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第1部 特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0
第2節 デジタル経済の進化はどのような社会をもたらすのか

(1)漸進的な変化がある時点から急激な変化となる

エクスポネンシャル・テクノロジー−指数関数的な発展を特徴とするICT

ICTは、指数関数的な発展を特徴としているといえる。すなわち、10nではなく、10nという風に発展していく特徴があるといえる。その結果、例えばn=10のとき、前者では100だが、後者の指数関数的な発展では100億となる。

「ムーアの法則」は、指数関数的な発展の代表例である。この法則は、半導体の集積回路(LSI)の製造・生産における長期的な傾向から発見された経験則であり、集積回路上のトランジスタの集積密度は、18か月ごとに倍になるというものである。実際、半導体の計算性能やコストは、20世紀初頭から現在に至るまで、指数関数的な向上を果たしている。また、別の例として、「メトカーフの法則」がある。これは、ネットワークの価値は、接続している利用者数の2乗に比例するというものであり、前述のネットワーク効果に近い考え方である。

「ムーアの法則」については、近年プロセッサーの処理能力の向上が鈍化してきており、その終焉を指摘する声もある29。ただし、LSI以外にも、ディスクドライブの容量(18か月で2倍)等においても、指数関数的な性能向上を実現している。

このような指数関数的に発展する技術は、近年エクスポネンシャル・テクノロジーと呼ばれ、具体例としてバイオテクノロジー、AI、ロボティクス、ナノテクノロジー等が挙げられる。

指数関数的な発展においては、変化はある地点から急激になる

このような指数関数的な変化の特徴として、最終的に膨大な量になる点のみならず、ある時点までは変化が穏やかであるが、その時点を超えると、急激に変化するという点が挙げられる。この例として、落語家の始祖ともいわれる曽呂利新左衛門の逸話がある30。新左衛門が豊臣秀吉から褒美金をもらう時に、20畳の大広間にある障子のマス目の数を基に、1マス目は1文、2マス目は倍の2文、3マス目はその倍の4文と計算していき、最終的に全てのマス目の分のお金をもらうということを希望した。秀吉はそんなに少なくて良いのかと不思議に思ったが、勘定方が計算したところ、マス目は1560あり、わずか23マス目の段階で103万8976文(約260両、1文を80円で計算すると約8312万円)になることが分かった。秀吉は新左衛門に謝り、千両(同じ計算で約3億2000万円)を褒美として与えたというものである31

このように、指数関数的な変化のプロセスにおいては、当初は漸進的な変化であるが、ある時点を過ぎると変化は急激なものとなる。かつては1部屋全体分のコンピューターを駆使していた演算能力が、2000年代半ばに登場したスマートフォン1台で可能となったのは、この急激な変化を象徴するものといえよう。また、急激な変化の段階に入れば、非連続的な進化となり、既存の事業にデジタル・ディスラプションをもたらすとともに、連続的な進化の中で産み出された新商品や新技術のコモディティ化をもたらす可能性がある。ICTの効果が十分に現れていない現在は、このような変化の境目にある可能性があり、ICTの本格的なインパクトは、むしろこれから現れてくる可能性がある。

図表2-2-2-1 指数関数的な変化のプロセス


29 一例として、NVIDIAのCEOを務めるJensen Huangが2017年に指摘している。(https://eetimes.jp/ee/articles/1706/05/news053.html別ウィンドウで開きます
また、米国半導体協会(SIA)も、「2015年の国際半導体ロードマップ」において、2021年にはムーアの法則が終焉を迎えるとの見通しを公表している。(https://www.semiconductors.org/resources/2015-international-technology-roadmap-for-semiconductors-itrs/別ウィンドウで開きます

30 野花散人(1911)『太閤と曽呂利』立川文明堂(http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/890462/113?tocOpened=1別ウィンドウで開きます

31 ブリニョルフソン(2013)においても、古代インドの同様の逸話を紹介し、「チェス盤の残り半分」と表現している。

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