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第1部 特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0
第2節 デジタル経済の進化はどのような社会をもたらすのか

3 (補論)デジタル経済の計測

デジタル経済の計測に関する国際的な議論が本格化したのは、直接的には、Ahmad and Schreyer(2016)39と、Bean(2016)40(通称ビーンレポート)がきっかけとされる(櫻本(2018))41

その後、米国、IMF、国連等でも議論がなされているほか、研究者による論文も複数出されている(図表2-2-3-1)。

図表2-2-3-1 主な国及び国際機関等によるデジタル経済計測のレポート・議論の例
(出典)総務省「AI経済検討会第3回資料」を基に作成

先進国でデジタル化が進んだにもかかわらず、先進国でGDPの伸びがみられないという議論もある中、デジタル経済の計測とGDPとの関係はどのようになっているのだろうか。

ダイアン(2015)42は、「現在私たちが使っているようなGDPができたのは、世界を揺るがした二つの歴史的事件がきっかけだった。1930年代の大恐慌と、それにつづく第二次世界大戦(1939−1945年)である」としてGDPの歴史を述べ、またダラス連銀のレポートを引用し「GDPは大量生産に合わせて作られた統計である。そのやり方は単純に数を数えるというもの。何個作られたかがすべてであり、形のない価値は測れないのだ」としつつも、「GDPは(略)資本主義市場経済が生み出した自由や可能性を映し出す重要な指標でもある。完璧ではないにせよ、GDPは人間の可能性の広がりやイノベーションを数値で示してくれる。(略)最近はやりの「幸福度」のような指標よりは確実に役に立つ」とし「GDPを今すぐ投げ出すべきではない」としている。

米国の経済学者であるハーバード大学のジョルゲンソン教授は、GDP及び厚生(Welfare)の計測を横断的にサーベイした論文において、生産と厚生とを分けて論じつつ、米国経済学者のスティグリッツ等のレポートを引用して本来は生産を測る指標であるGDPがあたかも厚生を測定するかのように誤用される傾向にあると指摘している43

櫻本(2018)は、「国民経済計算周辺の分野において端的にはデジタルエコノミーの重要性は2点に分かれる。経済統計やSNAにおいて捕捉力を強化していく必要があること、そして既存の経済統計で測れない豊かさの程度を再検討すべきだということである」と指摘している。

以下、既存のGDP(国民経済計算)の枠内、GDP(国民経済計算)の枠外の豊かさに分け、関連するトピックを概観する(図表2-2-3-2)。

図表2-2-3-2 デジタル経済の計測に関するトピック例と指標例等
(出典)ダイアン(2015), Ahmad and Schreyer(2016), ジョルゲンソン(2018), 櫻本(2018), 森川(2018) 等を基に作成


39 Nadim Ahmad、Paul Schreyer、内閣府経済社会総合研究所訳(2016)「デジタル時代を迎えた今も、GDP は正しく計測されているか?(仮訳)」 経済分析 192号

40 Charlie Bean(2016)“Independent review of UK economic statistics: final report, HM Treasury, Cabinet Office

41 櫻本 健(2018)「デジタルエコノミーの興隆によってもたらされる国民経済計算・経済統計における捕捉方法の進化」

42 ダイアン・コイル(2015)『GDP〈小さくて大きな数字〉の歴史』

43 Dale W. Jorgenson (2018) “Production and Welfare: Progress in Economic Measurement”

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