総務省トップ > 政策 > 白書 > 令和元年版 > 大企業等によるM&Aの活性化によるスタートアップ企業の事業環境の改善
第1部 特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0
第3節 Society 5.0が真価を発揮するためにはどのような改革が必要か

(3)大企業等によるM&Aの活性化によるスタートアップ企業の事業環境の改善

我が国において起業活動が低調なのはなぜか

我が国においては、起業活動が低調であるといわれている。毎年世界的規模で実施されている「起業家精神に関する調査: Global Entrepreneurship Monitor」(以下 GEM)においても、我が国の総合起業活動指数(Total Entrepreneurial Activity(TEA)Rates)21は49か国中45位と低い水準となっている22

他方、個別の要素をみると、「市場環境(Internal Market Dynamics)」は54か国中3位と極めて高いほか、「物理的インフラ(Physical Infrastructure)」(54か国中7位)、「R&Dの移転(R&D Transfer)」(54か国中8位)、「政府の支援(Government policies: support and relevance)」(54か国中12位)、「起業ファイナンス」(54か国中16位)といった項目も高い評価となっている。しかしながら、「文化・社会規範(Cultural and social norms)」(54か国中47位)や「学校における起業教育(Entrepreneurial education)」(54か国中48位)の評価が低くなっている(図表2-3-2-5)。

図表2-3-2-5 総合起業活動指数を構成する各要素における我が国の評価
(出典)GEM(2019) “ Global Entrepreneurship Monitor 2018/2019 Global Report” を基に作成

我が国においては、個人の起業マインドや社会の起業への評価が低いという指摘があるが、それではなぜそのような状況になっているのだろうか。

「出口」が限られている我が国の起業環境

考えられる一つの要因として、起業の「出口」が限られているということがある。スタートアップ企業には、ベンチャーキャピタル(VC)と呼ばれる投資ファンドが出資を行うことが通例である。VCは一定の時期に株式を売却(エグジット)することとなるが、その方法を大別すると、上場すなわち株式公開(IPO)と、大企業等の他の企業による株式取得すなわちM&Aがある。

我が国においては、このエグジットがIPOに偏重していることが特徴的である。シリコンバレー等のスタートアップ企業が新たなイノベーションを次々に生み出している米国を見ると、エグジットの9割程度がM&Aとなっている。他方、我が国ではM&Aも増加してきているものの、依然としてIPOによるエグジットが多く、IPOの件数は米国を上回る水準となっている。起業に関心を持つ人の立場からこのことを見れば、エグジットがほぼIPOに限定されるということは、起業の「出口」が「IPOか失敗か」の二者択一となってしまうことになり、事業成功のリスクを著しく高いと感じさせることとなる(図表2-3-2-6)。

図表2-3-2-6 ベンチャー投資先の株式公開(IPO)とM&A件数の日米比較
(出典)ベンチャーエンタープライズセンター(2017)「ベンチャー白書」を基に作成

大企業等によるM&Aの活性化は、スタートアップ企業を取り巻くエコシステム自体を変える可能性がある

このようなIPO偏重に比べた場合のM&Aの低調は、これまでの大企業等による自前主義の裏返しでもあるといえよう。すなわち、M&Aによりスタートアップ企業の技術・ノウハウ・人材等を取り込むのではなく、自社のこれらリソースの活用を優先するという姿勢が背景にあったと考えられる。

今後、大企業等によるM&Aが活発になれば、スタートアップ企業の事業環境は改善されると考えられる。また、そのことにとどまらず、我が国の起業を取り巻くエコシステム自体を大きく変えていくことが期待される。シリコンバレーにおいては、複数回起業を繰り返すシリアル・アントレプレナー(連続起業家)と呼ばれる人々がいる23。このような人々の存在が可能となるのは、立ち上げた企業を大企業等に売却し、また新たに別の企業を立ち上げることが出来るためである。また、起業経験を持つ人材が、VCに移って投資とその後のハンズオン24を行う立場に転じることや、コンサルティングファーム等に移ってスタートアップ企業を様々な面から支援する立場に転じるといった人材の流動性を軸とするエコシステムが存在する。大企業等によるM&Aの活性化は、我が国においてそのようなエコシステムを形成するきっかけとなる可能性がある。前述の経団連の報告書においても、「M&AによってExitを果たした起業家が投資家となって次の世代の起業家を支援する好循環が構築され、エコシステムはより一層強固なものとなる。」としている。



21 TEAは18歳から64歳の成人100人に占める起業活動者(起業準 備中〜起業後3.5年未満の起業家)の割合を指す。

22 Niels Bosma and Donna Kelley(2019) “Global Entrepreneurship Monitor 2018/2019 Global Report”

23 例えば、テスラやスペースXの創業者であるイーロン・マスクも、かつてPayPal等複数のスタートアップ企業を立ち上げており、シリアル・アントレプレナーの一人である。

24 投資先の経営に参画すること等により、投資先企業を支援することをいう。

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