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第2部 基本データと政策動向
第6節 ICT利活用の推進

(3)中小企業技術革新制度(SBIR制度)による支援

中小企業技術革新制度(SBIR制度)26とは、中小企業者等の新たな事業活動の促進を図ることを目的とし、国の研究開発事業について、中小企業者等の参加機会の増大を図るとともに、それによって得られた研究開発成果の事業化を支援する制度である。

具体的には、新たな事業活動につながる新技術の研究開発のための特定の補助金・委託費等を受けた中小企業者等に対して、その成果の事業化を支援するため、特許料等の軽減等の支援措置を講じており、総務省においても、2018年度(平成30年度)は、合計13の特定補助金等を指定している。

政策フォーカス 地域でのICT/IoTの実装の取組〜地域IoT実装推進事業(補助金)を活用して〜

地域IoT実装推進事業では、地域の課題解決や地域経済の活性化を目的に、農林水産業、防災などを始めとした国民の生活に身近な分野におけるICT/IoTを活用した成功モデルの横展開事業に取り組む地域に対して、初期費用・連携体制の構築等にかかる経費に財政的な支援を行っている。2017年度(平成29年度)には16件、2018年度(平成30年度)には30件の事業に補助を実施した。(371ページ参照)

ここでは、農林水産業、防災及び子育てにおける代表的な取組事例を紹介する。

1 農林水産業における取組事例:「「鯖、復活」養殖効率化プロジェクト」(平成29年度 福井県小浜市)27

福井県小浜市では、人口減少が進む中、まち・ひと・しごとの創生と好循環の確立につなげるためには、基盤産業を育成し、稼ぐ力を強化する必要があると考え、当市の基幹産業の一つである水産業について、日本遺産に認定された「鯖街道」の起点という歴史的背景を生かし、近隣では例のない「鯖の養殖」の産業化(海面環境データと漁師のノウハウの相関を明らかにすることで、養殖の効率化を図り、後継者育成も推進する)に取り組むこととした。

導入した機能は、①IoTセンサー(沖に作られた養殖いけすにセンサーを設置し、水温、塩分及び酸素濃度を定期的に自動測定できるようにしたシステム)、②鯖養殖アプリ(給餌計画の閲覧、給餌量の記録を、手書きからデジタル化し、情報共有を容易にできるようにしたシステム)の2つである(図表1)。

図表1 小浜市の事業概要

これらのシステムのユーザーの養殖漁業者は、いけす毎の給餌量を以前よりも適切にコントロールできるようになった。養殖業では支出の6割以上を餌のコストが占めるため、餌代の抑止につながる給餌の効率化は大きな成果である。

また、こうしたスマートデバイスを利用してクラウド上に保管した給餌記録は、関係者間での情報共有のほか、水温等の環境と給餌量のデータの相関の分析にも使われ、給餌計画を最適化する試みも行われている。

これらのデータは、福井県立大学等からも閲覧可能とし、福井県立大学は、鯖養殖のさらなる技術開発やマニュアル化を目指す予定としている。

また、いけすの水温、塩分及び酸素濃度の測定データをオープンデータとして開示し、全国の研究者による鯖養殖に関する研究を促進することとしている。

2 防災における取組事例:「自治体防災情報管理システムのクラウド連携と運用に関する事業」(2017年度(平成29年度) 熊本県・同県西原村・同県嘉島町) 28

これは、2016年(平成28年)4月に、大地震にみまわれた熊本県が、年度当初の発災であったことに伴う災害対応に必要なマニュアル整備の不徹底や、関連資料の入手に時間を要したという経験の反省から、災害対応工程管理システム(BOSS)と避難所情報共有システム(COCOA)を自治体防災情報管理システム(G空間防災システム)として導入することとしたものである。

熊本県版BOSSシステムは、熊本地震の経験を踏まえて災害発生時の主な47業務をタイムライン化し、職員のパソコン等で把握できるシステムを東京大学と連携して構築した。その結果、当該システム上で、47の各業務に関連する地域防災計画の規定やマニュアル等の参照を行うことを可能としている(図表2)。

図表2 熊本県の事業概要

このように、クラウドで災害対応工程を管理するBOSSを導入することで、災害対応全体のマネジメントを行うことが可能となる。また、避難所情報共有システムCOCOAを導入することで、避難所に関する効果的な情報収集・管理・機能配置を行うことが可能となる(図表3図表4)。

図表3 BOSSシステムの概要 I
図表4 BOSSシステムの概要 II

熊本県は、県内の自治体の中で、まず、西原村・嘉島町と連携した。

具体的には、西原村と嘉島町で、災害対策本部でBOSSを活用し、それぞれの対応状況を確認し、進捗を把握する。同様に、これらの町村は、COCOAを活用して、避難所の状況を入力する。県では、クラウドでこれらの町村の対応の進捗状況をBOSSの画面で把握する。そして、どの災害対応工程に対しどのような応援をするのか等の決定、例えばリエゾン配置や応援業務といった意思決定の、判断材料とする。また、COCOAを使って、県はこれらの町村の避難所の状況を確認し、避難者数が多い避難所に対して応援職員を優先的に配置するなど、職員や物資の効果的な配置を行うことを可能としている。

熊本県は、今後、県内の市町村全てに、導入を推進していきたいとしている。それにより、県全体で、各自治体の災害対応状況や避難所状況を一元的に把握することができるようになり、災害対応の大幅な迅速化が期待される。

3 子育てにおける取組事例:「保育施設AI入所選考事業」(2018年度(平成30年度) 香川県高松市)

保育施設の入所選考事務は、申請者の世帯状況により決定する優先度やきょうだい児入所の希望パターンなど、複雑な要素が介在する中で、迅速かつ公正に行う必要がある。

高松市では、これまで、職員が手作業で入所選考を行っていたが、申請者の様々な事情や希望を考慮しながらの選考は複雑で、近年、申請件数も増加していることから、事務処理に膨大な時間を要しており、結果、申請者への結果通知が遅くなる傾向にあるほか、時間外勤務の増加による職員の負担も大きくなっている。

そこで、入所選考にAIを使ったシステムを導入することで、最適な入所選考結果を数秒で導き出し、事務処理期間を大幅に短縮することを目指すこととした(図表5)。

図表5 高松市の事業概要

本市では、保育施設の入所状況等をシステムで管理しているが、AI入所選考システムへ既存システムに登録している申込者のデータ(家庭の状況や希望先等のデータ)をインプットし、予めAI入所選考システムに登録しておいた本市の選考ルールや各保育施設の空き状況等をもとに、システムが申請者の希望を最大限満たす選考結果を導き出す。

導入を行った2018年度(平成30年度)は、平行して職員も今までどおりの作業を行い、結果を照らし合わせたところ、99.15%の成功率を達成した。2019年度(令和元年度)以降、作業時間の軽減に伴う費用対効果が生まれる見込みである。



26 中小企業技術革新制度:https://www.chusho.meti.go.jp/faq/faq/faq07_sbir.htm 別ウィンドウで開きます

27 ICT地域活性化事例 100選 「鯖、復活」養殖効率化プロジェクト:http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/top/local_support/ict/jirei/2017_053.html別ウィンドウで開きます

28 ICT地域活性化事例 100選 自治体防災情報管理システムのクラウド連携と運用に関する事業: http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/top/local_support/ict/jirei/2017_051.html別ウィンドウで開きます

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