濱昇・武田邦宣(2017)「プラットフォーム産業における市場画定」を参照。(
https://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/17j032.pdfPDF

3 プラットフォームには、後述する「間接ネットワーク効果」があるため、一方の側での需要の増加が他方の側での需要も増加させるため、交差弾力性を考慮することも重要である。例えば、マカフィー・ブリニョルフソン(2018)『プラットフォームの経済学』を参照。

4 アンドリュー・マカフィー、エリック・ブリニョルフソン(2018)『プラットフォームの経済学』

5 Maurice E. Stucke and Allen P. Grunes(2016)“Big Data and Competition Policy” Oxford University Press

6 OECD(2019)“An Introduction to Online Platforms and Their Role in the Digital Transformation”

7 ネットワーク効果は、需要側の規模の経済とも呼ばれる。

8 経済産業省・公正取引委員会・総務省(2018)「デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する中間論点整理」

9 OECD(2014)“Dara-driven innovation for growth and well-being: interim synthesis report”を参照。ネットワーク効果は需要側の効果であり、ここで述べる効果は供給側の効果であるとしている。

10 例えば、Amazonがハチミツと乳幼児向け製品を購入した利用者に、乳児のボツリヌス症への注意喚起を行うメールを送っていたことが話題となった。

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